EHN 2010年6月22日
水銀は血液凝固を促進し心臓障害のリスクを増大させる
Synopsis by Jennifer F. Nyland

情報源:Environmental Health News, June 22, 2010
Mercury promotes blood clots, which increases heart disease risk
Synopsis by Jennifer F. Nyland
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/mercury-promotes-blood-clots-increases-heart-disease-risk/

オリジナル論文:
Lim K-M, S Kim, J-Y Noh, K Kim, W-H Jang, O-N Bae, S-M Chung and J-H Chung. 2010. Low-level of mercury enhances procoagulant activity of erythrocytes: A new contributing factor for mercury-related thrombotic disease.
Environmental Health Perspectives
http://plaza.snu.ac.kr/~jhc302/cafe/download.htm?seq=325
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20308036

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年7月1日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_100622_exposure_to_low_levels_mercury


 ソウル大学の研究者らは、低レベル水銀への曝露が心臓血管系障害を起こす血栓症と呼ばれる危険な状態である赤血球細胞凝固を促進することを明らかにした。

 一口で言えば、研究者らは、赤血球細胞が水銀に曝露して細胞死する時に、血管中で赤血球と血小板が凝固して一緒に固まるのを促進するたんぱく質を放出することを示している。凝固が増大すると既往の心臓血管系障害を悪化させ、そのリスクを他に広げる。

 水銀は地球規模の環境汚染物質であり、ほとんど全ての人々が曝露している。この金属は心臓血管系障害を引き起こすリスクを高める。トップ疾病のひとつとの関連性があるということは、重大な公衆健康への影響があるということである。

 このラボでの研究は、この金属への曝露が心臓及び循環系疾患のリスクを増大させる役割を果たす特定の細胞を明らかにした最初のものである。この結果は、非常に高いレベルの水銀に曝露した赤血球中で見られる変化が、低レベルで曝露した細胞中においても起きることを示している。

 水銀は自然界でも発生するが、採鉱、火力発電、その他の人的行為が水銀を環境中に放出し、地上に落下して土壌や水を汚染し、最終的にはこの金属の有毒な形態であるメチル水銀となって食物中に入り込む。水銀への最も高い曝露を受ける人々のうちには金採鉱者がおり(訳注)、彼らは作業を通じて曝露し、また一般集団も汚染された魚や米を食べることで曝露する。

 水銀は高いレベルでの曝露で脳と神経系の発達と機能に影響を与えるよく知られた神経毒素である。この金属はまた、動脈硬化、冠動脈心臓疾患、肺塞栓症、高血圧、血管閉塞症を含む広範な心臓血管系の病気のリスクを増大する。関連性のメカニズムは研究者らにはわからない。

 この研究で、著者らは血液を採取し、赤血球細胞を分離し、それらを低レベル水銀に曝露させ、様々な方法で−単独で、血小板中で、組織サンプル中で、そしてラットで−影響を検証した。彼らは、細胞形状の相違を調べ、凝固に重要なたんぱく質の放出を測定し、細胞がどのように血管内壁に溜まるのかを分析した。

 彼らは、0.25〜5マイクロ分子(μM)という比較的低濃度の水銀を用いたが、これは汚染された魚を摂取して曝露した血液中で典型的に測定される上限範囲内のレベルである。また、培養皿中で曝露させた赤血球の形状を変化させ、外側の細胞膜の断片を放出し、プログラム細胞死と呼ばれる結果をもたらすことを見出した。この変化は血液凝固のプロセスと一致するもので、水銀が心臓疾患を悪化させるやり方のようである。

 著者らは同様の結果をラットでも得た。 0.5〜2.5mg/kg の濃度で血液凝固の生成とたんぱく質が増すことを発見した。


訳注:小規模金採鉱

(UNEP INC1 2010年6月7〜11日 スットクホルム UNEP 水銀に関する政府間交渉委員会第1回会合(INC1)化学物質問題市民研究会 参加報告 より)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC1_NGO/100607-11_INC1_Report.html


フィリピン のASGM 現場
Photo by BAN Toxics!
 小規模金採鉱(ASGM)とは、途上国で行なわれている人力による零細な金採鉱であり、手掘りした金鉱石を前処理した後に水銀を用いて金との合金(アマルガム)をつくり、それを熱して水銀を蒸気にして飛ばし、金を得るという非常に原始的な作業です。
 水銀の管理が不十分なために、ヒト健康と環境への有害影響が大きな問題となっており、水銀を使用しない代替手法が求められています。
 小規模金採鉱に従事する人々は、ほとんどが非常に貧しい人々で、世界中で家族を含めて1,000万人近くいると言われています。

 小規模金採鉱(ASGM)で使用される水銀のほとんどは先進国から輸出されており、そのような水銀の供給を断ち、水銀を使用しない安全な代替手法を推進するために、水銀の輸出禁止が水銀条約の大きなテーマです。
 例えば、日本は非鉄精錬の副産物や蛍光灯などの水銀含有製品から年間100トン以上の水銀が回収されますが、水銀の国内需要は年間10トン程度なので、回収水銀のほとんどは余剰水銀として輸出されています。
 このような水銀の多くが、最終的に途上国の小規模金採鉱で使用されていると言われています。EU及び米国は水銀輸出をすでに禁止しており、日本も水銀輸出をやめることで、世界の水銀削減のリーダーシップを発揮することが求められています。

 余剰水銀を市場に出さないためにはそれらをどこかに長期間、安全に保管(隔離)する必要がありますが、それらの保管には立地、技術、資金、責任などの問題があります。日本が余剰水銀を輸出している背景にはこのような長期保管の困難さもひとつの理由であるとしています。



化学物質問題市民研究会
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