EHP 2006年11月号 サイエンス・セレクション
PVC 床材工場労働者の健康
職場におけるフタル酸エステルへの暴露はテストステロンを減らす


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 11, November 2006
Science Selections
Health on the Factory Floor
Occupational Phthalate Exposure Reduces Testosterone
http://www.ehponline.org/docs/2006/114-11/ss.html#heal

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年11月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/06_11_ehp_Factory_Floor.html


 人間についての研究は、家庭用、消費者用、及び医療用製品の製造で使用されるフタル酸エステル類への暴露が拡大していることを示している。代謝物、フタル酸モノ-2-エチルヘキシル(MEHP)とフタル酸モノ-n-ブチル(MBP)は、ラットにおける精巣毒性、特にテストステロン(訳注:男性ホルモンの一種)と精子を生成する細胞に損傷を与えることを示している。しかし、動物実験は一般的に人が暴露するよりも高いフタル酸エステルへの暴露に基づいており、低暴露が人の精巣細胞に影響を与えるという決定的な証拠はない。しかし、フタル酸エステルへの職業的な暴露は、一般の人々の中で見られる非常に変動しやすい低レベル暴露に比べてより大きく一貫した暴露傾向があり、中国の製造工場における最近の研究はそのような暴露は血中のテストとロン濃度の減少と有意に関連するということを明らかにした[EHP 114:1643?1648; Pan et al.]。

 遼寧省にある工場でポリ塩化ビニル(PVC)の床材を製造している74人の男性、及び建設会社の男性従業員63名が調査に参加した。全ての男性は生活様式についての質問票に回答し血液と尿のサンプルを提供した。血液サンプルは自由テストステロンの巡回量、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、及びエストラジオール(訳注:医学情報参照)が分析された。尿サンプルは暴露のバイオマーカーとして MBP と MEHP が分析された。

 床材製造に使用される物質のために、床材製造工場の男性は、MBP と MEHP の親物質であるフタル酸ジブチル(DBP)とフタル酸エチルヘキシル(DEHP)に皮膚及び吸入による暴露を受けていると想定された。実際に、一人の建設労働者を除いて全ての参加者らは尿中に検出可能なレベルで MBP と MEHP が存在し、フタル酸エステル類への暴露が広がっていることを示した。しかし、PVC 工場の労働者らは建設労働者らに比べて、MBP と MEHP のレベルは最大100倍高く、血中のテストステロン濃度は著しく低かった。

 回帰分析は、中程度ではあるがフタル酸エステル類の合計が増大するとテストステロンが有意に減少することを示した。 MEHP 濃度に基づき、研究者らは PVC 製造工場労働者の40.5%が、欧州連合の耐容1日摂取量である体重1kg当たり37.0 μgを越えて DEHP に暴露していると推定した。

 同研究チームは、PVC 工場の労働者らの高レベルでの DEHP と DBP への暴露はテストステロン生成を抑制するように見えると結論付けたが、この研究からは労働者らの生殖力に影響を与えるのかどうかは明確ではない。

ジュリア R. バーネット(Julia R. Barrett)



化学物質問題市民研究会
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