EHN 2009年9月1日
複合暴露
1度に1化学物質なら”安全”かもしれないが


情報源:Environmental Health News, Sep 1, 2009
A bad mix: exposure may be “safe” only with one chemical at a time
By Heather Hamlin and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/
bad-mix-exposures-safe-only-one-chemical-at-a-time/

Original:
Christiansen S, M Scholze, M Dalgaard, AM Vinggaard, Marta Axelstad, Andreas Kortenkamp and Ulla Hass. Synergistic disruption of external male sex organ development by a mixture of four antiandrogens.
Environmental Health Perspectives doi:10.1289/ehp.0900689.

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年9月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090901_bad_mix.html


 環境化学物質の混合物への暴露は、たとえ混合物中の個々の化学物質がそれ自身では影響を及ぼさないレベルであっても、個々の化学物質への暴露が予測するよりはるかにオスのラットに有害である。この結果は、1度に1化学物質のリスク評価は潜在的な有害性を過小評価することになることを示している。人々は1度に数百の化学物質とは言わないまでも、そのように多くの化学物質に暴露している。人々は、個々の毒性に基づけば、現在は”安全”であるはずと考えられている化学物質の混合物に影響を受けることがあり得る。

何をしたか?

 研究者らは妊娠ラットのグループに妊娠期間を通じて化学物質単独又は混合物を与えた。ラットに、DEHPと呼ばれるフタル酸エステル、殺菌剤ビンクロゾリン(vinclozolin)又はプロクロラズ(prochloraz)、及び薬剤フィナステライド(Finasteride) の4つの化学物質の単独又は混合物を与えた。

 あるラットのグループには、以前の研究が害を与えないと示唆するレベルで化学物質に暴露させた。他のグループには無毒性量(NOAEL)レベルで暴露させ。

 出生後、仔ラットについて体重を量り、乳首及び生殖器の奇形を検査し、肛門とペニス基部との距離(肛門性器間距離 anogenital distance))を計測した。全てのオスはメス化の程度により採点された。いくつかのオスについては、研究者らは生殖器及び腎臓と肝臓の重量を測定した。

何が分かったか?

 生殖系の発達に有害であることが知られている濃度で与えられたDEHP、ビンクロゾリン、プロクロラズ、フィナステライドの混合物は、肛門性器間距離の減少、前立腺の重量増加、 retained nipples(乳首?)を引き起こした。これらの状況に関連して見られた影響は追加的であり、化学物質を個別に見たときに観察される反応は予想通りに観察された。

 しかし、ペニスの奇形発生は、個別の化学物質から予測されたものより混合物の方がはるかに強力であった。顕著な数のラットについて、ペニス開口部は先端になく、性器の基部寄りにあった。

 さらに、オスラットのあるものは、性器の基部に膣開口部に似た溝があった。これらの奇形の程度は相乗的であり、その結果は全ての化学物質の能力を加算して予測されるものよりはるかに深刻であった。

 個々の化学物質が無毒性量(NOAEL)でテストされた時には、予期されたように有害影響は観察されなかった。しかし、化学物質が混合されると、ラットは肛門性器間距離が減少し、ラットはメス化したことを示した。

何を意味するか?

 このラットによる研究によれば、化学物質の混合物への出生前暴露−それぞれはホルモン影響を持つことが知られている−は、単独のどの化学物質よりも、また単独で予測される影響の合計よりも、深刻な生殖系異常を引き起こすことができる。化学物質が、通常では影響は見られないレベルで混合された場合ですら、健康影響が生じた。

 人々は、1度に1化学物質だけに暴露するわけではなく、たくさんの化学物質に暴露するが、それらの多くが男性ホルモンの機能を阻害する能力を持っていることがある。

 この研究は、人間は個々の毒性に基づき”安全”であると現在は考えられている化学物質の混合物によって影響を受けることがあり得るという懸念を提起するものである。ヒトがこの研究のラットと同様な生殖系の問題を持つかどうかは化学物質の数、濃度、及びその化学物質への感受性に依存する。

 化学物質の混合物がヒトの集団に及ぼす影響に関する予測は主に個々の化学物質毒性影響に基づく。化学物質が混合されると、その効果は加算的であることが予測される。例えば、もし化学物質AとBが同じ影響をもたらすなら、それらの合算は問題を約2倍にする。

 この研究は、 尿道下裂のようなある種の有害影響について、この研究で用いられた抗男性ホルモンの混合物は単一の化学物質の加算的影響から予測されるものより悪い結果を引き起こすことを発見した。この研究結果は、混合物の影響は時には、個々の化学物質が引き起こすものとは異なり、もっと深刻な影響を引き起こすことがあることを示す増大する研究にさらに加わるものである。

 相乗的反応と呼ばれるこの種の反応は、混合暴露の影響を評価することを難しくする。

 人々は、食品、水、処方された薬剤、空気、ほこりのような環境汚染源からあらゆる種類の化学物質混合物に暴露しているのだから、全ての可能性ある化学物質の組み合わせをテストすることは不可能である。従って、規制当局は安全暴露を決定するために個々の化学物質の毒性に基づいた情報を使用する。この研究で使用された化学物質混合物について、その論理は暴露リスクの過小評価という結果をもたらしている。

 ペニスの開口部が先端にない尿道下裂はヒトの間で増大している問題である。ある科学者らは環境化学物質がこの増加に寄与していると推測している(Paulozzi et al. 1999)。

 化学物質のテストにおいて、無毒性量(NOAEL)の化学物質の組み合わせ暴露は有害影響を引き起こさないとする見解が広く持たれている。しかし、この研究は常にそうなるわけではないことを示した。この研究のラットは4つの抗男性ホルモンに無毒性量(NOAEL)で暴露されたときに、肛門性器間距離が短くなった。このことは、ラットは暴露によってメス化したことを示している。肛門性器間距離の減少はヒトにも同様に増加している(Swan et al. 2005)。

 規制当局は最近、フタル酸エステル類への暴露に関連するリスクに関心を持つようになっている。しかし、規制当局はヒトが日常的に暴露している混合物の影響をテストしていない(Marsee et al. 2006)。この研究は、同時に複合化学物に暴露することに関連する現在のリスク評価を精査する必要があることをハイライトしている。



化学物質問題市民研究会
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