EHN 2012年2月10日
カドミウムは新たな鉛か?
いたるところで検出されるこの金属と
学習障害をもった子どもたちとの関連についての報告


情報源:Environmental Health News, Feb 10, 2012
Is cadmium the new lead? Link reported between the ubiquitous metal and kids with learning disabilities.
By Marla Cone, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2012/is-cadmium-the-new-lead

オリジナル情報:
Environmental Health Perpetive Online: 27 January 2012
Research Article
Cadmium Exposure and Neurodevelopmental Outcomes in U.S. Children
Timothy Ciesielski, Jennifer Weuve, David C. Bellinger, Joel Schwartz, Bruce Lanphear, Robert O. Wright
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action;jsessionid=6CF0DF4FC646CA9BEEF90C7A694CBEB7?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.1104152

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年2月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_120210_is_cadmium_new_lead.html


 それは重金属である。それは学童の学習障害に関連する。そして、どの子どもたちも曝露している。 まるで鉛のようではないか? それはカドミウムである。

 健康専門家や規制当局からほとんど注目されていないが広範に及ぶ汚染物質が新たな鉛となりえることを示す兆候が出現している。

 ハーバード大学の研究者らが実施した新たな研究によれば、カドミウム汚染レベルの高い子どもたちは、学習障害を持ち、特別学級で学ぶことが3倍多いようでである。

 土壌から吸収されるカドミウムは、タバコやある食物、特にジャガイモ、穀物、ヒマワリの種、葉物野菜に見出される。それはまた、安い子ども用宝石からも検出されて、昨年の秋から新たな自主的基準が産業側によって推進されている。

 この研究の上席著者ロバート・ライト博士は、この金属と学習障害及び特殊学級で学ぶ子どもたちとの関連性が、以前には有害ではないと考えられていたありふれた低いレベルで見出されたことを強調した。

 ”この研究の重要な点のひとつは、我々は非常に高い曝露をもつ子どもたちについて調査したわけではないことである。我々はアメリカの代表的な子どもたちを調査した。我々が見出したどのような影響も、比較的低レベルで起きているということである”と、ハーバード大学の小児科及び環境健康の准教授であるライトは述べた。

 科学者らは、この新たな発見はカドミウムが子どもたちの脳の発達に影響を与える鉛に似た有害な特性を持つという兆候を示したと述べた。しかし、子どもたちに及ぼす潜在的な影響に関して確認し改善するために、もっと多くの研究が必要である。

 ”それは確かに、我々はカドミウムの子どもに及ぼす神経毒性影響にもっと注意を払う必要があるという事実を指摘している”とライトは言った。

 現在まで、神経系はカドミウムの問題点として多くの注意を払われてこなかった。しかし、成人労働者についてのいくつかの調査は、高レベル曝露が神経系障害を引き起こすことがあることを示しており、子どもに関する小規模な初期の調査は知的発達の遅れと低い知能指数(IQ)との関連を見出していた。

 今回の新たな調査は尿中のカドミウムと神経系への影響との関連に目を向けた最大のものであり、全国レベルで子どもたちを調査した唯一のものである。

 ”全体として、この調査は非常に一貫性がある。それらは、カドミウムが神経毒素であるというこをかなり明白に示している”と、この研究の共著者であるサイモン・フレーザー大学の小児科医で疫学者であるブルース・ランフィア博士は述べた。

 子どものたちへの鉛の影響に関する世界的な専門家での一人であるランフィアは、”我々がここに見ているカドミウムのパターンは、鉛や水銀を含む他の有毒物質について我々が見るものと非常に類似している”。

 この二人の科学者は、政府は、子どもたちの脳への影響を考慮して、食品、土壌、職場、及び製品中に含まれるカドミウムの基準と指針を再検証するよう勧告している。

 現在のカドミウム規制は成人への脅威に基づいており、その毒性影響を最も受ける臓器として腎臓が考えられてきた。ヒトに対する発がん性が認められる(訳注:IARC発がん性リスク、グループ1)として分類され、労働者の肺、腎臓、及び前立腺がんと関係付けられている。

 ”我々は、学習障害を持っている子ども及び特別学級に登録されている子どもがそれぞれ3倍増大することを示す新たな大きな全国調査結果を得た。しかし私は、規制レベルを引き下げる必要が明確にあるとまでは言わない。しかし再検証する価値がある”とランフィアは述べた。

 先月、Environmental Health Perspectives に発表されたこの研究によれば、この新たな調査の対象となった6歳から15歳での子ども2,199 人のうち、12.6%が学習障害を持ち、10.5%が特別学級に登録されていた。子どもたちに障害についてのテストを実施したわけではなく、彼等の両親が、全国健康栄養調査の一部として質問票に回答したものに基づいている。

 最も高いレベルのカドミウムを持つ子どもたちについて、学習障害を持つ確率は、最も低い曝露の子どもたちよりも3.21倍高かった。特別学級については、確率は3倍高かった。注意欠陥多動症との関連は見つからなかった。

 ”3倍のリスクがあるということは、そのような低レベルのカドミウムにとっては高い”と、シンシナティ医科大学の環境健康学部アイミン・チェン准教授は述べた。彼はこの研究に関与していない。

 しかしチェンは、研究者等はまだ、低い知能指数と記憶力、又は語彙不足のような−これらはすでに他の二つの有毒金属である鉛と水銀と関連付けられている−どのような特定のもっと具体的な神経系影響をも見ていないのだから、この点におけるの関連は予備的なものであると述べた。

 学習障害と特別学級の両方に関連するということは、カドミウムが鉛と同じように、子どもの脳に多様な影響を及ぼすことを示すものである。これら二つの結果は、”実際には脳の異なる機能の問題が入り混じっていることを示す”とチェンは述べた。

 鉛は何年もの間、研究されて、低い濃度でも子どもの知能を低下させ、注意欠陥と乱暴な行動の原因になることを示す多くの証拠を積み上がっており、規制されてきた。それは、子どもの学習に必要な神経細胞間の結合部であるシナプスの発達を阻害する。

 カドミウムはまた重金属なので、脳にも同様な影響を及ぼすであろうとランフィアとライトとは述べた。しかし鉛とは異なり、カドミウムは脳毒素としては”比較的研究が行なわれてこなかった”とライトは述べた。

 この新たな研究でわかったひとつの大きな相違はカドミウムと注意欠陥多動症(ADHD)との関係は見つからなかったことである。”我々は、鉛やタバコ及びその他の汚染物質が ADHD のリスクを増大させるように見えることを明確に見出したので、このことは際立っている”とランフィアは述べた。そのことは、カドミウムは、前頭葉皮質ではない脳の異なる部分に関与することを示している。

 他の大きな不思議ことは、子どものカドミウム汚染経路である。カドミウムは長期間、体内に留まるので、テストによょり測定されたカドミウムは長年にわたるものである。

 カドミウムはタバコの煙中に存在するが、驚くべきことには、子どもの体内の濃度は喫煙者と一緒に住んでいたかどうかに関係なく、同じであった。このことは、”ほとんどの子どもたちにとって、二次喫煙は主要な曝露経路ではない”とライトは述べた。

 地表中に豊富に存在する元素カドミウムは、米国内のいくつかの場所の土壌中で天然に存在することが見出されている。しかしまた、それは電池製造者、金属精錬会社、電気メッキ工場、その他の産業からも放出されている。米・疾病管理予防センターの文書によれば、スーパーファンド・サイトで報告されている上位化学物質事のひとつであり、実上、全てのスーパーファンド・サイトで見出されている。

 タバコの葉や葉物野菜含む穀物は、容易にカドミウムを土壌から吸収する。米・地質調査所による地図がカリフォルニア州セントラル・バレーの地下水中のカドミウム高汚染地点(ホットスポット)を示しているが、そこで米国内のレタスやホウレンソウの大部分が栽培されている。

 重金属について研究しているスウェーデンのカロリンスカ研究所の博士研究員であるレニー・ガードナーは、”最も重要な曝露経路は食物である。ほとんどの食用植物は何らかの量のカドミウムを含んでいるが、葉物野菜と穀物は最大の汚染経路である”と述べた。

 これらの食物は重要な栄養源なので、回避すべきではない。しかしガードナーは、鉄分がカドミウムの吸収を防止するのに役立つので、カドミウム曝露を懸念する両親は子どもたちが適切な量の鉄分を食物から摂取することを確実にすべきであると述べた。

 ある子どもたちは、安い子ども用宝石から曝露していたかもしれない。2010年に、AP通信は中国で製造された子ども用宝石をテストし、カドミウムを検出して、販売店による回収(リコール)をもたらした。カドミウムは鉛の代わりに使用されていた。

 昨年の秋、消費者製品安全委員会は、基準を検討したが、産業側が子ども用宝石中のカドミウムの自主的なテスト方法と制限値を設定した(訳注1)ので取りやめた。カリフォルニア州は独自の基準を決めた。

 ランフィアは、ほとんどの子どもたちにとって宝石は曝露源ではないと述べた。”しかし、もしそれを飲み込むことがあれば、子どもたちにとって非常に重大な曝露源である”と、彼は述べた。宝石を口にしても体内に取り込まれる。

 自主的な規制では、十分ではないとして、ライトはカドミウムは全ての宝石及び他の子ども用製品から排除することを勧告した。

 ”子ども用品からカドミウムが検出されるということは、私にとって非常な懸念である”とライトは述べた。”たとえ百万人の内のひとりの子どもが曝露しても、それはひとりの子どもにとって多すぎる量である”。

 この宝石の事例は、あるひとつの有害物質が、いかに他の有害物質に置き換わるかのについて示している。

 ”恐らく、最大の失敗は、鉛事件で学んだことを教訓にしなかったことであり、環境化学物質と金属は有害である可能性があるので、結局は医薬品と同じように扱われるべきである。それらは安全であることが証明されなければ、使用されるべきではない”。


訳注:アメリカの子ども用法宝石中のカドミウム
訳注:日本のカドミウム汚染
訳注:中国のカドミウム汚染


化学物質問題市民研究会
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