レイチェル・ニュース #768
2003年5月1日
集団訴訟が重大危機
ピーター・モンターギュ
#768 - Extreme Threat To Class Action Lawsuits, May 01, 2003
by Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/5671

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年7月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_03/rehw_768.html


2003年7月10日発行

 7月中のいつか、議会の極右派はアメリカ司法制度の大幅な改革案の中の主要な一つを達成しようと目論んでいる。もし、彼らが目的を達成すれば、今までうまくいっていた環境関連集団訴訟は立ち行かなくなるであろう。

 集団訴訟は、多数の人々が被害を受けるが、個人の被害は比較的小さくて個人が訴訟を起すのは非効率て難しいような場合に効果のある唯一の救済方法である。

 一つの例は、ルイジアナ州の6000人の住人が現在起している集団訴訟で、モービル石油の製油所が340万ガロンの未処理の工業用水を排出して住民らの飲料水を汚染したというものである。個々の原告だけではモービル石油に立ち向かうことはできないが、全体の被害は大きいので、集団訴訟はその救済にはうってつけの手段である。

 集団訴訟は、石油会社のような強者の悪行を、巨額な罰金の脅威をもって抑制する機能を与える、法体系における重要な要素である。

 極右派が議会で多数を占める現在、企業側は集団訴訟を無効にする絶好の機会ととらえている。そこで、保険、医療、化学、石油、自動車などの企業を代表して選出された議員達が、集団訴訟の息の根を止めることを意図した新しい法律を押している。提案されている集団訴訟公正条例(Class Action Fairness Act )はすでに下院を通過しており、7月中に上院で採決にかけられる予定である。

 もし、この法案が通過すれば、環境、勤労者、消費者、及び有色人種、障害者、女性などの市民権のための集団訴訟は、例えそれが全廃されなくても、大きな制約を受ける。

 この法案が持ち上がったころ、環境分野の人々でこの法案に注目する人はほとんどいなかった。一方、企業側は何が問題かを正確に知っていたので、この法案のために資金と人材を注ぎこんでいた。

 今までに、企業側はこの法案を上院で通すために、金を払って雇い入れた陳情人475人を動員したが、これは上院議員1人あたり5人の陳情人を動員したことになる。保険業界だけでもこの法案を促進するために139人を動員した。その他、有料健康管理機関(Health maintenance organizations)が59人、銀行とクレジットカード会社が39人、自動車会社32人、化学会社20人、石油会社19人などである。もし、この法案がたいしたものでなければ、企業側がこれだけの動員をかけるでろうか?

 この法案について知るために”パブリック・シティズンのウェブページhttp://www.citizen.org/congress/civjus/class_action/articles.cf m?ID=9320をみるとよい。(訳注:現在リンク切れですが、http://www.citizen.org/fax/background.cfm?ID=177&source=1 で反対キャンペーンの様子を見ることができる) さらに詳細については、同団体の95ページの報告書、『不当な企業:消費者集団訴訟に反対する企業のキャンペーン』をウェブページ http://www.citizen.org/congress/civjus/class_action/articles.cfm?ID=9846 で見ることができる。

 また、アメリカ商工会議所のウェブサイトで、法案について知ることができる。http://www.uschamber.com/Search/SearchResults.asp?ct=USCC&q1=cl ass+action+fairness+act (訳注:現在リンク切れ)

 もし、あなたが、これは重大な問題であると思うなら、あなたの選挙区選出の上院議員に電話して、小言を言おう。この法案に賛成する上院議員は少なくとも55人はいると伝えられている。従ってこの法案を阻止するためには、議事遅延妨害によるしかない (議会の右派は議事遅延妨害規定を改定しようと動いている)。

 提案されている法案は全ての集団訴訟を州裁判所から連邦裁判所に移管しようとするものであるが、連邦裁判所はすでに審議案件で手一杯で裁判が遅れており、また法廷規則及び大部分の判事は、環境、勤労者、消費者、及び有色人種、障害者、女性などの市民権に対し公平ではない。連邦裁判所の多くは、現在、総体的に企業寄りであり、その程度ははなはだしい。これは偶然ではない。

 この30年間、法廷を企業寄りにすることは右派にとって重要項目であった。その理由は単純である。連邦裁判所の判事はわずか900人である。彼らは大統領による任命制であり、選挙で選出されるわけではない。上院はその任命を承認しなければならないが、”紳士協定”に基づき、任命が拒否されることはほとんどない。

 連邦裁判事には任期がないので、一度任命されると、止めさせることはできない。彼らは、彼らのイデオロギーに合致する法的解釈を自由にすることができる。彼らの判決に対する唯一のチェック機能は、13ある連邦巡回裁判所の上告審による逆転判決 (それも”きまり悪さ”を感じる以上のものではない)だけである。しかし、上告審の判事は、しばしば連邦裁判事の高位者から選ばれるので、結局、同じイデオロギーの法衣をまとっていることになる。
 それは、全体の文化を変えるほど巨大な権力をもった閉鎖的なシステムである。たとえ極右派の法案が立法化されなくても、法廷で工作されることとなる。

 1970年代中頃に、右派提唱者が連邦裁判所を手なづけるために、リゾート地で開催する”ワークショップ”に全ての費用もちで判事達を招待し、経済とイデオロギーについて”教育”し[1] 、判例と訴訟手続きを変えさせたのは、結局、連邦裁判所を企業と金持ちの味方にすることが目的であった。

 以前には、連邦裁判所のシステム全体に手をつけようなどいうものはいなかった。この企ては驚くほど広範にわたるもので、銀行及びピッツーグの石油富豪メロン・スカイフェス、ミルウォーキーの製造業富豪リンデとハリー・ブラッドリー、カンサスのエネルギー富豪コック一族、ニューヨークの化学富豪ジョーン M.オリン、ノースカロライナの製薬富豪スミス・リチャードソン、そしてコロラドの醸造富豪コアーズ一族などによって気前よく資金が提供された。
 20年以上にわたって、この企ては続けられ、大きな成果を収めた。

 現在では、裁判所は右派勢力の判事たちによって支配されており、議会の極右派は、集団訴訟公正条例により全ての集団訴訟が、州裁判所ではなく、連邦裁判所の”彼ら”の判事によって裁かれることを望んでいる。州裁判所の判事は、しばしば選挙で選出されており、従って右翼の法論理に曝されることが少ないからである。

 誰も口には出したがらないが、集団訴訟公正条例の背景には選挙に関わる思惑がある。
 民主党には、3つの主要政治献金団体がある。労働組合、ハリウッド(映画界)、そして全米の集団訴訟の大部分に関わっている弁護士達である。従って、集団訴訟をつぶすことにより、選挙時における共和党の財政的優位性を大いに増すことになる。

 裁判所を企業/右派寄りに向ける最初の計画は、1971年に南部の弁護士ルイス F.パウエル.Jr によってなされたもので、彼は、『機密メモ:アメリカ自由企業システムへの攻撃』と呼ばれるメモを書いた[2] 。アメリカ商工会議所はパウエルのメモを全会員に配布した。

 パウエルは1971年に、アメリカ経済は批判の攻撃に曝されており、もしこの批判に反論せずこのままにしておくなら、生き残ることはできないであろうと主張した。彼は企業及び金持ち階級が反撃して、支配を回復しなければならないと考える4つの分野を挙げた。高等教育、メディア、議会、そして裁判所である。
 彼のメモが配布された2ヵ月後、彼はニクソン大統領によって、アメリカ最高裁判事に任命された。

 最終的にはアメリカ商工会議所はパウエルが扇動しようと企てた告発を主導することはしないことに決めた。しかし、パウエルのメモを読んだ外部の者が、右翼革命に火をつけた[3] 。ビール王のアドルフ・コールスはパウエル声明に共感し、25万ドルを後の”伝統基金”−今日の右翼思想の重要なシンク・タンク−に初めて献金した。この”伝統基金”をモデルにして、”マンハッタン研究所”、”カトー研究所”、”健全な経済のための市民”、その他多くのシンク・タンクが、右翼思想の宣伝、政策提言、書籍、雑誌、報告書を出し、全米のリベラルを攻撃した。

 彼らの基本的なメッセージは単純なものである。すなわち、個人の諸権利(及び、幸福共有の否定)に対する自由論者の献身的愛着は、国境を越えた企業の世界支配を助ける規制以外の、いかなる規制にも反対する”自由市場”神話への崇拝に基づくというものである。

 退役軍人ジャーナリストのジェリー・ランディは、30年間にわたるアメリカを変えるための努力について、次のように述べている。

 「いわゆる新保守主義造りの家は、”思想は結果を伴う”という原則に立っている。彼らの主要な思想は、個人の利益は公共の幸福、規制撤廃、大幅減税、私生活中心主義に勝るということである。
 20年間、1980年にレーガンが大統領に就任して以来、急進右翼は権力機関の支配を確実にするために、最高裁から大企業に到るまで、ホワイトハウスから連邦政府議会まで、テレビから新聞の論説まで、そして大学のキャンパス中で、徹底したキャンペーンを展開した」

 「彼らは大金を投じて、彼らの思想を売り込む商人達−学者、記者、ジャーナリスト、出版者、批評家を雇い入れ、彼らの富を増やすための彼らの思想を世の中に売り込んだ。

 「彼らはアメリカを右翼に方向転換させ、資産の配分を中産階級や貧困層、老人、若者から取り上げた。彼らは医療保障と社会保険の法人化を目論んだ。彼らは、組織労働者や貧者、有権者や少数者の保護や権利を緩和したり廃止した。彼らは企業や金持ちの税金は減らし、経済的恩恵を還元した。
 彼らは、学問、法律、政治、教育の中枢を支配し、叉は大きな影響を与えた。彼らの訴訟チ−ムは選挙で選ばれた大統領さえも打ち倒した。そして、権力を維持するために、憲法擁護者であると宣言して、憲法が保障する言論の自由及び政教分離などに対する反革命を行なう。・・・」

 「これは、アメリカの政治史上、最大の組織的権力奪取である。驚くべきことに、このことは、テレビ、ラジオ、そしてほとんどの新聞で報道されることはない。・・・」[4]

 1980年にロナルド・レーガンが政権に就くまでに、右翼は司法支配の意図を確立していた。ワシントン・ポスト紙は「・・・保守的な裁判官の選出はレーガン政権の要の石である」と書いている[5] 。1991年、同紙は、先代ジョージ・ブッシュは、レーガンが行なったフランクリン・ルーズベルトのニューディール政策以来の連邦政府裁判官の大人事異動による司法の保守的大転換をさらに強固なものにした。....」[5]

 ビル.」 クリントンが穏健な裁判官、その60%女性と有色人、を任命した時に、極右のオリン・ハッチの支配下にあった上院司法委員会は聴聞スケジュールを拒否したので、クリントンが指名した多くの判事がその後、執務を行なうことを妨げられた。この完全に合法的な作戦は現在のブッシュの恣意的裁判官任命に踏襲された。これらの任命は現在でも生きている。

 企業側はブッシュの司法介入を助けるために、議会工作のための数百万ドルの資金を集める”正義の委員会”と呼ばれる圧力団体を結成した[6] 。この委員会は、シティグープ、マイクロソフト、R.J.レイノルズ・タバコなど、集団訴訟に直面している企業を代表する弁護士たちによって支配されている。
 彼らは、集団訴訟の裁判には右翼志向の決定を期待できる連邦裁判官が重要であるということを、誰よりもよく知っている。

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[1] See Rachel's #732.

[2] Powell's "Confidential Memorandum" can be found at: http://www.rachel.org/library/getfile.cfm?ID=178

[3] Jerry M. Landay, "The Attack Memo That Changed America," available at: http://www.rachel.org/library/getfile.cfm?ID=179

[4] Jerry M. Landay, "The Conservative Cabal That's Transforming American Law," Washington Monthly (March, 2000). Available at http://www.rachel.org/library/getfile.cfm?ID=180

[5] Ruth Marcus, "Bush Quietly Fosters Conservative Trend in Courts," Washington Post Feb. 18, 1991, pg. A1.

[6] Jesse J. Holland and Jonathan D. Salant (Associated Press), "Lobbyists Tout Bush Judicial Picks," Philadelphia Inquirer July 5, 2003, pg. unknown.



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