EHP 2007年6月号サイエンス・セレクション
性比の変化
内分泌かく乱物質は出生性比を変えるか?


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 115, Number 6, June 2007
Science Selections
Shift in the Sexes
Are Endocrine Disruptors Changing Birth Ratios?
http://www.ehponline.org/docs/2007/115-6/ss.html#shif

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年6月6日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/07_06_ehp_Shift_in_Sexes.html

 国連が集計した人口統計によれば、女の赤ちゃん100人に対し、男の赤ちゃんは平均105人生まれる。男児の出生性比率 0.515 は年や人口集団によって若干変動するが、これらの要素は、近年、いくつかの先進諸国においてこの比率が一貫して変化していることを十分に説明していない。新たな研究が日本とアメリカにおける出生及び胎児死亡の性比を検証し、両国において男から女へのかなりの移行が明らかとなった。
[EHP 115:941・46; Davis et al.]

グラフ出典:Declines in Sex Ratio at Birth and Fetal Deaths in Japan,
and in U.S. Whites but Not African Americans
Devra Lee Davis, Pamela Webster, Hillary Stainthorpe,
Janice Chilton, Lovell Jones, and Rikuo Doi


Fig.1 男児の女児に対する出生比率 日本 1949-1999


Fig.2 男児の女児に対する胎児死亡比率 日本 1949-1999


Fig.3 男児の女児に対する出生比率 アメリカ 1940-2002


Fig.4 男児の女児に対する胎児死亡比率 アメリカ 1983-1995


 研究チームは出生及び胎児死亡の性比を日本の統計局の1949年〜1999年のデータに基づいて計算した。男児の女児に対する出生比率は1970年以前は毎年の変動はあったが、1970年以後は 0.5172 から 0.5135 へと一貫して下降した。1960年から1999年の間、男児の女児に対する胎児死亡の比率は56%から67%に上昇した。男の胎児死亡率はアメリカよりも日本の方が約4倍高い。

 アメリカについては、研究者らは国立健康統計センターの1983年〜1995年の胎児死亡データ及び1970年〜2002年の出生データを使用した。アメリカでは男児の出生性比率は、1970年の0.5134から2002年の0.5117へと下降した。しかしかなりの人種差がある。1970年から2002年の間、非ヒスパニック白人の男児出生性比率は0.5143 から 0.5122 に下降したが、一方、黒人の男児の出生性比率は 0.5076 から 0.5079 へと若干上昇した。黒人の男の胎児の死亡性比も 53.5% から 54.5% へと上昇した。白人では男の胎児の死亡性比は0.5%以下の上昇であった。

 なぜ出生性比が白人と黒人でそのように大きな開きがあるのか不明であるが、人種を原因とするホルモンの相違及び肥満の発生率が関係しているかもしれない。黒人の出生性比率の上昇についての可能な説明のひとつは、胎児及び新生児の介護が一般的に改善され、胎児の死亡の全体数が減少したことによるのかもしれない。

 研究者らはメチル水銀のような金属エストロゲン(metalloestrogens) を含む内分泌かく乱物質への両親の暴露が男児の受胎と生存を脅かす要因かもしれないと推測している。この相違を理解するために研究者らは日本人のメチル水銀やその他の metalloestrogens の体内汚染についての精密な検証を提案している。さらに、性比の下降についての将来の調査は胎児及び両親の内分泌かく乱物質への暴露のタイプとタイミングを考慮すべきである。研究者らは、受胎前の父親の暴露がY染色体上のSRY 遺伝子(SRY gene on the Y chromosome)の発現に影響を与えているかもしれないとの仮説を立てている。

ジュリア R. バーレット
(Julia R. Barrett)


化学物質問題市民研究会
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