EHN 2008年10月8日論文解説
農薬でうつ病に

情報源:Environmental Health News, Oct 08, 2008
Depressed by pesticides
Synopsis by Kim Harley, Ph.D. and Wendy Hessler
http://fellows.environmentalhealthnews.org/newscience/depressed-about-pesticides/

Original: Beseler, CL, L Stallones, JA Hoppin, MCR Alavanja, A Blair, T Keefe and F Kamel. 2008.
Depression and pesticide exposures among private pesticide applicators enrolled in the Agricultural Health Study
Environmental Health Perspectives online September 9.
http://www.ehponline.org/docs/2008/11091/abstract.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年10月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_081008_Depressed_by_pesticides.html


 農民に関する研究が、農薬への生涯暴露日数が最も多い人々は、最も暴露日数が少ない人々に比べて50%以上、また有機リン系と呼ばれる殺虫剤を使用していた場合には80%以上、臨床的うつ病と診断されるらしいことを発見した。以前の研究は非常に高容量での暴露又は汚染でうつ病のリスクが増大することを示すものはあったが、これは、慢性的、低容量農薬暴露との関係を発見した最初の研究である。この研究はよく使用されている農薬が精神的疾患を引き起こすことがあるという懸念を補強するものである。

何をしたのか?

 研究者らは、ノースカロライナ州とアイオワ州で農薬散布免許を持っている個人に関する大規模調査である農業健康調査(Agricultural Health Study)からのデータを分析した。この研究への参加者は、商業的農薬散布者と、農民であることの多い個人散布者に分けられた。研究者らは今回の分析は男性の個人散布者に限定した。

 17,000人以上の男性がこの研究のために、彼らの農薬使用、健康、行動についての質問票に答えた。男性らは、かつて治療又はショック療法が必要なうつ病と診断されたことがあるかどうかについて質問された。また彼らは、50種類の農薬の生涯使用について質問されたが、それには農薬ごとに年間の散布日数及び合計年数が含まれる。農薬は、除草剤、殺虫剤、殺菌剤、燻蒸剤などに分類された。殺虫剤はさらに次の3つのタイプに分類された。有機リン系、カーバメート系、有機塩素系。個人は、低(225日以下)、中(226〜752日)、高(753日以上)の生涯農薬暴露に分類された。男性はまた、以前に農薬中毒と診断されるか又は異常に高い農薬暴露を受けたことがあるかどうかの質問を受けた。

 研究者らはその後、農薬使用の累積日数の低、中、高の男性について、うつ病と診断された可能性を比較した。統計的手法を使用して、結果に影響を及ぼすかもしれない年齢、教育、人種、結婚状態のような要素を考慮した。

何を発見したか?

 研究対象の約3%の男性が、過去にうつ病と診断されたと報告した。他の研究と同様に、過去の農薬中毒事故を報告した男性は、うつ病と診断されることが2倍以上であった。

 著者らは次に、中毒や高暴露事故を経験した男性を除いた。一定の農薬使用だけに注目すると、生涯の農薬散布日数が最も高いと報告した人々は、散布日数が最も低い人々に比べて臨床的うつ病が50%高かった。研究者らは次に、特定のタイプの農薬に注目した。雑草を枯らすために使用される除草剤はうつ病との有意な関連は見られなかったが、殺虫剤、殺菌剤、及び燻蒸剤(密閉した空間又は土壌処理に使用されるガス)は関連性があった。リスク増大が最もあったのは殺虫剤であり、有機リン系として知られる殺虫剤が特に高かった。有機リン系の過去の使用は、過去に使用したことのない男性に比べてうつ病の可能性が80%高かった。

何を意味するか?

 この研究は、長期的で慢性的な農薬使用は神経的影響、特にうつ病に関連した影響を持つかもしれないことを示唆した。以前の医学的報告書は、農薬中毒者の中に不安とうつ症状があることを示していた。今回の報告書はこれらの発見を一定の農薬使用者に拡張した最初の研究である。

 この研究中の男性らは全て農薬散布者としての免許を持っており、一般公衆よりはるかに高いレベルの農薬暴露を経験していた。しかし、農薬暴露は、家庭、職場、食物での使用のために一般集団の中でも広がっている。

 この研究は、様々な農薬暴露をした大きな集団を対象としており、著者らは同一集団の中で高暴露者から低暴露者まで比較することができたので、強い説得力がある。研究者らは、参加者の背景と農薬暴露の履歴に関して広範な情報を持っていた。この研究の主要な弱点は、男性らが過去に起きたうつ病の診断と農薬使用について、農薬暴露がうつ病の前なのか後なのかを区別せずに報告したということである。自己申告、大きな時間分類、及びいくつかのストレス関連事項(経済的)についての情報の欠如も追加的な限界である。

 この結果は、農薬は臨床的に特定できる中毒症状を引き起こすより十分に低い暴露レベルで神経影響を持つかも知れないということを示している。農民や害虫管理農薬散布者の様に仕事の一部として農薬を散布している人々は用心深くし、長期的な精神健康を守るために安全警戒をすべきである。著者らは、”医師らは農薬散布の経歴を持つ人々の気分の変化に注意を払うべきである”と忠告している。



化学物質問題市民研究会
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