レイチェル・ニュース #740
2001年12月20日
右翼本流過激派)
ピーター・モンターギュ
#740 - Mainstream Extremists, December 20, 2001
By Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/5444

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2002年1月6日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_01/rehw_740.html
 2001年度の主要な出来事について振り返ってみよう。

 9月11日の出来事は誰をも驚かせたが、最も衝撃的であったことは、右翼本流過激派が如何に素早く、この世界貿易センターの惨劇を利用しようと動いたか、ということである。

 攻撃の翌日には、アメリカ議会のドン・ヨン議員(共和党 アラスカ州)は、シアトルに拠点を置く環境テロリストがニューヨークのツインタワーに体当たりした飛行機をハイジャックしていたという強い可能性があるとして、「イタリアのジェノバで起きたことを、そしてシアトルで起きたことを見れば、シアトルの環境テロリスト達がやったと断定はしないが、そのようなグループの一つがやったという強い可能性はある」とアンカレッジ・デイリー・ニュース紙に語った[1] 。

 その翌日、バプテスト教会の牧師であり、ホワイトハウスのアドバイザーでもあるジェリー・ファルウェル師は、テレビのパット・ロバートソンのショー番組で、好敵手である共和党右翼をも非難して次のように述べた。「ライフスタイルを変えようとしている不信心者、人工中絶医、フェミニスト、ゲイ、レスビアン、そして、”アメリカ民間自由連合(ACLU”)、”アメリカの道を求める人々(People for the American Way)”、アメリカを世俗化しようとしてきたこれら全ての人々を指さして、私は言う。『あなた方がこの事態を引き起こす手助けをしたのだ』」。
 ロバートソンは「全くその通り」と相づちをうった[2] 。彼は共和党のパーティ資金調達係であり、戦略家であり、キリスト教連合の創設者でもある[3] 。

 3週間も経たないうちに、スコット・マッキニス議員(共和党 コロラド州)と6人の共和党議員は遠回しに環境保護主流派とテロとの関係をほのめかして、「この破壊行為、テロリズムは環境を保護するという口実の下に引き起こされたので、人々は環境テロを見て見ぬ振りをしている」と10月3日に議場で述べた。さらにマッキニス議員は、シエラクラブ、グリーンピース、環境保護有権者同盟、世界野生生物基金、全国野生生物協会、地球防衛、全国資源防衛に手紙を送り、12月1日までに”環境テロ”には関与していないと明言するよう求めた[4]。

 この10年間、数百の中絶医院と産児制限事務所は、白い粉の入った封筒とそれが炭疽菌であると記したメモを受け取っている。最近、これらテロリストの脅し(実際には、どれも炭疽菌ではなかった)が増加している。ロサンゼルス・タイムズによれば、9月11日以来、200以上の中絶医院と産児制限事務所が郵送によるこのような脅しを受けている[5] 。
 自らを”神の軍隊”と称するキリスト教原理主義者のグループは自分たちが関与したと公言している。しかしマッキニス議員は、ファルウェル師やロバートソン氏に対し、期限付きで炭疽菌テロには関与していないと宣言するよう求めることはしていない。

 バージニア州チェサピークのドナルド・スピッツ師は、自ら”神の軍隊”のメンバーで、そのウェブサイトを管理していると公言しており、炭疽菌を送って脅迫することを称賛し、それは”良いこと”で、輝かしい運動”であると表明している[5,6] 。
 ”神の軍隊”については最近、テレビのドキュメンタリー番組で放映されたが、その中で様々なメンバーが、如何に医者を殺害し、医療クリニックを爆破したかということを、また爆弾を作るためにトラック数台分の爆薬を購入したということを自慢しながら披露した[7] 。
 過去10年間、FBIはこのような数百の炭疽菌テロ事件で、誰も逮捕していないし、マッキニス議員と6人の共和党議員は、スピッツ師に対し、期限付きで炭疽菌テロには関与していないと宣言するよう求めることはしていない。

 これらのずきんを被ったキリスト者達は、ワシントンで起きているメインイベントから注意をそらしつつ、危険で恐ろしいサイドショーを演じている。ワシントンでのメインイベントとは、ホワイトハウスと企業のロビーイストが9月11日の事件を、環境保護の動きを押し戻し、数十億ドル(数千億円)の政府の金を主な汚染企業、その多くが共和党の主要な資金提供者であるが、に分配することに、利用していることである。

 11月18日にニューヨーク・タイムズ紙が報道したように、事件の前までは環境保護主義者達は、ブッシュ大統領を環境に敵対し、その政権は企業から恩恵を受ける悪役として追及する政治的なパワーを持っているように見えた。
 しかし、この2ヶ月間に、環境保護主義者達は愛国心がないと見られる恐れから、あるいは国家の危機にちっぽけなことと見られることを恐れて、身動がきできないでいる[8]。
 環境保護主義者達のためらいと混乱を察知して、大統領と協力者達は次のような攻勢に出た。

  • 地球温暖化を防止するための条約交渉の放棄[8]
  • テロリズムとの終りなき戦争に関わっている国家として、電力不足をもたらす危険は冒せないという理由により、石炭火力発電からの大気汚染を減少するための計画を棚上げ
  • 道路建設の中止、石油やガスのリーシングの中止、そし手つかずの国有林6000エーカーの伐採中止、等のクリントン政権下における諸政策に対する逆行[8,9]
  • 国有林でのスノーモービルの禁止に対する逆行[8]
  • 鉱山会社による国有地での金、銅、亜鉛、鉛の採掘の容認。クリントン政権時代には、水や他の天然資源に取り返しのつかない悪影響を与えるような鉱山の開発はしないことになっていた[8,10]
  • 空調機の電力消費削減規制の緩和[8]
  • 住宅建設業者及び土地開発業者が容易に湿地帯を埋め立てられるような措置[8]
  • 北西部高地でのハイイイログマ再移入計画の阻止[8]
  • 再生可能エネルギーの研究開発予算の50%削減、及び石油、石炭、ガス、及び原子力産業への340億ドル(約4兆2500億円)の追加援助[10]
  • アラスカの北極圏国立野生生物保護区での石油採掘[8](ブッシュ大統領の最大最悪の功績)
  • 下院議会は、プライス−アンダーソン条例の再承認を急ぐために、11月27日に審議をうち切った。この条例は原子力産業界の次のような責任をはなはだしく緩和するものである。誤操作、見落とし、滑落、失態、へま、漏えい、放出、排出、災難、偶発事故、事故、大災害(爆発を意味する原子力産業界の用語である”エネルギッシュな解体(energetic disassemblies)を含む)、及びこのような人間の弱点に起因する責任を納税者に転嫁すること。
     原子力産業側のこれに対する言い訳として「広範なテロの脅威に対応するため、我が国の原子力発電所の安全確保を劇的に改善した」と共和党の主要な戦略家であるジョー・バートン議員(共和党テキサス州)は述べた。議案は通過した[11] 。
  • 大統領は12月6日、反テロリズムを標榜して、労働者や環境保護主義者の反対を押し切り、”自由貿易”を勝ち取った。下院での議論や修正もなしに投票の結果、215対214の票決で、大統領は世界中で自由貿易に関する交渉を行う権限を与えられた。
     今回の措置は”特急承認”と呼ばれるもので、クリントン前大統領は2度、この法案を提出したがいずれも失敗に終わっている。ブッシュ大統領は”いくつかの理由”でそれを勝ち取ったとして「第一に、テロに対する兵器輸出についての彼の主張が挙げられる」とニューヨーク・タイムズ紙は報道している"[12] 。
 しかし、このようなご都合主義の政策も、右翼本流過激派が現在進めている戦略に比べれば、顔色がなくなる。
 彼らは9月11日の事件を、アメリカ社会の市民セクターを攻撃し、市民の民主的な政策決定への参加は無駄で、非効率で、心得違いで、詐欺的で、破壊的で、愛国心がなく、文明世界にとって危険である−と烙印を押す絶好の機会であるとした。

 右翼本流過激派のシンクタンクである”ワシントン法律財団”は11月26日のニューヨーク・タイムズ紙の特集頁の『真の公共の利益の実現を望む』と題する広告を掲載した[13]。その中で、次のように述べている。
 「”空理空論の弁護士達”は、9月11日までの数十年間、我が国の軍隊とビジネス社会をあたかも敵であるように侮蔑をもって扱ってきた。そのために今、我々はそのような軽薄な活動家の数十年間のツケを払う羽目となった」。
 それはあたかも9月11日の暴虐が市民活動家のせいであるかのような広告であり、9月11日以降の世界を以下のような項目でまとめている。
  1. テロリストに対し情報を提供することになるので”知る権利”法を駆逐する。
    戦略的メッセージ:市民活動を抑制するために市民が情報にアクセスすることを制限する。
  2. 我々が天然痘のワクチンを持っていない理由は、天然痘が1971年に世界的に撲滅されたからではなく、FDAの無能官僚がこの生命を救うワクチンの製造を中止させたからである。
    戦略的メッセージ:企業に対する締め付けを解き外すよう政府に働きかける
  3. なぜ、我々は中東の石油に依存しなくてはならないのか? 世界の石油の大部分がそこなあるからとか、我々が代替エネルギーを無視してきたからという理由ではなく、次から次に出てくる法律や規制と珍奇な訴訟によって、急進派が遠く離れたアラスカの凍りついた不毛の土地の石油掘削に反対することを勢いづかせた。
    戦略的メッセージ:市民訴訟と市民活動を止めさせるよう政府に働きかける。
  4. ”ネイダー(かつての消費者運動家)の食品警察(Naderite food police)”は食品への放射線照射認可を遅らせた。郵送を通じて送られてくる炭疽菌を殺そうとしても、ほとんど手に入らない。
    戦略的メッセージ:市民活動をやめさせ、企業への規制を緩和するよう政府に働きかける。
  5. 絶滅種保護条例は”頑固なエリートども”に植物や昆虫に対しても配慮することを許し、その結果、住宅建設や経済開発が阻止されるので、雇用、繁栄、投資、消費者の福祉が危機に瀕する。
    戦略的メッセージ:市民訴訟を止めさせる。
  6. 自己には手ぬるい活動家達は軽薄な90年代に資源と機会を無駄に使ってきた。電磁波問題や遺伝子操作食品のような、幻想のリスク、馬鹿げた”公共の利益”訴訟、詐欺的な消費者心理のかく乱
    戦略的メッセージ:市民活動を止めさせる。
  7. 9月11日以降の世界では、我々は最早、我が国の利益より、視野の狭い”公共の利益”を優先することに耐えられない。
    戦略的メッセージ:愛国心がないので、市民活動を止めさせる。
 これらのことは次のように言い換えることができる。
 政府に対し社会の天然資源を企業の収奪から守るよう要求する活動的な市民は、愛国心のないエリート主義者で、貴重な資源をつまらない目的のために無駄使いし、我々を中東石油の奴隷にすることにより文明全体を危機に陥れ、食品への放射線照射のような文明維持の技術開発を遅らせ、富裕な投資家や重要人物が必要とする開発よりもサンジエゴのホウネンエビの様な絶滅危機種を優先する。

 「病んだ経済を立て直すべく結束するアメリカ人労働者として、馬鹿げた”公共の利益”を擁護することは最早適切ではない。プロの活動家が、自由企業こそがアメリカの心であり、魂であるということを、理解することができるであろうか」とその広告は問いかけている。

 いや、彼らは実際に理解できないであろう。
 もし9月11日の出来事で我々に教えられることがあるとすれば、それはアメリカの心と魂は、個人の利益のために真実をねじ曲げる、あさましく、心の狭いご都合主義者のことではない。
 アメリカの心と魂は、公共の利益のために身を捧げ、腕をまくり上げ、助けに馳せ参じる普通の市民のことである。

新年おめでとう

ピーター・モンターギュ
(National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO)

[1] "Liz Ruskin, "Stevens, Murkowski and Young vow retribution," ANCHORAGE (Alaska) DAILY NEWS Sept. 12, 2001; available at http://www.adn.com/front/story/686424p-728770c.html.

[2] Laurie Goodstein, "Did God allow the terrorist attacks?," NEW YORK TIMES Sept. 15, 2001, pg. unknown.

[3] Pat Robertson, "Pat Robertson Resigns From Christian Coalition"Dec. 5, 2001, available at http://www.christianity.com/partner/Article_Display_Page/0,,PTID3826|CHID110580|CIID1235388,00.HTML

[4] CONGRESSIONAL RECORD Oct. 3, 2001, pg. H6238. And see Paul Tolme, "Real Patriots Don't Go on Witch Hunts," PROGRESSIVE POPULIST Vol. 7, No. 22 (Dec. 15, 2001), E-mail edition, pg. unknown. And see "McInnis Challenges Environmental Groups to Disavow Ecoterrorism," Nov. 2, 2001, available at http://www.house.gov/mcinnis/pr011102.htm.

[5] See, for example, David G. Savage, "Response to Terror; The Anthrax Threat; Anthrax Threats Common at Clinics," LOS ANGELES TIMES Oct. 20, 2001, pg. unknown.

[6] http://www.armyofgod.com/

[7] http://www.hbo.com/americaundercover/cmp/Soldiers/soldiers_filmmaker.sht ml

[8] Katherine Q. Seelye, "Bush Team Is Reversing Environmental Policies," NEW YORK TIMES November 18, 2001, pg. A18.

[9] Katherine Q. Seelye, "U.S. Holds Gathering on Renewable Energy," NEW YORK TIMES November 29, 2001, pg. A20.

[10] "More Environmental Rollbacks [editorial] ," NEW YORK TIMES October 29, 2001, pg. unknown.

[11] CONGRESSIONAL RECORD Nov. 27, 2001, pg. H8360.

[12] David E. Sanger, "Using Battle of Terrorism for Victory on Trade," NEW YORK TIMES Dec. 7, 2001, pg. unknown.

[13] Washington Legal Foundation, "Wanted: Public Interest Reality [advertisement] ," NEW YORK TIMES November 26, 2001, pg. A19.

[14] Lawrence K. Altman, November 4, 2001, "A Nation Challenged: The Precautions; U.S. Sets Up Plan to Fight Smallpox in Case of Attack," NEW YORK TIMES November 4, 2001, pg. unknown.



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