EHN 2009年7月24日
病気の傾向は
環境的要因を常に明らかにするわけではない

シャーナ・スワン/ロチェスター大学

情報源:Environmental Health News, Jul 24, 2009
Trends in disease don't always reveal environmental causes
By Shanna Swan
University of Rochester
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/editorial/trend-studies

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年8月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090724_Trends_in_disease_Shanna_Swan.html


 ますます多くの説得力のある証拠が、精巣がん、精液の質低下、停留睾丸、尿道下裂など一群の男性の疾病/障害は共通の起源を持ち、環境化学物質がひとつの役割を果たしているに違いないことを実証している。

 同時にいくつかの研究は、これらの疾病や障害は、世界の全ての人口及び地域で見れば増加していないことを示している。
 これは矛盾であろうか?
 科学者にとってはノー、矛盾ではない。

 多くの人々は、もし環境的要因があるなら、疾病率はどこででも上昇するに違いないと考える。例えば、もし大気汚染ががんを引き起こすなら、なぜがんは全ての汚染された都市で増加しないのか? しかし実際には、地域の傾向調査は人の疾病の原因を論駁又は支持する証拠をほとんど提供しない。

 稀なケースとして、因果関係を強く支持する疾病と暴露の時間的変化についての動かぬ証拠がある。例えば、流産防止のために1947年から1971年の間に販売された薬品ジエチルスチルベストロール(DES)の販売パターンは、20年後に”DES娘”に診断された稀な膣がんの発症数と顕著な関連を示した。この独特ながんはDESの販売前には若い女性にはほとんど見られなかったというゆるぎない証拠は、この暴露がこの疾病を引き起こしたということを非常に説得力を持って主張している。実際に、若い女性のこのがんの原因は、他には何も特定されていない。

 しかし、これは例外である。なぜか? 第一に、ほとんどの疾病の診断は時間とともに変わることがあり、ほとんどは疾病登録に不完全に報告されているように見える。これらの理由だけでも、発症率は、たとえその疾病を引き起こす要因に変化が生じていなくても、時間とともに変化し得る。

 若い女性の間にDESにより引き起こされる稀ながんとは違い、尿道下裂のような疾病やその他の有害な結果は、ほとんど常に複数の原因を持つ。これらの原因もまた時間とともに変化する。例えば、二つの最近の論文の中で研究者らは、男の新生児におけるこの先天異常は母親の年齢とともに増加していることに言及した。そして母親の出産時の年齢それ自身が、女性が子どもを産むのを遅らせることにより、高くなっている。尿道下裂のリスクは、食品や多くのビニル製品中に存在するフタル酸ジ2エチルヘキシル(DEHP)のような抗男性ホルモン物質など他の環境要因に関連している。これらの要素の全ては、それら自身の時間的傾向に従属する。

 ある最近の研究が、デンマーク人の921,745出生事例で母親の年齢を分析し、尿道下裂の発生率は1977年から2005年の間に増大したと報告した。一方他の研究である人は、1983年から2005年の間のニューヨーク州登録症例に基づき、若い母親と年長の母親を別々に検証した結果、増加していないことを見出した。しかし、これらの研究のどちらもDEHPあるいは他の環境リスク要因がこれらの傾向に関係しているのか、していないのか、についてどちらの証拠も提供することはできなかった。なぜか? 第一に流産防止薬についての販売データとは異なり、我々はDEHPのような環境化学物質の製造又は流通の変化についての信頼あるデータを持っていない。一方、DEHPへの暴露は50年前より現在の方が明らかに高いように思えるが、もっと近い過去におけるそれらへの暴露と現在の暴露を比較したデータを持っていない。それらは増加しているかもしれないし、減少している又は一定かもしれない。さらに暴露パターンは世界中が一様というわけではない。

 それでは科学者は環境化学物質を疾病に関連付けることができるのか? イエス、できる。個々の暴露に関するデータを用いる研究は、単純に傾向を見るだけよりもはるかに有用である。例えば、最近のある研究が、職業的なフタル酸への暴露は尿道下裂のリスクを3倍高くすることと関連することを発見した。

 そのような研究は複雑な疾病において、環境化学物質が果たす役割を特定するのに役に立つ。傾向調査だけではできない。


 シャーナ・スワンはロチェスター大学医科歯科校の小児科婦人科学部教授兼研究副議長、及び生殖疫学センターのディレクターである。
連絡先:shanna_swan@urmc.rochester.edu



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る