EHP 2006年12月号
注意欠陥多動症(ADHD)
タバコと鉛 発達初期の暴露の影響


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 12, December 2006
Science Selections
Adding Up to ADHD - Effects of Early Exposures
http://www.ehponline.org/docs/2006/114-12/ss.html#addi

関連論文: Exposures to Environmental Toxicants and
Attention Deficit Hyperactivity Disorder in U.S. Children
http://www.ehponline.org/docs/2006/9478/abstract.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年01月02日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/06_12_ehp_ADHD.html


 多くの研究が鉛とタバコの煙への子どもの暴露の健康影響を報告している。この二つの暴露は子どもの注意欠陥多動症(ADHD)の進展に影響を与えるとされてきた。アメリカの研究者のチームがこの二つの神経毒物質とADHDとの関係を確認した。[EHP 114: 1904?1909; Braun et al.]

 子どもの最もよくある障害のひとつADHDをもつ子どもは子どもたち全体の8%に達し、それにかかる社会的コストは年間92億円(約1兆円)と見積もられている。しかし、この障害を起こすメカニズムはよく分らない。以前の研究は胎児期のタバコ煙への暴露がその発症に関係しているしていたが、この暴露の相対的な寄与については不確かなところがあり、また今日まで鉛暴露とADHD診断を関係付ける説得力のある研究は行われていなかった。

 研究者らは全国健康栄養試験調査(National Health and Nutrition Examination Survey)に参加した3,879人の子どもたちから収集したデータを分析した。研究者らは、健康専門家による診断についての両親の報告及びADHD治療に用いられたデータに基づいて、4〜15歳の子どもたちのADHDを評価した。彼らはまた、出生前及び出生後の子どもたちのタバコ煙への暴露を見積もる両親の報告を使用し、血中鉛濃度を決定するために血液サンプルを分析した。研究チームは、ADHDの指標を特定するためにロジスティック回帰分析(訳注1)を使用した。

 胎児期にタバコ煙に暴露した子どもたちは暴露しなかった子どもたちに比べて2.5倍、ADHDにかかりやすく、また血中鉛濃度が 2μg/dL 以上の子どもたちは最低の血中鉛濃度の子どもたちよりも4倍、ADHDにかかりやすい。タバコ煙に胎児暴露した少女らは暴露しなかった少女らよりも4.6倍、ADHDにかかりやすく、少年らは暴露しなかった少年らより2倍、かかりやすかった。これらの結果に基づき、研究者らはADHD障害者のうち約3人に1人は胎児期のタバコ煙暴露か子ども時代の鉛暴露に関係していたとしている。

 同研究チームは、想起バイアス(recall bias)及びある潜在的な交絡因子(Confounders)を調整できないことなど、この研究のいくつかの限界を認めている(訳注2:想起バイアス、交絡因子)。しかし、彼らの発見は以前に観察された胎児期のタバコ煙暴露とADHDの関連とともに、懸念されていた子ども時代の低レベル鉛暴露もまた関連することを確認したと彼らは述べている。この証拠は、現在のこれらの暴露の減少を目指した公衆健康の取組を強化する必要性を補強するものである。

ターニャ・ティレット(Tanya Tillett )


訳注1:参考資料
 ロジスティック回帰分析入門

訳注2:参考資料
 疫学概論/情報バイアスの種類



化学物質問題市民研究会
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