EHP 2014年2月号:科学セレクション
魚摂食に注意:
勧告は長期残留汚染物質への助けにならないかもしれない

ケリン S. ベッツ

情報源:Environmental Health Perspectives, 122(2) February 2014
Science Selection
DOI:10.1289/ehp.122-A57
Fish Consumption Caveat: Advisories May Not Help with Long-Lived Contaminants
Kellyn S. Betts
http://ehp.niehs.nih.gov/122-a57/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年2月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/14_02_Fish_Consumption_Caveat.html

 ケリン S. ベッツは、EHP及びES&Tを含む出版のために環境汚染物質、ハザード、及び環境問題を解決するための技術について書いている。
 世界中で人々の食事は、最も残留性の高い有機汚染物質(POPs)への主要な暴露源である[1, 2]。魚は、POP摂取への主要な経路であり、またメチル水銀の主要な摂食暴露源でもある[3]。EHPで議論されたひとつの新たな統計学的モデリング・ツールは、魚摂食勧告は、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)やその他の残留半減期が長い残留性有機汚染物質への胎児期暴露を効果的に低減しそうにないことを示唆している[4]。

 CoZMoMAN と呼ばれるそのモデルは、コンピュータ・モデリング研究者のチームによって開発された。CoZMoMAN は、実際には二つの機械論的なモデルの組み合わせであり、ひとつは汚染物質の環境的な移動と分布に特化し、もうひとつは人間の食物連鎖中の生物蓄積をモデル化したものである。組み合わされたモデルは、”ひとつの総合計算”で、物理的環境と食物連鎖を通じての人の体に至る化学物質の軌道を見積もることができると、トロント大学スカボロー校物理環境科学部教授であり、共著者のフランク・ワニアは述べている。

 研究者らの目標は、魚摂食勧告をどのように遵守するか、環境汚染のレベル、そして妊娠から9歳までの子どもの暴露により影響を受けた人の体内における化学物質の挙動を調査することであった。彼らは PCB-153 に焦点を合わせたが、これは人の体内で15年の残留半減期を持つ[5]。

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魚を買うか肉にするか思案する女性。魚摂食勧告は、健康な代替のための事実に基づく勧告なら、最も役に立つ。 (c) Noel Hendrickson/Getty
 仮想の子どもたちの2世代について、生涯のPOP暴露を予測するために、このモデルは過去の食事データと汚染物質排出データを用いて代々の暴露を推定した。モデルは、祖母が30歳で出産し、娘たちに6か月間授乳したと仮定した。次に娘たちは30歳で出産し、彼女ら自身の子どもたちに6か月間授乳した。娘たちは妊娠する前に魚摂食勧告を3か月間又は5年間遵守し、標準としての1日当たり76gの魚摂食の半分又は全てを、果物及び野菜(一般的にはPCB 曝露源ではない)又は牛肉に置き換えた。仮想の30歳の娘たちはタンパク質の大部分を乳製品から摂取したが、それらもまたPOPsで汚染されている可能性がある。子どもたちは離乳後は、母親たちの食事に従った。

 モデルは、子どもたちの9歳までの PCB-153 摂取は汚染物質が母親の魚摂食勧告の遵守期間内に体から除去される場合にのみ、低減され得るであろう(長期間残留する PCB-153 については現実的な提案ではない)。PCB-153 の環境への排出は一定であると仮定すれば、子どもの暴露に重要な影響をもたらす唯一のシナリオは、母親が子どもたちを妊娠する前5年間、食事から魚を外すことが必要である。モデルは、魚の代わりに農産物を食べれば胎児期及び授乳期の暴露をそれぞれ37%、そして引き続く児童期暴露を23%削減するであろうことを予測した[4]。

 環境への排出は一定であるという仮定とは対照的に、実際にはPCBsの排出は1970年代中頃から着実に減少している。この減少をモデル化した代替のシナリオでは、食物の切り替えの影響は排出のピーク時以降に生まれた子どもたちでは弱まっていた[4]。しかし、POPs への暴露は非常にわずかな減少でも、胎児の発達期における重要な期間(critical periods)には有益な影響をもたらすことができると、ラトガース大学の行動生態学者ジョアンナ・バーガーは述べている。

 ハーバード大学医学部門地域住民医学部准教授エミリ・オケンは、このモデルのもっとも興味深いデータは化学物質の摂取トレードオフの可能性に関連すると述べている。例えば、一定排出シナリオの下では、このモデルは、全ての魚を5年間牛肉に置き換えるとすれば、PCB-153 の摂取はわずかに減少するという結果をもたらすであろうと予測したが、しかし人々は、 β-エンドスルファン、β-ヘキサクロロシクロヘキサン、ヘキサクロロベンゼン等(訳注:これらは主に農薬として使用される)を含む潜在的に有害な異なる特性を持つ汚染物質に暴露する可能性があると述べている[4]。

 このことは、勧告書の中に魚に対する健康な代替のための具体的な勧告を含めることの価値を強調している。保健医は一般的に妊婦に対して、魚は発達に必要な健康栄養素であるω-3 不飽和脂肪酸の優れた供給源なのだから、全ての海産物を回避するということはしないよう助言している。

 予備的な分析は、勧告の遵守は、人間については40〜50日という比較的短い残留半減期を持つメチル水銀への暴露により明らかな影響を持つように見えると示唆した。しかし、著者らは、このモデルは水銀の生物蓄積性を説明するために改善されなくてはならないと注意を喚起している[4]。

 この研究の潜在的な限界は、スウェーデンの食事に基づいた摂食データへのモデルの信頼性である。摂食パターンは、たとえアメリカ国内であっても、地域及び民族の両方により非常に劇的に変化するとバーガーは指摘する。ワニアは、彼のグループは現在、他の動物に基づく食物に関連する汚染物質についての情報を含めるために、このモデルを拡張していると言っている。彼らは現在、シロイルカ、カリブー、ヘラジカのような北極先住民が好む食物に関して取り組み中であるが、彼らは最終的には、家禽類や豚のようなもっと一般的に食べられている肉類に関連する影響を研究するかもしれない。

 このモデルは、政府が公衆の健康の取組みで最大の有益な影響をもたらすために、どこに焦点を当てるべきかについて、適切な決定をするのに役立てる潜在的な可能性を有すると、オケンは結論付けている。”我々は、実際には人々に役立たない助言を与えることは望まない”と、彼女は述べている。


References
1. Patandin S, et al. Dietary exposure to polychlorinated biphenyls and dioxins from infancy until adulthood: A comparison between breast-feeding, toddler, and long-term exposure. Environ Health Perspect 107(1):45?51 (1999); http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9872716.

2. Moser GA, McLachlan MS. Modeling digestive tract absorption and desorption of lipophilic organic contaminants in humans. Environ Sci Technol 36(15):3318?3325 (2002); http://dx.doi.org/10.1021/es015853l.

3. Turyk ME, et al. Risks and benefits of consumption of Great Lakes fish. Environ Health Perspect 120:11?18 (2012); http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1003396.

4. Binnington J, et al. Evaluating the Effectiveness of Fish Consumption Advisories: Modeling Prenatal, Postnatal, and Childhood Exposures to Persistent Organic Pollutants. Environ Health Perspect 122(2):178?186 (2014); http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1206380.

5. Brown JF Jr., et al. Persistence of PCB congeners in capacitor workers and yusho patients. Chemosphere 19(1?6):829?834 (1989); http://dx.doi.org/10.1016/0045-6535(89)9?0417-7.



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