レイチェル・ニュース #785
2004年2月19日
圧力処理木材からの遅れた教訓
 (CCA ヒ素防腐処理木材の問題)その2

サンドラ・スタイングラバー博士(*) Rachel's Environment & Health News
#785 - Late Lessons From Pressure-Treated Wood - Part 2, February 19, 2004
by Sandra Steingraber, Ph.D.*

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年2月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_04/rehw_785.html

(2004年2月19日発行)
サンドラ・スタイングラバー博士 (*)

 レイチェル・ニュース#784 で我々は、CCA 木材の歴史を1933年までさかのぼって検証した。CCA とは、有毒で発がん性のある木材防腐処理剤、クロム化ヒ酸銅のことである。

 CCA の歴史の中で最も重要な時期は、国中の市民全てがヒ素防腐処理木材が子どもたちに及ぼす危険性に注目した2001年〜2002年である。カリフォルニアのオークランドでは、環境健康センター(CEH)が、カリフォルニアの有名な表示(ラベリング)法 Prop 65 [2]の下に、一連の訴訟を起こした。[1] 2002年の間に、遊び場の遊具とピクニック・テーブルの主要な製造会社は CEH に降伏し、CCA 処理木材を彼らの製品に使用しないことに同意した。[1]

 しかし、2002年2月にアメリカ環境保護局(EPA)が22ヶ月の猶予期間後に CCA 処理木材を廃止すると決定した後、 CCA に反対する運動は勢いが衰えた。(参照:レイチェル・ニュース#784)

 アメリカ消費者製品安全委員会(CPSC)は、EPA の廃止決定は CPSC 自身の意思決定に影響を与えるであろうことを直ちに認めた。[3]  実際、2003年2月に発表されたCPSCのリスク評価では、圧縮処理(ACC)木材の遊具により、子どもたちのがんのリスクが著しく増大するということを示した。それにもかかわらず、同委員会は8ヵ月後に、環境団体エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)[4] とヘルシー・ビルディング・ネットワーク(HBN)[5]による ”遊具での CCA 処理木材使用の禁止と既存の遊具の回収” を求めた請願を拒否した。

 CPSC は、 EPA の CCA 登録抹消という措置は、要求のあった禁止と回収と同じような効果があると主張した。[6] (これは、鉛の問題は、1978年に塗料会社が彼らの製品に鉛を加えることを止めることに合意した時点で解決したと主張するようなものである。)

 フロリダの記者ジュリー・ハウスマンが圧力処理木材の神話を打ち砕き、その問題を書き続けたことにより、木材産業界は防御的な動きを見せた。例えば、政府の規制をかわすために、最も重大な局面であった時に C.ボイデン・グレイが雇われた。グレイはブッシュ一族と親密な関係にあり、先代ジョージ・ブッシュ大統領の顧問として仕えた。グレイが現れた後、直ぐに、ハウスマンは EPA が説明もなく約束していたヒ素処理木材の遊具による子どもの影響評価の発表を遅らせたと指摘した。[7]

 その報告書の草稿は、様々な遅延策を受けた後、最終的に2003年11月に発表された。[8]  その報告書は、 CCA 木材遊具で遊ぶ子どもの生涯におけるがんリスクが増大することを示していた。しかし、その時までにメディアの興味は消え失せており、1月1日の廃止期限は数週間後に迫っていた。
 EPA と CPSC は現在、 CCA 処理木材中のヒ素から子どもを守るための様々な密閉剤の効果について検証する共同プロジェクトを実施しているが、今までのところ、ヒ素からの曝露を防ぐために、しばしば繰り返して推奨されるテラスや遊具の密閉剤の有効性を示す確実なデータはなく、2005年までは無理であろう。[9] (いくつかの密閉剤は短期間の効果はあるようであるが、6ヵ月毎に塗布する必要があり、また、地下の杭から土壌にヒ素が流れ出すのを止める術はない。[10] ) 言い換えれば、現時点では、消費者は自分で自分を守らなくてはならないということである。

 それでは、圧力処理木材の早期の警告からの遅れた教訓は、何であろうか?

  1. 市民の科学は社会変革にとって強力なツールである。ヒ素サンプリング・キット、テスト手順書、及び、評判のよい化学分析ラボの情報[11]によって武装した親、ジャーナリスト、及び地域の活動家たちは、圧力処理木材を庭や遊び場に持ち込むことは、そこに小さな有毒廃棄物処分場を設置することと同じであるという、疑う余地のない証拠を得た。
     市民の調査結果は、 EPA 遅れている措置を促しただけだなく、それぞれの地域が前向きに取り組むことに拍車をかけた。例えば、ニューヨーク州バッファロー市の2つの遊び場はテスト結果が公開された後に閉鎖された。アルバーニ市はテストが実施された後、全ての木製遊具は撤去された。[12]

  2. 早い時期に環境的に有害な産業を規制しないと、後に、規制すべきとの科学的な論拠がより強くなったとしても、その時では規制が難しくなる。EPA が最初に CCA の登録抹消を検討していると発表した1978年から、登録抹消は止めると決定した1988年の間に、CCA の生産量は4倍となった。[13] 法的規制がないために、木材処理産業は対数的に成長した。
     26年後の現在、 EPA は結局 CCA の登録抹消を決定した。現在、数百万の裏庭と数千の遊び場がヒ素で汚染されている。そして産業界は C.ボイデン・グレイのような、そしてごく最近では産業界の利益のためにロビーイングをしているボブ・ドールのような人々を抱えている。[14]

     早期規制の失敗の他の事例は、1982年に、CCA が危険廃棄物の適用対象から特別に免除されたことである。これにより、CCA 処理木材中の化学物質には危険廃棄物としての特質があるにもかかわらず、CCA 処理木材は、危険物処理場ではなく、ライニングを施されていない通常の処分場に投棄することが許された。この免除は今日まで残っており、物質の有毒な特性を変えることなく危険物質を非危険物質に変える事務手続き上の手品が行われている。[15]
     もしこの免除が与えられていなければ、CCA 処理木材は疑いなく、かつて数十年間そうであったように ”高価な特別品” のままであり、今このようには普及しなかったはずである。もし、消費者が、子どもたちが大きくなって興味を失ってしまった時には危険な廃棄物となるだけの ”遊び用砦” に数千ドルもの大金を支払わなければならないと知ったなら、それを買うために行列に並ぶ人は多くはないであろう。
     現在の予想では、少なくとも2016年までに、1〜4億立方フィートの CCA 処理木材が処分場に廃棄され、地下水汚染の脅威をもたらし続けるであろう。[16]

  3. 訴訟関連。ジャーナリストであるジュリー・ハウスマンは市民の多くの訴訟に協力し、その結果、2001年に彼女が提起した CCA 問題を実証することになった。 ”木材産業界が何を知っており、いつそれを知ったか、 EPA が何を行い何をしなかったかについて、多くの発見があった” と彼女は述べている。[17]  オークランドの環境健康センター(CEH)によって起こされた Prop 65 訴訟は、遊具やピクニック・テーブルの製造業者が抵抗しても無駄であることを明確に示したものである。
     環境団体、ビヨンド・ペスティサイドは現在、 CCA を使い続けることを止めさせるため に EPA に対する訴訟を起こしている。連邦裁判所は、非道にも訴訟の一部を却下したが、まだ闘い、そして監視することの価値がある法的闘争が残っている。[18]
訂正
前号(Rachel's #784 )の巻末参照リンク6.は間違っていた。正しいリンクは
http://www.epa.gov/scipoly/sap/2003/december3/shedsprobab alisticriskassessmentnov03.pdf である。
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(*)サンドラ・スタイングラバー博士は生物学者であり、著者(レイチェル・ニュース #565, #658, #776, #777参照)である。彼女は現在、ニューヨーク州イサカのイサカ大学複合領域研究プログラムの著名な客員学者である。

[1] http://www.cehca.org/arpress1.htm

[2] For the background of Prop 65, see http://www.oehha.ca.gov/prop65.html

[3] U.S. Consumer Product Safety Commission, "Questions and Answers: CCA-Treated Wood," Feb. 2002 (www.cpsc.gov/phth/cca.html).

[4] http://www.ewg.org/issues/arsenic/

[5] http://www.healthybuilding.net/arsenic/index.html

[6] U.S. Consumer Product Safety Commission, "Petition to Ban Chromated Copper Arsenate (CCA)-Treated Wood in Playground Equipment (Petition HP 01-3)," Feb. 2003 http://www.cpsc.gov/library/foia/foia03/brief/cca1.pdf; U.S. Consumer Product Safety Commission, "CPSC Denies Petition to Ban CCA Pressure-Treated Wood Playground Equipment," 4 Nov. 2003 press release. (An excellent collection of these and other CPSC documents can be found on http://www.ewg.org).

[7] J. Hauserman, "Treated Wood Industry Fights Back," St. Petersburg Times, 2 July 2001 (http://www.sptimes.com/News/070201/State/Treated_wood_industry .shtml).

[8] U.S. Environmental Protection Agency, "Cancellation of Residential Uses of CCA-Treated Wood: Questions and Answers," (20 March 2003, http://www.epa.gov/pesticides/factsheets/chemicals/1file/htm)

[9] Patricia Bittner, Division of Health Sciences, Consumer Product Safety Commission, personal communication (pbittner@cpsc.gov).

[10] For a thoughtful discussion on the efficacy of various sealants, see Beyond Pesticide's website (http://www.beyondpesticides.org).

[11] Environmental Working Group provides these kits at low cost. http://www.ewg.org/reports/poisonwoodrivals/orderform.php

[12] N.R. Smith and others, Arsenic Levels at CCA Pressure Treated Wooden Playgrounds in Western New York (Buffalo, NY: New York Coalition for Alternatives to Pesticides and Erie County Environmental Management Council, 15 Sept. 2003). http://www.clir.buffalo.edu/nycap/htm/pdf/Arsenic_WNY.pdf

[13] C. Cox, "Chromated Copper Arsenate," Journal of Pesticide Reform Vol. 11 (1991), pgs. 2-6. http://www.pesticide.org/chromated.pdf

[14] P. Eisler, "Safety Concerns Cut Down Treated Lumber by Millions," USA Today, 28 Dec. 2003. http://www.usatoday.com/ news/nation/2003-12-29-treated-lumber_x.htm

Bob Dole is lobbying for registration approval for wood treated with Acid Copper Chromate, which critics allege poses unacceptable risks of hexavalent chromium exposure. Hexavalent chromium is a carcinogen. http://www.healthybuilding.net/docs/ACC_December_03_alert.htm

[15] D.A. Belluck and others, "Widespread Arsenic Contamination of Soils in Residential Areas and Public Spaces: An Emerging Regulatory or Medical Crisis?" International Journal of Toxicology Vol. 22 (2003), pgs. 109-128.

[16] K.A. O'Connell, "Poison Planks," Waste Age, 1 Oct. 2003 http://wasteage.com/magazinearticle.asp?magazinearticleid=18480 2&magazineid=121&siteID=27&releaseid=11680&mode=print

[17] M. Dunne, interview with Julie Hauserman in SEJournal, Society of Environmental Journalists, Winter, 2001, p. 1. http://www.sej.org/pub/index2.htm

[18] http://www.beyondpesticides.org/WOOD/lawsuit/



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