レイチェル・ニュース #727
2001年6月21日
将来展望の重要性−1
ピーター・モンターギュ
#727 - The Importance of Vision -- Part 1, June 21, 2001
By Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/5347

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2001年8月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_01/rehw_727.html



 最近の数十年間、世界中で、自然環境は悪化し、貧困が増大している[1] 。その結果、多くの人々は、今までの様なビジネスのやり方を維持することはできないと考えるようになった。多くの人々が、持続性について考えることに時間とエネルギーを費やしているが、限りなく増大する物質消費に替わるものについて、皆が合意するまでには至っていない。

 エネルギーと物質を大量に消費し、更にその消費を増大する生活を追い求めているアメリカは、恐らく、世界中で最も持続性に欠ける国であろう。多くのアメリカ人はこのことに気がついており、子ども達やそのまた子ども達の将来のことを心配している。しかし現在までの所、もっと違った将来を目指すために、皆の努力と労力を結集することはできていない。
 我々に欠けていることは、アメリカにとっての”持続性”とは何かということに対する共通の展望を持っていないことである。持続性のある社会とはどのようなものなのか、ということに対する一貫した詳細な展望を共有することなしには、政治に対し我々の意思を決定をしたり、目指すべき将来を実現するために我々の努力を結集することはできない。

 ドネラ・メドウズが書いているように、「展望は政治の過程で必要である。もし我々がどこに行きたいのか決めなければ、針路を設定することも、勇気を奮い起こすことも、また達成度を測定することもできない。しかし展望は政策議論に欠けているだけではなく、我々の文化からも欠けている。我々は、欲求不満や疑いや不平については、際限なくおしゃべりをするが、我々の将来の夢や価値については、ほとんど語ることがない」[2] 。

 生態経済研究所(メリーランド大学)のロバート・コスタンザは展望を共有することの重要性を強調している。「今日、人類が直面している最も困難で重要な仕事は、”持続性のある望ましい社会について皆が共有することができ、人類全てに対し、他の生物種に対し、そして将来の世代に対し、正しく公平なやり方で現実の世界における生物物理学的な束縛の中で永遠の繁栄をもたらすことができるような展望を描き出すこと”である。最近の企業と地域共同体による研究によれば、展望の共有こそが、望ましい方向に針路を変えるために最も効果的であることがわかった」[3] 。

 コンスタンザ達の提唱に基づき、2001年1月に、45人から成る一つのグループが、2100年、すなわち100年後の将来における持続可能なアメリカ社会の展望を描き出す作業を開始しようと、オハイオ州オバーリンに集まった[4] 。会議は、”将来探求”と呼ばれ、地理的、組織的、文化的、階層的、人種的、年齢的そして性差を超えた共同プロジェクトを作り出す構造的な手法にによって進められた[5] 。
 3日間にわたる集中的な作業と、その後の電子メールによるフォローアップの後、オバーリン会議の参加者達は共同して一つの声明をとりまとめ、今後も連絡を取り合い、持続可能なアメリカでの生活とはどのようなものかということについて、意見やアイディアを提示するために、グループ外の人々にも参加を呼び掛けるいうことについて合意した。
 我々は、レイチェル・ニュースの読者がこの呼び掛けを真摯に受け止めることを強く勧めたい。ウェブサイト http://iee.umces.edu/ESDA/ を見て欲しい。(最後の議事録で、オバーリン会議の参加者達は、とりあえず自分たちを ESDA ネットワークと称することとした。ESDA とは”Envisioning a Sustainable and Desirable America 持続可能な望ましいアメリカの将来像を描く”の略称であるが、この名称はアメリカだけに焦点を置き、北米の他の国々や中米、南米を含んでいないので、いずれ変更されるかも知れない。皆さんは、この名称はどうあるべきとお考えであろうか?)

 今回と次の数回のレイチェル・ニュースで、オバーリン将来探求会議に基づき作成された、展望声明の一次草案を紹介する。この草案は、メリーランド大学生態経済学研究所のジョシュ・ファーレイが中心になり、他の参加者の協力を得て書かれたもである。これはあくまで一次草案であり、皆さんの批評が必要であるということを強調したい。

展望について

 第1回ESDA将来探求会議で得られた最も重要な成果は、2100年における持続可能な望ましいアメリカについての共通の展望を描き出すということであった。そのような展望を描き出すためには膨大な作業が必要であり、我々が描き出したものは、本当に荒削りなスケッチである。我々の作業の重要な部分は、今後、この展望を膨らませ、アメリカ人の大部分にとって望ましい展望にすることである。あなた方がこの展望を読むために時間を割き、意見をお聞かせいただければ幸いである。
 あなたはこの世界に住んでいたいと思うか?
 この展望にはあなたが同意できない部分があるか?
 重要なことが抜け落ちていないか?
 あなたのご意見を是非 farley@cbl.umces.edu に送っていただきたい。

 我々は、この展望を5つの部分に分けた。世界観、資本の蓄積、天然資源、人的資源、社会的資源である。

世界観

 持続可能な望ましいアメリカの展望作りの中で、世界観は非常に重要な役割を果たす。世界観とはなんであろうか?世界観とは、我々を取り巻く世界やその世界の中での我々の経験や役割を明白にする個人や共同体や社会によって支えられる信仰の様な体系のことである。
 我々の世界観は我々が誰かということや我々の存在理由は何かということを教えてくれる。我々がどこにいるのか、我々はどのような世界と環境の中に住んでいるのかについて教えてくれる。それはまた、世界について何が正しく、何が間違っているのか、さらに正しいことはどのように守っていくのか、間違ったことはどのように直していくのかということを教えてくれる。世界観は主に我々が育った文化によって決定される。

 ある条件下では適切な世界観も、他の条件下では適切ではないかも知れない。これは道理にかなっている。世界観は我々がどのような世界に住んでいるのかを教えてくれるが、我々が住む世界は絶えず変化している。世界観は、また文化と境遇に密接に関係している。
 200年前には、ヨーロッパ系アメリカ人は、人口がまばらな広大な開拓地、荒々しい野生の中に住んでいた。天然資源は無限にあるが、人的資源や社会的資源、機械や消費物資が欠如していた。自分たち以外の世界には関心がなく、それは重要なことではなかった。
 先住のアメリカ人は、敵であったり友人であったりする隣人に囲まれて、至る所に住んでいた。人間は、注意深い配慮のもとに彼らが必要とする全てのものを与えてくれる調和のとれた自然体系の一部分であった。
 アフリカ系アメリカ人は、明らかに不正な世界で残酷な束縛のもとに生きていた。
 異なる文化が同一の世界を全く異なる視点で見ていた。時が経って、アメリカ文化はある程度収束し、それに応じて我々の世界観も収束してきた。まだ膨大な相違が存在するが、18世紀におけるほどの相違ではない。しかし、現在、我々の世界は劇的に変化している。天然資源は枯渇してきているが、人口が増え、人々の身の回りには品物があふれている。今日の急速な技術革新と人口の増大及び資源の大量消費の時代においては、現実の世界は我々の世界観の変化よりも早く変化している。
 我々の世界観の多くの部分は、以前とは物理的に異なる今日の世界と最早調和していない。多くの場合、かつては問題解決のために有効であった観点も、今ではむしろ問題の一部となっている。

 我々が描く2100年のアメリカは、今日、通常に行われている方法とはかなり異なる方法、すなわち有限な一つの惑星(地球)によって負わされる物質的な束縛に対し、より調和する方法、に基づいている。

 人類は、自然界に対し形而上的な関係を再構築するであろう。我々の世界観は最早、地球を人類対自然という形でとらえていないない。人々は、人類は自然の一部であり、多くの生物種の中の一つの種であり、自然界の法則に従わなければならないということを認識するであろう。我々は、自然は征服するというようなものではなく、むしろ、肉体的にも精神的にも全面的に依存しなければならないものであるということを認識するであろう。我々は、天然資源が枯渇しているので、投資しなければならないということを認識するであろう。我々の目標は、広い意味で、生活の助けとなる条件を作り出すことである。

 幾世紀もの間、機械論的物理現象に基づく世界観が西側社会を支配してきた。この世界観の中では個々の作用は大きさの等しい反作用を伴うものであり、これらの反作用を完全に理解するためには、非常に小さいスケールでシステムを研究しなければならなかった。
 生態系や人間系の本来の複雑さをより多く理解すればするほど、常にその結果を予測するということはできないということ、及び、ある以上は減らすことのできない不確実性によって、自然の生態系による生命維持機能が支配されるということを知るようになる。
 良き師である自然による霊感を受けた、複雑さと曖昧さとからなる生態学的世界観、すなわち全体論−統合と柔軟性(訳注:holistic−複雑な体系の全体は, 単に各部分の機能の総和ではなく各部分を決定する統一体であるとする考え方)が、従来の機械論的世界観にとって替わるであろう。

 広大な開拓地のように際限のない空間の世界では、個人主義はふさわしく、そして恐らく必要ですらあったであろう。個人主義は2100年においても依然として非常に重要なものであるが、共通の利益に対する関心によって、もっと強化されるであろう。その結果、個人の活動が共同体に対し悪い影響を与えない限り、共同体は総合的な個人の自由を推進することになるであろう。これにより各個人は、自分たちが社会の一員であり、個人の利益追求のために社会に負担をかけるということは公平ではないということを、受け入れるようになるであろう。
 例えば、環境をひどく汚染している個人占有の自動車への依存を断ち切ろうとする時には、この様な態度が必要となってくる。

 さらに、今日、個人が必要としているものの総和として増大している消費も、今後はそのようには増大しないであろう。人々は、他人が必要としているものや他人の欲求、例えば、喜び、美、好意、参加、創造、自由、理解などに気を配るようになる。かつては、多くの消費への支払いに充てるために猛烈に働かなくてはならなかったので、これらについて気を配る時間もエネルギーもなかったが、強固な共同体を建設することにより、我々はこれらの必要性を満たすことができるようになる。

 従って、高額所得や大量消費によって社会的な評価が高まるのではなく、市民社会や共同体に対し、どれだけ貢献したかが問題となる。

 制限を越えた消費は、物理的に持続可能でなくなるばかりでなく、我々の生活の質を向上させることもないということを理解することにより、われわれは、一定水準に保たれた経済状態が我々に目標であるということを知るようになる。
 一定水準に保たれた経済は、発展の終わりを意味するのではなく、それは単純に我々の経済システムに原材料を導入することを制限し、避けることのできない廃棄物としての生態系への影響を、限られた資源しかない有限の地球から受ける生態学的制約に合致したレベルに制限するということなのである。
 我々は地球が持ち合わせている容量の範囲内で暮らさなくてはならない。我々にはその容量がどのくらいなのか分からないし、その容量は変化する。従って、環境への適応管理を指針原則としなくてはならない。
 太陽光発電が導入されるであろうし、製品には数量ではなく品質が求められる。製品の製造に力点が置かれるのではなく、その製品によりサービスを作り出すことに力点が置かれるであろう。
 我々は、車を必要としているのではなく、輸送を必要としているのである。テレビを必要ととしているのではなく、娯楽が必要なのである。製品は目的に対する手段であり、このことを認識することで、我々の経済は、物理的な意味での成長ではなくて、かつてなかったような形で発展を遂げることができる。

【次回に続く】
ピーター・モンターギュ

[1] Lester R. Brown and others, STATE OF THE WORLD 2001 (New York: W.W. Norton, 2001). ISBN 0-393-32082-0.

[2] Donella Meadows, "Envisioning a Sustainable World," in Robert Costanza and others, editors, GETTING DOWN TO EARTH (Washington, D.C.: Island Press, 1996), pgs. 117-128. ISBN 1-55963-503-7.

[3] Robert Costanza, "Visions of Alternative (Unpredictable) Futures and Their Use in Policy Analysis," CONSERVATION ECOLOGY Vol. 4, No. 1 (February 28, 2000), pgs. 5 and following pages. Available at http://www.consecol.org/Journal/vol4/iss1/art5/inline.html.

[4] Conference facilitators: Sandra Janoff, co-director, Future Search Network (http://www.futuresearch.net/) and Ralph Copleman, consultant (http://www.earthdreams.net/). Conference participants: Audra Abt, senior, environmental studies, Oberlin College; Gar Alperovitz, professor of political economy, University of Maryland; Mary Barber, executive director, Sustainable Biosphere Initiative, Ecological Society of America; Seaton Baxter, professor, University of Dundee, Scotland; Janine Benyus, writer; Paul W. Bierman-Lytle, environmental architect and planner; Grace Boggs, activist, scholar, writer, community organizer and speaker; William Browning, senior consultant, Rocky Mountain Institute; Diana Bustamante, executive director, Colonias Development Council; Warren W. Byrne, managing director, Foresight Energy Company; Mark Clevey, vice-president, Small Business Association of Michigan (SBAM); Jane Ellen Clougherty, research analyst, Center for Neighborhood Technology; Robert Costanza, director, University of Maryland Institute for Ecological Economics; Tanya Dawkins, senior vice-president, United Way; James Embry, board president, Boggs Center for Nuturing Community Leadership (Detroit); Jon Farley, President and CEO, Zarn Enterprises; Josh Farley, Executive Director, University of Maryland Institute for Ecological Economics; Harold Glasser, assistant professor (environmental studies), Western Michigan University; Becky Grella, executive director and president, Aiza Biby; Elaine Gross, executive director, Sustainable America; Gerald Hairston, urban gardener; Sarah Karpanty, co-director and secretary, Aiza Biby; Carol Kuhre, executive director, Rural Action; George McQuitty, professor (law/environmental education), University of St. Andrews (Scotland); Peter Montague, director, Environmental Research Foundation; Dondohn Namesling, Aiza Biby; David Orr, professor (environmental studies and politics), Oberlin College; John Petersen, assistant professor (environmental studies and biology) Oberlin College; William Prindle, Alliance to Save Energy; Tom Prugh, writer, consultant to Energy Information Administration; Jack Santa-Barbara, M.D.; Claudine Schneider, co-chair, U.S. Committee for the United Nations Development Program; Ben Shepherd, Rocky Mountain Institute; Megan Snedden, economic development coordinator, Colonias Development Council; Karl Steyaert, The Center for a New American Dream; Theodore Steck, M.D., professor (biochemistry and molecular biology), University of Chicago; Harvey Stone, vice president of marketing, BizBots; Paul Templet, professor (environmental studies), Louisiana State University; Mary Evelyn Tucker, professor, the Center for the Study of the World's Religions, Bucknell University; Sarah van Gelder, executive editor, YES! magazine; Rafael Vargas, Aiza Biby; Verlene Wilder, King County (Washington) Labor Council.

[5] Sandra Janoff and Marvin Weisbord, FUTURE SEARCH: AN ACTION GUIDE TO FINDING COMMON GROUND IN ORGANIZATIONS AND COMMUNITIES (San Francisco: Berrett-Koehler, revised edition, 2000; ISBN 1-57675-081-7)
See http://www.futuresearch.net


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