AAP 2012年11月26日
米国小児科学会
子どもの農薬曝露を減らすよう勧告


情報源: American Academy of Pediatrics, November 26, 2012
AAP Makes Recommendations to Reduce Children's Exposure to Pesticides
http://www.aap.org/en-us/about-the-aap/aap-press-room/pages/
AAP-Makes-Recommendations-to-Reduce-Children's-Exposure-to-Pesticides.aspx


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年12月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/aap/aap_121126_News_Pesticide_Exposure_in_Children.html


 子どもたちは毎日、農薬に遭遇しており、それらの毒性に対して極めて脆弱である。米国小児科学会(AAP)から発表された新たな政策声明は、農薬の子どもたちへの有害な影響の概要を述べ、いかにして曝露を減らすかについての勧告をしている。政策声明(Policy Statement)”子どもたちの農薬曝露(Pesticide Exposure in Children)”(訳注1)が、専門報告書(Technical Report)訳注2)とともに、小児科学(Pediatrics)の2012年12月号(11月26日発刊)に発表された。

 出生前及び小児期の農薬曝露は、小児がん、認識機能の低下、及び行動障害に関連する。米国小児科学会(AAP)によれば、子どもの農薬曝露を知り、低減するためには、医療訓練の向上、公衆の健康の追跡、及び規制的アプローチが必要である。米国小児科学会(AAP)は、小児科医が、農薬への急性及び慢性曝露の影響をよく理解する;子どもの急性中毒の治療と低用量慢性曝露への対応の両方についてどのようなリソースが利用可能かを知る;そして、農薬ラベル表示を理解するよう、勧告している。

 小児科医は、家の周りや庭での農薬使用について両親に尋ね、安全な保管についての手引きを提供し、害虫管理を実施するときには、最も害の低いアプローチを選ぶよう勧告すべきである。また小児科医はた学校関係者や政府機関と協力して、最も毒性の低い害虫管理方法を提唱し、また農薬が地域で使用される時には、地域の人々にそれを知らせるようにすべきである。政策声明はまた、子どもの曝露を最小にするために、農薬の販売、表示、使用、及び安全に関連す具体的な勧告を含んで、政府に対して多くの勧告をしている

訳注1

米国小児学会 2012年11月26日 政策声明
子どもの農薬曝露
November 26, 2012 APP Policy Statement
Pesticide Exposure in Children
全文:http://pediatrics.aappublications.org/content/130/6/e1757.full

概要

 この声明は、農薬に関する米国小児学会(APP)の立場を表明するものである。農薬は、望まれない昆虫、植物、カビ、げっ歯類を殺すことを意図した化学物質の総称である。

 子どもたちは日常的に農薬に遭遇し、それらの潜在的な毒性に対して極めて脆弱である。急性中毒のリスクは明白であるが、急性及び慢性曝露の両方による慢性健康影響が分かり始めてきた。疫学的証拠が、生命の初期における農薬への曝露と、小児がん、認識機能の低下、及び行動障害との関連を明確に示している。関連する動物毒性研究は、これら発見の生物学的合理性を裏付けている。

 曝露の問題を知り、低減するには、現状の農薬に対する医療訓練の向上、公衆の健康の追跡、及び規制措置の不適切さに目を向ける必要がある。毒性学的脆弱性や生涯にわたる曝露要素を記述している現状の研究は、規制の必要性と適切な介入をも伝える必要がある。

 子どもの健康を考慮した総合的病害虫管理(Integrated Pest Management)、包括的な農薬ラベル表示、及び販売の実施が、安全な使用を強化する。

訳注2

米国小児学会 2012年11月26日 専門報告書
子どもの農薬曝露
November 26, 2012 APP Technical Report
Pesticide Exposure in Children
James R. Roberts, MD, MPH, Catherine J. Karr, MD, PhD, COUNCIL ON ENVIRONMENTAL HEALTH
全文http://pediatrics.aappublications.org/content/130/6/e1765.full

概要

 農薬は、望まれない昆虫、植物、カビ、げっ歯類を殺すことを意図した広範な化学物質の総称である。家庭、庭、学校での食物、水、及び処理施設は全て子どもたちにとっての潜在的な曝露源である。農薬への曝露は、急性又は亜急性かも知れず、その影響は急性毒性から慢性毒性まである。

 2008年に農薬は、中毒管理センターに報告された最も一般的な物質の第9番目であり、農薬中毒の全ての報告の約45%が子どもの中毒に関するものであった。有機リン系とカルバメート系中毒は恐らく最も広く起きている急性中毒現象であり、赤血球中のコリンエステラーゼのレベル低下により診断することができ、利用可能な解毒療法がある。

 しかし、ピレスロイド系及びネオニコチノイド系殺虫剤、除草剤、殺菌剤、及び殺鼠(さつそ)剤のような急性毒性を引き起こすかもしれないその他の無数の農薬もまた、特定の毒性影響を持ち、これらの影響を知ることは急性曝露を特定するのに役立つかもしれない。

 急性及び慢性曝露の両方による慢性健康影響についての証拠が増大している。親の農薬使用、特に殺虫剤と、急性リンパ性白血病や脳腫瘍との関連を示す疫学的証拠が増大している。

 胎児期、家庭、及び職場での曝露(母親又は父親の曝露)はリスクが最も大きいように見える。前向きコホート研究(prospective cohort studies)は、生命初期の有機リン系農薬及び有機塩素系農薬(主にDDT)と、神経の発達及び行動への有害影響を関連付けている。

 農薬レベルの増大と関係付けられた発見の中には、 ベイリー指数の使用による精神発達の遅れや、拡大する発達障害、不注意、注意欠陥多動症の評価測定に於けるスコアーの増加との関連がある。

 関連する動物毒性研究は、これら発見の生物学的合理性を裏付けている。追加的なデータは、両親の農薬使用と、がんや神経発達影響に比べれば証拠は弱いかもしれないが、身体的な出生障害、出生時低体重、及び胎児の死亡を含む有害出生影響との間に関係があるかもしれないことを示唆している。

 子どもの農薬曝露は可能な限り制限されるべきである。



化学物質問題市民研究会
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