EHN 2009年1月12日
早産で入院中の赤ちゃんは
ビスフェノールAが高い

マーサ・スッシアルジョ、ウェンディ・ヘスラー

情報源:Environmental Health News, Jan 12, 2009
High BPA levels found in hospitalized, premature infants
Synopsis by Martha Susiarjo and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/high-bpa-in-premature-infants/

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年1月14日
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"http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090112_high_BPA_premature-infants.html


 赤ちゃんのビスフェノールA(BPA)への暴露を調べたこのはじめての研究で、新生児集中治療室で治療を受けている早産の赤ちゃんは、尿中のBPAのレベルが一般の人より10倍高いことが分かった。暴露源は、乳児用調整粉乳からのものも幾分はあるかもしれないが、多くは病院で使用されたプラスチック医療器具であったようである。BPAは、ヒトと実験動物における様々な健康異常に関連している。

何をしたか?

 米疾病管理予防センター(CDC)の研究者らは、ボストン地域の病院て治療を受けている早産の赤ちゃん42人のおしめから採取した尿サンプル中のBPAを分析した。BPAの2つのタイプが測定された:free(分解されていない)とconjugated(体内で分解されている)である。

 著者らはフタル酸エステルDEHPを含むプラスチック医療器具にどれだけ接触していたかに基づいて、赤ちゃんを低、中、高のカテゴリーに分類した。医療器具への接触の程度は栄養補給と治療の複雑性に由来する。

 低グループは主に哺乳びん又は喉へのチューブにより補給された。中グループは消化管に直接導かれたチューブを通じて連続的な又は1回の補給を受けた。高暴露グループは複数の補給及び呼吸チューブをつけた赤ちゃんからなる。

 著者らはまた、他の潜在的な変数として、年齢(生後日数)、母乳か人工乳か、入院期間を含めた。

何がわかったか?

 研究者らは測定した全ての尿サンプル中にBPAを検出した。これらの早産赤ちゃん中の平均BPA濃度は、以前に報告された成人の濃度よりも約10倍高く、6〜11歳の子どもの約2倍であった。

 赤ちゃんの尿中のBPAはfree(分解されていない)とconjugated(体内で分解されている)の混合であった。

 赤ちゃんはプラスチック医療器具への接触が多ければ多いほど、接触が小さい赤ちゃんに比べてBPAが高かった。”中”と”高”のカテゴリーの平均濃度は、約3.4倍及び9倍だけ、それぞれ”低”カテゴリーの赤ちゃんより高かった。

 BPAレベルは、尿中のDEHPレベルと高い関連性があった。BPAはまた、他の測定された汚染物質、メチルパラベンと関連があった。

 病院Aに入院した赤ちゃんは病院Bの赤ちゃんよりもBPAレベルが16倍高かった。BPAの暴露源の測定を実際にしないことには、研究者らはその相違を説明することはできない。

 他の試験をした変数の中でより若い赤ちゃんは、そうでない赤ちゃんよりもわずかに高い暴露をしていたことがわかった。これらの赤ちゃんはまた、医療器具とのより多くの接触を通じて、BPAにより高い暴露を受け易いより複雑な治療を受けていたようである。

 母乳か人工乳か、又は入院期間に関しては、有意な影響は見られなかった。

何を意味するか?

 この研究はプラスチック医療器具が早産赤ちゃんのBPA暴露の重要な汚染源であることを示している。早く生まれた赤ちゃんは、成長のクリティカルな段階に暴露する高いリスクをもつグループである。

 この結果はまた、ヒトの赤ちゃんが体内でBPAを少なくとも部分的に代謝することができることを初めて示した。BPAの conjugated−または変化した型が分析した赤ちゃんの尿中サンプルで検出された。体内でBPAを正常に分解する酵素は、出生後数ヶ月から1年経過するまで完全に機能するとは考えられていない。

 BPAの代謝又は”conjugated”型はBPAの未分解型よりも有害性が低い。

 この発見は、健康な新生児は成人よりもBPA濃度が11倍高いかもしれないとする最近の他の研究によって裏付けられる(Edginton 2008)(訳注1)。コンピュータに基づく成人暴露レベルからの推測である。

 この研究は暴露レベルを測定しただけである。これらの赤ちゃんの健康に対する潜在的な影響は、さらに将来の研究において目を向けられるべきである。

 しかし、人体中のBPAレベルが高いと心臓血管計疾病や糖尿秒のリスク増大につながっている(Lang 2008)(訳注2)。これらの病気は、よく知られたバーカーの仮説(Barker hypothesis)(訳注3)で提案されているように、胎児期又は発達の初期段階に由来するかもしれない。低体重で生まれT赤ちゃんはまた、成人してから心臓疾患や糖尿病になるリスクが増大する。

 この研究の発見は、早産の赤ちゃん(発達的及び生理学的制限をもって生まれた赤ちゃん)は、健康に有害影響をもたらすことが知られている化合物への暴露によって、さらに難しい状況におかれている。

 興味深いことには、この研究が病院間の暴露レベルの相違を見出したことであり、ひとつの病院で用いられている医療器具が暴露の強い汚染源となっているかもしれないことを示している。他よりも安全な医療器具を特定するための更なる研究により、入院患者の暴露を大幅に減らすことができるであろう。


訳注1
Jan 12, 2009 EHN / Study predicts BPA in babies 11 times higher than adults
 近日中に日本語訳の予定。

訳注2
EHN 2008年9月16日 ビスフェノールAはヒトの糖尿病と心臓疾患に関係がある/動物テストからヒトへの害を裏付ける初めての主要な研究と研究者らは言う

訳注3:バーカーの仮説
Barker Hypothesis のウェブサイトより)
 デービッド・バーカー博士(M.D., Ph.D., FRS )は、英サウスハンプトン大学臨床疫学の教授/医師であり、またオレゴン健康科学大学医学部教授である。15年前に彼は初めて低体重で生まれた人は 冠状(動脈)心臓疾患になるリスクが高くなるということを示した。1995年、英メディカル・ジャーナルはこれを”バーカーの仮説”と命名した。現在、広く受け入れられている。2003年に、彼は、オレゴン健康科学大学(OHSU)の心臓研究センターに加わり、出生前及び子ども時代の初期の栄養と成長が心臓の発達を変えることを研究している。

 バーカー博士の仕事は西欧諸国及び第三世界諸国の両方に関連がある。西欧諸国では、多くの赤ちゃんは、母親が多量養素(macronutrients)のアンバランスな、そして微量元素(micronutrients)の不足した食物摂取のために、又は母親が極端に痩せているかあるいは太りすぎているために栄養摂取が不十分である。第三世界諸国では多くの少女と若者は慢性的に栄養不良である。



化学物質問題市民研究会
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