レイチェル・ニュース #828
2005年10月13日
安価な石油の時代の後の生活−アポロ連合の運動を超えて
(経済成長は永遠ではない)

ティム・モンターギュ
Rachel's Environment & Health News
#828 -- Life After Cheap Oil -- Apollo and Beyond, October 13, 2005
by Tim Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/6425

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年11月16日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_05/rehw_828.html

(2005年10月13日発行)
ティム・モンターギュ(Tim Montague )

 我々の子ども達のためのきれいで明るい将来−。それを望まぬものはいない。もっと住みやすく、スモッグも混雑もない都市。以前よりグリーンで持続可能な製造、交通、エネルギー産業での高賃金。賛成!

 2005年9月下旬、全米39州と5カ国から350人以上の人々が、安価な石油の時代の後をどのようにするか考えるためにオハイオ州イエロー・スプリングに集まった。世界の石油生産高はピーク−に達したか−それは石油が欠乏し高騰することを意味する−あるいはもう直ぐにやってくるといことは間違いない。 ピーク・オイルの予測が正しいかどうかは誰にも分からないが、石油の価格が過去5年間で5倍、2000年のバーレル当り10ドルから2005年のバーレル当り50ドルになったということは、ピーク・オイルの仮説に信頼性を与える。高価な石油は、エネルギーの36%を石油に依存する米国に大きな課題をもたらす[1] 。石油価格の高騰は、安い石油に依存している生活のあらゆる面−食品、薬品、交通、郊外の生活、グローバル化した経済(ウォル・マートの安い中国製品が明確に示している)−に影響を与えるであろう。ガソリンスタンドでホースを握りながら(gripe)ガロン(3.785リットル)当り3ドルの値段をこぼす(gripe)けれども、石油経済の真のコストはもっと深いところにある。地球温暖化大気、食物、水の大規模汚染、そして年間750億ドル(約8兆円)の外国での戦費。我々の石油ベース経済の全てのコストは着実に上昇している。

 わずか一世紀前にアメリカの消費者と産業は鯨の油から石油に移行したばかりなのに、幾分怖気づくが、興奮するような新たな移行が待ち受けている。今日、我々はエネルギーの80%を石炭、石油、及び天然ガスから得ており、これらの化石燃料が我々の経済に圧倒的な力を供給している。我々は、これらの安い豊富なエネルギー資源の上に快適な生活スタイルを築き上げてきたが、しかし一方、それは莫大なコストを環境に、公衆の健康に、そして国家の安全に及ぼしてきた。いま、石油生産がほぼ間違いなくピークに達しているという時に、問題は我々が今の経済を支えるなにか良い方法を見つけることができるかどうかではなくて、安い石油なしに我々が生活を維持できるのはいつからか、そしてその生活レベルはどのようなものか、ということである。

 石油をやめるための重要なステップが取られている。アポロ連合−労働組合、環境グループ、そして都市の指導者達からなる連合体−が2015年までに外国の石油依存から脱却し、クリーンなエネルギー経済に立脚しようとして3年目になる。これは 高いエネルギー効率、経済革新、そして製造、交通、エネルギー産業の活性をもたらすであろう。近年、数百万人分の高賃金の製造業の仕事が海外に移転しており、その状況はもっと激しくなると労働者たちは感じている。この20年間、地球温暖化及び生物種とその生息地の減少という我々の最大の環境課題に関し、わずかな進展しか得られていないという現実に直面している環境保護主義者らは、労働者、産業、そして公衆の善人たちと連携できる戦略的取り組みが必要であることを知っている。そして、我々の都市は修復、効果的な大量輸送、生活の糧を得る雇用、そしてよりクリーンな環境を切に必要としている。アポロ連合はこれら全ての問題に同時に取り組んでいる。

 アポロ連合は、アメリカ労働者に高度な技術と高い賃金をもたらすエネルギー効率のよい再生可能な発電という綱領に基づいて、地方、地域、そして国家レベルで政策の変更を目指している。アポロ連合は、10年間で3,000億ドル(約30兆円)の個人及び公共の投資を求めているが、この投資の年間当りの金額は、現在我々が使っている年間対外戦費よりはるかに安い。これはクリーンなエネルギー効率的な建築と製造電気ハイブリッド車柔軟な燃料車バイオジーゼル車、そして燃料電池車を含む次世代の交通機関のためにに使われる。

 この計画は、300万人分以上の高賃金の雇用、15%のエネルギー費用の節減、そして約2,000億ドル(約22兆円)の貿易黒字、プラス10年間で1兆ドル(約110兆円)のGDP増分をもたらすことになっている[2]。

 同連合は、2005年新アポロエネルギー法案(下院2828)を推進したが、この法案は、アメリカが3つの課題;クリーンなエネルギー製造による雇用を作り出す、外国の石油依存を減らす、温室効果ガスの排出を減らす−を目指して、エネルギー実施基準とともに納税意欲と市場の力を活用するものである。クリーンなエネルギーは環境によく高賃金雇用を生み出す。

 再生可能なエネルギー製造(風力、太陽光、地熱、生物燃料)は雇用を増大し、負担可能な値段の電力と燃料を生み出す。投資額100万ドル(1.1億円)当り、太陽光発電は5.65人分、風力発電は5.7人分、石炭産業は3.96人分の雇用を生成する[3] 。

 同連合によれば、もし我々がアメリカの最も風の強い10都市の潜在的風力の10%を開発すれば、アメリカの全炭素排出量を3分の1削減することができる[4]。ロサンゼルス・タイムズ紙は、天然ガスの値段が高くなれば、アメリカの多くの場所で、風力エネルギーは従来の石炭及びガス資源と同様にコスト効果を持つようになり、風力発電製造者は2008年までに売り切ってしまうと伝えている[5] 。

 ”アメリカ中の労働者らは4年間の経済的回収期間をうまくやりすごさなくてはならない。そしてその間、利益が上がらず、賃金に妥協しなくてはならない”と同紙は述べている[6] 。アポロは輸送産業がもっと燃料効率のよい車、トラック、飛行機を製造するよう変換させるであろうし、その過程で製造業の雇用を活気付けるであろう。

 『Nation』誌の記者、カトリーナ・バンデン・ハウベルは、アポロ・プログラムが、”多くのベンチャー資本を惹きつけているので、投資家らによって真剣に取り組まれている”と報告している。彼女は、エネルギーに関する高いクリーン技術を保有する企業へのグリーン・ウェーブ(カリフォルニア公務員年金基金)による10億ドルの投資について引用している[2] 。

 7つの州の知事らは、再生可能なエネルギー・プロジェクトへの税金の猶予、連邦政府ローン保証、都市再生及びグリーン・ビルディング基準の必要性に目を向けたアポロの枠組みを認めている。”持続可能性を求める地方政府”と連携して、アポロ連合は都市部でのエネルギー節約政策を推進している。ワシントン州シアトルでは、最近、公共建築物は環境的によい建物として、LEED (Leadership in Energy and Environmental Design) の認定を受けた厳格な基準に合致するべきことを求める条例を発効した。

 アポロ連合の創設者らはアメリカ市民に質問した。”現在、何が最も重要な問題か?” 回答者の72%が経済的困窮と製造業での失業であると答えた。そしてその72%が、意欲的にグリーン経済を展開するという計画を支持し、100万〜300万人分の新たな雇用の恩恵を受けたいと述べた [7] 。たとえアポロが作り出す雇用が100万人分であったとしても、過去3年間で失われた200万人分の雇用を失った経済に対する大きな追い風となるであろう[4] 。

 しかし、アポロだけで十分であろうか? アポロ連合が2015年までに成功し、我々が外国と国内の石油から開放されたと仮定しよう。我々は経済をグリーン化し、高賃金製造業雇用を作り出し、アメリカ自動車産業さえも救い、そして全体的なエネルギー効率を大幅に改善したとしよう。しかし、それから先はどうなるのか? 温室効果ガスを出さない代替エネルギーが我々の必要とするエネルギーを恐らく最大40%まかなえるであろう。しかし、我々はまだ石炭火力発電所に依存している。現在、石炭は必要とするエネルギーの23%であるが、今後数十年間に40%にまで増加することが予測される。そして天然ガスは、石炭のように硫黄、水銀、その他の有毒物質は放出しないが、大量のCO2を大気に放出する。

 それでも、もしアメリカでクリーン石炭技術が広く適用されるなら、我々は最終的な温室効果ガスの放出を削減できるであろう。また炭素固定carbon sequestration)として知られる技術は、石炭が炊かれる時に放出される二酸化炭素を固定(捕捉)し蓄えるために石炭から得られるエネルギーの20〜50%のエネルギーを消費する。これは高価につく見通しで、石炭からの二酸化炭素と有毒物質の放出を捕捉する費用は高くて誰も負担できないかもしれない。発展途上国、特にインドと中国は、今後50年間で石炭燃焼からの温室効果ガスの放出を現在の2倍にすることを計画している。彼らは、今日世界中でほとんど商業実績がない大規模な炭素固定貯蔵を計画していない[9,10]。

 たとえ我々が破局的な地球温暖化をうまく回避し、現在の我々の生活レベルを見かけ上維持できたとしても、それから先はどうなるのか? 我々はもっと大きな問題、すなわち、世界の貧困と不公平な資源配分生態系の喪失、そして終わりのない経済成長は有限の地球では不可能であるという事実−と取り組まなくてはならない。アポロが取り組んでいる石油の問題は手を伸ばせば手に入る果実であり、疑いなく重要なステップであるが、もっと大きな問いには答えていない。どのようにして西欧スタイルの生活を要求する70億の人々の住むひとつの世界と折り合っていくのか? このことについて環境保護主義者は多くを語らないが、それはそのことが、終わりのない経済成長という偽りの前提に目を向けさせるからである。永久の成長に疑問を差し挟むことは異端であるが、しかし、そのことについて遅いよりは早く話をする方がよい。


[1] Ben Crystall, "Clean energy special: The big clean-up", New Scientist September 3, 2005, Vol. 187 No 2515 pp. 30-31. Available here. To meet Kyoto Protocol targets the U.S. would need to reduce its annual carbon emissions by about 540 million tonnes between 2008 and 2012, equivalent to shutting 90 coal-fired power plants each year. The study suggested that meeting the target could cost the economy 4.2 per cent of its GDP by 2010 -- around $400 billion.

[2] Katrina Vanden Heuvel, "Sweet Victory: Governors Embrace Apollo Alliance," The Nation Online, July 20, 2005. Available here.

< pre>[3] Elisa Wood, "Jobs in the renewable energy economy," Renewable Energy World online. February 5, 2005. Available here.

< pre>[4] Apollo Alliance press kit. Available here. < pre>[5] Nicholas Riccardi, "Windfall? No, but Savings Ahead; The soaring costs of coal and gas-fired power plants will allow wind-energy customers to pocket other benefits of their investment," Los Angeles Times, October 15, 2005. Available here.

< pre>[6] David Streitfeld, "U.S. Labor Is in Retreat as Global Forces Squeeze Pay and Benefits," Los Angeles Times, October 18, 2005. Available here.

< pre>[7] Amanda Griscom Little, "Shooting The Moon", The American Prospect Online, September 18, 2005. Available here.

< pre>[8] Jennie Stephens and Bob Van Der Zwaan "The Case for Carbon Capture and Storage," Issues in Science & Technology, Fall 2005, Vol. 22 Issue 1, pp. 69-76. Available here.

< pre>[9] Robert Socolow, "Can We Bury Global Warming?", Scientific American, July 2005, Vol. 293 Issue 1, pp.49-55. Available here.
< pre>[10] Bennett Daviss, "Clean energy special: A greener goal for coal," New Scientist September 3, 2005, Vol. 187 No 2515 pp. 38-40. Available here; and Virginia Phillips, "Clean energy special: Eastern promise," New Scientist September 3, 2005, Vol. 187 No 2515 pp. 41- 43. Available here.



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