米国立環境健康科学研究所ジャーナル
EHP 2009年10月号 サイエンス・セレクション
変動する脆弱性
遺伝子型が農薬を解毒するPON1能力の獲得タイミングを決定する


情報源: Environmental Health Perspectives Volume 117, Number 10, October 2009
Science Selections
Variable Vulnerability
Genotype Determines Timing of PON1 Capability
to Detoxify Pesticides
http://www.ehponline.org/docs/2009/117-10/ss.html#vari

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年10月10日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/09_10_ehp_enzyme_PON1.html


 幼児はクロルピリフォスやダイアジノンのような有機リン系農薬を解毒する酵素であるパラオキソナーゼ1型(paraoxonase-1 (PON1))を生成する能力がまだ発達中なので、このような農薬への暴露に対し、非常に脆弱である。2003年に発表されたある研究は、子ども達は2歳までにPON1活性がほぼ成人レベルに到達するかもしれないことを示した。しかし、サリナス(カリフォルニア州)母子コホート健康評価センターにおける大規模な参加者による調査は、多くの子ども達は少なくとも7歳まではPON1レベルが上昇し、PON1活性は同じ年齢の子ども達の中でも大きく変動することがあることを見出した [EHP 117:1632?1638; Huen et al.]。

 有機リン系農薬は家庭での使用は大部分禁止されているが、農業用にはまだ広く使用されている。これらの農薬は昆虫の神経系を目標とするが、人間の神経系にも当然、影響を与える。今回の調査に参加した研究者らによる前の研究では、出生前の有機リン系農薬への暴露と子ども達の発達遅延及び障害の増大との関係が明らかにされていた。

 PON1の遺伝子中の遺伝子変異は、生成される酵素のタイプと量に影響を与える。遺伝子配列の192番目が変異した一塩基多型(SNP : Single Nucleotide Polymorphism)(訳注1)は酵素のconfigurationを変え、全体的及び農薬に特有の効率に影響を与える。PON1192多型の対立遺伝子R(R allele )は、有機リン系代謝物の解毒において、 Q allele(訳注:ワイルドタイプ)よりも効率が高い。遺伝子のプロモータ領域の108番目が変異した一塩基多型(SNP)は生成される PON1 の量に影響を与え、対立遺伝子C(C allele)を持った人は、対立遺伝子T(T allele)を持った人よりPON1活性のレベルが高い。

 今回の研究で、研究者らは、高度農業地帯に住む458人のメキシコ系アメリカ人の子どもについて出生から7歳までの PON1 活性を測定した。血液サンプルは最大5回(出生時、1年、2年、5年、7年)採取され、3つの分析を用いてPON1 の量と効率が測定された。血液サンプルはまた、PON1変異について遺伝子型が調べられた。4回又はそれ以上サンプルを提供した子どもたちは108人であり、研究者らは合計 1,143 のサンプルを得た。

 全ての子どもたちの酵素の活性は年齢が上がると増加した。しかし、 RR PON1192遺伝子型又は CC PON1-108遺伝子型を持った子ども達(それぞれ24%及び28%)は、他の子どもたちと比較するとPON1活性は出生時に高く、ある場合には、いくつかの農薬代謝物に対する平均活性レベルは7歳の子ども達は2歳の子どもたちよりも低かった。RR と CC の両方の遺伝子型を持つ子どもたちはPON1レベルが最も高く、QQ と TT 両方の遺伝子型を持つ子どもたちはPON1レベルが最も低かった。

 これらの結果は、ある子ども達は今まで考えられていたよりも長い間、有機リン系農薬の影響に脆弱であるかもしれないことを示唆している。したがって著者らは、政策策定者らは、農薬暴露のための基準が小さな子どもたちを適切に保護することを確実にするために、この新たな情報を考慮するよう勧告している。(Kris S. Freeman)

 Kris S. Freeman は、 Encarta encyclopedia, NIH, ABCNews.com, 及び the National Park Service.に記事を書いている。彼女のオンライン健康情報に関する信用性の研究は、2009年6月の IEEE Transactions on Professional Communicationに掲載されている。

訳注1:一塩基多型(SNP)
訳注2:対立遺伝子


化学物質問題市民研究会
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