レイチェルニュース #745
2002年2月28日 環境保護運動−第5回:白人の特権が運動を分裂させる ピーター・モンターギュ #745 - The Environmental Movement Part 5: White Privilege Divides The Movement, February 28, 2002 By Peter Montague http://www.rachel.org/?q=en/node/5505 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2002年4月27日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_02/rehw_745.html 環境的な公正(environmental justice)を求める運動は1980年代に、様々な場所で自然発生的にわき起こった。『FROM THE GROUND UP(新規まき直しに)』の著者、ルーク・コールとシーラ・フォスターはその著書の中で、この運動を本流に流れ込む一連の支流になぞらえている[1] 。この運動は、市民権と環境的人種差別に関連する様々な運動、例えば、反有毒化学物質(環境健康)運動、アメリカ先住民の土地復権闘争、主権と文化を残す運動、安全な職場を求める労働運動、人種と階層により不公平に汚染されている地域について研究を始めた学者達、そして従来の法的・科学的な環境保護運動などを包含していると、彼らは考えている(REHN #744参照)。 これに関し、私は環境的な公正を求める運動(エンバイロンメンタル・ジャスティス運動)の中でタブー視されていることがらについて触れてみたいと思う。それは”人種”が相互の誤解を生み、共に効果的に働くことの妨げとなっていると私が信じるからである。 ある人々は、未だに”環境的公正”とは環境的人種差別のことだけであると考えているが、私個人としては公正に対する闘いの対象は、世界において、特にアメリカおいて中心的課題である人種差別主義だけではない。私は環境的公正とは、支配と搾取、そして様々な面を持つ多くの不公正に関することであると信じている。 もし、環境的公正 = 環境的人種差別という狭い定義にこだわるなら、この運動からは多くの同盟者、潜在的な味方が離れていき、より大きな政治的な力を得る可能性が失われていくことになるであろう。 環境的公正の運動に白人を仲間に入れると、白人達がこの運動を支配するようになり、わずかばかりの基金の大部分を彼らが持っていってしまうことになるのではないかという懸念があることを、私も認めざるを得ない。 基金の状況は、全く情けない状況である。ダニエル・ファーバーが示しているように、アメリカにおける慈善基金の年間の総計額は、220億ドル(約2兆8,000億円)であり、そのうちの5.4%、12億3,000万ドル(約1,600億円)が動物愛護と野生動物保護を含む”環境”分野にもたらされ、さらにそのうちのわずか4%、4,900万ドル(約63億7,000万円)が、幅広い定義の”環境的公正”運動にもたらされる[2, 32-33ページ] 。他の96%は、従来の法的・科学的な環境保護主義運動と動物保護運動組織に行く。 この4,900万ドル(約63億7,000万円)を視野に入れて、アメリカの5つの主要な法的・科学的な環境保護組織(WWFアメリカ、オズボーン協会、シエラクラブ、エンバイロンメンタル・ディフェンス、天然資源防衛協会)は、約3億2,500万ドル(約423億円)の年間予算を合同で立てている。この金額は、各組織合同の総収入であり、慈善基金だけではない[3] 。5つの組織のそれぞれにおいて、最も高額な給料が支払われている人々への年間支払い額を合計すると140万ドル(約1億8,200万円)、4,900万ドルの2.8%になるが、この金額はこの国のすべての”環境的公正”運動団体に役立つ金額である。言い換えれば、法的・科学的環境団体は十分な基金を得ているが、”環境的公正”運動は、慈善基金のテーブルから落ちこぼれるわずかな金を求めて争わなければならない。 環境的公正を求める運動を切り開いている身にとっては、この基金配分の不均衡は言語同断である。 資金不足は恐らく運動体における人種的緊張をもたらす最大の原因であろう。しかし、運動体において人種的緊張と不信をもたらすものが他にもある。それは”白人の特権”である。これについて白人によって議論されたり、あるいはその存在を認識されることはほとんどない。 一人の白人の著述者であるウェズリー大学のペギー・マッキントッシュは、大学での仕事における白人の特権に関する彼女の意見を本に著した。 彼女は「・・・白人である私は、人種差別というものは他人を不利な立場にするということを教えられたが、その裏返しの事実である自分を有利な立場にするということについては教えられなかった」と述べている[4] 。 さらに彼女は続けて、「私は、白人の特権というものが、日々無意識にあてにしている労せずに得た目に見えない財産であるということに気がついた。白人の特権というものは、特別の食糧、地図、パスポート、コードブック(暗号書)、ビザ、衣服、道具、小切手帳の入った目に見えない重さのないナップサックようなものである」と述べている。 彼女は、以前研究論文の中で男性の特権について検証たことがある。彼女は「・・・男性が意識はしていないがある程度、男性の特権を用いて仕事をしているということを私が知ってから、私は彼らがそのことにより女性に対し圧迫感を与えているということを自覚していないということを理解した。そして、有色の女性が、白人女性に対し、圧迫感をしばしば感じるという苦情があることを思い出した。我々は、自分たちにはそのように感じないのに、彼女達が何故そのように感じるのか理解するようになった。私は膚の色のおかげで労せずして享受しているがそのことを自覚していない特権について数え上げ始めた」。 以下は、彼女が数え上げた最初の25項目である。
マッキントッシュ女史は、私には非常に重要と思える結論を出している。彼女は「私は、このリストを書いてみるまでは、リスト上の項目の現実について頭から消え去ることがしばしばであった。私にとって白人の特権とは、わかりにくく、はかないないものになった。そのことを避けようとする圧迫感は大きなものであり、それに直面すると実力本位の社会などという神話は崩れ去ってしまう。これらのことがみな真実なら、この国は決して自由な国とは言えない」。 彼女はさらに続けて、「私たち白人が自信に満ち、快適になり、いろいろ気にしなくなればなるほど、他の人種の人たちは自信がなくなり、不愉快になり、疎外感を感じるようになる。”白さ”ということが、敵意、苦痛、暴力が私の身にふりかかるのを防いでくれるが、それらは有色の人々の身にふりかかる。・・・」 「アメリカの大学の白人の学生の多く、恐らく大部分は、自分たちは有色人種ではないので人種差別の影響は受けていないと考えており、”白さ”ということが人種的アイデンティティであるとは思っていない。さらに、働く上で利益となるのは人種と性だけではないので、私たちは日々の生活の中で、年齢による利益、民族的利益、身体能力、あるいは国籍、宗教、性的嗜好に関連する利益について検証する必要がある」。 「・・・さらに、社会的階層、経済的階層、人種、宗教、性、民族性に存在する労せずして得る優位性に関するもつれを解きほぐすのは容易ではない。未だにこれらの全ては絡み合ったままである」。 「これら絡み合ったすべてについて明白なことが一つある。それは2つの形あるということである。一つは我々が目に見ることのできる形であり、他の一つは支配者グループの一員として見てはならぬと教えられてきた目に見えない形である。 私は、私自身を人種差別主義者であるとは思っていなかった。それは人種差別というものは我々のグループのメンバーが行う卑劣な個人的な行為の中にのみ存在するものであると教えられたが、我々のグループに対し生まれながらに人種的優位性を与える目に見えぬ仕組みの中に存在するものであるとは決して教えられなかったからである」。 「社会を再構築するためには、まず第一に巨大で目に見えない仕組みの存在を認めることである。特権に関する沈黙と否定は権力者にとって重要な政治的ツールである。彼らは、これらのことをタブー視することによって労せずして得る優位性を守りながら、平等又は公正は不完全なままにしておこうと考える」。 「男性優位について気づかないでいることと同様に白人優位について気づかないかないでいることは、実力主義の神話、すなわち民主的な選択は等しくすべての人々に与えられているという神話を維持するために、アメリカの文化に強く植え付けられている。少数の人々にも自信に満ちた行動をする自由があるということを多くの人々が知らないということは、すでに権力を手中にしているグループの権力を強化し、維持することに役立っている。」とマッキントッシュ女史は述べている[4] 。 ピーター・モンターギュ [1] Luke W. Cole and Sheila R. Foster, FROM THE GROUND UP (New York: New York University Press, 2001; ISBN 0-8147-1537-0). [2] Daniel R. Faber and Deborah McCarthy, GREEN OF ANOTHER COLOR (Boston, Mass.: Northeastern University, 2001), pg. 2. Available at: http://www.casdn.neu.edu/~socant/Another%20Color%20Final%20Report.pdf. [3] Pay (salary, benefits & expense account) as reported in November, 2001; see http://207.36.38.241/01/11/individuaLComp1101.html. Organizational budgets are available at www.guidestar.org. [4] Quoted from Peggy McIntosh, "White Privilege: Unpacking the Invisible Knapsack" (1990). Available at http://www.uwm.edu/~gjay/Whiteness/mcintosh.htm and http://www.departments.bucknell.edu/res_colleges/socjust/Readings/Mcintosh.html and http://modelminority.com/society/whiteprivilege.htm and http://seas.stanford.edu/diso/articles/whiteprivilege.html and http://employees.csbsju.edu/jcook/courses/intercultural350/White%20Privilege.pdf and http://intra.som.umass.edu/transitions/whiteprivilege.pdf |