EHN 2008年2月5日論文解説
農業がオオヒキガエルの生殖腺形状と機能を変える
ヒーター・ハムリン博士とウェンディ・ヘスラーによる概説

情報源:Environmental Health News, July 3, 2008
Agriculture Alters Gonadal Form and Function in Bufo marinus
Synopsis by Dr. Heather Hamlin and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/newscience/2008/2008-0630mccoyetal.html

Original: McCoy, KA, LJ Bortnick, CM Campbell, HM Hamlin, LJ Guillette Jr., and CM St. Mary. 2008. Agriculture Alters Gonadal Form and Function in Bufo marinus. Environmental Health Perspectives
http://www.ehponline.org/members/2007/10596/10596.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年7月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_080703_Agriculture_land_use.html


 フロリダの科学者らは両生類に見られるインターセックス (間性)状況は農業土地利用と関連すると報告している。農業土地利用が高い地域は都市郊外を含む他の土地に比較して、農業密度が高ければ高いほどカエルの異常発生の比率が高くなることを見出した。最も農業化の進んだ地域ではオスのヒキガエルのほぼ40%がメス化の異常を持っている。この結果は農業化学物質(訳注:農薬)がその原因かも知れないということを示唆している。この様に明らかに性分化異常のあるヒキガエルが見出されるということは、そのような異常が世界的な両生類数の減少の原因の少なくとも一部かもしれないという懸念を引き起こす。

何をしたか?

 著者らは、完全な都市郊外(非農業地域)から完全な農業地域にいたるまでフロリダ州の5か所の調査場所からオオヒキガエル(Bufo marinus)を採集した。農業密度を決定するために、彼らはグーグルアース(Google Earth)衛星ディジタル画像の画像解析ソフトウェアを使用して、それぞれの調査場所周辺の農業用土地利用の割合を算出した。分析に基づいてそれぞれの調査場所に農業密度スコアー1〜5を割り当てた。1(11マイル以内非農業地域、及び郊外)、2(5マイル以内非農業地域、及び郊外)、3(34%農業地域)、4(51%農業地域)、5(97%穀物農業地域)。

 彼らは、2年間に5つの調査場所の約20匹のオスのヒキガエルを調べた。研究者らは、色、数、足の厚み、前腕の幅、卵巣又は精巣の外観、性ホルモンの濃度など、オス・メス性分化に関連するヒキガエルの様々な生物学的側面について調査した。ヒキガエルは数と生殖系異常の程度に基づいて採点された。

 マッコイらは、これらの観察に基づきそれぞれのヒキガエルを3つの性カテゴリーのひとつに分類した。正常オス、インターセックス(卵巣と精巣の両方の組織を持つ)、Bidderオス(精巣を持ったオス、Bidder組織に異常、メス卵巣組織はない)。さらに生殖腺異常の程度と生息していた農業密度に基づき、ヒキガエルはさらに6つのグループに分類された。二つの比較がなされた。第一は、3つの性グループが調査場所を通じて比較された。その後、著者らは異常の程度と農業密度の程度の関連性を探した。

何がわかったか?

 オオヒキガエルの性異常の数と程度、特に卵巣と精巣の両方を具備する個体(インターセックス)又は異常なBidder組織を持つ個体が農業密度が最も高い場所で最も高った。農業活動が増すと異常を持つオスの比率が増した。例えば、ヒキガエルはランク5(最大農業)の地域で最も影響を受け、ランク4(農業程度がより低い)地域でより少ない影響を受け、ランク1(非農業地域/郊外)で影響が最も少なかった。郊外に生息するオスのヒキガエルの生殖腺と血液ホルモン濃度は農業地域又はその近くに生息するヒキガエルに比べて正常であるように見えた。

 最も厳しいケースにおいて農業地域に生息するヒキガエルはオスが卵巣と精巣を等しく持つなど多くのメスの特徴を備えているので”インターセックス”として分類された。最も高い二つの農業地域に生息するオスは35%及び40%がそれぞれインターセックスであった。スコア4(51%農業地域)のオスの半数以上及び最も高いスコア5(97%穀物農業地域)の約60%が異常精巣又はインターセックス状態であった。

 通常、オスはメスと異なった外観を持つ。顕著に異なる色調、上腕の厚み、そして親指にありメスとの交尾を支える皮膚断片である繁殖パッドである。

 この研究では、農業地域に生息するオスのヒキガエルは3つの全てのオスの特徴においてメス化が進んでいた。全ての農業地域のオスのヒキガエルはまだら(mottling)と呼ばれる(メス化された)メスの色調を持っていた。まだらの程度は農業密度が高まると増した。前腕の厚みは、非農業地域のオスに比べて農業地域のインターセックスは著しく小さかった。繁殖パッドもまたより少なかった。

 農業地域のヒキガエルは変更された生殖組織によって引き起こされた可能性が最も高い異常なホルモンのレベルを持っていた。農業地域に生息するオスは、郊外のヒキガエルに比べて著しく低いテステステロン(男性ホルモンの一種)レベルであり、精巣の近くに成長している卵巣の痕跡が認められた(インターセックス)。インターセックスのヒキガエルのテステステロンのレベルは全てのオスの中で最低であり、郊外の環境に生息するメスに似ていた。

 テステステロンに対するエストロゲン(女性ホルモンの一種)の割合を比較するとその傾向は同様であった。インターセックスのヒキガエルは非農業地域のオスよりその割合が高い、すなわちエストロゲンが高くテストステロンが低いことを示唆していた。実際にインターセックスのヒキガエルは平均でテストステロンよりエストロゲンの方が高かった。

 研究対象のオスは、性ホルモンのレベル、性腺構造、色調及びその他の生殖要素の証拠に基づくと明らかにメス化していた。

何を意味するか?

 この研究は明らかに農業地域に生息するヒキガエルは他の地域に生息するカエルよりメス化が高いことを示している。

 研究の結果は研究対象の農業地域で栽培される食用穀物に使用されているひとつ又はそれ以上の農業化学物質はヒキガエルのオスのメス化を引き起こしているかもしれないということを示唆している。ヒキガエルとヒトは同じ性ホルモンと類似のホルモン生成メカニズムを持っているのでヒキガエルにメス化を起こす化学物質はまたヒトにも有害影響を与えるかも知れない。

 実地調査として、この研究はこの地域の農業に関連する何かがヒキガエルの性分化の問題に結びついていることを示している。どの化学物質がオスのヒキガエルの性分化問題に寄与しているかを示すようこの研究は設計されていない。重要なことは農業地域において使用されているラントアップやアトラジンのような農薬のあるものがすでにホルモン生成を著しく変更することや生殖系に関するその他の有害な影響を及ぼすことがが知られているということである(Oliveira et al. 2007; Soso et al. 2007)。

 現地の汚染の測定の欠如もまた、両生類に対する内分泌かく乱に関する他の研究との比較を難しくしている。アトラジンを検証している最近のある研究は類似した関連パターンを見出した(McDaniel et al. 2008)。しかし、少なくともひとつの研究は(まだピアレビューされた論文として未発表であるが)、反対の傾向をを見出した。それは異なる農薬使用のパターンを持つ地理的に異なる地域で実施された。

 著者らは、”この研究におけるホルモン濃度などの変更された表現型は、ヒキガエルの生涯にわたる様々な濃度でのいくつかの化学物質への複合暴露の結果であるということを観察し”、農業用化学物質の混合がオスのヒキガエルのメス化の原因となっているらしいことを示唆している。

 農業用化学物質の影響をテストする実験室での研究結果は、自然環境における動物を調べる実地調査で見出される結果と時には異なる。実際の生息状況において動物に影響を与える全ての暴露と要素を管理することは不可能であるのに対し、実験室での研究は条件を管理することができる。しかし、現地調査では自然環境下で何が現実に起こるのかを見ることができる。このことがこの研究が重要であることのもうひとつの理由である。

 ヒキガエルで特定されたホルモン及び生殖系問題はヒキガエルの生涯のうちの非常に早い時期に始まる可能性が最も高く、その問題は一生続く。その影響は農業地域では十分強いので生殖を阻害し、その結果個体数に影響を与える。したがってそれらは、世界中で問題になっている両生類の減少に関係しているらしくみえる。マッコイらによれば、”ここで報告されているような生殖腺の異常は影響を受けている個体の生殖成功を減少させているようにみえ、そのことがなぜ二つの独立した調査が農薬に暴露した両生類の個体数が減少している又は絶滅したことを報告したかを説明できる (Davidson and Knapp 2007; Sparling et al. 2001)”。

 この研究の次の段階はどの物質が観察された関連の原因となっているのか特定することである。この調査結果はまた、内分泌かく乱に関係する有害影響を探しながら、その地域に住んでいる人々の疫学的研究を実施する上で貴重であることを示している。残念ながら、ヒキガエルに見られたタイプの影響は、人の初期の発達期の暴露を受けた後、成熟するまで明らかにならない。したがってそのような研究を行うことは費用と時間がかかる。

 マッコイらによれば:
 ”我々は、ヒキガエル(anuran amphibian B. marinus)の生殖腺形状と機能が農薬使用量に依存する農業土地使用によって変更されることを示している。したがって我々の研究は生殖腺異常が農業に関連しているかどうかを問う現在の文献議論から、影響を受ける生物種、化学的原因、及び発達学的、生物学的及び生態学的な暴露影響を特定することに焦点を絞った問いにシフトする”。


訳注:関連情報


Resources:

Animal Diversity Web. Bufo marinus. Cane toad.

Barringer, F. 2008. Hermaphrodite frogs found in suburban ponds. New York Times.

Colborn, T, D Dumanoski and JP Myers. Our Stolen Future. Dutton.

Davidson C and RA Knapp. 2007. Multiple stressors and amphibian declines: Dual impacts of pesticides and fish on yellow-legged frogs. Ecological Applications 17(2):587-59.

Fan, WQ, T Yanase, H Morinaga, S Ondo, T Okabe, M Nomura, T Komatsu, KI Morohashi, TB Hayes, R Takayanagi and H Nawata. 2007. Atrazine-induced aromatase expression is SF-1 dependent: Implications for endocrine disruption in wildlife and reproductive cancers in humans. Environmental Health Perspectives 115:720-727.

Floridagardener.com. Florida garden critters: Bufo marinus - Giant Toad, Cane Toad, Marine Toad

Hayes TB, AA Stuart, M Mendoza, A Collins, N Noriega, A Vonk, et al. 2006. Characterization of atrazine-induced gonadal malformations in African clawed frogs (Xenopus laevis) and comparisons with effects of an androgen antagonist (cyproterone acetate) and exogenous Estrogen (17-beta-estradiol): Support for the demasculinization/feminization hypothesis. Environmental Health Perspectives 114(S1):134-141.

McDaniel, TV, PA Martin, J Struger, J Sherry, CH Marvin, ME MCMaster, S Clarence, and G Tetreault. 2008. Potential endocrine disruption of sexual development in free ranging male northern leopard frogs (Rana pipiens) and green frogs (Rana clamitans) from areas of intensive row crop agriculture. Aquatic Toxicology, in press.

Oliveira, AG. LF Telles, RA Hess, GAB Mahecha and CA Oliveira. 2007. Effects of the herbicide Roundup on the epididymal region of drakes Anas platyrhynchus. Reproductive Toxicology 23:182-191.

Soso AB, LJG Barcellos and MJ Ranzani-Paiva. 2007. Chronic exposure to sub-lethal concentration of a glyphosate-based herbicide alters hormone profiles and affects reproduction of female Jundia (Rhamdia quelen). Environmental Toxicology and Pharmacology 23:308-313.

Sparling DW, GM Fellers and LL McConnell. 2001. Pesticides and amphibian population declines in California, USA. Environmental Toxicology and Chemistry 20(7):1591-1595.

US Environmental Protection Agency. Atrazine fact sheet.

US Geologic Survey. Amphibian Research and Monitoring Initiative.



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