レイチェルニュース #744
2002年2月14日
環境保護運動−第4回:勝利のために運動を再構築
ピーター・モンターギュ
#744 - The Environmental Movement--Part 4
Rebuilding The Movement To Win, February 14, 2002
By Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/5503

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2002年4月12日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_02/rehw_744.html


 環境運動は、巨大で強力な政治的影響力を持ち、その勢いを押しとどめることはできないように見える。わずか30年くらいの間に環境運動は、(1)多くの法律を制定させ、反対者には”支配と管理”と悪口を言われる”規制の仕組み”を政府に作り出させ、(2)我々の共通の財産である大気や水に、数百万トンの発がん性物質、等を日常的に放出している企業に対して毎年、その放出量を公表させ、(3)企業全体に対して、それは持続可能ではないという基本的な批判を展開し、(4)人間の活動は”進歩発展”であるという固定概念に対して、異議をとなえる−というようなことを行ってきた。

 さらに、環境に与えたダメージの証拠を広く世間に知らしめたことにより、環境運動は世間の支持を得てきた。少なくとも3分の2以上の人々は、少なからぬ金がかかっても環境を保護すべきであると考えるようになった[1] 。

 しかし、このような外観上の成功と政治的な影響力にもかかわらず、最近、反環境主義勢力が台頭してきた。環境保護の進展は停滞し、時には後退すらするようになった。ワシントンでは、実際、1980年のレーガン政権以来、環境保護運動は守勢に立たされた。クリントン/ゴア政権の時に事態がわずかに改善されただけである。

 どうして反環境保護勢力がこのように力を持つようになってきたのであろうか。
 厳しいこの30年の間に、自称”保守主義者”達は企業主導の反−環境保護策を容認する多くの支持者を獲得してきた。このような”保守主義者”の多くは、伝統的なヨーロッパ人の信仰を抱いている。すなわち、神は原始的で未完成な状態でこの世を作り出し、さらに神は人間をこの世に送り出して、自然を支配し管理することにより環境を改善するという宗教的な義務を人間に課した、というものである。
 この考え方によれば、人間は、神が人間をこの世に送り出した目的に従って、自然を開発し利用する権利、あるいはむしろ義務を与えられていることになる。(これに代わる考え方は、人間は神の創造物の僕(しもべ)として指名されたマイナーな種であるというキリスト教やヨーロッパ社会における考え方である)[2] 。

 ”保守主義勢力”は、下記に示すような目標の幾つかを共有する様々なグループからなる。

(a)政府の機能を小さくするために減税を行うこと。(これにより意図しようとしまいと、政府関連の仕事が減少し、その結果、非白人系の人々が手に入れやすい組合関連の仕事が減少する)。

(b)軍備を強化すること。そして、海外の安い労働力と資源を確保するために、必要に応じて他国に圧力をかけられるよう、面倒な同盟関係(例えば国連のような)から手を引くこと。

(c)自由貿易の名の下に、アメリカの企業が、利潤を上げるために必要ならば、海外で活動し、課税を逃れ、官憲を買収し、私兵を支援し、現地の労働力を搾取し、天然資源を収奪し、有害物質をまき散らす自由と権限を与えること。

(d)堕胎と同性愛を撲滅すること。女性の役割を20世紀初頭に戻すこと。そして、公共の場所でキリスト教のスローガンに対し忠誠心示すことを強要すること。

(e)白人への特権の存在を否定しながら、白人に有利となるような経済活動の場を確保すること。すなわち、白人は生まれながらにして労せず優位を得ることができるようにすること。(この件については、今後、より詳細に検証する予定である)[3]。

(f)各種犯罪事件に関し、白人に対する基準とは異なる基準を非白人に適用し、その犯罪発生比率に照らして、はるかに多くの数の非白人を刑務所に送り込むこと[4]。

(g)貧しい人々が生きにくくすることにより、彼らを懲らしめること。

(h)国際的な人権協定や基準に違反して、アメリカの労働者が組合を結成したり集団で交渉することを困難にし、それが出来ない時にストライキを行うことも不可能にすること。

(i)政治的優位性を保持するために、必要に応じて科学的事実をねじ曲げ、無視し、時にはでっち上げることに専念するような企業を創設し、それを支援すること。

(j)公職選挙において個人の富の影響を維持し拡大すること。

(k)普及した民主主義を企業エリートの管理に徐々に置き換えること。

 当然のことながら上記の全ての項目について、その通りである考える”保守主義者”はいないであろうし、またこれらの項目のあるものについてはむしろ反対する”保守主義者”もいることであろう。
 しかし”保守主義”運動は、多くの異なった考えの人々が入っている巨大なテントの様なものであり、それぞれの人々がこれらの考えの幾つかを持っている。そして彼らは一緒に活動しているので、企業の反−環境保護策を促進するような強力な政治力を発揮することとなり、その結果、他の”保守主義”的な項目をも支援することとなる[5]。

 今日では、従来の環境保護運動がこれらの企業寄りで反−環境保護的な勢力にうち勝つためには十分な体制になっていない。それは、従来の環境保護運動は、環境を保護するためには適法で科学的な専門性と道理をわきまえた議論があれば十分であるという仮定のもとに成り立っていたからである。

 長年の献身、個人の犠牲、そして驚異的な努力によって成し遂げられた重要な法律的成果の価値が減ずることはないが、「従来の戦略と政策は限界に達しようといる」とノースイースタン大学のダニエル・ファーバー教授は指摘している[6] 。
 これは少し控えめな指摘であろう。従来のアプローチは訴訟と議会への働きかけに依存しており、現在はそのどちらも非常に効果的な戦術であるというわけではない。州議会や裁判所は、神が人間に自然環境を開発するよう意図したものと見なし、企業の考えはそのことに合致しているので、全て良いことだと信じているような”保守主義”活動家に支配されている。

 結論として、従来の環境保護運動を成功に導き、ワシントンや全国の州会議事堂に巣くう反環境勢力に打ち勝つためには、新たなアプローチが必要である。

 1980年以来、従来の環境保護運動に代わるものがアメリカにおいて徐々に形成され始めたが、まだはっきりと目に見える形にはなっていない。それは”環境的な公正(environmental justice)”と呼ばれるもので、それ自身いくつかの問題を抱えているものの、環境保護に関する異なった一つのアプローチを示すものである。それは人々が住み、働き、遊ぶ場所の環境を守ることに関するものである。

ダニエル・ファーバーが解説しているように[6]、”環境的な公正を求める運動”は6つの糸で織り込まれている。

(1)市民の権利を求める運動
 アメリカにおける人種差別政策は、公式には1964年に廃止されたが、環境人種差別は相変わらず存在している。
 1970年代から1980年代に整えられた環境規制法体系は、有色人種の住む地域に汚染物質を注ぎ込むという意図しなかった影響を生み出した。
 富裕な白人達は、環境汚染されていない地域の土地を購入することができるけれども、有色人種や貧しい人々は、通常それができない。従来の環境保護者の一部によって進められている”環境汚染土地取引の構図”は経済的には効率が良いのであろうが、貧者や有色人種には更なる負担と不公正を強いることとなる。

(2)職場の安全と衛生を求める運動
 アメリカでは1970年に、最初の労働安全法が成立したが、それ以後は法の強化や見直しは行われていない。さらに同法は農場労働者など数千万人の労働者が除外されている。
 少なくとも、毎年、6万人の労働者が危険な労働環境に起因するケガや病気で死亡している。さらに85万人が病気となっている(REHN #578 参照)。
 少なくとも3500万人の非組合員労働者が、自分たちを守るためにもし可能なら組合に加入したいと述べているが、アメリカの法律は国際的な人権基準に違反して労働組合結成を難しくしている。既存の組合員に加えて、これら3500万人が組合に加入すれば、アメリカではかつてない大きな組合運動が起こり、企業エリートと賃金労働者との力のバランスがとれるようになるはずである。

(3)現地住民と先住民の土地に関する権利を求める運動
 アメリカ先住民、メキシコ系アメリカ人(チカーノ)、アフリカ系アメリカ人、及び社会的に無視された地域住民たちは、彼らの伝統的な土地を確保し、保護するために闘っている。これらのグループのあるものは土地の資源を管理するために闘っているし、他のグループは、滅亡の危機にある彼らの文化、生活様式を残そうと闘っている。

(4)有害物質に対する運動
 環境的な健康を求める運動(environmental health movement)としても知られており、1978年以来全米で数千カ所ある汚染廃棄物集積場の浄化を求める運動を展開している。
 有害物質に対する運動としては、自治体の廃棄物焼却炉、農薬、いわゆる低レベル放射性廃棄物、石炭火力発電所、地下埋設ガソリンタンク、軍施設内有害廃棄物、等の問題に取り組んでいる。

(5)第3世界における連帯、人権、環境に関する運動
 第3世界の連帯運動、人権運動、及び環境保護運動の活動家達が並はずれた、何物をも恐れない行動主義をもって力強く連携している。
 南アフリカ、メキシコ、ビルマ、インドネシア、ナイジェリア、中央アメリカ、前ソビエト連邦、その他各地のグループが、アメリカ国内と同様な闘いを行っているが、わずかな人材と資金をもっての強敵との闘いである。
 環境保護、持続可能性、自決権、そして公正を求める不屈の要求を行って命を犠牲にすることもある。

(6)地域活動家による社会と経済の公正を求める運動
 従来、このような運動は、住宅、公共交通、犯罪、警察、求職、最低生活賃金、レッドライニング(都市内の老朽・荒廃地域に対する銀行・保険会社などによる担保融資・保険引き受けの拒否)、融資制度、介護、老朽化校舎、その他近隣での諸問題に焦点が当てられて来たが、”環境”という視点から取り組まれてこなかった。
 しかし、現在は、鉛汚染、有害廃棄物汚染サイト(brownfields)、大気汚染、子どもの喘息、その他環境に関連する問題に取り組んでおり、これらは正に”環境的な公正”を求める運動である。

 これら6つの糸に加えて、強力に盛り上がり始た7番目の糸は、化学物質過敏症、先天性欠損症、乳がん、子宮内膜症、リンパ腫、糖尿病、慢性疲労、退役軍人のエージェント・オレンジ(枯葉剤)による後遺症や湾岸戦争症候群、等に対する運動である。

 8番目の糸は、国際的な”ゼロ廃棄物”及び”クリーン生産”運動であり、これらは産業界における製造システムの大変革である。

 このような力強い環境的公正を求める運動は、明らかに今後は新たな政治的な大きな運動になる可能性を秘めているが、現在は未だ揺籃期である。
 大きな運動に育てるためには、食事を与え、栄養を与え、よく面倒をみなくてはならない。それには資金が必要である。
 彼らの報告書『もう一つの色、緑(GREEN OF ANOTHER COLOR)』(ダニエル・ファーバーとデボラ・マッカーシー著)は、1966年から1999年までの間に環境関連の活動に与えられたすべての基金のうち、96%は従来の環境保護運動の弁護士と科学者に渡り、残りのわずか4%だけが”環境的な公正”を求める運動のために活動する数千のグループに渡ると述べている[6]。
 真に環境を保護し、反環境主義の”保守主義勢力”に打ち勝つためには、これらの基金の優先順位を抜本的に変更しなければならない。

ピーター・モンターギュ
(National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO)

[1] U.S. attitudes toward many environment-related questions can be found at
http://www.publicagenda.org/issues/major_proposals_detail.cfm?issue_type=environment&list=8 [2] Clive Ponting, A GREEN HISTORY OF THE WORLD (New York: Penguin Books, 1993; ISBN 140176608). See Chapter 8.


[3] See, for example, Peggy McIntosh, "White Privilege: Unpacking the Invisible Knapsack (1990). Available on the web at http://www.uwm.edu/~gjay/Whiteness/mcintosh.htm

The same essay has appeared under different titles in a number of places, among them RACE, CLASS, AND GENDER: AN ANTHOLOGY, edited by Margaret L.Andersen and Patricia Hill Collins (Belmont, Calif: Wadsworth Publishing Company, 1992), pgs. 70-81.

See also: Rinku Sen and others, THE PERSISTENCE OF WHITE PRIVILEGE AND INSTITUTIONAL RACISM IN US POLICY (Oakland, Calif.: Applied Research Center [3781 Broadway, Oakland, CA 94611; Tel. (510) 653-3415], 2001). Available at:
http://www.arc.org/downloads/trji010417.pdf

[4] See http://www.buildingblocksforyouth.org/justiceforsome/jfs.pdf

[5] See Jean Hardisty, MOBILIZING RESENTMENT (Boston: Beacon Press, 2000; ISBN 0807043176) and Godfrey Hodgson, THE WORLD TURNED RIGHT SIDE UP (Boston: Houghton Mifflin, 1997; ISBN 0395822939).

[6] Daniel R. Faber and Deborah McCarthy, GREEN OF ANOTHER COLOR (Boston, Mass.: Northeastern University, 2001), pg. 2. Available at:
http://www.casdn.neu.edu/~socant/Another%20Color%20Final%20Report.pdf



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