Environmental Health News, 2022年3月28日
家庭廃棄物中の PFAS は空中浮遊する可能性がある
「永遠の化学物質」を含有する都市ごみの焼却は、
汚染をさらに拡大させる可能性があると研究が示唆している。
マリーナ・シャフラー
情報源:Environmental Health News, Mar 28, 2022
PFAS in household waste may be going airborne
Incineration of municipal waste containing “forever chemicals”
could further spread contamination, research suggests.
By Marina Schauffler
https://www.ehn.org/pfas-air-pollution-2656977959.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年4月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_220328_
PFAS_in_household_waste_may_be_going_airborne.html


 米国では州が PFAS の使用を制限するために取り組んでいるが、 PFAS が拡散するあるひとつの経路は見過ごされがちである。それは、衣類、繊維、食品包装、塗料、電子機器などの消費者廃棄物の焼却である。

 米規制当局は、埋め立て地からの汚染された浸出液など、PFAS(パーフルオロアルキル物質及びポリフルオロアルキル物質)の廃棄物の流れに注意を払っている。しかし、米国の廃棄物の流れの約 12%は、国の 75の老朽化した都市固形廃棄物焼却炉に送られ、PFAS で汚染されたごみの燃焼による副産物の可能性についての研究は最小限しか行われていない。

 現在、”大気放出される PFAS と焼却が注目されている”とグリーン科学政策研究所(Green Science Policy Institute)の科学及び政策の研究者であるリディア・ジャールは EHN に語った。

関連情報:PFASとは何か?

 汚染された水や食物を摂取すると、PFAS 暴露の既知のリスクが最も高くなる。これは、一部のがん、生殖障害、先天性欠損症など、複数の健康への悪影響に関連している。焼却炉からの空中放出は、PFAS をかなりの距離に拡散させる可能性があり、施設の風下の汚染された水と土壌のリスクを高めていると研究者らは警告している。

 ヨーロッパでの調査によると、廃棄物焼却炉がら立ち上がる空中の PFAS 汚染に寄与していることが示唆されているが、米国の規制当局はまだこの脅威を追跡していない。

PFAS は熱劣化に耐性がある

 都市ごみ焼却炉は、ダイオキシン、水銀、鉛などの有害な大気汚染物質を3年毎に米国環境保護庁(EPA)に報告するだけであり、PFAS 化合物はまだこのカテゴリにリストされていない。一部の PFAS は最近、当局の有害物質放出目録に追加された。これは、有毒化合物の管理方法の年次報告を義務付けているが、研究者らは、最初の PFAS報告が空中放出量を過小評価している可能性があると指摘している。

 「永遠の化学物質」と呼ばれる PFAS は、炭素とフッ素の強い結合により長寿命であることが知られている 。 EPAの調査によると、これらの「化学物質は通常の焼却炉の温度では実際には分解されることはない」と、バーモント州のベニントン大学の地質学者で、地域の生態系を通る PFAS の動きを研究したティム・シュローダーは EHN に語った。

 焼却中の PFAS 化合物の挙動については”現在多くのことがわかっていない”と、EPA の研究開発局の報道官は EHN に電子メールで伝え、低温の PFAS 分子は分解しないか、部分的に分解して再結合して新しい PFAS が形成される可能性があると説明た。

 国際的な科学者らのチームは、PFAS のサブクラスであるフッ素ポリマーの最近の研究で同様の結論に達した。”典型的な都市固形廃棄物焼却炉が有害な PFAS やその他の問題のある物質を放出せずにフッ素ポリマーを安全に破壊できるかどうかは現在不明である。”

 北米固形廃棄物協会(SWANA)は、達成可能性な温度に基づいて、”無害廃棄物を管理するように設計された焼却炉は都市固形廃棄物の PFAS のほとんどを破壊していると確信している”と SWANA の応用研究ディレクター、ジェレミー・オブライエンは EHN に語った。ただし、その前提は、米国の焼却炉での放出ガス試験や継続的な温度監視にさえ基づいていない。 ”実際の放出量をさらにテストすることは、潜在的な健康リスクをより正確に定量化するのに役立つかもしれない”と彼は付け加えた。

 EPAは、都市ごみ焼却によって放出される可能性のある PFAS の種類、又はレベルを決定するための現地テストを実施しておらず、”テストの行動計画もない”が、報道官は、これらの放出を特徴づけることは ”EPAの優先事項である” と書いている。一方、ヨーロッパでは、廃棄物の焼却に関連する PFAS 暴露による潜在的な公衆の健康及び環境リスクの評価を開始した。

ヨーロッパでは、焼却炉の風下で「警報」レベルの PFASが 検出されている

 焼却炉の放出量のテストは、9,000を超える PFAS 化合物の膨大な数のために非常に複雑である。ヨーロッパでは、研究者らがバイオアッセイ[生体組織又は臓器中の化合物を検出する]を使用して、ゼロ・ウェイスト・ヨーロッパ(訳注:ベルギーを拠点とする NPO)の委託を受けて実施した研究で、全ての潜在的な PFAS の排気筒からの放出量を化学的に評価するという課題を回避した。欧州連合の資金提供を受けて、この研究は、3つの廃棄物焼却炉の風下にある場所での動植物細胞中の PFAS 及びその他の汚染物質のテストに関与した。

 1月に発表されたその研究では、チェコ共和国の廃棄物焼却炉の近くの鶏卵とコケに高レベルの PFAS が含まれていることがわかった。スペインのマドリッドにある焼却炉の風下で、有害物質監視基金(Toxico Watch Foundation) のオランダの毒物学者アベル・アルケンボート(Abel Arkenbout)は、参照サンプルの 10倍という松葉の憂慮すべき PFAS レベルを報告した。

 これらの調査結果とまだ公開されていないいくつかの研究のレビューに基づいて、アルケンボートは EHN に電子メールで”私たちの仮説は、PFAS 廃棄物発電[都市ごみ]焼却炉で使用される温度では完全には破壊できないというものである”と語った。

 このバイオモニタリング作業はヨーロッパで行われた最初のそのような研究であったが、欧州環境庁(European Environment Agency)の大気汚染、環境及び健康部門の化学、環境及び人間の健康の専門家であるクセニア・トリーア(Xenia Trier)は、EHN に次のように書いている。”廃棄物施設からの PFAS の放出はヨーロッパで注目されており、そして国とEUの資金提供を通じてこれに関するより多くの調査研究があるであろう。”

空中に浮遊する PFAS

 焼却炉が PFAS を放出しているというヨーロッパの仮説が真実であることが証明された場合、それらの分子はどこに行くのであろうか?

 ノースカロライナ大学ウィルミントン校(UNCW)の化学教授であり、PFAS 化合物が大気からどのように沈降するかを追跡した最近の研究の共著者であるラルフ・ミードは、工業用又は焼却炉の排気筒から放出される PFAS の動きを追跡することは、両側の土手の間を一方向に流れる川の下流を追跡するよりも立体的で難しいと説明した。

 空中浮遊分子が移動する経路と距離は、温度、湿度及び風速に依存し、またいつ化合物がガスから粒子に移動するかによって異なる。

 バーモント州で行われたある調査で、ベニントン大学のシュローダーは、工場の水源より標高が2,000フィート高いいくつかの場所を含め、約 125平方マイルに広がる PFAS 分散の風下汚染を発見した。その研究とノースカロライナ大学ウィルミントン校(UNCW)の研究の両方で、製造施設からの PFAS の分散を評価したが、”これは論理的な拡張である”とし、シュローダーは、焼却炉排気筒からの同様の輸送パターンを想定していると述べた。

 ミードが研究したノースカロライナ州の施設は、より安全な代替品として販売されている、GenX として知られる新しい PFAS 化合物 HFPO-DA を生産するケマーズ社(旧デュポン)のプラントである。(しかし HFPO-DA は、PFAS と同様の健康と環境の脅威をもたらすことを確認している新研究があるにもかかわらずである)。そこでの EPA モデリングは、サイトから放出された GenX の 97.4%が 93マイル以上移動したことを示した。

 (2015年より前に製造された)PFAS の遺産の痕跡は、大気輸送のために北極と南極の両方で発見されており、EPA が”より移動性が高く”、同じように永続的であると説明している GenX の代替品は、現在北極海を含んで世界中を移動している。

 ミードによると、大気中の沈着は間違いなく PFAS 汚染の経路のひとつであり、注目を集めている。”科学的な観点からするとそれは魅力的であるが、環境と人間の健康の観点からすると、それはかなり怖いことである。”

 PFASについてもっと知りたければ、我々包括的なガイド(comprehensive guide)をご覧ください。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る