EHN 2012年9月21日
水銀又は鉛に曝露した子どもたちは
ADHD 症状を示しやすいことを
カナダの研究が発見


情報源:Environmental Health News, September 21, 2012
Kids exposed to mercury or lead more likely to have ADHD symptoms, Canadian study finds
Synopsis by By Marla Cone, Editor in Chief, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2012/adhd-lead-and-mercury

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年9月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_120921_Mercury_Lead_ADHD.html


 本日発表された科学的調査によれば、より高いレベルの水銀又は鉛に曝露した子どもたちは、通常の3から5倍、教師により特定された注意欠陥多動症(ADHA)に関連した問題を持っているらしい。

 北極圏ケベックに住むイヌイットの子どもたちの調査は、胎内でひどく水銀に曝露した子どもたちに高い割合で注意欠陥症状があることを初めて見つけた。さらに、イヌイットの子どもたちは、もしアメリカの小さな子どもたちに一般的に見出されるのと同じ低いレベルの鉛に曝露していると、よりしばしば、多動症状を示した。

 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば、アメリカでは10人にひとりの子どもは ADHD であると診断されている。それは子ども時代の最も一般的な脳障害のひとつである。

 ケベックにあるラヴァル大学の研究者等は、ADHDの診断のために精神科医により開発された標準化された質問票を用いて、8歳から14歳までのヌナビク(訳注:左地図)に住む279人の子どもたちの教師を調査した。

 調査の上席著者であるカナダのラヴァル大学の発達心理学者のジーナ・ムクルは、子どもたちの水銀の影響は微小なものではなく、実際に教師に認識されるほどであることを初めて示したという点でこの発見は重要であると述べた。それらは、”臨床的に顕著であり、教室での学習と成績を妨げているかもしれない”とオンラインジャール Environmental Health Perspectives に発表されたその調査は述べている。

 鉛については、最も高い血中レベルの子どもたちは、低レベルの級友よりも4〜5倍、教師報告による多動症であるらしいことを示した。”我々はこれらの影響が非常に低い血中レベルでも観察している”とムクルは述べた。

 この発見は北極圏の子どもたちの調査に基づくものであるが、この結果は一般的であるようだとムクルは述べた。”同様な曝露レベルで、曝露源に関係なく、同様な影響があるようだ”と彼女は述べた。

 バンクーバーにあるサイモン・フレイザー大学の教授ブルース・ランフィア博士は、有毒化合物が”子どもたちの行動を変えているという証拠が積み重なっている”と述べた。

 ”ADHD に関連している様々な有毒物質があるようだ”とランフィア述べた。彼は、鉛、水銀、その他の汚染物質の小児期の影響を研究しているが、このイヌイット調査には参加していない。ADHDは23の異なる行動がある症状なので、それは実際に、生物学的に”もっともなこと”であると彼は述べた。それぞれの有毒化学物質は、異なる発達時期に脳の異なる部分を変更することができる。

 ”私にはこの新たな研究で、前頭葉前部の大脳皮質が特に環境有毒物質に脆弱であるように見えるということを確認した”と彼は述べた。脳のその部分は、多動症や注意欠陥症だけでなく、学習障害や反社会的及び犯罪的行動にも関係する。

 母親が食べた鯨と魚がイヌイットの子どもたちの水銀曝露源である。鉛は、狩猟の鉛弾丸を含む食物を子どもたちが食べたことに由来する。

 最も興味深い発見のひとつは、水銀は注意欠陥症に関連し、鉛は多動症に関連していたということである。その相違は、水銀は胎児期、鉛は小児期という曝露のタイミングによるものかもしれない。

 ハーバード大学公衆衛生の疫学者ジョー・ブラウンは、この発見は、”脳は発達中の異なる時期に異なる環境化学物質に感受性が高いかもしれないことを示唆している”と述べた。

 ”将来の研究は、この発見を確認し、胎児期の水銀と小児期の鉛の両方への曝露の影響を検証する必要があるであろう”と、この研究には関与しなかったブラウンは述べた。

 水銀と鉛の曝露は、他の研究で関連性が報告されてい妊娠中の母親の喫煙よりADHDへの影響が強いとムクルは述べた。

 ADHEは、”複雑な障害であり、多くのリスク要素がありそうだ。我々はまだその病因と環境化学物質との関連性の理解からは程遠い”と彼女は述べた。

 この研究によれば、注意欠陥症は、低い曝露の級友たちより高い水銀曝露のイヌイットの子どもたちに3倍高い頻度で発症する。

 ヌナビクの子どもたちは、ほとんどベルーガ(シロイルカ)の肉を食することで水銀にひどく曝露する。メチル水銀は食物連鎖の頂上に近い大きな魚や海洋哺乳類に蓄積する。

 そのような高い水銀レベルは北極以外の集団ではまれである。

 ”我々が見てきたこのような影響を引き起こす水銀レベルで曝露するアメリカやカナダの集団はそう多くはないでであろうと考える”とムクルは述べた。しかし彼女は、集団の一部、特にビンナンガマグロ、メカジキ、その他大型の捕食魚を多く食べるアジアのある地域では、同様に曝露しているであろうと警告している。

 対照的に、ヌナビクの子どもたちの中でADHDに関連する鉛レベルはアメリカの子どもたちの平均レベルとほぼ同じである。

 アメリカの子どもたちの以前の研究もまた、鉛の曝露をADHDに関連付けていた。
 ”集団に関係なく、鉛の影響はある”とムクルは述べた。”鉛への本当に低いレベルの曝露が学校での大きな行動障害に関連しているということが、もうひとつの確認されたことである”。

 狩猟者により使用されている鉛の弾丸は、イヌイットの子どもたちの体内でアイソトープにより特定された。アメリカの子どもたちの場合は、鉛はほとんど古いはがれた塗料と汚染された土壌からのものである。

 ”曝露源が何であるかはほとんど問題ではない”とランフィアは述べた。”鉛はそれが塗料に由来しようと鉛弾丸に由来しようと、ある影響に関連するようである”。

 多動症に関連する鉛の量は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)により最近設定された助言レベル(血中で5μg/dl)よりもはるかに低いレベルに関連している。アメリカでは1歳から5歳の約50万の子どもたちがこのレベルを超えている。

 ”この調査の注目に値するひとつの結果は、ADHD型の症状は現在の健康に基づくガイドラインよりもはるかに低い鉛曝露の子どもたちに見られたということである。もし現在のガイドラインの3分の1又は半分のレベルで我々が影響を見出しているということなら、我々はこのガイドラインを再考する必要があるという強い根拠をもつことになる”と汚染物質への出生前曝露を研究しているサイモン・フレイザー大学のポスト・ドクトラル・フェローのグレニス・ウェブスターは述べた。彼女はこの研究に関与していない。

 この研究は鉛と水銀の間のいくつかの重要な相違を明らかにした。
 鉛については、ADHD影響は出生後曝露−子どもたち自身が曝露したものに関連していた。水銀については、妊娠中の母親を通じての曝露であり、出生時に収集されたへその緒中で検出されている。

 鉛が多動症に関連し、水銀が注意欠陥症に関連するという可能性あるひとつの理由は、水銀曝露は胎内での急速な脳の発達期間中に起きるが、鉛曝露は脳がもっと堅固になってから起きるからであるかもしれないとムクルは述べた。

 ランフィアは、科学者らが”魚と喫煙からの摂取を含んで脳の発達に及ぼす他の影響を要因に入れたという点がよかった”と述べた。この調査のひとつの弱点は、両親のADHD罹患率に関する情報がないことであり、従ってこの調査は潜在的な遺伝の役割を検討することができなかったことであると彼は述べた。

 調査対象の子どもたちは、精神科医により実際に診断されたわけではないが、ランフィアは教師の調査はADHD症状をチェックするために”有効なアプローチ”であると述べた。子どもは、学校と家の両方でこの調査を用いて、ADHDであると典型的に診断される。

 アメリカ政府とカナダ政府により資金を提供されたこの調査は、世界で最高レベルの水銀と産業化学物質PCBs(ポリ塩化ビフェニル)に曝露しているヌナビクの子どもたちの20年間調査の一部である。子どもたちは、1993年から1996の間に生まれて以来、汚染物質の影響について調査されている。

 この調査は、ADHDとPCBsとの関係は見出さなかったが、以前のアメリカの調査はある関連を報告している。

 水銀とPCBsは大気と海流によって長距離を移動して海洋食物網に蓄積する。北極圏の人々の伝統的な食物であるベルーガ(シロイルカ)、イッカク、アザラシ、その他の海洋哺乳動物は、世界で最高レベルのPCBsやその他の汚染物質を体内に持っている。その結果、イヌイットは地球上で最も高い曝露を受けてい人々の中にいる。

 ヌナビクの公衆衛生当局は昨年、妊婦はベルーガ(シロイルカ)の摂取を減らすよう勧告したが、それはこの化学物質が潜在的に彼女等の子どもたちに健康影響を及ぼす可能性があるからである。

 環境中の鉛は減少しているが、一方水銀レベルは多くの場所で増加している。

 ランフィア、ムクル及びウェブスターは、この調査が、子どもの水銀曝露を減らすための国際的及び地域の取り組みが必要であることを示す証拠であるということに同意した。大きな水銀発生源は特に中国における石炭焚き火力発電所である。

 ”この研究は、水銀と鉛が多くの健康影響について問題であり、それらのひとつはADHDであるということを支持するものである。問題は、それについて何ができるかということである”とウェブスターは述べた。



化学物質問題市民研究会
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