レイチェル・ニュース #779
2003年10月2日
化学産業界が恐れること
モニカ・ハーデン、ナサリー・ウォーカー
  #779 - What the Chemical Industry Fears, October 02, 2003
by Monique Harden and Nathalie Walker
http://www.rachel.org/?q=en/node/5710

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年11月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_03/rehw_779.html

(2003年10月30日発行)

 10月の中旬、我々はアメリカ化学協議会(ACC)がマイアミで開催した ”気まぐれな世界でのコミュニケーション (Communicating in a Volatile World)” と題する会議に参加した。アメリカ化学協議会(ACC)は、アメリカにおける大手 180 化学会社が参加する業界の協会である。最近まで、化学製造者協会という名前で知られていた。
 (参照 ACC ウェブサイト http://www.americanchemistry.com/

 ACC 会議は本当に目を開かせるものであった。それは環境健康活動家がやっていることについて ACC が真に恐れていることを暴露した。特に、ACC の広報担当と会議の発表者は、”健康と環境への連帯 Collaborative on Health and the Environment ”や”害のない健康介護 Health Care Without Harm ”などの連帯活動が、環境中や製品中の有毒化学物質の健康への危険性について効果的に公衆に知らせているということを認めている。

 彼らはまた、これらの連帯活動の成功は、地域団体、環境正義組織、健康専門家、体内汚染と低用量の化学物質曝露に目を向ける研究者、株主や投資機関、そして消費者など、 ”そのメンバーと支持者の多様性” によるものであると結論付けている。

 会議における様々な発表の中から目を引いたものをここに紹介する。

T.コミュニケーション戦略−メディア戦に勝つために

■災害時あるいは環境/健康問題に対応する時に、化学産業界のメッセージを強く伝える信頼の置ける励みになる味方を見つけておくこと。この人間はあなたの会社のCEOではなく、消防署幹部、あるいは市長かもしれない。

■化学災害時や施設緊急事態の訓練時には、化学会社、消防署、警察署、病院、赤十字、などとの対応と調整に関する通報をきちんとすること。その災害の原因となった化学物質、あるいは設備/輸送上の失敗については言及しないこと。

■本社の担当者及び施設の実担当者に対し、メディアに対応するための集中トレーニング講座を実施すること。模擬テレビ会見を実施してビデオに撮ること。模擬会見では記者は”しつこい”質問を浴びせること。ビデオを再生して模擬会見の様子を批評し合い、必要に応じて繰り返すこと。この訓練を通じて最も効果的な人間を決め、会社の代表としてメディアの前に出すこと。

■地方当局、消防署、その他、緊急災害担当官を模擬会見トレーニングに招待すること。このことのメリットは、あなたは地方当局者と仲間意識と信頼感を築くことができ、彼らは、災害時に公衆に対してあなたの会社と同じメッセージを伝えてくれることである。

■メディアの強みを利用すること。メディアは素早い対応を望むので、例えば、「その件については現在、調査中である」と答える。これには内容がないが、”メディア怪獣”を満足させるに十分である。その他の効果的な文言は、「全てについての詳細は不明であるが、これが、現在、我々が対応していることである・・・」。これもまた、多くの情報を与え過ぎず、責任も負わずにすむ、安心な言い方である。

■タイミングを保つこと。ほったらかしにせず、メディアを満足させる何かをタイムリーに与えること。

■メディアに対して 「我々は行動を起こしているところであり、次のことをしようとしている・・・」というようなことを即座に答えて、信頼感と行動力のイメージを植えつける。イメージ作り、ビデオによる模擬ニュース会見/記者発表の訓練に十分時間をかけ、改善のための批評を行うこと。

■メディアへの支援は、特にあなたに敵意があるような場合、まだ十分ではないと常に心すること。あなたのメッセージを伝えるために個別に対応すること。あなたの積極的な対応を示す、一目でわかるグラフィカルなニュースレターを作成し、配布すること。

■公衆に対し、防御的な姿勢を見せないこと。それは人々を怒らせ、あなたが冷たくて無情な人という印象を与える。たとえ、あなたがその災害に対して告訴される可能性がある場合にも、世論の目も忘れず、世間に配慮するような行動をとること。例えば、家族救済基金を設立するとか、人々が避難のためにホテルに泊まらなければならないときには、ホテル代を支払うなど。

■誰に責任があるかを決めるメディアの最初の人間は、あなたの運命を決めることになる。それは後で彼らの考えを変えさせることは非常に難しいからであり、たとえ、それができたとしても、それは公衆がそのニュースに興味を失った時だからである。だから、あなたは、まず最初にメディアに行って、災害の原因ではなく、あなたの対応に焦点をあてたメッセージを伝えるのがよい。

■あなたは、記者会見の席に、あなたを伴わずに政府の担当官だけを出席させてはならない。あなたがメッセージの文言を作り発言させなければならない。災害が起きるよりもずっと前から協力関係を築き上げておくことが、災害を担当するあなたの最も重要な役割である。

■悪いことが起きる前にやっておくべきこと
  1. 毎朝起きたら、今日、災害が起きるかもしれないと自分自身に言い聞かせること。そしてそれに対処する準備はできているかどうか自問すること。
  2. 敵対者がインターネットをどのように使うかを常に頭に入れておくこと。インターネットを駆け巡る情報は評判の芳しくないメディアにまず届き、その後、主流メディアに流れ込んでいく。
     災害/危機/問題が起きるまでは表に出さない ”グレー・サイト” を準備しておくというのはよいアイディアである。そこには、すでに世間に公表されている十分な会社情報、対応計画についての一般情報、更新情報やプレス・リリースのページ、詳細情報のコンタクト先、そして危機が起きた時に特定情報を埋めるためのブランク・ページなどを用意しておく。例えば、ロッキード・マーッチン社のミシシッピー工場で雇用者が同僚を撃った事件の2時間後には、同社はその事件について知らせるウェブを立ち上げ、追悼基金について発表した。
  3. ことが起きた時に、なすべき行動のチェックリストを用意しておくこと。アメリカ化学協議会(ACC)は11月中旬までにウェブサイト上に ”メディア/危機用チェックリスト” を掲載する予定である。いつでも重要な電話番号を持ち歩くこと。それには施設管理者からIT担当者まで含まれる。
  4. 危機について討議するための記者会議をいつでも必要なときに開催できる場所を確保しておくこと。その場所は、十分な電話、パソコン用接続、食料を用意して記者に快適であるようにし、携帯電話の使用を制限しないこと。
  5. 危機が発生した場合に、現場に直ぐに駆けつける人間を集めたチームを編成しておくこと。彼らは。事務所以外でも、いつでもお互いに連絡が取れるようにしておくこと。
  6. 早いものが勝利するということをよく覚えておくこと。あなたの目標は、あなたの声明を他の誰よりも速くメディアに届けることである。あなたがそれをしない、あるいは会社の弁護士と声明を調整するために行動開始を遅らせるようなことがあれば、あなたは負けである。危機が発生した場合には、たとえ、あなたが全ての情報を持っていなくても、最初にメディアに接触するのはあなたであるよう準備しておかなくてはならない。
  7. 公衆に声明を発表することについて会社の弁護士が壁を設けることがないようにしなくてはならない。たとえ、その声明があなたの会社の基本的な情報であり、単に、あなた方が当局と一緒に緊急事態に対処しているという内容の声明であっても、公衆はそれで勇気づけられ、あなた方が危機にきちんと対応していると理解するということを認識すべきである。危機について、特にその原因について推測するようなことをしてはならない。そのかわり、あなたは声明の中で、会社の従業員数、積極的な経済的影響、そして地方当局と協力して問題解決を図る計画を強調すること。
  8. 忍耐が重要である。メディアには実際には締め切り時間などない。24時間のニュース・サイクルである。従って、あなたのメッセージが繰り返しであっても、メディアと接触を続けることに努力し、更新したメッセージを伝えること。
  9. 工場長にあなたを知ってもらい、よい関係を築いておくこと。彼らのある者は、 ”よき年寄り少年” であり、公衆から積極的であると見えるようにするために、メディア講座での訓練が必要である人がいるということを覚えておくこと。
U.アメリカ化学協議会(ACC)は何を恐れているか

■11月のいつか、60分番組 ”2003年ニュース・カバレッジ” で、CNN、ニューヨーク・タイムズ、及び、ペンシルベニアのプリンと名乗る記者(彼は地方の化学工場の保安システムを今までに一度ならず、簡単に破っている)が、化学工場が公衆にとって安全ではなく、危険なものであるということを示すであろう。

■アメリカ化学協議会(ACC)は予定される”ニュース・カバレッジ”に効果的に対応するための準備が不足しているが、それについて ACC の広報担当部門は、ACC のメンバー会社の中に PR キャンペーンの資金援助に関して反対する向きがあると非難している。また、メンバー及び非メンバー各社は、この不愉快な番組に対応するための資源とツールを11月中旬まで ACC のウェブサイト上に準備することができないであろう。

■有毒化学物質と人間の健康との関係についての情報、特に、体内汚染及び低容量の化学物質曝露と化学物質侵害訴訟について

 この話題は ACC にとって強烈な話題であり、その情報について我々に聞かれたくないので、彼らは会議での発表を取りやめた。この発表は、環境団体とその支持者たちが、有毒物曝露に対する世論の否定的な反応とともに、体内汚染によるテストと化学物質の段階的廃止の促進のために何をたくらんでいるのか、そして ACC はそれについて何ができるのかについて焦点をあてていた。しかし、パワーポイントによる発表資料は配布物の一部として誰にでも与えられたので、多くのことが露見した。

■製品中の化学物質の健康への影響について世間に広めるための多くの反対活動家によるインターネットの使用
 プラスチック容器をオーブンで加熱した時に化学物質が食品中に漏れ出すことについてのケーススタディが、『ウェブに関する統合問題管理』というタイトルで発表された。

■活動家による”聞こえのよい”メッセージの使用。例えば、 『将来の子どものために化学物質のない世界を』

■活動家が組織するネットワーク又は連合体の多岐にわたる影響。ネットワークの全力を挙げての支援の下に、メンバーは一つの問題に対しいくつかの局面を目標に展開する。例えば、地方の化学品施設周囲での地域の活動、母親と子どもに的を絞った健康調査、株主活動、化学製品の主要顧客への活動

■予防原則

■ACC のメンバー会社は数百万ドル(数億円)規模の ”エッセンシャル2” と呼ばれる PR キャンペーンは支援しないであろうという見込み

■悪い PR として使われるボパール(訳注:1984年インドのユニオンカーバイド社農薬工場での史上最大のガス漏れ事故。数千人が死亡。)のような化学工場で起こる災害の影響。化学産業界全体をおとしめるためにも使われる。

■化学プラントの安全調査、政策、及びメディア監視の一部として産業用化学装置と貯蔵設備を目標にすること。

■化学会社がメディアに対するトレーニング講座の準備及びそれへの参画に対する抵抗。彼らはニュース記者を恐れ、また日常的に彼らの弁護士から責任が生じないようコミュニケーションを絶つようアドバイスを受けている。

V.ACC から公衆への狡猾な信頼と励みを与えるメッセージに一役買う
   同盟または潜在的同盟


■雇われメディア/公衆関係専門家による報道操作

 下記に示す人々は、議会の ”危機に関するブルーリボン委員会” に参加した。彼らは、9-11テロ、飛行機事故、少女を殺したデューク大学輸血事故、自然災害で打ちのめされた地域、化学工場や化学品輸送での災害、等に関わる報道操作に広範に関与した。
 彼らはまた連邦政府内で重要な地位にいた(あるいは現在もいる)、又は新聞/放送関連メディアで働いていた人たちである。
  • ジェームス・リー・ウィット:元アメリカ危機管理局(FEMA)長官、現在は自身でコンサルタント会社を経営

  • ピーター・ゴルツ:元アメリカ国家輸送安全委員会理事、現在は APCO ワールドワイド社・世界危機コミュニケーション担当副社長

  • チェット・ルナー:アメリカ国土安全省海洋国土輸送安全事務所副所長、チェットは主に船舶、列車、トラック輸送時に発生する化学災害が専門

  • リチャード・ミンツ:元運輸省公衆部門担当局長、現在ブルストン・マーステラー社・危機コミュニケーション及び問題管理部門重役、かつて CBS ニュース及びヒラリー・クリントンの下で働いていた。

  • ケント・ジャーレル:APCO ワールドワイド社・訴訟コミュニケーション及び危機管理担当副社長。我々は、彼が塩素学会員に”灰色の日は近い”と語るの立ち聞きした。ケントは塩素学会とともに活動している。彼は、塩素ガスの緊急災害訓練の仲介役をしている。彼は、ロスアンゼルスのショッピング・モールで塩素ガスが漏洩するというシナリオに基づく災害訓練について述べた。彼が代表を務める会社のいくつかがこの訓練計画について聞きつけ、その専門性を売り込んで訓練の実施に参画することになった。その中にメディア会社もあり、地域の災害担当官は公衆を災害から守る能力が十分にあったと褒め上げた。このメディア会社は、この訓練が危険な塩素ガスに関するものであるという事実に触れないよう指示された。このメディア会社は、ニュース・カバレッジでは”塩素”という言葉には一切触れなかったと述べている。ケントは、ルイジアナ州のジョージア・ガルフ・塩ビ工場でも同様な訓練に関与したと述べた。

  • モーリー・グッドマン:ACC コミュニケーション担当副会長。以前、アメリカ危機管理局(FEMA)でメディア関連を指揮。ウィットが長官時代、コンサルテーションとパートナーシップを期待して ACC を設立した。また彼は ACC 会長グレッグ・レベデフを ”60分” インタビューでコーチする企画を立てが、グレッグはこの会議には出席しなかった。会議の後、モーリーは解雇された。

  • ジェリー・ハウアー:アメリカ厚生省公衆衛生緊急対応部門局長。ジェリーは ”危機に関するブルーリボン委員会” で講演するよう招待されたが、顔を見せなかった。
■連邦機関と担当官、特に国土安全関係

 「我々の食品医薬品局(FDA)との協力関係に基づき、マイクロウェーブをかけても(訳注:オーブンに入れても)安全なプラスチックに関する我々の研究について我々は FDA と成果を共有し、FDA から好意的なメッセージを発行してもらうことができた。FDA は各州で一つの大学に常駐事務所を持っており、これらの事務所がニュースレターを発行して我々のメッセージを広めてくれる。−キャスリーン・マックブライド、ACC」、”ウェブ上での統合問題管理” パネル・プレゼンテーション

 上記と関連して、アメリカ国土安全省のチェっト・ルナーは化学会社が彼の部局から何を期待できるかとして、化学物質の全てのタイプの輸送に関わる新たな法規制、非常に脆弱な国内の輸送リンクの決定、及び脆弱な地域に向けての連邦政府の援助、について講演した。

■大学及び研究所

 リスク・コミュニケータが大学と研究所の中から公衆に化学会社の積極的なメッセージを伝えることのできる第三者を選定することの必要性が会議を通じて繰り返し述べられた。大学と企業の共同研究プロジェクト実施も推奨された。

■地方当局者と緊急担当者

 ACC のために行われた調査によれば、公衆は、化学産業に対し、設備での漏洩事故、火災事故、爆発事故、などを理由に否定的な見方をしている。調査担当者は、そのような出来事は数週間、ニュースで取り扱われると述べた。
 リスク・コミュニケータは、地方当局者と ”友達” あるいは、 ”パートナー” となり、緊急時の対応、化学安全、及び、メディアに関する地域プログラムを設定するよう勧告された。ほとんど全てのパネリストは、リスクコミュニケータが地方当局者、警察署、消防署、公衆衛生当局、その他緊急時対応者に対しメディア・トレーニングを実施し、彼らが発するメッセージが化学会社の PR と同じとなるようにすることを推奨した。
 その他の、頻繁に繰り返された勧告は、化学会社の PR 担当者は定期的に地方当局者と会い、化学工場は安全であるという”信頼”を得るような関係を築き上げるべしというものであった。

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(注)
 モニカ・ハーデンとナサリア・ウォーカーはルイジアナ州ニューオーリンズの弁護士であり、地域がクリーンで健康的な環境に対する基本的人権を実現することを支援するための広い範囲の法律擁護サービスを提供する会社、”環境人権擁護 Advocates for Environmental Human Rights”の共同代表である。
 彼らは重要な環境正義の勝利を得るために南部の地域を代表しており、国の環境政策にも影響を与えている。

Advocates for Environmental Human Rights, 1050 South Jefferson Davis Parkway, Suite 333, New Orleans, LA 70124;
phone: 504-304-2275; fax: 504-304-2276.
E-mail: mharden-aehr@cox.net and nwalker-aehr@cox.net



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