レイチェルニュース #743
2002年1月31日 先住民への新たな脅威 ピーター・モンターギュ #743 - New Threat To Indigenous People, January 31, 2002 By Peter Montague http://www.rachel.org/?q=en/node/5464 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_02/rehw_743.html 遺伝子組み換え作物により、アメリカの、そして世界中の先住民の生存が直接的に脅かされる事態となった。 メキシコではすべての遺伝子組み換え作物の商業的な使用を禁止しているが、2001年9月、科学者達は南部の奥深い地域にあるオアハカ州の15の場所で、遺伝子組み換えトウモロコシが栽培されているのを発見した[1]。どうしてそこに持ちこまれたのか、誰も分からない。 アメリカでは遺伝子組み換えトウモロコシは、1996年以来コマーシャルベースで栽培されており、現在、アメリカのトウモロコシの全作付け面積の26%が遺伝子組み換えトウモロコシである。不法な遺伝子組み換えトウモロコシが発見されたオアハカ州の奥地は、世界中の多様なトウモロコシの原産地であると考えられていた。 科学者達は、オアハカ州は5500年にわたる原生トウモロコシの栽培により発展した多種の遺伝子の宝庫なので、オアハカ州のトウモロコシの豊かな多様性を遺伝子組み換えによる汚染から守りたいと考えていた。科学者達は、組み換えトウモロコシの品種は優勢で、原産種を絶滅に追いやり、かけがえのない栽培品種が失われていると述べている。 組み換えトウモロコシは、メキシコの奥地まで鳥によって運ばれたのか、あるいは意図的に企業や組み換え作物の推進を図る政府職員によって持ち込まれたのか定かではない。 すべての組み換えトウモロコシは、国際企業の所有物であり特許登録されている。その種子を合法的に手に入れる唯一の方法は、特許を保有している会社から買うことである。その様な特許は”知的所有権”と呼ばれ、国際法の下でそれを執行することは、近年の”自由貿易”協定の最終目標であった。世界貿易機関(WTO)は、貿易関連知的所有権(TRIPs)を厳格に守ろうとしており、組み換え作物のような生物品種にTRIPsが適用されるということは明かである。 WTOのルールの下では、各国政府は企業の知的所有権を保護することが要求されている。アメリカとカナダの農民達は、組み換え作物が境界線を超えて押し寄せ来て、非組み換え作物と交雑するので、自分たちは組み換え作物の犠牲者であると主張している。組み換え作物による非組み換え作物への侵入については、よく、報告されているところであり、企業も所轄官庁もそれが重大な問題であるということは、よく、認識している。 しかし組み換え作物の種子の主要な供給会社であるモンサント社は巧妙に矛先をこれら犠牲者に向けて、モンサント社に特許権がある種子を不法に使用していると告訴した。 最初に裁判に持ち込まれた2001年のカナダのケースで、モンサント社あh組み換え汚染を非難した有機農業家パーシー・シュマイザーを告訴した。モンサント社は、シュマイザーは40年間、有機農法によるトウモロコシ栽培を行っていたが、心変わりして組み換えトウモロコシを栽培することを決心し、モンサント社の種子を不法に使用したと主張した。この裁判ではモンサント社が勝利し、シュマイザーは罰金を支払わなければならなかった。 この重要な勝利を突破口に、モンサント社は、ノースダコタ、サウスダコタ、インディアナ及びルイジアナの各州で同様な訴訟を起こしている[2] 。このようにして組み換え作物の犠牲者である農民達は、企業の知的所有権を侵害したとして訴えられ、組み換え汚染に対し、罰金を支払わされる羽目となった。 企業が種子に特許をとる理由は、今年の収穫の中から来年の種子をとっておくという先住民の昔ながらのやり方、すなわち”種子保存”をさせないためである。組み換え種子を買った農民は、罰則のある法の下、収穫の一部を翌年の種子としないという契約に署名させられる。このようにして組み換え種子を採用した農民は、毎年新しい種子をモンサント社から買わなければならず、特許を取得している国際企業に依存しなければならなくなってしまう。種子を購入できない農民は、作物を栽培することはできなくなる。自由市場社会ではそのような農民が都市に流れ込み、失業者となる。 従来の組み換え作物では、農民に種子を保存させないということを確実にすることはできなかった。企業は、人を雇って農場から農場を回って調べさせ、無認可の作物栽培が行われていないか報告させている。このような監視方法は金がかかる。 このような監視を不要にし、100%確実に農民達を支配するために、遺伝子組み換え企業は新しい技術、ターミネータ遺伝子を開発した。ターミネータ遺伝子には、プロテクタというある種の化学物質がないと作物が自身では生殖することができないようにする働きがある。 ターミネータ種子を使用した農民は、毎年プロテクタを買わなければならない。ターミネータ作物が世界的に広がると先住民の農法は終わりを告げ、多くの生物多様性も失われるであろう。 世界で現在、約14億の先住民が生きるために自分たちの作物を栽培している[3] 。多くの場合、彼らの土地は企業の開発に狙われており、組み換え作物の技術は先住民が土地を手放さねばならなくする合法的な手段となる。 カナダのウィニペグのETCグループ(www.etcgroup.org)は先週、世界の2大遺伝子組み換え企業、デュポン社とシンジェンタ社(前アストロゼネカ社)が2001年度中に遺伝的に生殖不能な”ターミネータ”種子の特許を得たということを明らかにした。1999年、シンジェンタ社(前アストロゼネカ社)研究開発担当重役は、ターミネータに関するすべての開発業務は1992年に止めたと宣言したが、ETCグループは、この担当重役は間違えたのかウソをついたのかのどちらかであることを見出した。シンジェンタ社の最新のターミネータ特許申請は1997に行われ、2001年8月に承認された。 「ターミネータ技術は世界の食糧の安全と生物多様性に対し、脅威を与えている。各国政府と市民は、この危険な種子を見逃すことはできない」とETCグループ研究部長ホープ・シャンドは述べた[4]。 遺伝子組み換え作物の採用が広がっているという恐ろしい状況にもかかかわらず、その技術自身の安全性について疑問視する科学者はあまりいない。主要な遺伝子組み換え企業は15年間、その技術は完全に解明され、信頼性があり、安全であると主張してきたし、監督官庁もそれに同意するか、あるいは、そのことについて沈黙していた。 遺伝子組み換え産業を支えていた科学的根拠は時代遅れであり間違っていると断言する新しい報告が、今月発行された[5] 。ニューヨーク市立大学クウィーン校のベアリー・コモナー博士の新しい報告では「遺伝子組み換え作物は、その結果が予測できない大規模な実験のようなものだ。その結果は、破局的なものになるかもしれない」と述べている。 現在、アメリカの大豆作付け面積の68%、トウモロコシ作付け面積の26%、綿花作付け面積の69%以上が遺伝子組み換えである。「人工的に組み替えた遺伝子システムについては、遅かれ早かれ、意図しない、悲惨な結果をもたらす可能性がある」とこの報告書は述べている。 遺伝子組み換え業界の安全性についての確証は、一つの遺伝子は一つの特性を支配するという科学的前提に基づいている。もしこれが真実ならば、一つの種から一つの遺伝子を取り除いて、新しい種にそれを組み込んでも、新しい種に一つの新しい特性を与えるだけでれ以上でもそれ以下でもないはずである。 しかし、40年間、真実であると思われていた”単一遺伝子は単一特性を支配する”という理論は、今日では間違いであるということが分かっている。
実際、これらのかく乱は、遺伝子組み込みが行われる時に起こる多くの失敗によって明かになっている。 もっとも不気味なことは、遺伝子組み換え大豆が、組み込まれた遺伝子の余分な断片を含んでいたということをモンサント社が2000年には知っていたということを、この報告書が指摘していることである。それのもかかわらず、モンサント社は”新たなタンパク質”は遺伝子組み換え大豆中には存在しないと発表している。 さらに、2001年にはベルギーの研究者達が、大豆のDNAは遺伝子組み換え時にかき回されていると報告している。「異常なDNAが新しいタンパク質を生成する可能性は十分あり、それは潜在的に危険なタンパク質である」とコモナー博士は結論付けている。 このように、遺伝子組み換え作物は、農業のあり方やすべての先住民の文化にとって脅威であるだけでなく、食糧の安全確保とすべての人々の安全性に対する脅威でもある。 ピーター・モンターギュ (National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO) [1] Carol Kaesuk Yoon, "Genetic Modification Taints Corn in Mexico," NEW YORK TIMES October 2, 2001, pg. unknown. Available at www.nytimes.com for a fee. [2] David R. Moeller, GMO LIABILITY THREATS FOR FARMERS (St. Paul, Minn.: Farmers' Legal Action Group, Inc., November 2001). Available in PDF format at www.iatp.org. [3] Pat Roy Mooney, THE ETC CENTURY; EROSION, TECHNOLOGICAL TRANSFORMATION, AND CORPORATE CONCENTRATION IN THE 21ST CENTURY (Winnipeg, Canada: The ETC Group, 2001); available in PDF: http://www.rafi.org/documents/other_etccentury.pdf. The ETC Group (formerly RAFI, the Rural Advancement Foundation International) can be reached at 478 River Avenue, Suite 200, Winnipeg, MB R3L 0C8 Canada; Tel: (204) 453-5259, Fax: (204) 284-7871. This report is "MUST READ " for all activists. [4] News Release: "Sterile Harvest: New Crop of Terminator Patents Threatens Food Sovereignty," January 31, 2002. Available in PDF: http://www.etcgroup.org/documents/new_termpatent_jan2002.pdf [5] Barry Commoner, "Unraveling the DNA Myth," HARPER'S MAGAZINE (February 2002), pgs. 39-47. |