レイチェルニュース #748
2002年7月25日
重大な落とし穴−その2:
廃棄物管理は永遠に

ピーター・モンターギュ
#748 - The Importance Of Surprises
Part 2: Waste Management Forever, July 25, 2002
By Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/5545

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2002年7月29日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_02/rehw_748.html


 我々は、核技術をこの世で最も困難で危険な問題の一つにし、状況を年々悪くしている”3つの落とし穴”について検証を続けることとする。

 ”3つの落とし穴”は、(1)化学、物理学、生物学の関連領域に関する技術的無知、(2)管理上の失策(人為的失策とそれに引き続く不能あるいは拒絶を予想できない、失敗に対処できない、必要な是正措置をとらない)、(3)政治的な風向き(政府の管理を無効なものにする政策的現実及び商業上の競争を含む経済的現実)に起因する。

 これら核の落とし穴を検証する目的は第一に、核技術は、明らかに複雑な機械やプロセスをコントロールする人間の能力を超えていることを明確にすること、そして第二に、核よりも遥かに強力で、理解しがたく、従ってコントロールが難しい新たな技術、いわゆるバイオテクとナノテク を今後押し進めることが妥当であるかどうかを問うことにある[1]。

 核が人間のコントロールを超えていることを示す証拠はどこにあるだろうか? それは新聞が毎週、示している。

 どのような核の運転であろうと放射性廃棄物を生み出す。アメリカは現在、42,500トンの高レベル放射性使用済み核燃料と1億ガロンの高レベル放射性の液体及びスラッジ廃棄物を一時的に保管している。これらの廃棄物はそれ自身が危険物質であるが、さらに、それらのうちのあるものは恐ろしい核兵器の原料となりうる。今回は、アメリカ国内各地の核廃棄物の危険性について概観する。

 **前回のレイチェルニュースREHN#747で既に見た通り、ワシントン州南西部のハンフォード核特別区では、デュポン社及びその他の民間企業が、政府の厳重な監督のもとに1943年から1987年まで、核兵器のためのプルトニウムを製造していた。製造の過程で彼らは5,400万ガロンの放射性の液体、スラッジ及び塩類を廃棄物として出したが、そのうちの約100万ガロンは既に地下に漏洩し、現在、コロンビア川で放射能が検出されている。このようなことは、実際に起きるまで、起こりえないことと考えられていた(技術上の落とし穴)。

 タンクに保管されたこれら5,400万ガロンに加えて、相当量の放射性廃棄物がハンフォードの浅い地下壕に埋められた。その結果、ハンフォードのある区域に生えた回転草(ロシアアザミ)はその根から放射性物質を吸収した(技術上の落とし穴)。
 この(回転して)移動する植物が区域外で増殖したり、燃やされたりして、放射性物質を放出することを防ぐために、政府は絶えずこれらの植物を集め、地下に埋めることで問題の解決を図ろうとした(ニューヨークタイムス、2000年9月12日、D3頁)。
 この”放射能汚染回転草”問題は、自然減衰期の24万年が経過すれば解決するであろう。

**ハンフォードだけではない。2000年10月、エネルギー省は、地下壕に埋められたプルトニウムの量は当初推定していた量の10倍あると発表した(管理上の落とし穴)。
 これらは核爆弾製造における”残渣”として、1943年〜1987年の間に地下に埋められたもので、その場所は、ワシントン州ハンフォード、ニューメキシコ州ロス・アラモス、アイダホ州環境技術研究所、テネシー州オークリッジ国立研究所、サウスカロライナ州サバンナ・リバー工業地域である。

 残念ながら、これら廃棄物の多くに関する化学的特性や正確な埋設場所は、ほとんどわかっていない。その多くは、しばしば、有害化学物質や爆発性物質とともに埋設されている。
 「埋設された固体廃棄物から染み出した放射能により汚染された土壌の量についてはほとんどわかっていないし、放射性物質と混合された有害化学物質に関する情報もほとんどない」とエネルギー省環境管理部門の副秘書官キャロリン・ハントゥーンは述べた(管理上の落とし穴)(ニューヨークタイムス、2000年10月21日、A13頁)。

 当初の推計の10倍であったと発表した時に、エネルギー省は埋設した放射性廃棄物の浄化は非常に難しく、ほとんど何もなされていないこいとを認めた(技術上の落とし穴)。

 例えば1994年、エネルギー省は廃棄物を回収できることを示すためにアイダホ研究所の25年前の地下壕を1エ−カー掘り起こすことを試みた。しかし、4年後にエネルギー省は、コストと実施方法をめぐって紛糾した請負会社を解約した。
 2000年、エネルギー省はアイダホ地下壕の係争に関する法的費用に600万ドル(約7億円)を、それ以外の作業にも250万ドル(約3億円)を使った。しかし6年間の努力にもかかわらず、廃棄物はまったく回収できなかった(技術上及び管理上の落とし穴)。

 **バッファローの南、30マイルにあるニューヨーク州ウェストバレーで、デビソン化学会社は1966年〜1972年の6年間に亘って原子力発電所の使用済み核燃料の処理を行い、66万ガロンの高レベル放射性廃棄物及びその他の放射性廃棄物を出したが、それらは地下のタンクにポンプで送り込まれたか、大きな浅い地下壕に埋設された[2] 。1976年、デビソン化学会社は原子力ビジネスは十分な利益が上がらないという理由でウェストバレーを閉鎖し、3,000万キューリーの放射性物質を地下と汚染された建物と設備の中に残したまま、ニューヨーク州を去った(政策上の落とし穴)(1キューリーはラジウム1グラム中の放射能の量である。ちなみに、1979年のスリーマイル島事故で大気中に放出された放射能の量は約50キューリーである)。

 ニューヨーク州と連邦政府は、現在、1,000人の科学者と技術者がフルタイムベースでウェストバレーの浄化作戦のために働いている。現在までに15億ドル(1,800億円)以上の金を使ったが、作業はいつ終わるともわからない。
 20年前にある場所で、コンクリートと鉄筋の基礎が腐食し、約200キューリーの高レベル放射性物質、ストロンチウム-90がウェストバレーの地下に漏洩した(技術上の落とし穴)。
 ストロンチウム-90は1993年にその漏洩が発見されるまでの10年間以上、地下に流れ込んでいた(管理上の落とし穴)。それ以来、地下で拡散し、エリー湖方面に流れ出し、また旧工場から離れた場所の地表にも現れた(技術上及び管理上の落とし穴)。

 数年前、政府から請け負ったある会社が、ストロンチウム90を回収するために、井戸を堀り、地下水をフィルターを通してくみ上げた。しかしフィルター自身が新たな放射性廃棄物となり、非常に高いものとなった(40万ドル(約4,800万円)/年)。現在、請負会社は、ストロンチウム-90を捕捉するために使われた大量のフィルター(ゼオライト)を地下に埋めている。このような措置をとっても、いずれは誰かが、どこか他の場所の地下に放射性ゼオライトを埋め戻さなくてはならない。(ニューヨークタイムス、2000年2月24日、A23頁)。

 **コネチカット州ウォーターフォードのミルストーン原子力発電所では、2本の高レベル放射性使用済み核燃料棒の所在がわからなくなった。本来、これらは高レベル放射能を遮断し、過熱を防ぐためにボロンで処理された水のプールに永久保管されているはずのものであった。同社は1980年に長さ12フィートの使用済み燃料棒2本の管理履歴を紛失し、連邦政府監督官に大目玉をくらい、21年後にそれらの捜索を開始した。核燃料棒は1980年までは保管されていた使用済み燃料プールにはなく、どうなってしまったのか誰にもわからなかった。
 会社幹部は燃料棒は間違って解体され、”低レベル”放射性廃棄物として処理され、地下壕に埋められたのではないかと推測している(管理上の落とし穴)(ニューヨークタイムス、2001年1月8日、A17頁)。

 この事故と符号が一致するように、ミルストーンの幹部は、環境記録を偽造し、1994年〜1996年まで無資格のプラント運転員を採用していたことを告白した。ミルストーンの制御室の運転員6人は、資格試験に落第したが、ミルストーンの管理者が彼らの試験結果を偽造したので、彼らは連邦政府の運転資格を与えられていた(管理上の落とし穴)。

 ミルストーンを経営するノース・イースト核エネルギー会社は、23の重罪に当たるとして1,000万ドル(約12億円)の罰金を科せられた。連邦当局は、「規制緩和により、経済的圧力が原子力産業にも広がり、法違反につながった」と述べた。言い換えれば、ミルストーンの管理者は企業競争に駆られて違法行為をおこなった。「経済的な理由から手抜きが行われた」とジョセフ・C.ハッチソン検事は述べた(政策上の落とし穴)(ニューヨークタイムス、1999年9月28日、A23頁)。

 **ネバダ州南部の1,593平方マイルをカバーするネバダ核実験場では、1956年〜1992年の間に、828回の核実験が地下で行われた。政府の科学者たちはいつも、核実験による放射能は地下中空に閉じこめられ、土壌や岩盤に吸収されるものと仮定していた。彼らはまた、地下水の動きは非常にゆっくりしたものであると信じていた。

 しかしこれらは全て間違っていた。新たな研究結果によれば、ある放射性金属、特にプルトニウムは容易に地下水に浸透することが判明した(技術上の落とし穴)。さらに、実験場付近の地下水は考えられていたよりも速い速度で動いていることがわかった(技術上の落とし穴)。

  アメリカ地理調査院の科学者は、放射性廃棄物からの危険な漏洩物は10年もたたないうちに、ネバダ州のオアシスにあるビーティの町の井戸に到達するであろうと述べている。いずれ、実験場の下を流れる地下水は”死の谷国立公園”に到達するであろう。
 ネバダ大学の科学者で地下水研究家のデニス・ウェバー博士は、「実験場のプルトニウム以外にも問題がある。大量のトリチウム、水に直接溶け込む放射性水素、が実験場の地下に埋設されている」と述べている。

 ウェバー博士は、ロードアイランド州より広い実験場下の汚染地下水について正確な特性を理解しようとする政府の試みに批判的である。「彼らは本当に漏洩を検知しようとして井戸を掘ったわけではない。彼らは真実を知りたくないのである」(管理上の落とし穴)(ニューヨークタイムス、2000年3月21日、D2頁)。

 **1997年、エネルギー省は、テネシー州ウオークリッジにある兵器工場にある余剰の放射性ニッケル6,000トンをスクラップ業者に払い下げ、他の10,000トンもいずれ売りに出す予定であると発表した。
 政府は放射性金属に対する法規制を定めていないので、払い下げの提案は合法である。連邦政府原子力規制委員会は、放射能は意図的に”収益効果”を狙ってニッケルに加えられたものではないという理由で、放射性ニッケルを規制することを拒否した。この決定により放射線医療局テネシー支局はその販売を承認した(管理上の落とし穴)。

 議会の批評家たちは放射性金属は最終的にはステンレス製の食器や子供の歯の矯正用のブレースになると指摘した。この払い下げの提案は、スクラップ業者や製鉄業界の経営者たちをぞっとさせた。なぜなら彼らの顧客に対し彼らの製品が低レベルであろうと放射性物質を原材料としているということを説明しなければならないからである(政策上の落とし穴)。彼らはこの提案に反対し、その結果、この提案は棚上げとなった。(ニューヨークタイムス、2000年1月12日、A17頁)。

 **1996年、ネブラスカで核弾頭を搬送中のトラックが凍てついた道路でスリップし、衝突事故を起こした。半日以上、大統領や閣僚も含めて政府の誰も、そのことの危険性の度合や、放射性物質がトラックから放出されたかどうかについて知らなかった。兵器輸送トラック部隊の放射線モニターは、トラック運転手がモニターは危険なレベルの放射線に被爆したことを示しているという理由で外してしまっていたからである(管理上の落とし穴)。

 1993年から1999年までエネルギー省で政策顧問を務めていたロバート・アルベルツは2000年4月に、これらの事実について「これらはエネルギー省のばかげた一面と傲慢な管理文化を象徴している」と報告している。彼はさらに続けて、「思考が後ろ向きなので、アメリカの兵器は現在、時限爆弾のような状況であり、重大な事故や偶然の核爆発事故がいつ起きてもおかしくない」と述べた(ニューヨークタイムス、2000年4月30日、23頁)。

(次回に続く)

[1] http://www.rafi.org/text/txt_search.asp?type=communique

[2] http://www.wv.doe.gov/LinkingPages/sitehistory.htm


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