レイチェル・ニュース #719
2001年3月1日
バイオテクの基本−4(最終回)
レイチェル・マッシー
#719 - Biotech: The Basics -- Part 4, March 1, 2001
By Rachel Massey
http://www.rachel.org/?q=en/node/5275

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2001年3月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_01/rehw_719.html



 バイオテク企業は、アメリカ国民及び世界中の人々が、遺伝子組み換え作物の生態系及び人間の健康に対する安全性テストをアメリカ政府が完全に実施していると信じることを望んでいる。アメリカの3つの機関−米食品医薬品局(FDA)、米農務省(USDA)、及び米環境保護局(EPA)は遺伝子組み換え食品について責任があるが、アメリカで売られている遺伝子組み換え食品が生態系及び人間の健康に及ぼす影響についてのテストを受けているということを保証していない。遺伝子組み換え技術の開発をあまりにも急ぎ過ぎたために、安全性テストが欠落してしまった。

 また、バイオテク企業は、遺伝子組み換え食品は人々に受け入れられたと我々が信じることを望んでいる。実際には、遺伝子組み換え食品はそのことの表示がないので、人々は購入したり食べるにあたって、遺伝子組み換え食品であるかどうかを知ることもできなければ、選択することもできない。

米食品医薬品局(FDA)

 米食品医薬品局(FDA)は1992年に、遺伝子組み換え食品に関する基本的な方針を発表した。その方針のもとに、遺伝子組み換え食品は製造者の判定書の中に懸念を引き起こすような理由が見つからない限り、“一般的に安全である generally recognized as safe (GRAS)”とFDAは考えている[2, pg. 22990] 。“一般的に安全である(GRAS)”とみなされた食品は、市場に出す前の安全性テストを要求されない。

 FDAは、安全性テストが必要性かどうかはその食品の特性によるものであり、その食品を作りだした方法によるものではない、と述べた。言い換えれば、遺伝子組み換えで作られたというだけの理由では、安全性テストを実施させることはできないということである[2, pgs. 22984-5]。

 FDAの1992年の方針によれば、遺伝子組み換え食品は、“それが従来のものとは異なり、従来の品名が適用できない様な新製品であったり、安全性や使用上の問題で消費者に知らせなければならないようなことが存在するならば”、表示されなければならないとしている[2, pg. 22991] 。
 例えば、ピーナッツの遺伝子を含むトマトは、ピーナッツアレルギーの人にそのことが分かるよう、表示が必要であるとしている[2, pg. 22991] 。しかし、FDAはこの種の危険があるかどうかの判断はバイオテク企業に任せている。このFDAの非表示方針のために、我々は朝食のコーンフレーク等の穀物食品が脂肪やコレストロール、ナトリウム、カリウム、炭水化物、タンパク質等を含むことは知ることができても、それが抗生物質耐性遺伝子やウィルス性プロモーター、あるいは通常はバクテリアのみが生成するタンパク質等を含んでいるかどうかということについては知ることができない(参照 REHN #716, #717, #718.) 。

 1998年に、非政府組織の連合や科学者達が、FDAはその法的義務を全うしていないとして訴訟を起こした。その裁判の過程で、FDAは、FDAのスタッフである科学者達が1992年の方針に強く反対したことを示す内部文書を公開させられた[3](参照 REHN #685.) 。

 また、その裁判でFDAは、アメリカで最初に市場に出された遺伝子組み換え食品である“フレーバー・セイバー・トマト”の安全性評価についての詳細書類を公開させられた。それによれば、フレーバー・セイバー・トマトを開発したカルジン社は、ラットに遺伝子組み換えトマトを与えて行った3つの安全性テストの結果をFDAに提出した。28日間、ラットにフレーバー・セイバー・トマトを与えた後に、ラットの胃の内部を検査した。3つの検査からは矛盾した結果が出たが、カルジン社はその矛盾を説明することができなかった。一番目の検査では、なんら異常は認められなかった。二番目の検査では、遺伝子組み換えトマトを与えたラットのいくらかは胃の内部がただれていた。三番目の検査では、遺伝子組み換えトマトを与えたラットのいくらか、及び、通常のトマトを与えたラットのいくらかは胃の内部がただれていた[4]。
 カルジン社はこれらの胃のただれは遺伝子組み換えトマトを食べたこととは無関係であると結論付けたが、なぜただれができたかについての説明はなかった。
 カルジン社のデータをレビューしたFDAの科学者は、カルジン社は3つのテスト結果が異なることについて説明できないのだから、この検査から導かれるどのような科学的な結論についても、その有効性には疑義がある、と述べた[4]。
 FDA内部のスタッフから疑義が上がったにもかかわらず、FDAはフレーバー・セイバー・トマトを“一般的に安全(GRAS)”な分類とし、市場に出すことを認可した。(フレーバー・セイバー・トマトの売れ行きは良くなかったので、いつの間にか店頭からは姿を消した)[1, pgs. 83-84] 。

 2001年1月、FDAは遺伝子組み換え食品に関する新しい規制案を提出した。この規制案でも、市場出荷前の安全検査および表示のいずれについても義務付けていない[5]。FDAは「現在、市場に出回っている遺伝子組み換え食品の安全性について疑義を抱かせるような新たな科学的な情報は出ていない」とし、再度、遺伝子組み換え食品は“一般的に安全(GRAS)”であると言明した[6, pgs. 4708-9] 。

 このような主張を正当化するために、FDAは、過去数年間に示された科学的な情報を無視しなければならなかった。2000年3月、食品安全センターとそのパートナー組織は、FDAは市場出荷前テスト、環境への影響評価、及び全ての遺伝子組み換え食品の表示を実施するよう求めて、法的な請願書を提出した。その請願では、遺伝子組み換え技術に関連する安全性の懸念についての新たな科学的な証拠を徹底的にレビューすることも求めている[7]。

 FDAの規制案における主要な新要求事項は、遺伝子組み換え食品の製造者は新製品を市場に出す120日前までにFDAに知らせなければならないということである。“遺伝子組み換え市場出荷前通知(PBN)”として知られるこの通知は、その製品が抗生物質耐性マーカー遺伝子を含むかどうか、あるいは、アレルギー反応を引き起こすかどうか、というような様々な情報を含むことになる。
 FDAは、このPBNリストを一般に公開するが、そのリストは完全なものではないかもしれないとしている。場合によっては、PBNが存在すること自体が“企業秘密”となることもあり得るとFDAは述べている[6, pg. 4723]。
 結論として、FDAの規制案では、企業は一般への情公開なしに遺伝子組み換え食品を市場に出すことができることになる。FDAの規制案は、2001年4月3日までパブリック・コメントとして一般の意見募集が行われている[5] 。

 FDAはまた、表示を自主的に行うにあたっての、法的には拘束力のない指針を提案している。この指針案は明らかに、遺伝子組み換え作物を使用している企業用には作られていない。企業にとっては製品中に何が含まれているかを消費者に告げても、何も得るものがないからである。この指針案は、“バイオテク・フリー”であるとか“遺伝子組み換え原料は使用していない”といった表示をすることを認めていない。その結果、この指針案は、消費者の自分たちが買おうとしているものについて知る権利を侵害し、有機食品やその他の食品製造者の自由な発言を制限する恐れがある。
 FDAは、通常の食品には遺伝子組み換え製品が混じっていることがあり得るので、これらの表示は多くの食品について誤解を与えるとしている。さらに、FDAは、これらの表示は非遺伝子組み換え食品の方が組み換え食品よりも優れているという印象を与え、このことが誤解を与えると述べている[8, pg. 4840]。

米国農務省(USDA)

 米連邦の植物有害生物法によれば、米国農務省は“植物に有害な生物(plant pests)”の規制に責任がある。農務省は、もし植物に有害な生物として公式に登録されているバクテリアなどからの遺伝子を含む植物ならば、その遺伝子組み換え植物は“植物有害生物”である可能性があると考えている[1, pg.109] 。
 認定された“植物有害生物”の遺伝子を使用していない遺伝子組み換え植物は、農務省の規制対象外となる。たとえ“植物有害生物”の遺伝子が使われていても、製造者はその組み換え植物自体が“植物有害生物”であるかどうかを自分の裁量で決定することができるとしている。
 農務省は、製造者がこの決定を行うに当たり、どんなデータを考慮すべきかについて明らかにしていない[1, pgs.110-111] 。

 農務省の規則によれば、“植物有害生物”と考えられる遺伝子組み換え作物は、商業ベースでの栽培の認可を受ける前に、テスト栽培の認可を受けなくてはならない。テスト栽培を実施した後に、遺伝子組み換え作物の開発者は、商業ベースの栽培を農務省の監督なしに行うことができる“非規制状態”の申請を行うことができる。
 農務省は、どのようなデータを“非規制状態”の申請時に提出するかは、開発者が決めてよいとしている[1, pg. 111]。『アメリカン・サイエンティスト』誌の最近の記事によれば、企業が農務省に提出したテスト結果の多くはお粗末なもので、出るかもしれない有害な影響をテスト結果から見出すことはできそうにもないとしている[9]。

米環境保護局(EPA)

 すでに我々はREHN #716で見た通り、作物にバチルス菌(Bt)の遺伝子を組み込むことにより、ある種の昆虫を殺すようにすることができる。米環境保護局(EPA)は、農薬を規制する権限を有するので、それ自体が農薬であるこれらの遺伝子組み換え植物が健康と環境へ与える影響について評価する責任がある。

 EPAは農薬作物を5年間認可登録するが、それらの認可登録に関する決定はケースバイケースで対処しており、遺伝子組み換え作物によって引き起こされるかも知れない危険性に対する標準テスト・システムは持ち合わせていない[1, pg. 176] 。
 EPAは、BtコーンとBt綿の栽培を続けても安全かどうかを決定するために、過去の登録データを調査中であると述べた[10]。

 EPAが食用作物に使用する化学的農薬を認可登録するに当たっては、許容レベル、すなわち食品に残留しても許容できる量を決めている。しかし、全ての農薬作物に関しては、このことを実施していない[1, pg. 106] 。
 農薬作物を栽培することはBt耐性害虫の発生を促すことになる(参照 REHN #637, #718.)。この危険性について十分な科学的知識があるにも関わらず、EPAは耐性管理のための規制を1999年まで行わなかった。この耐性管理のための規制により、Btコーンを販売する企業は、農家がBtコーン畑の周縁に通常のコーンを“安全地帯”として栽培することを実施させる責任がある。このアイデアは、ある昆虫は通常のコーンだけを食べるであろうから、それらの昆虫が耐性害虫の数が増えることを避ける役目をはたすであろうというものである[1, pgs. 106-7] 。

 過去5年間、企業は、強力な新しい技術を、その基本的な作用について十分理解しないまま我々の食品システムの中に導入してきた。政府の各機関は、これらの技術が生態系と人間の健康に対しどのような影響を与えるのかについての重要なデータを収集することを怠ってきた。前にも言ったが、もう一度言う。我々は計器(盲)飛行を行っている。

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レイチェル・マッシー
Environmental Research Foundation (ERF) のコンサルタント
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謝辞
 Charles Benbrook, Caroline Cox, Michael Hansen, Ellen Hickey, Sheldon Krimsky, and Joseph Mendelson の諸氏には、今回のシリーズのそれぞれの部分についてレビューしていただいたことを感謝します。

[1] Thomas O. McGarity and Patricia I. Hansen, BREEDING DISTRUST: AN ASSESSMENT AND RECOMMENDATIONS FOR IMPROVING THE REGULATION OF PLANT DERIVED GENETICALLY MODIFIED FOODS. Report prepared for the Food Policy Institute of the Consumer Federation of America, January 11, 2001. Available at http://www.biotech-info.net/Breeding_Distrust.html.

[2] U.S Food and Drug Administration (FDA), "Statement of Policy: Food Derived from New Plant Varieties," FEDERAL REGISTER Vol. 57, No. 104, May 29, 1992, pgs. 22984-23005. Available at http://vm.cfsan.fda.gov/~lrd/fr92529b.html

[3] Marion Burros, "Documents Show Officials Disagreed on Altered Food," NEW YORK TIMES December 1, 1999. Available at http://www.biotech-info.net/officials_disagree.html.

[4] Fred A. Hines, "FLAVR SAVR Tomato (Pathology Review PR-152; FDA Number FMF-000526): Pathology Branch's Evaluation of Rats with Stomach Lesions from Three Four-Week Oral (Gavage) Toxicity Studies (IRDC Study Nos. 677-002, 677-004, and 677-005) and an Expert Panel's Report." Memo to Linda Kahl, Biotechnology Policy Branch, June 16, 1993. Available at http://www.bio-integrity.org/FDAdocs/17/fhlkp.pdf

[5] See Joseph Mendelson, "The Food and Drug Administration's New Proposal on Genetically Engineered Foods: First Draft Analysis," January 17, 2001. Available at http://www.centerforfoodsafety.org/facts&issues/CFSNewFDAAnalysis.html?cam_id=70.
Also see this web site for information on writing to FDA about the proposed regulations.

[6] U.S. Food and Drug Administration (FDA), "Premarket Notice Concerning Bioengineered Foods," FEDERAL REGISTER Vol. 66, No. 12, January 18, 2001, pgs. 4706-4738. Available at http://www.centerforfoodsafety.org/FRPremarketNotice.html?cam_id=70.

[7] Center for Food Safety and others, "Citizen Petition Before the United States Food and Drug Administration."
Available at http://www.centerforfoodsafety.org/li/FDApetition.html.

[8] U.S. Food and Drug Administration (FDA), "Draft Guidance for Industry: Voluntary Labeling Indicating Whether Foods Have or Have Not Been Developed Using Bioengineering; Availability," FEDERAL REGISTER Vol. 66, No. 12, January 18, 2001, pgs. 4839-4842. Available at http://www.centerforfoodsafety.org/FRVolLabel.html

[9] Michelle Marvier, "Ecology of Transgenic Crops," AMERICAN SCIENTIST Vol. 89, No. 2 (March-April, 2001), pgs. 160-167. Available at http://americanscientist.org/articles/01articles/Marvier.html.

[10] See Union of Concerned Scientists, "Bt Crop Renewals," http://www.ucsusa.org/food/btcrops.html.



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