EHP 2008年6月号 サイエンス・セレクション
脳への影響
過フッ素化合物PFCsと神経細胞の発達


情報源: Environmental Health Perspectives Volume 116, Number 6, June 2008
Science Selections
Brain Effects Stick Around
PFCs and Neural Cell Development
http://www.ehponline.org/docs/2008/116-6/ss.html#brai

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年6月8日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/08_06_ehp_PFCs_Brain_Effects.html


 こげつき防止なべや防汚処理製品などに使用されている過フッ素化合物のあるものは、最早製造されていないが、化学物質としての安定性、環境中での残留性、及び生体組織中での長期滞留などの性質があるために、これらの化学物質がヒトと野生生物に影響を与えるメカニズムを解明することは重要である。今日まで、これらの化学物質が危害を引き起こす生物学的メカニズムは十分には解明されていない。しがし現在、研究者らは四つの主要な過フッ素化学物質であるパーフルオロオクタンスルホン酸アミド(PFOSA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、パーフルオロオクタン酸(PFOA)、及びパーフルオロブタンスルホン酸(PFBS )が様々なメカニズムでPC12細胞(訳注1)の発達に影響を与えることを示した[EHP116:716?722; Slotkin et al.]。

 同研究チームは、これらの化学物質が、DNAを合成する細胞の能力、細胞の成長と再生能力、細胞の生存能力、そして神経細胞に分化するときにドーパミンやアセチルコリンなどの神経伝達物質を生成する細胞の傾向に影響を与えるかどうか調査した。研究者らはまたこれらの化学物質が細胞に損傷を与えるか細胞を殺すことができる酸化ストレスを引き起こす能力があるかどうかを評価した。

 ベンチマーク比較のために、研究チームは、PFOSA、PFOS、PFOA、PFBSの影響を発達神経毒として知られている殺虫剤クロルピリホスと比較した。神経発達のひとつのモデルPC12細胞を、10 μMから250 μMまでの5段階の濃度でこれらの化学物質に暴露させた。その影響は細胞が神経細胞状構造に分化するのに十分な期間である6日間にわたり評価された。

 研究者らは四つの全ての化学物質がPC12細胞に影響を与えることを示した。PFOSAが細胞の健全性に最も強い影響を与えた。その次にPFOSが強く、PFBSとPFOAは同じ三番目の強さであった。これらの化学物質は構造が類似しているにもかかわらず、それぞれの化学物質は神経発達に異なる影響を与えており、そのことは有害影響は異なるメカニズムによることを示唆している。

 PFOSAは、PFOAやPFOSとは非常に異なる作用をする。全ての濃度でPFOSAはDNA生成を抑制した。最大濃度ではほとんど全てのDNA生成は阻害された。PFOSAが新たな細胞の生成を阻害することに加えて、既存の細胞も破壊するように見える。最低の濃度においてさえ、PFOSAはクロルピリホスの5倍の濃度で観察され、より強い酸化ストレスを引き起こした。PFOSAの最大濃度では細胞の生存能力は急落した。

 研究者らは、PFOSAが他の過フッ素化合物よりも毒性が高いことについて、ひとつの可能性ある説明を提示した。すなわち、PFOSAは疎水性(訳注2)であり、したがって細胞膜をより容易に通過する。細胞に入りやすいというこの特性は、PFOSA及び同様の特性を持つ他の過フッ素化合物が胎盤及び発達中の脳組織を守るバリアを通過しやすいことを示すものである。したがってこれらの化学物質については特別な研究の配慮が必要であろう。

スコット・フィールド(Scott Fields )


訳注1:PC12
 PC12細胞はラット副腎髄質由来の褐色細胞腫で、神経成長因子(NGF)を作用させるとERKが持続的に活性化されて神経のように樹状突起を伸ばすことから、神経細胞分化のモデル細胞として用いられている。
 ERKはシグナル伝達分子で、活性化すると転写因子などをリン酸化し、遺伝子発現を調節することで細胞の分化や増殖などを制御していると考えられている。

訳注2:疎水性
 疎水性(そすいせい、形容詞 hydrophobic、名詞 hydrophobicity)とは、水に対する親和性が低い、すなわち水に溶解しにくい、あるいは水と混ざりにくい物質または分子(の一部分)の性質のこと。



化学物質問題市民研究会
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