The Daily Climate 2015年3月10日
気候変動は魚の雌雄比率を歪める可能性がある
ティム・ラドフォード(Climate News Network)

情報源:The Daily Climate, March 10, 2015
Climate change can skew fish gender ratios.
By Tim Radford, Climate News Network
http://www.dailyclimate.org/tdc-newsroom/2015/03/
Climate-change-can-skew-fish-gender-ratios


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年3月26日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/Daily_Climate/
150310_Climate_change_can_skew_fish_gender_ratios.html


【ロンドン】気候変動は、全てを悪くする、少なくともある野生生物に悪影響を与えるように見える。イギリスの科学者らは、より高い温度は、すでに環境を汚染しているホルモンかく乱化学物質の影響を増幅する可能性があることを確認した。

 世界の水域は、ダメージを及ぼす可能性のある産業汚染物質で満ちている。それらは、産業化学物質、排出された経口避妊薬、除草剤、医薬品、そして不法な麻薬すらも含む。全て合わせて800以上の化学物質が何らかのホルモンかく乱作用を持つことが特定されている。

 元アストラゼネカ研究所の研究者で、現在はエクスター大学の研究者であるロッス・ブラウンと同僚らは、抗菌処理によく使用され、ホルモンをかく乱し、魚類と両生類の雌雄性比率を乱すと信じられている化学物質、クロトリマゾール(clotrimazole)の長期的影響を観察することを決めたと米国科学アカデミー紀要に報告している。

 生態系境保護主義者やその他の人々は、そのような化学物質が環境中に蓄積することを長年懸念してきた。彼らはそのことを生物多様性に対する可能性ある脅威として言及し、ある生物種における性比の異常という結果をもたらすことを示す証拠を挙げてきた。

絶滅の危機

 しかしこれらのことは、気候変動がもたらす様々なストレスとは別問題であり、その一部ではないとみなされてきた。

 イギリスの科学者らは、研究室や水族館でお馴染みの、よく確立されたゼブラフィッシュ(Danio rerio)をテストした。これは、全ゲノム配列が解明された最初の魚であり、そのことは、研究者らはゼブラフィッシュのライフサイクル、生理学、及び発達について既に非常によく知っているということを意味する。

 科学者らは、魚が成長する温度、及びそれより5度C高い2100年に近海で予想される33度Cにおいて正常な放精・放卵を観察した。

 テストで、内分泌かく乱作用をもつクロトリマゾールの水中レベルもまた、今日、世界の水域を汚染しているのと同じレベルにした。

 温度は、ある生物種の出生前の個体の性を決定するのに重要な役割をはたす。水が温かければ、ワニ類、あるトカゲ類と海ガメ類、及び陸ガメ類では、雌になりやすい。しかし、高い温度は、トカゲ類、魚類、及び両生類の雄の比率を高める。

 通常の状態では温度は平均温度周辺で変動するので、集団での雄と雌の数は均一になる傾向がある。しかし生殖においては、より重要なのは雌である。従って雄性方向への一定の傾斜は集団の生存に脅威をもたらす。

二重の危険

 研究者らは、その化学的汚染物質に暴露したゼブラフィッシュは、異常に高い比率で雄の子孫を産むことを発見した。ゼブラフィッシュがクロトリマゾールと温かい水という二重の打撃を受けると、この比率がより高くなる。

 近親交配の魚は最も顕著に反応するが、一方、遺伝的に多様な遺伝形質は受ける影響が幾分小さい。

 このことは、隔離され水中の小さな集団に生息する絶滅危惧種は絶滅のリスクがより高いことを示唆している。

 これは、管理された研究室での実験であり、非常に精密に測定された条件の下に、よく研究されている生物種で行われた。

 現実の世界はもっと乱雑な場所であり、予測できないストレスにさらされる他の淡水魚や両生類について80年後の結果を予測することは困難である。

 しかし、インド亜大陸の土着であり、しばしば稲水田に生息するゼブラフィッシュはまた、広範な化学物質汚染を経験しているようである。従って野生の状況はもっと悪くなりそうである。

 ”環境中の化学物質は通常、分離して観察されるが、現実には動物は同時に複数のストレスにさらされる”と、報告書の上席著者で生物科学者であるエクスター大学のチャールス・タイラーは述べている。それらのストレスには、温度変化、食物不足、又は有害な化学物質などがある”。

 ”我々は、地球温暖化と汚染レベルの増加の真の影響を理解し、これらの圧力がどのように相互作用を及ぼすのかを理解することが重要である”。



化学物質問題市民研究会
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