レイチェル・ニュース #717
2001年2月1日
バイオテクの基本−2
レイチェル・マッシー
#717 - Biotech: The Basics -- Part 2, February 01, 2001
By Rachel Massey
http://www.rachel.org/?q=en/node/5252

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2001年2月11日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_01/rehw_717.html



 前号で、遺伝子組み換え食品を食べることにより、予期しないアレルギー性反応や毒性、また抗生物質耐性などの危険が生じることがわかった[1]。
 遺伝子操作には厳密性も予見性もなく、”遺伝子技術者”は、基本的な細胞の機能についての指示情報を十分に理解もせずに遺伝子組み換えを行っている。
  • 予期出来ない結果が生じる原因の一つは“効果促進(promoter)”遺伝子を使用することにある。REHW #716で見てきたように、遺伝子技術の狙いは、一つの生体組織から遺伝子を取り出して、それを他の生体組織に組み込むことである。しかし、生体組織は、外部遺伝子がらの影響を防ぐための防御機能を働かせようとするので、例えば、あるバクテリアから植物に組み込まれた遺伝子は、新しい組み込み先で必ずしも自動的にその機能を発揮するとは限らない。組込先の生体組織の防御機能にうち勝ち、新しい遺伝子の機能を発揮させるために、外部遺伝子を活性化するための遺伝子スイッチである”効果促進”遺伝子を加える必要がある。

     多くの場合、効果促進遺伝子としてカリフラワー・モザイク・ウィルスと呼ばれる植物ウィルスが用いられる。CaMV 35Sとして知られる効果促進遺伝子は、他の遺伝子の特性を過度に発揮させる効果をもつ。遺伝情報を含むプロティンが過大に、恐らく通常の10倍から1000倍のレベルで生成されると遺伝子の特性は過度に発揮される。CaMV 35Sは非常に強力なので、目標とする遺伝子だけではなく、近くの他の遺伝子をも活性化してしまい、その結果、組み換えを行った細胞に新たな特性をもたらすかも知れない[2]。

  • 植物は、外部DNAの発現を阻止しようとする“遺伝子抑制(gene silencing)”現象により、外部遺伝子情報の影響を受けることを防ごうとする。遺伝子抑制は、遺伝子を組み換えられた植物中において予測できない仕方で起きる。例えば、最近の研究において、CaMV 35Sに関連するカリフラワー・モザイク・ウィルスの影響により、新たに組み込まれた除草剤耐性が遺伝子抑制されてしまったと報告されている。明らかにその植物はウィルス性遺伝子に抑制作用を起こし、その影響を受けないよう自己防御したのである。同時に他の新しく組み込まれた遺伝子の特性(除草剤耐性)も抑制した[3]。

  • 遺伝子組み換え食物もまた、実験動物に対し説明の出来ない健康上の影響を与えている。スタンレー・ユーエンとアルパド・プズタイは英医学誌ランセットでの論文で、遺伝子組み換えポテトを与えたラットに関する研究について報告している[4]。そのポテトはガランサス・ニバリス免疫凝集素(GNA)として知られ、通常マツユキソウ(花の一種))中に見られる物質を生成するよう意図されていた。GNAを生成させる目的はある種の昆虫と病気に対して耐性を持たせることにあった。

     ユーエンとプズタイは3群のラットで実験を行った。第一のグループにはGNAを生成するよう意図された遺伝子組み換えポテトを与えた。第二のグループにはGNAを含まない通常の非遺伝子組み換えポテトを与えた。第三のグループには通常の非遺伝子組み換えポテトにGNAを微量混ぜたものを与えた。ユーエンとプズタイは各グループの消化器官中で起こる変化について観察した。

     その結果、遺伝子組み換えポテト又はGNAを微量に混ぜた非遺伝子組み換えポテトを食べたラットの胃に、ある変化が生じることを見出した。さらにGNAを生成する遺伝子組み換えトマトは腸内にもある変化を生じることを見出したが、これはGNAを混ぜた非遺伝子組み換えポテトでは発生しない変化であった。ユーエンとプズタイにはこれらの変化が生じる理由は分からなかった。これらの変化は、外部遺伝子が組み込まれた“位置の影響”、すなわち、組み込まれた外部遺伝子に近接する既存の遺伝子が影響を受けて、その遺伝子の通常の機能をかく乱したのかも知れない。あるいは目標遺伝子と一緒に組み込まれた他の遺伝子物質、例えば効果促進遺伝子等の影響かも知れない。

     プズタイは、彼らの実験結果を公表した後に、スコットランドのロウェット研究所における研究職を辞めることを余儀なくされた(SREHW #649参照)。彼のランセット誌での論文は遺伝子組み換え品であるのに、その表示がないまま食料品店で販売されている食品について動物実験を行った数少ない研究報告の一つである。

  • 場合によっては、遺伝子組み換えにより、組み換え穀物の栄養成分が変化してしまうこともある。ある研究によれば、グリホサート耐性大豆は、健康に良いとされる大豆のイソフラボン(黄色植物色素の基本物質)の自然生成量を変えてしまう[5]。このような変化がもたらす結果は、些細であることもあるし、深刻な問題となることもある。重要なことは、そのような遺伝子組み換えの行われた大豆やトウモロコシやその他の食品を食べた時に、過去には摂取したことのないような栄養成分を取り込むことになるということである。遺伝子組み換え食品にその表示がない限り、我々はその食品を食べるべきかどうかを選択するのに必要な情報を得ることができない。
 昨秋、遺伝子組み換えトウモロコシであり、人間に対しアレルギー反応を引き起こす恐れがあるために家畜の飼料用にしか認可されていない“スターリンク”がアメリカの食料品店で販売されているトウモロコシ製品に混入していることが発見された[6]。
 NGOである地球の友(Friends of the Earth)がこの混入の事実を“遺伝子組み換え食品への警鐘”(Genetically Engineered Food Alert)連合の全国運動を行う中で発見した。本来政府が責任をもって行うべきこの食品検査を地球の友が実施していなければ、我々は健康にどのような影響が出るかも分からないような認可されていないトウモロコシを食べ続けるところであった。
 我々には、これ以外にどのような誤りが既に犯されているのか知ることが出来ない。そして我々には何時、遺伝子組み換え食品を食べたのか分からないのだから、病気になってもそれがそれらの食品を食べたことによるものかどうかについて知る術もない。
 遺伝子組み換え食品が急速に無制限に我々の食材に導入されることに賛成する人々は、しばしば、遺伝子組み換えは何も新しい技術ではなく、単に農業における従来の品種改良の延長に過ぎないと主張する。これに対し消費者連盟(Consumers Union)のミカエル・ハンセンは、その明かな相違について次のように述べている[2]。

* 遺伝子組み換えは種の境界を超えて行われる

 従来の品種改良では遺伝子情報の伝達は同一種、あるいは関連種、あるいは非常に近い属(複数の種を含む生物分類)の間でだけ行われていた。一方、遺伝子組み換えではどのような生体組織の間(例えば、魚から果物へ、バクテリアから野菜へ)でも遺伝子情報の伝達が行われる。

* 遺伝子が組み込まれる場所

 一つの遺伝子の異性体は対立遺伝子(allele)といわれる。遺伝子は染色体中に運ばれ、各遺伝子は染色体中の所定の場所に納められる。従来の品種改良では既存遺伝子の対立遺伝子を組み換える。一般的に従来の品種改良では、染色体中の遺伝子をある場所から他の場所に動かす様なことはしない。一方、遺伝子組み換えでは目標とする生体組織の染色体中には存在しなかった遺伝子を組み込む。これらの遺伝子は染色体中で予測できない場所に組み込まれ、植物に予期できない変化をもたらすことがある。

* 余分な遺伝子物質

 遺伝子組み換え食品は、目標とする特性とは無関係な、余分な遺伝子物質を含んでいる。この余分な遺伝子物質としては、自然界の境界を超えて遺伝子を伝達するために加えられる媒介遺伝子(vectors)や外部遺伝子を活性化するために加えられる効果促進遺伝子(promoters)、さらには目標とする遺伝子がうまく組み込まれたかどうかを確認するために加えられるマーカー遺伝子(marker genes)、及び遺伝子技術者が非意図的に組み込んでしまう不特定な遺伝子などがある。以下にこれらについて簡単に述べる。

  1. 媒介遺伝子(vectors)

     遺伝子組み換えでは、目標とする細胞に遺伝子を組み込む時にウィルスやバクテリアからとり出した“媒介遺伝子(vectors)”をしばしば使用する。よく使われる媒介遺伝子は、植物の遺伝子コードにDNAを組み込むことで植物内に腫瘍(突出部)を引き起こすバクテリアであるアグロバクテリア・テューマフェイシェンス(AGROBACTERIUM TUMEFACIENS)からとり出される。国立科学アカデミー・プロシーディング誌2001年1月号に発表された研究報告では、アグロバクテリアはDNAを人間の細胞内にも同様に組み込むことが出来るとしている[7]。
     自然の条件下でアグロバクテリアが植物に感染すると、その遺伝子は感染した部位にだけ取り込まれる。それらは植物全体には伝搬しないし、次世代にも伝承しない。これとは対照的に、アグロバクテリアが遺伝子組み換えで媒介遺伝子として使用される場合には、組み込まれた植物及びその後継世代は全細胞にアグロバクテリア遺伝子を含むようになる。
     従来の品種改良では媒介遺伝子を必要としない。

  2. 効果促進遺伝子(promoters)

     既に述べたように、ほとんどの遺伝子組み換え穀物は、外部遺伝子を活性化し、通常の細胞が持つ防御機能にうち勝つためにCaMV 35Sのような効果促進遺伝子を含んでいる。ウィルス性の効果促進遺伝子など従来の品種改良では必要としない。

  3. マーカー遺伝子(marker genes)

     既にREHW #716で述べたように、遺伝子組み換えでは抗生物質耐性のマーカー遺伝子を使用するが、従来の品種改良では必要としない。

  4. 非意図的な不特定な遺伝遺伝子

     遺伝子技術者は、時には知らずのうちに余分な遺伝子物質を目標とする細胞に組み込んでしまう。例えば昨春、モンサントのラウンド・アップ・レディ(グリホサート耐性)大豆には、同社の遺伝子技術者も気づかなかったDNAの切片が組み込まれていたということを新聞が報道している[8]。

 これらの相違に基づき、ある人々は遺伝子組み換えは従来の品種改良とは大違いだと言うし、またある人々は、ちょっと違うだけではないかと言う。どちらにしてもこれらの相違は、政府が遺伝子組み換え食品を規制すべきであるということを示唆している。少なくとも政府は会社に対し、市場に出す前に遺伝子組み換えに関わる安全性テストを実施するよう、また市場に出すことの認可を受けたものには組み換え食品である旨、商品に表示するよう要求すべきである。

【次回に続く】

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レイチェル・マッシー
Environmental Research Foundation (ERF) のコンサルタント
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[1] For a thorough collection of resources on agricultural biotechnology, see AgBioTech InfoNet, maintained by Benbrook Consulting Services at http://www.biotech-info.net

[2] Michael K. Hansen, "Genetic Engineering is Not an Extension of Conventional Plant Breeding; How Genetic Engineering Differs from Conventional Breeding, Hybridization, Wide Crosses, and Horizontal Gene Transfer," available at http://www.consumersunion.org/food/widecpi200.htm. Also see Michael Hansen and Ellen Hickey, "Genetic Engineering: Imprecise and Unpredictable," in GLOBAL PESTICIDE CAMPAIGNER, Vol. 10, No. 1, April 2000, available from Pesticide Action Network (415-981-1771; panna@panna.org).

[3] Nadia S. Al-Kaff and others, "Plants Rendered Herbicide-Susceptible by Cauliflower Mosaic Virus-Elicited Suppression of a 35S Promoter-Regulated Transgene," NATURE BIOTECHNOLOGY Vol. 18 (September 2000), pgs. 995-999.

[4] Stanley W. B. Ewen and Arpad Pusztai, "Effect of Diets Containing Genetically Modified Potatoes Expressing GALANTHUS NIVALIS Lectin on Rat Small Intestine," THE LANCET Vol. 354, No. 9187 (October 16, 1999), pgs. 1353-1354.

[5] Marc A. Lappe and others, "Alterations in Clinically Important Phytoestrogens in Genetically Modified, Herbicide-Tolerant Soybeans," JOURNAL OF MEDICINAL FOOD Vol. 1, No. 4 (July 1999), pgs. 241-245.

[6] Andrew Pollack, "Case Illustrates Risks of Altered Food." NEW YORK TIMES October 14, 2000. Available at http://www.biotech- info.net/altered_food.html

[7] Talya Kunik and others, "Genetic Transformation of HeLa Cells by AGROBACTERIUM," PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES, published online before print (January 30, 2001). Full text available for U.S. $5 at http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.041327598.

[8] James Meikle, "Soya Gene Find Fuels Doubts on GM Crops," THE GUARDIAN (London) (May 31, 2000). Available at http://www.guardianunlimited.co.uk/gmdebate/Story/0,2763,326569,00.html
Also see "Monsanto GM Seeds Contain 'Rogue' DNA," SCOTLAND ON SUNDAY (May 30, 2000). Available at http://www.biotech- info.net/Rogue_DNA.html



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