EHN 2008年2月5日論文解説
家庭用農薬への暴露と子どもの白血病:
ESCALE Study (SFCE)

ミカエル・ライオサ博士とウェンディ・ヘスラーによる概説

情報源:Environmental Health News, February 5, 2008
Household exposure to pesticides and risk of childhood haematopoietic malignancies:
the ESCALE study (SFCE)
http://www.environmentalhealthnews.org/newscience/2008/2008-0205rudantetal.html
Synopsis by Michael Laiosa, Ph.D. and Wendy Hessler

Original: Rudant, J, F Menegaux, G Leverger, A Baruchel, B Nelken, Y Bertrand, C Patte, H Pacquement, C Verite, A Robert, G Michel, G Margueritte, V Gandemer, D Hemon and J Clavel. 2007.
Environmental Health Perspectives 115:1787?1793.

http://www.ehponline.org/members/2007/10596/10596.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年2月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_080205_pesticides_leukemia.html


 フランスで最近実施された研究調査によれば、家庭用農薬に暴露した妊婦は、子どもが白血病になるリスクが増大すすかもしれない。これらの発見は、農薬は子どもの血液がんに役割を果たすという考えにもっと多くの重みを加え、この病気の実際の原因に光を当てるかもしれない。

 この研究では、白血病患者の両親は農薬や殺虫剤を家庭や職場でより使用していたように見える。これらの化学物質への暴露は、特に子どもたちが胎内で暴露していれば、血液がんのひとつのリスク要素であると著者らは結論付けている。

何をしたか?

 この研究は、母親の妊娠中の家庭用農薬への暴露と子どもの白血病又はリンパ腫とにに注目した。フランスの全国子ども血液悪性腫瘍登録(National Registry of Childhood Blood Malignancies)を利用して、著者らは1316件の子ども白血病を特定した。そのうち、子どもが病気を克服し現在は健康であるフランス語を話す両親に対し、この研究のために連絡をとった。その結果、764の母集団が自主的に妊娠中の母親及び父親の農薬暴露又は使用について電話で調査を受けることとなった。

 フランスの22の地域内で等しく分布した電話番号の割当サンプリング手法(quota sampling method) を用いて、コントロールはフランス住民から任意に選択された。電話した60,000件のうち1,682人の母親がこの研究のためにインタビューを受けた。

 同じ訓練を受けたスタッフによってコントロールと研究対象に対し同等の調査が実施された。母親は妊娠中の農薬暴露について、”使用した”、”使用していない、”分らない”という3つに分類された。彼らはまた、農薬暴露のタイプ(殺虫剤、除草剤、殺菌剤)、暴露は家庭か職場か、そして父親は妊娠中に暴露したかどうかについて報告した。

 社会経済的状態、都市化の程度、住居のタイプ(共同住宅か戸建か)、子どもとペットの接触等のような個人と家族の状態もまた調査によって明らかにされ、分析の際に調整された。

 これらのデータを使用して、子どもががんである母親は妊娠中に農薬に対してより暴露していたかどうかを決定するために著者らは統計的分析を実施した。彼らはまた、農薬暴露が白血病発症の環境的リスク要因への寄与を示唆するかどうか検討した。

何が分ったか?

 妊娠中のに母親による家庭用農薬の使用は、任意に選択されたコントロール・グループよりも白血病グループの方が高かった。急性白血病又は非ホジキンリンパ腫の子どもを持つ母親の半分以上は妊娠中に少なくとも1回は農薬を使用したが、それに比べるとコントロール・グループの母親では3分の1強であった。

 母親の農薬使用と急性白血病(AL)及び非ホジキンリンパ腫(NHL)との間には有意な関連が認められたが、ホジキンリンパ腫(HL)との関連はなかった。父親の家庭用農薬の使用と急性白血病(AL)及び非ホジキンリンパ腫(NHL)も有意な関連があったがその関連は若干弱かった。

 著者らは使用された農薬の種類(殺虫剤、除草剤、殺菌剤)に基づいて分析をさらに分解した。農薬のタイプで分析を分解すると、殺虫剤の使用と急性白血病(AL)及び非ホジキンリンパ腫(NHL)の間に最も強い関連、除草剤とは弱い関連、殺菌剤とは関連がないことが分った。

何を意味するか?

 出生前に家庭用殺虫剤に暴露した子どもたちは、いくつかのタイプの白血病になるリスクが増大するかもしれない。これらの結果は、出生前の農薬暴露と血液がんとの関連を特定した他の研究の結果を補強するものである。著者らは、”急性白血病(AL)に関する以前の研究の結果との一貫性は、妊婦が農薬を使用しないことの妥当性を提起するものであると結論付けた”。

 ヒトの疫学調査は、特定の疾病と関連するかもしれない要素を示そうとする。しかし疫学研究は因果関係を照明することはできない。今回の研究は農薬使用といくつかのタイプの子どもの白血病との間に強い関係があることを示しているが、胎内での農薬暴露が実際にこれらの特定の子どもたちにこの病気を引き起こしたかどうか決定することはできない。

 複雑な特性のために、個別の疫学調査でなされる仮定は、当該の特定の出来事と病気の相対的リスクを過大評価又は過小評価するかもしれない。この研究では、なされた仮定のひとつは農薬と白血病の関連を過小にし、もうひとつの仮定はそれを過大にしかもしれない。

 第一の仮定は農薬暴露についてであり、妊娠中に農薬を使用したか/しなかったかの女性の報告に基づいていた。農薬暴露の頻度及び/又は胎児期の農薬暴露の量についての詳細情報がもっとあれば白血病との関連性をもっと強めたかもしれない。

 第二の仮定は想起バイアスについてであり、子どもが健康な母親は、子どもが白血病の母親と同じくらい明確に妊娠中の行動(特に農薬使用)について思い出すであろうという仮定である。想起バイアスは人々のあるグループは他のグループより過去の出来事の詳細をよく覚えているという強い可能性である。この場合、深刻な病気を持った子どもの両親はなぜ子どもが病気になったのかについて悩み考える。著者らは、結果に影響を与えたかもしれないコントロール・グループの母親の潜在的な想起バイアスについて考慮していない。

 この研究の潜在的な限界にもかかわらず、特にこの研究をこの分野の他の関連する研究の文脈でとらえると、いくつかの重要な結論がもたらされた。著者らによれば、第一に妊娠中の農薬使用と子どもの白血病の関連は、妊娠中の農薬使用を制限する又は排除することが賢明であるとするに十分である。

 第二に、この結果は、子どもの白血病と増大する家庭内の化学物質への妊娠中の暴露との関連を特定する増大する文献に加わったということである。そのような家庭内化学物質には、塗料、接着剤、溶剤、タバコの煙、農薬などがあるが、それらだけではない。

 白血病のリスクを増大するかもしれない広範な化合物の種類は、これらの化合物に関連する共通の特性があるかも知れないことを示している。言い換えれば、そして恐らくもっと重要なことは、器官や組織が発達中の特に子どもたちと赤ちゃんは環境中の化学物質に特に感受性が高いということを確認したということである。



化学物質問題市民研究会
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