EHN 2009年5月2日
海洋中の水銀 大幅に増加
魚からの摂取の脅威を予測

解説:マーラ・コーン

情報源:Environmental Health News, May 2, 2009
Big increase in ocean mercury found; study predicts more human threat from fish
Synopsis by Marla Cone Editor-in-Chief Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/ocean-mercury-increasing

オリジナル:Elsie M. Sunderland, David P. Krabbenhoft, John W. Moreau, Sarah A. Strode and William M. Landing. 2009. Mercury sources, distribution, and bioavailability in the North Pacific Ocean: Insights from data and models. AGlobal Biogeochemical Cycles
http://www.agu.org/pubs/crossref/2009/2008GB003425.shtml

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年5月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090502_ocean_mercury.html


 石炭火力発電所やその他の汚染源が増大するので、太平洋の水銀レベルは今後数十年間に50%上昇するであろうと科学者らが5月1日(金)に発表した。

 ハーバード大学及び米地質調査所(U.S. Geological Survey)の科学者らによる研究は、海洋の水銀レベルはすでに、過去20年前より約30%上昇していることを発見した。総合するとこの発見は、もし現在の水銀排出レベルが続くなら、太平洋は2050年にはその汚染レベルが1995年のレベルの2倍となることを意味する。

 その結果、世界中の人々は魚やその他の海産物を食べることにより、ますます水銀に暴露することになる。神経毒素であるメチル水銀は胎児の脳の発達を変え、子どもたちの学習障害や知能低下に関連している。

 研究チームはまた初めて、産業汚染源がどのようにして海産物を汚染するのかについて報告した。

 数十年の間、科学者らは、海洋の魚のメチル水銀は、海に由来すると言う人もあり、天然のものか又は人工のものかを説明しようとしてきた。米地質調査所(USGS)の地質化学者デービッド・クラベンホフトらは、産業的に排出される水銀は中深海の水中でメチル水銀に変換されることを発見した。

 ”この研究は、危険なレベルの水銀が、どのようにして我々の大気、我々の水、我々が食べる食物に移動するのかについてよりよい理解を与え、アメリカ人や世界中の人々に与える重大な健康の驚異に新たな光を照らしている”と米環境保護庁(EPA)長官リサ P. ジャクソンは声明の中で述べた。

 科学者らは、200〜700メートルの中深海に藻でフィルタリングされて落ちてくる産業水銀はバクテリアによって分解されてメチル化され、海の生物により摂取されるメチル水銀に変換されるということを報告した。メチル水銀はその後、生物から生物ヘと食物連鎖に入り込む。

 新たな発見は、”水銀の大気放出と海の魚の水銀の濃度との関係の理解を助けるので、アメリカ人および我々の野生生物の健康と安全にとって極めて重要である”と内務長官ケン・サラザールは声明の中で述べた。

 ”我々は水銀がリスクを及ぼすことを知っていたが、今、我々は、海洋の水銀レベルを下げることができるよう水銀排出を削減する必要がある”とサラザールは述べた。

 水産業界の報道官で全国漁業協会のメアリー・アン・ハンサンは、研究者らは海水のテストだけで、魚の水銀レベルをテストしておらず、”そのことは海産物についてのどのような結論も予測も不完全で無責任なものにする”と述べた。

 この研究は、特に既存のピアレビューされた研究で、海の魚の水銀レベルが上昇したことを示すものは過去30年間ないのだから、徹底的に精査される価値がある”と彼女は述べた。

 『Global Biogeochemical Cycles』と呼ばれるアメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union)のジャーナルによれば、この発見は、アラスカやハワイ沖を含む北太平洋の16地点から採取した水銀サンプルに基づいている。

アメリカ人のメチル水銀暴露の
40%はマグロ由来である。
 この研究の主著者でハーバード大学大気化学モデリング・グループのエルジー・サンダーランドは2007年に、アメリカ人のメチル水銀への暴露の40%はマグロ由来であると報告した。もっと汚染されている魚もあるが、マグロは最も広く摂取されている魚である。

 米食品医薬品局は、妊婦、授乳中の母親、妊娠するかもしれない女性は、魚と海産物の摂取を週に2回、6オンス(約170グラム)に制限するよう助言している。彼らは、サメ、メカジキ、サワラ、マダイの摂取は避けるべきであり、ビンナガ又はシロマグロは週1回までとするようにとFDAは述べている。

 アメリカ女性の6%、又は380万人はEPAが胎児に安全であるとする水銀量を超えている。

 クラベンホフト、サンダーランド及び彼らの同僚らは、海洋中の水銀の予測される増加を回避するために遅すぎることはないと述べた。彼らは広い海洋の水銀レベルは急速に増加することができることを発見したのだから、もし排出が削減されれば、それはまた、急速に減少するであろうと彼らは述べた。

 アジアの石炭燃焼は、世界の主要な水銀排出源である。(訳注

 科学者らは、水銀の多くは、大気中ではなく海洋中で広範な距離を移動していることを発見して驚かされたと述べた。排出水銀はアジアの海岸近くの地面に落ちて、その後、海流にのって東方向に運ばれるとクラベンホフトは述べた。

 この研究は下記から入手できる。
 http://www.agu.org/pubs/crossref/2009/2008GB003425.shtml

 報告書の詳細はUSGSの下記ウェブサイトから入手できる。
 http://toxics.usgs.gov/highlights/pacific_mercury.html


訳注
世界の水銀排出源
出典:Mercury Policy Project, January 2009

排出源別


製品中水銀の大気排出地域別




化学物質問題市民研究会
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