EHN 2010年7月1日
妊娠中の短期間BPA曝露で
母マウス、オス仔マウスが糖尿病に

Synopsis by Emily Barrett and Wendy Hessler

情報源:Environmental Health News, July 1, 2010
Mice moms, sons end up diabetic after short BPA exposure during pregnancy
Synopsis by Emily Barrett and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/mom-sons-lasting-metabolic-problems-after-bpa-exposure-during-pregnancy/

オリジナル論文:
Alonso-Magdalena, P, E Vieira, S Soriano, L Menes, D Burks, I Quesada and A Nadal. Bisphenol-A exposure during pregnancy disrupts glucose homeostasis in mothers and adult male offspring.
Environmental Health Perspectives
http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1001993

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年7月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_100701_BPA_mice_diabetes.html


 妊娠中の低レベルのビスフェノールA(BPA)への短期間曝露は、母親とオス仔マウスに糖尿病症状をもたらすが、メス仔マウスにはもたらさない−ということをマウスの実験が示した。エストロゲン様に作用し、正常なホルモン作用を阻害するBPAは、妊娠糖尿病に似た変化を母マウスに引き起こした。母マウスは、妊娠4ヵ月後も体重が増え、インスリン、糖分、脂肪を適切に制御することができなかった。オスの仔マウスは、胎児期に短期間、間接的に曝露しただけであったが、代謝系に同様な欠陥を示した。

何をしたか?

 研究者らは、妊娠期間中に1週間BPAに曝露した母マウスと仔マウスに、長期的代謝影響があったかどうかを検証した。

 研究者らは、妊娠9日〜16日に妊娠マウスにBPAを注射したが、その時期はヒトに置き換えれば、発達中期又は後期に概略当てはまる。注射されたマウスのあるものは、10μ/kgという低用量を、他のものは、100μ/kgという高用量を毎日投与された。現在、米環境保護庁(EPA)と食品医薬品局(FDA)は、50μ/kg以下を”安全”用量であるとみなしている。

 研究者らは、妊娠マウスが糖分を処理し、食事後に体が糖分を保持するのを助けるホルモンであるインスリンに対応するかどうか調べるために血中のグルコースを測定した。出生後、彼らは糖分とインスリンを代謝する能力について母マウスと仔マウスを監視した。彼らはまた、マウスが脂肪をよく処理するかどうか、そしてすい臓がよく機能するかどうかを検証した。研究者らは、これらの測定値を投与マウスと非投与マウスで比較し、ふたつのグループの生理学的相違を調べた。

何が分かったか?

 妊娠は一般的に、ある程度のインスリン耐性を伴い、この影響はBPA曝露マウス、特に低用量BPAを投与されたマウスで増幅された。非投与マウスと比較すると、投与マウスの細胞は糖分を効果的に処理し保持する能力が低く、肝臓と筋肉組織は糖尿病症状に見られるのと同様にインスリン反応の低減を示した。

 出産4か月後、BPA投与の母マウスは、食餌は同じであるにも関わらず、コントロールより体重は重かった。低用量マウスではなく高用量投与マウス群は糖分を保持するためにインスリンを使用する細胞の能力には明らかな欠陥があった。BPA投与の両方のグループでは、脂質又は脂肪の一種であるトリグリセリドの血中レベルが高くなっていた。

 BPA投与された母マウスから生まれた仔マウスもまた、コントロール仔マウスとの相違を示した。低用量仔マウスは出世時体重がコントロールより高かったが、それは妊娠糖尿病を持つ母マウスから生まれる仔マウスにしばしば見られることである。ところが、高用量仔マウスは実際にコントロールよりも体重が低かった。

 成長すると、BPA投与グループは母マウスと同じような代謝問題を示した。3か月までは顕著な差異は見られなかったが、6か月後には両方のグループでメスではなくオスの仔マウスに糖分を保持するためにインスリンを使用する能力に異常が見られた。この欠陥は血液テスト及びすい臓細胞が試験されたときに、一貫して明白であった。

何を意味するか?

 妊娠時のクリティカルな時期のBPAへの低用量曝露は、妊娠中及び妊娠後に代謝機能に影響を及ぼし、母ラットの長期的な妊娠糖尿病及び仔ラット成獣後の糖尿病発症をもたらすかもしれない。

 この研究は、BPAが動物とおそらく間違いなくヒトに健康問題を引き起こすことを示唆する研究の証拠を積み上げるものである。研究の多くは生殖系及び発達系のリスクに焦点を当てている。
 この研究は、BPAが糖尿病や肥満など代謝系への影響を及ぼすかもしれないとする最近の多くの研究のひとつである。しかし、妊娠中の母親の糖尿病発症のリスクを検証した最初のものである。最近の研究はいくつかの矛盾した結果を見出しているが、この新たな研究では方法論が強化されているので、この研究結果は特別の懸念をもたらすものである。

 今年のはじめに、他の研究者のグループが胎児期及び出生後の早い時期のマウスのBPA曝露は、初期発達期の成長が速いことは発見したが、血液糖分制御の問題を生じるようには見えないと報告した(Ryan et al. 2010)。しかしこの新たな研究は以前の研究における手法を包括的に改善し、多くの異なる手法を用いてインスリン耐性及び血液糖分制御の問題に対処している。糖分代謝テストから血液生化学への遺伝子発現の測定まで、この研究における多岐にわたる分野の証拠が、BPAが血液糖分を適切に管理するための体の機能に著しい悪影響を及ぼすことを示している。

 その方法論的強化以外に、この新たな研究は、BPAが代謝にどのように影響を及ぼすかについての我々の理解に対しふたつの重要な点を加えている。第一に、この研究は、たとえBPA曝露が非常に短い期間に起きても血液糖分制御におけるかく乱は長期にわたる可能性があることを示した。メスマウスは妊娠中わずか7日間のウインドウでBPA投与を受けたにもかかわらず、数ヵ月後に高体重と血中糖分と脂質の異常なレベルという影響を受けた。

 ヒトにおいてはもちろん、我々は毎日、食品中のBPAを摂取し、プラスチックやその他のソースから取り込んでいるので、生涯を通じて継続的にBPAに曝露している。この定常的な曝露が、血液糖分を制御する我々の体の機能やその他の体の系にどのように影響を与えるかについはまだ答が出ていない疑問である。しかしマウスにおけるこれらの先行する結果は、今後の追加的な研究を行なう価値が十分にあることを示している。

 第二に、この新たな研究は世代にわたる影響を示している。母マウスを通じて胎児期にBPAに曝露したオスは、出生後はBPAに曝露していないにも関わらず、糖尿病に似た長期的な代謝の問題を示した。体の系は非常に早い時期に、しばしば出生以前に発達するので、早期の曝露は体の機能について一生涯の障害を引き起こす可能性がある。この場合、擬似エストロゲンとして作用する能力を通じて、BPAは糖分に対する体の反応を永久的に”プログラム”し、マウスの糖分処理能力をなくすように見えるが、これは現在起きているヒトの健康問題のいくつかを映し出しているのかもしれない。

 研究結果について困惑することがある。驚くべきことに、オスの仔マウスだけがBPA曝露の影響を受けるということである。研究者らは、おそらくメスの仔マウス自身のエストロゲン生成がこのかく乱を防いでいるとの仮説を立てているが、この疑問に対応するためには更なる調査が必要である。

 さらに、低用量及び高用量のBPA曝露は同じ結果をもたらさない。両方の曝露レベルは有害健康影響を明らかに生成するが、なぜマウスはふたつの用量に対して異なる反応をするのか不可解である。低用量の方が平均的なヒト曝露レベルに近い。理想的には、さらなる実験で、注射ではなく、食物を通じたヒト曝露の典型をシミュレートする必要がある。

 まだ答のない多くの疑問が存在し、どのようにBPAが法規制に影響を及ぼすのか十分に理解するために、もっと多くの研究が必要である。



化学物質問題市民研究会
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