EHN 2015年7月1日
化学物質は胎盤の遺伝子を変更し、
胎児を脅かすかもしれない

ブライアン・ビエンコースキー(EHN)

情報源:Environmental Health News, July 1, 2015
Chemicals may alter placenta genes, threaten fetuses
By Brian Bienkowski(EHN)
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2015/jul/
phthalates-phenols-endocrine-disruption-pregnant-women-health-fetus


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年7月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/
ehn_150701_Chemicals_may_alter_placenta_genes.html


 新たな研究によれば、妊娠中に広く使用されているある化学物質に暴露した女性は、胎盤中の遺伝子機能がより変更されやすくなる。

 それは、フェノール類及びフタル酸エステル類への暴露は、妊婦の胎盤中の遺伝子の発現の仕方を変えてしまうかもしれず、そのような暴露は胎児の健全な発達と成長を妨げるかもしれないということを示す、最初の研究である。

 ”遺伝子の変更された発現により、タンパク質生成がもっと多く又はもっと少なくなるかもしれないので、懸念がある”と、この研究の上席著者であり、ハーバード大学医学部及びブリガム・アンド・ウィメンズ病院の教授で疫学者であるカリン・ミシェルズは述べた。”タンパク質は、例えば体内のホルモンとして、極めて重要な機能を持つ”。

 研究者らは、179人の妊娠の第1三半期における尿を、広く使用されているビスフェノールA(BPA)を含む 8種類のフェノール類と、体内でフタル酸エステル類が処理された後に形成される物質であるフタル酸エステル類の代謝物 11種類についてテストした。そして彼らは、ある遺伝子が胎盤中でどのように発現するかをテストした。女性らはハーバード大学の研究コホートに登録されていた人々である。

 彼らは、暴露は胎盤中の遺伝子の発現を制御するある分子を変更することと関連していることを発見した。胎盤は胎児にとって生命線であり、適切に遺伝子を機能させることは胎盤及び成長している胎児の両方にとって極めて重要なので、これは心配をもたらする研究である。

 ”胎盤は胎児に栄養を送り、酸素を制御し、感染を防止しつつ廃棄物を胎児の体から排出するために極めて重要である”と、化学物質がどのように胎盤と胎児に影響を及ぼすかを研究しているピッツバーグ大学の准教授で疫学者であるジェニファー・アディビは述べた。

 ”早い段階では、胎児は内分泌系機能を持たないので、発達に必要なホルモンは生成されず、実際には胎盤がこれらを供給する”と、この研究には関与していないアディビは述べた。

 フェノール類とフタル酸エステル類は広く使用されている。フタル酸エステル類はビニル製品、化粧品の香気、及び柔軟性を持たせるためにプラスチック製品中で使用されている。

 フェノール類には、プラスチック樹脂、農薬、洗浄用品、及び身体手入れ用品を含む広範な用途がある。最も一般的なフェノール類のひとつである BPA は、いたるところにあり、ポリカーボネート・プラスチックを製造するために用いられ、食品缶詰の内面や印刷用感熱紙中に見い出される。

 フタル酸エステル類とフェノール類の両方は、ほとんどの人々の体内に見出され、これらの化合物は内分泌かく乱物質、すなわち人のホルモンをかく乱する。かく乱されたホルモンは、多くの障害や疾病をもたらすことができる。

 妊娠中、胎児が確実に育つよう様々なホルモンが生じる。”フェノール類とフタル酸エステル類は、特にこれらのホルモンを擬態し又は阻害することにより、その機能を妨げるかもしれない”とミシェルズは述べた。

 妊娠第1三半期は、”後の人生における有害な健康結果に関連する暴露のクリティカル・ウインドウである”と、ミシェルズ及び同僚らは『環境健康展望(EHP)』誌の今月号に発表された研究の中で書いている。

 アディビは、この研究は人の胎盤がフタル酸エステル類のような化学物質に”非常にユニークに”反応するという証拠であると述べた。”これは、化学物質が受動的な方法(in a passive way)でそれを通過して胎児に直接的に作用するという歴史的な胎盤に対する考え方への一種の挑戦である”と彼女は述べた。

 化学産業界を代表する米化学工業協会(ACC)の声明によれば、この研究には、”多くの欠陥”がある。

 ”この研究は潜在的な暴露源について十分な情報を提供しておらず、この研究の参加者ら自身が発見について結論を下している”とその声明は述べている。
 ACC はまた、研究者らは遺伝子の発現と出生体重又は体長との関連を見つけなかったので、この研究は潜在的な暴露に関連した有害な健康影響について、どのような結論も導いていないと指摘した。

 しかし、変更された遺伝子の発現は、代謝やホルモンのような長期的な健康に影響を及ぼすかもしれず、そのことは直接的には出生体重又は体長に影響を及ぼさないが、その影響は小児期又は成人してから明らかになることであるとミシェルズは述べた。



化学物質問題市民研究会
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