米国立環境健康科学研究所ジャーナル
EHP 2009年6月号 サイエンス・セレクション
出生前の予告編
早期のBPA暴露は
後の生殖障害を生み出すかもしれない


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 117, Number 6, June 2009
Science Selections
Prenatal Preview
Early Bisphenol A Exposure May Spawn Late-Life Reproductive Problems
http://www.ehponline.org/docs/2009/117-6/ss.html#pren

関連論文:
Prenatal Exposure to Bisphenol A at Environmentally Relevant Doses Adversely Affects the Murine Female Reproductive Tract Later in Life
Retha R. Newbold, Wendy N. Jefferson, and Elizabeth Padilla-Banks
http://www.ehponline.org/docs/2009/0800045/abstract.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年6月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/09_06_ehp_Early_BPA_Exposure.html


 科学者らは、出産前のクリティカルな時期又は周産期における有毒物質への暴露が後年の生殖力の低下、生殖系の腫瘍、乳がんのリスクを増大させる長期的影響をもたらすことがあるということをますます多く、見出している。

 いくつかの動物実験は、人間の暴露にも関連するビスフェノールAの非常に低い用量の暴露が初期の発達段階に起きると、子宮、膣、卵巣に異常を引き起こし得ることを示唆している。しかし今日まで、低用量BPAの女性生殖器官に及ぼす発がん性影響の証拠は不足している。今までBPAへの発がん性の研究は乳腺と前立腺だけに焦点を当ててきた。今回発表されたNIEHSの研究者らによる報告書は、マウスにおけるBPAの出生前低用量暴露がメスの生殖系組織に潜在的がん病変を引き起こすかもしれないことを示している[EHP 117:879?885; Newbold et al.]。

 BPAへの広範なヒトの暴露は、この化合物のジエチルスチルベストロール(DES)との化学的類似性のために、懸念を引き起こしている。DESは母親が妊娠中に服用して女の子に有害な生殖系影響を引き起こした吐き気止めの薬(antinausea drug )である。この研究は、DESへの出生前暴露の影響を調べるのに有用な実験動物モデル(CD-1 マウス)を使用した。

 懐胎9〜16日に妊娠マウスは、比較的低用量のBPA、0.1, 1, 10, 100, 又は 1,000 μg/kg/day を注射で投与されたが、著者及び他の研究者らによれば、その用量は環境的に適切な範囲内であると考えられている。メス親の仔が成熟後期(16-18月)に達したときに、生殖系組織を調べた。

 BPA暴露した仔マウスのあるものは後年の成獣になってから良性及び悪性の両方の病変ができた。1 μg/kg/day 投与を受けた仔マウスの中で、良性の卵巣嚢腫の発現率は67%であり、これは同チームが以前に新生マウスのBPA暴露で観察したものと同等であった。さらに、もっと悪性な卵巣嚢腫が10, 100, 又は 1,000 μg/kg/day の投与を受けたグループに見出されたが、コントロール・グループには見られなかった。卵管の増殖性病変の発現は、以前のDESへの新生マウス暴露の研究で見られた影響と同様に、BPA暴露に従い増加するように見えた。DESは生殖管の発達を進める遺伝子の発現を遅らせる様に見えるので、卵管の DES 及び BPA 誘因病変は、分子的な”ミスプログラム”という理由がもっともありそうなことであると著者らは示唆している。

 子宮中の悪性病変もまた暴露マウスに見られたが、これらの病変の発現率はコントロール・グループに見られたものと統計的有意さは見られなかった。さらに、もっと悪性の病変が暴露マウスに観察されたが、コントロールには見られなかった。それらには、子宮の異常な細胞増殖や基質(ストロマ)ポリープ、子宮頚の肉腫、及び乳腺がんなどがあった。

 著者らによればこの研究は、ヒトの暴露に関連すると考えられる広い用量範囲でBPAに出生前に暴露した年を経たメスマウスの生殖系組織の中に良性及び悪性の両方の病変を見い出した最初のものである。この研究は低用量BPAへの発達期の暴露による有害影響を示す増大する文献に加わり、胎児の発達にクリカルな期間の暴露は長期にわたる有害な生殖系変異及び発がん性変異をもたらす可能性があることを示唆している。

アンジェラ・スピベイ(Angela Spivey)


化学物質問題市民研究会
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