バルセロナ世界保健研究所(ISGlobal)2022年10月3日
研究が出生前のフタル酸エステル類への暴露と
小児期の肺機能の低下を関連付ける

二番目の科学論文は、出生前の BP3 暴露と
思春期前の及び血圧の上昇との関連性を発見

情報源:ISGlobal, October 3, 2022
Study Links Prenatal Phthalate Exposure
to Reduced Childhood Lung Function

A second scientific paper finds an association between
prenatal BP3 exposure and higher body mass index and
blood pressure in pre-adolescence
https://www.isglobal.org/en/-/un-estudio-relaciona-la-exposicion-
prenatal-a-los-ftalatos-con-una-peor-funcion-pulmonar-en-la-infancia


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年10月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/Phthalates/221003_ISGlobal_
Study_Links_Prenatal_Phthalate_Exposure_to_Reduced_Childhood_Lung_Function.html



 「ラ カイシャ」財団が支援するバルセロナ国際保健研究所 (ISGlobal) が主導する研究は、子宮内でのフタル酸エステル類への暴露が、小児期の肺機能の低下と関連していることを発見した。 Environmental Pollution に掲載されたこの調査結果は、これらの物質の使用に関する欧州連合の現在の制限政策を支持するものである。

 フタル酸エステル類は、ラッカーやワニス、さらには可塑剤としても広く使用されている化合物である。フタル酸エステル類は、玩具から食品包装、衣料品、洗剤、化粧品、溶剤など、さまざまな消費者製品に含まれている。これらの製品に含まれるフタル酸エステル類は、時間の経過とともに周囲の環境、たとえば空気、ほこり、食物に浸出し、それらは事実上どこにでも存在している。さらに、ヒトのフタル酸エステル類への暴露は、これらの化合物が胎盤関門を通過できることを考えると、子宮内で始まっている。フタル酸エステル類は内分泌かく乱物質として作用し、多くの発達及び生殖に関する健康問題に関連している。

 ”妊娠中のフタル酸エステル類への暴露が小児ぜんそくのリスク増加と関連していることは研究で一貫してわかっているが、肺機能との関連の可能性に関する証拠は少なく、不明確である”と、研究の筆頭著者である ISGlobal の研究者マグダ・ボッシュ・デ・バセアは説明している。

 この研究には、サバデルとギプスコアの INMA プロジェクト出生コホートからの 641 組の母子ペアが含まれていた。妊娠中の母親から採取した尿サンプルを使用して、妊娠中のフタル酸エステル類への暴露を分析した。小児の肺機能は、4 歳から 11 歳までのさまざまな発達段階で肺活量測定によって評価された。

 これらの化合物の遍在性を示すものとして、実験室での分析では、調査対象の 9つのフタル酸エステル代謝物、すなわち人体によって代謝された時にフタル酸エステルが変換される物質の全てが、検査した尿サンプルのほぼ 100% で検出された。発達の全ての段階で、調査された代謝物は、人が吐き出すことができる空気の最大量を測定する努力肺活量 (FVC) と 呼気の最初の 1 秒間の最大呼気量を測定する強制呼気量 (FEV1) の 2 つの肺機能パラメーターの減少に関連していた。 しかし、研究者らは、特定の代謝物 (MiBP や MBzP など) と肺機能の低下との間の関連性は、一般的に若い年齢でのみ統計的に有意であり、年を重ねて実施された肺活量測定では有意ではないことを発見した。このパターンは、肺機能に対するこれらの化合物の影響の可能性が時間の経過とともに減少することを示唆する動物モデルでの研究結果と一致している。

 さらに、化合物の混合物への暴露を説明する統計的方法を使用して、この研究では、観察された肺機能への影響の重要な要因として MBzP を特定した。 ISGlobal の非感染性疾患及び環境プログラムの責任者であり、研究の上級共著者であるジュディス・ガルシア・エイメリッヒは、”このことから、この代謝物である MBzP が小児期の肺機能の低下との観察された関連性の主な要因のひとつである可能性があると考えられる”と述べている。

 ”一部のフタル酸エステル類の使用は、欧州連合の特定の消費者製品ですでに禁止されている。我々の研究で観察された関連性は比較的小さいが、これらの物質の遍在性と子どもたちへの内分泌かく乱物質としての既知の影響は、追加のフタル酸エステル類へのこれらの規制の適用と、これらをまだ適用していない国への拡大の必要性を示唆している”と、この研究の上級共著者である ISGlobal の研究者であるマリベル・カサスは結論付けた。

 調査された 9 つのフタル酸エステル代謝物は、MEP、MiBP、MnBP、MCMHP、MBzP、MEHHP、MEOHP、MECPP、及び MEHP である。

ボディマス指数と血圧に関連する BP3 への出生前暴露

 同様に ISGlobal が調整し、Environment International に最近発表された 二番目の研究では、出生前のベンゾフェノン-3 (BP3)(訳注1)への暴露と、11 歳でのボディマス指数(BMI)(訳注2)の上昇及び拡張期血圧(訳注:最低血圧)の上昇との関連性が発見された。

 BP3 は、UV 光フィルターとしての性質により、化粧品や日焼け止めの一般的な成分である。しかし、それはフェノールグループに属する内分泌かく乱物質でもある。

 この研究は、出生前のフタル酸エステル類とフェノール類への暴露が、思春期のボディマス指数(BMI)と血圧の上昇とに関連しているかどうかを評価することを目的としていた。これを行うために、研究者は INMA プロジェクトの出生コホートからの 1,015 組の母子ペアに関するデータを使用した。 8 種類のフタル酸エステル代謝物と 6 種類のフェノールへの暴露は、妊娠 1か月目と 3か月目に採取された尿サンプルを調べることによって分析された。子どもたちが 11歳に達したときにボディマス指数と血圧が記録された。

 ”テストした他どのような化合物も、あるいは化合物の全体的な混合物も、他の関連性は見られなかった。 BP3 の場合、関連性は、思春期の始まりに達した前思春期の若者に最も一貫して観察された。

 ”胎児期及び新生児期とともに、思春期は、内分泌攪乱物質の影響が最も発生しやすい発達段階のひとつと考えられている”と、この研究の筆頭著者である ISGlobal の研究者ヌリア・ギルはコメントしている。”我々の調査結果は、思春期における BP3 の潜在的な代謝かく乱効果(metabolism-disrupting effects)に光を当て、特定の製品でのこの化合物の使用に対してより厳しい規制を課す必要性を強調している。”

参考文献

Magda Bosch de Basea、Anne-Elie Carsin、Alicia Abellan、Ines Cobo、Aitana Lertxundi、Natalia Marin、Raquel Soler-Blasco、Jesus Ibarluzea、Martine Vrijheid、Jordi Sunyer、Maribel Casas、Judith Garcia-Aymerich, Gestational phthalate exposure and lung function during childhood: A prospective population-based study, Environmental Pollution, Volume 312, 2022, 119833, ISSN 0269-7491
https://doi.org/10.1016/j.envpol.2022.119833
(妊娠中のフタル酸エステル暴露と小児期における肺機能:人口ベースの前向き研究)

Nuria Guil-Oumrait, German Cano-Sancho, Parisa Montazeri, Nikos Stratakis, Charline Warembourg, Maria-Jose Lopez-Espinosa, Jesus Vioque, Loreto Santa-Marina, Alba Jimeno-Romero, Rosa Ventura, Nuria Monfort, Martine Vrijheid, Maribel Casas, Prenatal exposure to mixtures of phthalates and phenols and body mass index and blood pressure in Spanish preadolescents, Environment International, Volume 169, 2022, 107527, ISSN 0160-4120,
https://doi.org/10.1016/j.envint.2022.107527
(フタル酸エステル類とフェノール類の混合物への出生前暴露及びスペインの思春期前のボディマス指数と血圧


訳注1:BP3
訳注2:ボディマス指数(BPI)
  • BMIと適正体重(CASIO/keisan)
    BMIとは: BMI(Body Mass Index)はボディマス指数と呼ばれ、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数です。子供には別の指数が存在しますが、成人では BMI が国際的な指標として用いられています。健康を維持するためは日頃から BMI を把握することが重要です。


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