Verywell Health 2022年2月2日
プラスチック中のフタル酸エステル類は安全か?
ラナ・バーラム
医学的レビュー:ロシェル・コリンズ DO
情報源:Verywell Health, February 2, 2022
Are Phthalates in Plastic Safe?
By Lana Barhum, medical writer
Medically reviewed by Rochelle Collins, DO
https://www.verywellhealth.com/phthalates-5216073

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年4月21日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/Phthalates/220202_
Verywell_Health_Are_Phthalates_in_Plastic_Safe.html



内容
化学的事実
フタル酸エステル類を含む品目
健康への影響
フタル酸エステルを含まない製品
暴露を制限
 フタル酸エステル類は、何百もの製品に含まれる化学物質である。それらは主にプラスチックに使用され、柔らかく、柔軟性を持ち、壊れにくくする。人間のフタル酸エステル類へのほとんどの暴露は、食品と身体手入れ用品により生じる。

 フタル酸エステル類は意図的に食品に添加されるわけではないが、調理、加工、包装などのプロセス中に、それらの汚染源から食品に移行する可能性がある。フタル酸エステル類への暴露は、妊娠中の女性、胎児、幼児などの深刻な健康問題に関連しているため、懸念されている。

 この記事では、フタル酸エステルの使用、暴露、フタル酸エステルを含む製品、健康への影響などについて説明する。

フタル酸エステルへの暴露による
潜在的な健康影響

・テストステロン(男性ホルモン) レベルの低下
・女性及び男性の生殖能力の低下
・赤ちゃんに認識又は行動障害をもたらす可能性
・内分泌機能及び甲状腺ホルモン機能の変更
・腎臓及び肝臓への毒性
・ある種のがんに関係
・2型糖尿病、インスリン抵抗性、アレルギー、ぜんそく


フタル酸エステルの化学的事実

 フタル酸エステル類は、100年近くにわたって広く使用されている化合物ファミリーの一部である[1]。主に、ポリ塩化ビニル(PVC)製品を柔軟で曲げることができるようにする化合物(可塑剤)に使用される。

 フタル酸エステル類は、PVC 用の可塑剤として最も多く使用されており(訳注1)、配管、チューブ、パッキング、配線、及び何千もの消費者製品中に含まれている。壁装材、テーブルクロス、床やすり、おもちゃ、靴などの一部の製品では、フタル酸エステル類が強く結合していないと、浸出する可能性がある[2]。

用途

 フタル酸エステル類は”どこでも化学物質(everywhere chemical)”と呼ばれることもある。これは、次のような人々が毎日使用する何千もの製品に含まれているためである。
  • 子どものおもちゃ
  • 医療機器
  • 家具
  • 塩ビ(PVC)配管
  • ビニル床材
  • 壁装材
  • 洗剤と家庭用洗剤
  • 食品包装
  • 石鹸、シャンプー、化粧品などの身体手入れ用品
FDA の規制状況と安全性

 フタル酸エステル類が人間の健康にどのような影響を与えるかは明らかではない。現在、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、全てのフタル酸エステル類の使用を思いとどまらせようとしているわけではない。

 しかし、FDAは、健康リスクに関連している可能性のある 2つのフタル酸エステル類(フタル酸ジブチル(DBP)とフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP))に関するガイダンスを強く推奨している[3]。FDA は、処方製品及び非処方製品中の DBP と DEHP の使用を避けるよう推奨している。

 FDA はまた、化粧品やその他の消費者製品に含まれるフタル酸エステル類は重大な安全上のリスクをもたらすことはないと助言している[4]。FDA は、もしその見解が変わればガイダンスは更新されるであろうと言及している。

 FDA は、食品、食品包装、及び食品取り扱い機器におけるフタル酸エステル類の安全性について、まだどのような見解も取っていない[5]。一方、研究者らは、ソフトドリンク、ミネラルウォーター、ワイン、オイル、及びその他の食品に高濃度のフタル酸エステル類が含まれていることを発見した。

暴露と検出

 ほとんどの人々は、これらの物質を含む製品を食べたり飲んだりすることでフタル酸エステル類にさらされている[6]。空気中のフタル酸エステル類の粒子にさらされることもある。皮膚の吸収は、シャンプー、ローション、その他の身体手入れ用品との接触によって発生する可能性がある。

 フタル酸エステル類への人間の暴露は、尿、血液、及び母乳中のレベルを測定することで判断できる[7]。フタル酸エステル類への暴露が高いと医師が感じた場合、フタル酸エステル類のレベルのテストが行われる。

赤ちゃん

 フタル酸エステル類は、柔らかいプラスチック製のおしゃぶりや赤ちゃんのおもちゃに使用されており、赤ちゃんの健康に害を及ぼす可能性がある。さらに、赤ちゃんは這い回り、多くのものに触れ、手を口に入れる[8]。

 疾病管理予防センター(CDC)は、フタル酸エステル粒子がほこりの中に存在することを指摘している。このことは、特に成人と比較して、乳児が暴露のリスクが高い可能性があることを意味する。

 研究によると、乳児は食事から危険なレベルのフタル酸エステルを摂取する可能性がある。 2014年に報告された研究によると、固形食品を食べた 6か月以上の乳児は、危険なレベルのフタル酸エステルを摂取していた[9]。これらのレベルは、思春期の若者や出産可能年齢の女性が摂取していたレベルよりも高いことがわかった。

フタル酸エステル類の多い品目

 フタル酸エステル類は、分子量に応じて高または低に分類される。高フタル酸エステル類は、高い不変性と耐久性を備えている。

美容と肌の手入れ製品

 シャンプー、香水、ヘアスプレー、化粧品などの美容及び肌の手入れ製品には、大量のフタル酸エステル類が含まれている可能性がある。これらの製品には、次のような成分が含まれている。
  • フタル酸ブチルベンジル(BBP)
  • フタル酸ジイソデシル(DiDP)
  • フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)
  • フタル酸ジ-n-ヘキシル(DnHP)
  • フタル酸ジエチル(DEP)[10
材料

 高フタル酸エステルは、ワイヤーやケーブルの付属品、床材、壁装材、粘着フィルム、コーティングされた布地、屋根材、そして自動車部品などの塩ビ(PVC)製品にも含まれている。これらの製品で使用される最も一般的な高フタル酸エステル類は、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、及びフタル酸ジプロピルヘプチル(DPHP)である[11]。

食品

 研究によると、ファーストフードにはフタル酸エステル類が含まれている可能性がある。

 Journal of Exposure Science & Environmental Epidemiology の 2021年の研究では、これらの食品が大量に含まれていると、ホルモンかく乱、不妊症、及び学習障害につながる可能性があることが示された[12]。同研究の著者らは、テストしたファーストフードの70〜80%がフタル酸エステル類を含んでいたと結論付けた。

 フタル酸エステル類を含む他の食品には、乳製品、肉、魚、油脂、及び乳児用調製粉乳などがある。フタル酸エステル類は食品包装や食品調理材料にも含まれており、これらの製品からのフタル酸エステル類は近くの食品に浸出する可能性がある。

フタル酸エステルの健康への影響の可能性

 研究により、フタル酸エステル類は、肝臓、腎臓、肺、内分泌系及び生殖系に関連するものを含む健康状態に関連付けられている。

 フタル酸エステル類は、男性のテストステロン(性ホルモン)レベルの低下と精子数の減少に関連している[7]。全ての性別で、フタル酸エステル類への高暴露は生殖の力の低下につながる可能性がある。高レベルのフタル酸エステル類に暴露した妊娠中の人は、認知または行動に問題のある赤ちゃんを出産する可能性がある。

 フタル酸エステル類は、内分泌機能(ホルモンを制御する体内のシステム)と甲状腺ホルモンの変化にも関連している[7]。甲状腺ホルモンは、成長、脳の発達、代謝の重要な部分である。

 一部のフタル酸エステル類は、肝臓と腎臓の毒性の原因となる可能性がある[13]。これは動物実験で実証されている。

 フタル酸エステル類は、甲状腺がんや乳がんなど、一部の種類のがんにも関連している[7]。研究はまた、男女の別なくフタル酸エステル暴露と、 2型糖尿病インスリン抵抗性アレルギー、及び喘息などの有害な結果との間に有意な関係があることを示している。

リスクのあるコミュニティ

 妊娠可能年齢の女性、乳児、及び幼児は、フタル酸エステル類への暴露による健康リスクが最も高くなる。

 研究によると、女性は美容用品や身体ん手入れ用品の使用により高レベルのフタル酸エステル類にさらされている[7]。これらの製品のいくつかは、女性の乳がんリスクの増加にも関連している。妊娠中のフタル酸エステル濃度が高いと、胎児が先天性欠損症や成長障害のリスクにさらされる可能性がある。

 米国小児科学会は、特に食品添加物に関連して、乳児や幼児に対するフタル酸エステル類の健康への影響について長い間警告してきた[14]。これはフタル酸エステル類の影響に敏感な年齢層であり、最も多くの暴露は食事から生じる。

フタル酸エステルを含まない製品を見つける方法

 フタル酸エステル類への暴露量とその暴露の影響を知る方法はない。あらゆる種類のフタル酸エステル類を避けることはできないが、家庭でフタル酸エステル類を含まない製品を使用することはできる。

探すべき化合物と記号

 フタル酸エステル類は、3文字または4文字の化学構造の頭字語(acronyms)で識別できる場合がある[15]。製品にフタル酸エステルが含まれていることを明確に示すラベルが表示されることはほとんどないし、容器に”フタル酸エステルを含まない”と表示していても必ずしも全てのフタル酸エステルを含まないということではないかもしれない。

 8つの一般的なフタル酸化合物は次のとおりである。
  • フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)
  • フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)
  • フタル酸ジメチル(DMP)
  • フタル酸ジエチル(DEP)
  • フタル酸ジイソブチル(DiBP)
  • フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)
  • フタル酸ベンジルブチル(BzBP)
  • フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)
フタル酸エステルの暴露を制限するためのヒント

 毎日使用する製品のラベルを読むことで、フタル酸エステル類への暴露を制限することができる。

 フタル酸エステル類を含む製品を認識するひとつの方法は、プラスチック製品に示されるユニバーサル・リサイク・ルシンボル内の数字を探すことである。ペンシルバニア州立大学によると、可能な限り、#3、#6、または#7のリサイクルコード(訳注2)が付いたプラスチックは避けるべきである[16]。

 一部の製品には「フタル酸エステルを含まない」という言葉が含まれているが、これらの製品のラベルに記載されている全ての成分を読む必要がある。また、”香り(fragrance)”という言葉の下に隠されているフタル酸エステルにも注意する必要がある[17]。これらの製品には、香りを長持ちさせるためにフタル酸エステル類が添加されている。

 家族の暴露を減らすための追加の方法は次のとおりである。
  • 自然な身体手入れ用品を選択しする。
  • PVCビニール床材とシャワーカーテンは避ける。木、タイル、コンクリート、または天然のリノリウム床材を選択する。ビニールの代わりに布、又はリネンのシャワーカーテンを使用する。
  • プラスチックのおもちゃは避ける。代わりに木のおもちゃ、又はオーガニックコットンを選ぶ。
  • フタル酸エステル類を含む芳香剤の代わりにエッセンシャルオイル(訳注:香水やアロマセラピーなどに用いられる植物油)使用する。
  • 食品や飲料の加熱に電子レンジを使用する時は、安全でフタル酸エステルを含まない容器とラップを使用する。
  • 赤身の肉や新鮮な食材を使用して、ファーストフードを減らし、家庭でより多くの生鮮食品を準備する。
まとめ

 フタル酸エステル類は、プラスチックの柔軟性を高めるために使用される化学物質の一種である。それらは、化粧品、医薬品、プラスチック製の子どものおもちゃなど、幅広い消費者製品に使用されている。

 いくつかの研究は、これらの化学物質が人間の健康に有害であり、がん、ホルモンのかく乱、発達の遅れ、及び先天性欠損症に関連していることを発見した。

 家族をフタル酸エステルから保護する最善の方法は、製品のラベルを読み、DOP、DBP、DMP などのフタル酸エステルの 3文字または4文字の化学構造の頭字語を探すことである。赤身の肉や生鮮食品を使って家庭で調理することにより、フタル酸エステル類を含む食品の家族の摂取量を減らしてみよう。

Verywell Health からの一言

 フタル酸エステル類はいたるところにあり、ほとんど全ての人がフタル酸エステル類にさらされている。フタル酸エステル類への暴露が心配な場合は、これらの製品を避けるためにできることをする必要がある。あなたまたは子どもがこれらの化学物質を含む製品に関連する健康上の懸念を経験していると思われる場合は、あなたの懸念と健康上のリスクについて話し合うためにあなたの医療提供者に連絡してください。

よくある質問
  • どのフタル酸エステルが禁止されていますか?
     フタル酸ジ-(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)など、一部のフタル酸エステルは禁止されています[18]。 他の一部のフタル酸エステル類は、子どものおもちゃやケア用品で禁止されています。

  • フタル酸エステル類への暴露の副作用は何ですか?
     研究者らは、喘息、注意欠陥多動性障害(ADHD)、子どもの行動の問題、生殖器系の問題、生殖力の問題など、多くの健康上のさまざまな状態をフタル酸エステル暴露に関連付けています。

  • 100%フタル酸エステルを含まない製品を購入することは可能ですか?
     多くの企業が「フタル酸エステルフリー」として市場で販売している身体手入れ用品の問題がありますが、これらの製品を購入する前にラベルを読むことがやはり賢明です。 また、フタル酸エステル類が隠されている可能性のある香水や香水を含む製品、そして#3、#6、または#7のリサイクルコードが付いたプラスチックは避けてください。

  • 成分ラベルでフタル酸エステルをどのように識別しますか?
     フタル酸エステルは、3文字または4文字の化学構造の頭字語で識別できる場合があります。 製品にフタル酸エステルが含まれていることを明確に示すラベルが見つかる可能性はほとんどありません。

  • フタル酸エステル類への暴露について医師は何と言っていますか?
     医学界は、フタル酸エステル類への暴露が深刻な健康状態の全範囲に関連していることを認識しています。 フタル酸エステル類への暴露は一般的ですが、妊娠中の人や幼児による暴露は最大の害を引き起こす可能性があります。

     妊娠中または幼児がいる場合は、食事や家庭用品から高レベルのフタル酸エステル類を避けるための最善の方法について、医療提供者に相談してください。

訳注1:可塑剤
訳注2:プラスチック・リサイクルコード

原注

1. Wang Y, Qian H. Phthalates and their impacts on human healthhttps://doi.org/10.3390/healthcare9050603. Healthcare (Basel). 2021;9(5):603. doi:10.3390/healthcare9050603

2. Environmental Protection Agency. Phthalates.

3. Food and Drug Administration. Limiting the use of certain phthalates as excipients in CDER-regulated products.

4. Food and Drug Administration. .

5. Giuliani A, Zuccarini M, Cichelli A, et al. Critical review on the presence of phthalates in food and evidence of their biological impact. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(16):5655. doi:10.3390/ijerph17165655

6. Centers for Disease Control and Prevention. Phthalates factsheet.

7. Wang Y, Zhu H, Kannan K. A review of biomonitoring of phthalate exposures. Toxics. 2019;7(2):21. doi:10.3390/toxics7020021

8. Centers for Disease Control and Prevention. Phthalates factsheet.

9. Serrano SE, Braun J, Trasande L, Dills R, Sathyanarayana S. Phthalates and diet: a review of the food monitoring and epidemiology data. Environ Health. 2014;13(1):43. doi:10.1186/1476-069X-13-43

10. Luis C, Algarra M, Camara JS, Perestrelo R. Comprehensive insight from phthalates occurrence: from health outcomes to emerging analytical approaches. Toxics. 2021;9(7):157. doi:10.3390/toxics9070157

11. Saravanabhavan G, Murray J. Human biological monitoring of diisononyl phthalate and diisodecyl phthalate: A review. J Environ Public Health. 2012;2012:810501. doi:10.1155/2012/810501

12. Edwards L, McCray NL, VanNoy, BN, et al. Phthalate and novel plasticizer concentrations in food items from U.S. fast food chains: a preliminary analysis. J Expo Sci Environ Epid. 2021. doi:10.1038/s41370-021-00392-8

13. Liang F, Yan B. Oxidative damage in the liver and kidney induced by dermal exposure to diisononyl phthalate in Balb/c mice. Toxicol Ind Health. 2020 Jan;36(1):30-40. doi:10.1177/0748233719900861

14. Trasande L, Shaffer RM, Sathyanarayana S; Council On Environmental Health. Food additives and childhealth. Pediatrics. 2018;142(2):e20181408. doi:10.1542/peds.2018-1408

15. . Centers for Disease Control and Prevention. Metabolites of phthalates and phthalate alternatives.

16. .The Pennsylvania State University. Plastic, plastic, everywhere!

17. United States Food and Drug Administration. Fragrances in cosmetics.

18. Consumer Product Safety Commission. Phthalates business guidance & small entity compliance guide.



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