Environmental Health News, 2020年2月20日
自閉症とフタル酸エステル類:
胎内での暴露は男の子の自閉症的特性に関連する

ブライアン・ビエンコウスキー
新たな研究が、ある化学物質は子どもの社会的発達を変えるかもしれないが、
妊娠中の葉酸の保護的効果を強化するという証拠を支持する

情報源:Environmental Health News, February 20, 2020
Autism and phthalates:
Exposure in womb linked to autistic traits in boys
New study bolsters evidence that certain chemicals may alter social development-
but also reinforces the protective effect of folic acid during pregnancy
Brian Bienkowski
https://www.ehn.org/phthalates-autism-2645182384.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年3月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_200220_
Autism_and_phthalates_Exposure_in_womb_linked_to_autistic_traits_in_boys.html


 Environmental Health Perspectives に発表された新たな研究によれば、母親の胎内であるフタル酸エステル化学物質類に暴露した男の赤ちゃんは、3歳及び 4歳の時に自閉症的特性をより多く持つようであった。

 研究者らはまた、妊娠初期に葉酸(訳注1)のサプリメントを推奨量、摂取した母親は、後に自閉症的特性を示す男の子を持つことがより少なかったと報告した。

 主著者でマサチューセッツ大学アマースト校公衆健康及び健康科学の生物統計学及び疫学部准教授ユーセフ・オウルホーテは、この葉酸の明白な防止効果はこの研究の”最も重要な発見”であったと EHN に述べた。葉酸は、先天性欠損を防止するために妊婦に推奨されている。

米・疾病管理防止センターによれば、アメリカの子どもの概略 59人に 1人が自閉症スペクトラム症である。社会的相互交渉の欠陥、意思疎通又は会話の困難、反復的行動によって特徴付けられる訳注2)同障害は一般的に男の子に約 4倍多い。

 何が同障害を引き起こすのか明確ではないが、以前の研究はリスク要素として遺伝的状況、高齢出産、及び早産を挙げている。

Number of people with autism, World

 しかし、科学者らは環境暴露を潜在的な犯人としてますます注視している。新たな研究は、プラスチック製品のあるもの、身体手入れ用品、医薬品、食品容器、及び医療用品中で広く使用されているフタル酸エステル類が自閉症を引き起こすということを証明していないが、ある種の化学物質への出生前暴露が社会的発達を損なうかもしれないという増大する証拠に加わり、さらに葉酸がこれらの潜在的な影響のあるものを防ぐかもしれないことを示唆している。

 ”過去30年間にわたる急速なまん延は、遺伝的要因だけでは説明できない”と、著者らは書き、その研究は、”フタル酸エステル類の潜在的な神経毒性に関して新たな識見を提供し、脳、特に男の胎児の脳の発達への有害化学物質の影響に対する増大する感受性を示す以前の研究を支持する”ということを付け加えた。

  2008年から 2011年、オウルホーテと同僚らは、2,000人のカナダ人女性の妊娠初期に11の異なるフタル酸エステルの分解物質である代謝物を測定した。彼らはまた、その女性らに彼らが摂取している葉酸サプリメントについて質問した。

 女性らが出産した後、610人の子どもたちは 3歳及び 4歳の時に、社会的認識力、社会的コミュニケーション、社会的動機づけ、及び反復的行動に関するテストの結果を評価された。

 あるフタル酸エステルの代謝物の濃度が高ければ、男の子たちの自閉症的特性の得点も高かったが、女の子たちにはそのようなことはなかった。例えば、二つのフタル酸エステルの濃度が二倍になると、自閉症的特性テストの得点は概略 60%高くなった。

 ”[葉酸を]十分に摂取した女性らの子どもたちにはそのような関連性はなかった”と、オウルホーテは述べた。

 フタル酸エステル類が脳と社会的発達にどのように影響を及ぼすのか明確ではない。フタル酸エステル類は、以前に遺伝子発現と DNA 機能の変更に関連づけられていたが、それは化学物質が子どもたちの脳に影響を及ぼす、もうひとつの経路である。

 フタル酸エステル類はまた、ホルモンの適切な機能を変更することを意味する内分泌かく乱物質でもある。その化学物質類は母親の甲状腺機能に影響を及ぼす、又は妊娠中にアンドロゲン(男性ホルモン)の生成を減らすことがあり得るが、その両方ともに赤ちゃんの脳の発達にとって重要であると研究者らは書いている。オウルホーテは、いくつかのフタル酸エステル類はすでに抗アンドロゲン作用(訳注:アンドロゲンのはたらきを抑制する作用)を示していると付け加えた。アンドロゲンホルモンは男性特性及び生殖の発達を調節する。

 フタル酸エステル類はまた男の赤ちゃんのテストステロン(男性ホルモンの一種を減らすことができるが、そのことはまた、研究者らが両性の間に見た相違を説明することができる。

 研究中でテストされた子どもたちは若く、いくつかの自閉症的特性を示しただけなので、彼らは障害を持っていると診断されるであろうということを意味しているわけではない。

 ”我々は、これらの出生前のフタル酸エステル類への暴露に関連する微妙な影響が学齢期後まで続くのかどうかわからない”と、子どもの発達専門家であり、研究の共著者であるカナダのケベック市にあるラヴァル大学及びケベック大学病院研究センターの教授ジーナ・マックルは声明の中で述べた。

 同研究はまた、主に白人、高所得の母子を対象としており、研究者らはフタル酸エステル類について女性を 1回テストしただけであり、子どもたちの自閉症的特性を引き出すためのテストは必ずしも常に正確というわけではなく、自閉症診断を意味するものではないという限界があった。

 さらに、妊娠中期から後期を観察している近年のいくつかの研究は、母親のフタル酸レベルと、子どもたちの以後の人生における自閉症特性との間の関連性を見出さなかった。そしていくつかの研究は過剰な葉酸は自閉症に関連するかも知れないと示唆していた。

 しかし、その新たな研究は全くの異常値というわけではない。4,779人の子どもたちを対象とした 2009年の研究は、フタル酸エステル類の発生源である塩化ビニルの床材を使用した家に住んでいた子どもたちが自閉症と診断されることが多いことを発見した。2010年の研究は、妊娠第三期の母親のあるフタル酸エステルの代謝物類の高いレベルと、7歳及び 9歳の 137人の子どもたちの自閉症的特性との間の関連性を発見した。

 2015年の研究は、(もうひとつの内分泌かく乱化学物質ビスフェノールAと同様に)二つの一般的なフタル酸エステル類のレベルは、自閉症特性を持たない子どもたちに比べて、自閉症特性を持つ子どもたちの中で著しく高かった。

 オウルホーテは、研究を前進させるための良い方法は、母親の暴露のより完全な状況を把握するために、これらのフタル酸エステル類を妊娠中の様々な期間に測定することであろうと述べた。

”フタル酸エステル類は非常に迅速に代謝するので、測定値はごく最近の暴露を示している”と彼は述べ、追加的な将来の研究は、この化学物質がどのように母親と胎児の性ステロイドホルモン又は甲状腺ホルモンに影響を及ぼすのかを解明すべきであると付け加えた。

 その一方でオウルホーテは、今回の研究は妊婦にとっての葉酸の重要性を強めるものである。

 ”我々は、神経管欠損症を防止するために、妊娠前及び妊娠中に葉酸が重要であることをすでに知っている”と彼は述べた。”葉酸がフタル酸エステルの影響を防止するかも知れないことを示す証拠がここにある”。

関連記事:EHN Aug 28, 2019 Op-ed: Calling on Kraft-Heinz to find and remove dangerous phthalates
訳注1
  • 葉酸/ウィキペディア
     葉酸(ようさん、英: folate)はビタミンB群の一種。ビタミンM、ビタミンB9、プテロイルグルタミン酸とも呼ばれる。・・・葉酸の栄養所要量は、推定平均必要量が 200 μg、推奨量が 240 μg、上限量が 1,000 μg(いずれも成人男女)とされている。ただし、妊娠期および授乳期にはさらに推定平均必要量として +170 μg、+80 μgを、推奨量として +200 μg、+100 μg を付加する。・・・葉酸を多く含む食品は、レバー、緑黄色野菜、果物である。

  • 葉酸について/バイエル・エレビット  妊娠初期の数週間に胎児の神経管は形成されます。神経管は胎児の脳と脊髄、中枢神経系にとても重要な器官ですが、この神経管の形成には母体が摂取する葉酸の量が重要なカギを握っていると考えられています。
訳注2


化学物質問題市民研究会
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