EHN 2010年6月22日
米環境健康科学研究所(NIEHS)所長
妊婦に関する研究に反応し、
もっと多くの難燃剤研究を促す

By Marla Cone

情報源:Environmental Health News, June 22, 2010
NIEHS director reacts to study of pregnant women, urges more investigation of flame retardants
By Marla Cone, Editor in Chief Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/niehs-director-reacts-flame-retardant-study

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年8月1日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_100622_NIEHS_director_reacts_flame_retardants.html


 環境健康に関する研究を監督する米環境健康科学研究所(NIEHS)の所長が、家庭でよく使われている製品中の難燃剤が妊婦とその胎児の健康にどのように脅威を及ぼすかについての多くの重要な疑問を、新たな研究が提起していると月曜日(6月21日)に述べた。

 月曜日(6月21日)に発表されたこの研究は、臭素系難燃剤のレベルが高いと、赤ちゃんの成長と脳の発達に重要な妊婦の甲状腺ホルモン(訳注1)に影響を及ぼすということを報告した。それは、どこにでもあるこの化学物質と妊婦の甲状腺ホルモンの変化との関係を示す最初のヒト研究である。

 "これは明らかにもっとよく調べなくてはならないことがらである"と米環境健康科学研究所(NIEHS)の所長リンダ・バーンバウムはエンバイロンメンタル・ヘルス・ニュース(EHN)とのインタビューで答えた。”私は、女性のホルモンの変化は多分事実であろうと思う。それは他の妊娠していない成人における他のヒト研究と整合性があり、それは著しい影響を示す最初の研究である”。

 バークレーの疫学者らが、低所得のメキシコ系アメリカ人の農場地域における妊婦と子どもたちの健康調査を行なう大きなプロジェクトの一部として、カリフォルニア州サリナス・バレーの270人の妊婦の血液を調査した。

 女性の甲状腺刺激ホルモンTSH(訳注2)は、家具やカーペットの芯、電子機器、その他消費者製品中に見出される臭素系難燃剤が10倍増える毎に16.8%減少した。TSHが低いということは甲状腺が過剰なホルモンを生成していることを示唆している。

 高レベルの曝露は 胎児にダメージを与えることで知られる甲状腺ホルモンの過剰生成に関わる甲状腺機能亢進症(訳注3)をもたらさなかった。しかし、潜在性甲状腺機能亢進症(訳注4)の割合は確かに増大した。調査した女性のPBDE類レベルが10倍増大する毎に、潜在性甲状腺機能亢進症が2倍になった。

 ”それは、我々がこれらの女性の甲状腺症状がどのようなものなのか、もっと調査する必要があることを意味しているかもしれない。彼女たちは甲状腺機能亢進症になる途中なのではないか?”とバーンバウムは述べた。

 正常な母親の甲状腺ホルモンのレベルは胎児の正常な成長と脳の発達にとって重要であり、したがってバークレーの研究者らは、彼らの発見がPBDE類(ポリ臭化ジフェニルエーテル)への曝露による著しい健康影響であることを意味するのではないかとの懸念があると述べた。

 バーンバウムは、甲状腺刺激ホルモンのわずかなレベル低下が胎児の健康にとって”よい情報”を意味することは決してないと強調した。

 彼女は、胎児の甲状腺レベルも調査するようにとブレンダ・エスケナジに率いられるバークレーの研究者らと連絡をとっていると述べた。”我々は、母親だけでなく、胎児にも何が起きているのか理解する必要がある”と彼女は述べた。

 サリナスの赤ちゃんに対する潜在的な健康影響は、まだバークレーの研究チームによって調査されていない。しかし、ニューヨーク市での研究を含んで、他の研究は、低知能指数、行動障害、その他の神経発達への影響と、この難燃剤への曝露とを関連付けていた。

 新たな発見もまた、科学者らがどのように実験動物にPBDE類のテストを行なうかについての示唆を与えるであろう。研究者らは、動物実験ではその逆のことが起きるのに、なぜヒト女性においては曝露が増大すると甲状腺刺激ホルモンが減少するのかについて悩まされているとバーンバウムは述べている。”我々は、なぜ我々の動物モデルがヒト研究の結果と一致しないのかについて理解する必要がある”。

 アメリカ人、特にカリフォルニア人はPBDE類のレベルが世界で最も高い。彼らの血液中と母乳中のレベルは、最もよく使用されていたふたつの成分が2004年に禁止されるまで、どの5年間においても2倍であった。この化学物質は、環境中、食物供給中、そしてヒト体内中に蓄積する。家庭内の埃と食物がヒト曝露の主要な源である。

 バーン・バウムは、昨年11月のインタビューで、その禁止にも関わらず、”アメリカにおいてPBDEは人々や野生動物で減少しているという説得力のある証拠は存在しない”と述べた。”それは早すぎる”。

 妊婦における甲状腺刺激ホルモンの減少は、テストされたどのPBDEについても見出された。

 しかし、バーンバウムは、研究者らがヒト体内に蓄積している、まだ使用されているPBDEの一種のデカやその他の高臭素系難燃剤に関するデータを持っていなかったことについて失望させられた。

 新たな臭素系及び塩素系化合物が今日、難燃剤として使用されており、以前のインタビューでバーンバウムは、もっと十分なテストなしに新たな化合物の使用を許可することにより、”まさしく一難去って新たな災難のことわざ(jump from the proverbial frying pan into the fire)”のようなことをしていると述べた。彼女は特に、いくつかの難燃剤類の代謝産物である水酸化PBDE類と呼ばれる化合物について懸念している。

 ”これらは、甲状腺霍乱物質である可能性を持つ化合物である”と月曜日(6月21日)のインタビューで述べた。

 2008年12月にNIEHSの所長に任命される前は、バーンバウムは米環境保護庁(EPA)の実験毒性学の部門長であり、彼女は特にPBDEsの汚染源と毒性に関心を持っていた。NIEHSの所長として、彼女は新たな健康研究を調整し、監督している。
この新たな研究に関するEHNの記事は下記にて読むことができる
Flame retardants can alter thyroid hormones in pregnant women, new study shows

訳注: 「新たな研究が難燃剤は妊婦の甲状腺ホルモンに影響を与えることを示す」−として、後日、紹介の予定。


訳注1
  • 甲状腺 - Wikipedia

    訳注2
  • 甲状腺刺激ホルモン - Wikipedia
  • 甲状腺の病気:甲状腺について harecoco.net

    訳注3
  • 甲状腺機能亢進症 - Wikipedi

    訳注4
  • 甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)



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