EHN 2012年5月14日
低レベル カドミウム曝露は 女性のがんリスクを増大する 情報源:Environmental Health News, May 14, 2012 Low-level cadmium exposure can increase female cancer risk Synopsis by Jennifer Wolstenholme http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/2012/03/ 2012-0502-life-long-cadmium-alters-methylation/ オリジナル情報: Hossain, MB, M Vahter, G Concha and K Broberg, 2012. Low-level environmental cadmium exposure is associated with DNA hypomethylation in Argentinean women. Environmental Health Perspectives http://ehp03.niehs.nih.gov/article/info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.1104600 訳:安間 武(化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2012年5月17日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_120514_Low-level_cadmium.html 訳注0:カドミウムの摂食による発がん性に関して、日本の国立がん予防センターの多目的コホート研究(JPHC研究)が、日本の一般の人々9万人を調査した結果、食事からのカドミウム摂取量とがん罹患との関連はないとの結果を得たことをEpidemiology. 2012 May で発表したと、国立がん予防センターがウェブページで報告しています。 最近の研究が、女性の食事からの長期的なカドミウム曝露ががんリスクを増大させるという新たな理解を示唆している。 アルゼンチンの女性の血中のカドミウム・レベルは、メチル基により細胞中のDNAが標的とされる又はマークがつけられる仕方を変化させる、すなわち遺伝子の読み取り又は発現の仕方を変更することができるプロセスと関連している。女性の類似遺伝子におけるカドミウム曝露に関連するDNAマーカーの数の減少は一般的に正常な細胞ではなく、がん細胞中で見られる。 カドミウムは高いがんリスクといくつかの疾病に長期間関連するので、それがどのように影響を及ぼすのかはまだ明確ではない。実験室での研究は、カドミウムは DNA タグ(訳注1)、又はDNAメチル化(訳注2)を変えることができることを示している。この研究は、この種の人のカドミウム曝露によるエピジェネティクス(訳注3)を初めて報告したものなので、重要である。それは、この金属(カドミウム)のがんと関連する可能性あるメカニズムを提供している。 DNAメチル化は、メチル基がDNAに付加されたときに起きる。この修飾は、DNAの実際の配列を変更するものではなく、ある特定の遺伝子が発現する・しないを制御するオノ・オフ信号の一種である。DNAタグの変更は、がんやその他の疾病をもたらすことができる。メチル化変更は、それらを引き起こす卵子、精子、あるいはその他の胚細胞に導入されると、受け継がれることができる。 カドミウムは、バッテリー、顔料、金属メッキなどで使用され、鉱石精錬の副産物でもある。一旦環境に出ると、それは消滅することはない。人々は、食事、大気汚染、喫煙などを通じて曝露する。我々が食する作物のあるものを含んで、植物は肥料や汚染土壌からカドミウムを吸収する。主要な摂食源は、穀物、ポテト、野菜、魚介類全般に及ぶ。化石燃料の燃焼はカドミウムを排出し、大気中の汚染濃度を上昇させる。 カドミウムは有毒でありエストロゲンのような作用をし、乳がんのようなホルモンに関連するがんのリスクを高める。カドミウムレベルの高い食物を食事とする女性は乳がんになるリスクが高い。カドミウム曝露はまた、腎臓疾患、骨軟化症、子どもの発達障害にも関連する。 研究者らは、産業汚染も自動車交通も少ないアンデス高原に住む202人のアルゼンチンの女性を調査した。カドミウム曝露は主に食事経由である。スウェーデンの研究者等は、現在のカドミウム曝露を表す女性の血中のカドミウム、及び長期曝露を表す尿中のカドミウムを測定した。彼等はメチル基をDNAに付加する遺伝子のレベルを計算し、血液細胞のDNAの近傍の特定の場所にあるDNAタグの数を調べた。 著者等は、血中及び尿中のカドミウムの量をDNAのメチル化の量と遺伝子発現レベルと比較した。彼等は、年齢やcoco chewingのような結果を妨げるかもしれない要素を調整した。 この女性たちのカドミウム・レベル(0.23 μg/L)は、アメリカの女性集団のカドミウム・レベル(0.4 μg/L)より低かった。尿中のカドミウムが多ければ、検査されたDNA上のメチル化の量が低かった。DNAメチル化を維持するある遺伝子に突然変異を持つ女性のグループにおいてこの関連性はより強かった。メチルマーカーをつけるもうひとつの遺伝子は、カドミウム・レベルが高い女性の中でその発現レベルが低かった。 これらの結果はどちらもカドミウムの長期曝露はDNAメチル化のプロセスに影響を与えることを示唆している。 血中のカドミウム・レベルはこれらの変化のどれとも強い関連性が見られず、長期低レベル曝露は血中の現在のレベルより潜在的に有害であることを示唆している。 この研究のひとつの欠点は、汚染を通じてカドミウムに曝露していない比較的小さな女性集団に基づいているということである。これらの研究結果はもっと大きく多様な集団の中で再現される必要がある。これらの発見を他の組織中で確認し、DNA構造中のこれらの変化が他のカドミウム関連疾病にある役割を演じるかどうかを確認するために、さらなる研究が必要である。 訳注0 食事からのカドミウム摂取量とがん罹患との関連について/独立行政法人 国立がん研究センター 多目的コホート研究(JPHC Study)の結果、カドミウム摂取量とがんのリスクには関連なし 男性42032人、女性48351人、合計90383人が本研究の対象になり、約9年の追跡期間中に、男性3586人、女性2263人、合計5849人が何らかのがんに罹患しました。がんのリスクは高齢など他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめこれらの影響を除いて検討しました。その結果、全がんリスクと、カドミウム摂取量の関連は見られませんでした。さらに、各部位別がんリスクについても調べたところ、男性の胃がんと膵がん、女性の腎がんと子宮体がんでリスクの上昇がみられましたが、いずれも統計学的有意な関連ではありませんでした。 その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Epidemiology 2012年23巻368-376ページ) メディア報道:読売新聞(2012年5月1日) 食品中のカドミウムとがん発症、明確な関連なし 訳注1 タンパク質タグ/ウィキペディア 訳注2 DNAメチル化/ウィキペディア 訳注3 エピジェネティクス/ウィキペディア |