EHN 2011年1月3日
水銀は魚油の脳への有益を相殺することを研究が確認

情報源:Environmental Health News, January 3, 2011
Mercury cancels brain benefits of fish oil, study confirms
Synopsis by Jennifer F. Nyland
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/
mercury-negates-fish-oil-benefits-on-brain-development/


オリジナル論文:
Lynch, ML, L-S Huang, C Cox, JJ Strain, GJ Myers, MP Bonham, CF Shamlaye, A Stokes-Riner, JMW Wallance, EM Duffy, TW Clarkson and PW Davidson. 2010. Varying coefficient function models to explore interactions between maternal nutritional status and prenatal methylmercury toxicity in the Seychelles Child Development Nutrition Study. Environmental Research http://dx.doi.org/10.1016/j.envres.2010.09.005

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年1月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_110103_mercury_fish_oil_brain.html


 長期的な食事研究が、二つの良く知られた、しかし正反対の曝露−有益な油と有毒なメチル水銀−の脳の発達に関する影響のもつれを解いた。

 魚を多食する母親の胎内での水銀曝露は、脳の発達への有益な魚油効果を減ずると研究者らの国際的なグループが報告している。子宮内で高いレベルのメチル水銀に曝露した赤ちゃんたちは、より低いレベルの汚染に曝露した赤ちゃんたちよりも幼児用テストで得点が低かった。

 テストされた5種の栄養素の中で、魚油 DHA (docosahexaenoic acid)(訳注1) だけが水銀の影響を受けた。 DHA は、魚に見出される健康に有益な油の一種である。

 この最近の分析に従い、妊娠中にどの魚を食べるかの注意深い選択が望まれる。

 メチル水銀が魚油の脳への有益性をどの程度損なうかについては不確かであり、まだ調査中である。この研究では、研究者らはこれらの相互曝露の複雑な相互作用を理解するためにコンピュタ・モデルを使用した。その発見は、有害な曝露と有益な曝露は、お互いに相殺することを示した。

 赤ちゃんの脳の発達に関し、妊娠中に魚を食べることの有益性は比較的よく認められている。しかし、ある魚は、メチル水銀として知られる神経毒性のある水銀を高いレベルで含んでいる。

 メチル水銀は、魚を食べる人々に移動し、特に、赤ちゃんが子宮中で発達中に曝露するかもしれない妊娠中の女性について懸念がある。政府機関諮問委員会は、妊娠可能年齢の女性は水銀のレベルが低い魚を食べるとともに、十分に成長したサメやメカジキ、及び国内で取れる淡水魚のような水銀レベルの高い魚の摂取を制限するよう示唆している。

 研究者らは、”セーシェル子ども発達栄誉研究(SCDNS)”を通じて収集されたデータを使用した。この研究は、、多くの魚を食べる母親の子どもたちの栄養、水銀、及びその他の曝露をしらべるために1980年代中頃以来実施されている母親と子どものペアを追いかけたものである。

 この新たな研究で、研究者らは、妊娠中の女性の魚摂取量とその子どもたちの脳の発達との関係を調べた。女性たちは何を食べたかを記録した。メチル水銀は、彼女らの水銀汚染を推定するために髪の毛が測定された。二つの標準テスト、MDI と PDIが、9ヶ月及び30ヶ月における子どもたちの発達を調べるために用いられた。

 母親たちは、週に平均9回の魚の食事を取った。彼女らの髪の毛の平均水銀濃度は5.7ppmであり、0.2から18.5ppmまでの範囲に分布していた。

 脳の発達に関連することが知られている魚類中の5種類の異なる栄養素に及ぼす水銀の影響を評価することにより、多種曝露が測定された。これらは、鉄、ヨウ素、コリン(choline)、長鎖多価不飽和脂肪酸(long-chain polyunsaturated fatty acids(LCPUFA))の二種類のタイプ((n-3 and n-6)である。N-3脂肪酸はまた、DHA(docosahexaenoic acid)とも呼ばれている。

 評価された5種類の栄養素のうち、子どもたちのテスト結果により測定されたDHAの有益な効果だけが、水銀曝露の増加により負の影響を受けた。DHAの栄養の有益性は著しく減じられ、高い曝露では消滅した。

 この有益性の低下は二つの年齢グループで二つのテストにおいて見られたが、水銀レベルの上昇とともに異なる発現を示した。例えば、30ヶ月PDIと9ヶ月MDIで見られた有益性はどのような水銀曝露でも減少し、曝露が9及び11ppmに達すると消滅した。9ヶ月PDIと30ヶ月MDIで測定された魚油の有益性は、水銀レベルが高くなると著しく増加したが、8ppmに達すると減少するか増加がとまった。

 全体として、この研究は、発達中に同時に起きた場合、ひとつの曝露が他の曝露にどのように影響を及ぼすかをよりよく理解するために、複雑なコンピュータモデルを使用した試みである。


訳注1:ドコサヘキサエン酸(DHA)


化学物質問題市民研究会
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