レイチェル・ニュース #715
2001年1月4日
内部告発者のための手引き
ウィリアム・サンジュア
#715 - A Textbook for Whistle-blowers, January 04, 2001
By William Sanjoury
http://www.rachel.org/?q=en/node/5244

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2001年1月17日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_01/rehw_715.html



 企業の力はますます強くなっているので、政府のあらゆるレベルにおいて、法を守らせることの責任を放棄しつつある。政府は企業による“自発的な遵守”に頼ろうとしている。このような状況なので、告発者の役割が重要となってきている。しばしば告発者は危険な違法行為から社会を守る唯一の力となる。告発者は、企業や政府機関における浪費や不正、濫用、人々の健康に対する脅威、等を、しばしば大きな個人のリスクの下にあえて告発する“インサイダー”である[1]。

 最近の、内部告発の例を挙げると:
  • 2000年8月、ロス警察の40人は、上司が警察官の違法行為を報告した内部告発者を罰することによって、警察官達に対し”沈黙の掟”を強制したとして告訴した[2]。
  • 1994年10月、連邦政府の環境検査官として20年のキャリアがあるスティーブ・ジョーンズは、ユタ州トゥーエル陸軍補給所で業者が請け負っている化学兵器の焼却炉運転で500件以上の安全違反行為があると報告したために、首になった。 テイラーは彼の雇い主である請負業者が、作業者が吸えば即座に危険に陥る神経毒性ガスを放出しているのに手を打たず、その事実を隠そうとしていたと証言した[3]。
  • 1998年11月、ヘルスケア企業の従業員達は200以上の病院が14年間にわたって虚偽の支出を申告して数億ドルを連邦政府の医療プログラムから詐取していたと告発した。
  • 1996年、米環境保護局(EPA)の生物学者デビッド・ルイス博士は、農場で使用することをEPAが承認した下水汚泥は大腸菌やサルメネラ菌、肝炎ウィルス等の病原体で汚染されているので、人々の健康に脅威を与えると警告しようとしたが、EPAの彼の上司によって、沈黙を強いられた[5]。
 これらは公共の利益を守ろうとしている内部告発者の例である。
 今週は、長年、米環境保護局(EPA)に勤務され、また自身が内部告発者でもあるウィリアム・サンジャーさん(REHN #350, #392, #484, 及び #612 を参照)に、内部告発者とその弁護士のための新しい本について紹介していただく。この本は、ワシントンにある国立内部告発センター( National Whistleblower Center)の創設者であるステファン・コーン[6]によって書かれたものである。
−ピーター・モンターギュ


内部告発者の手引き
ウィリアム・サンジャー

 企業や政府の浪費や不正、濫用等を既に告発した人、これから告発しようと真剣に考えている人、また内部告発者を励まし支援している活動家や組合の人は誰でも、内部告発者を保護する法律についてよく知る必要がある。法律はたくさんある。良い法律、厳しい法律、強制力のある法律。しかしまた、よく知っていないとひどい目に遭う不備や落とし穴もたくさんある。

  スティブ・コーンは優れた内部告発者の弁護士であり、州及び連邦政府の内部告発者を保護する法律に関する第一級の本を書いた。この本は主に弁護士のために書かれたものであるが、法律の門外漢に対しても、法の不備や落とし穴を避け、法律による保護を上手に受けられるようガイドラインを与えている。

 自分自身の経験に照らしても、法に関する誤解があり、そのために、環境告発をしようと思っている人々が行動を起こせなかったり、最善の選択を出来なかったり、あるいは報復からの法的保護を求めるこが出来なかったというようなことがあった。

 第1の誤解は、内部告発者は、雇い主が彼ら対して行った敵対行為が、まさしく内部告発への報復であるということを証明することができないのではないかという不安である。首にはしないまでも、内部告発に対する報復は通常、閑職や敵意ある職場への配置転換、等の嫌がらせの形をとる。管理者は通常、このような措置に対し合理的に見える説明をする。曰く、あなたの業務効率は標準より劣る、あるいは、組織として配置転換が必要である。そこで内部告発者は、それらの措置が内部告発に対する報復としての嫌がらせであるということを自分自身で証明しなくてはならないと思いこむ。 内部告発者は、しばしば、それを非常に重荷に感じる。しかし実際には、多くの場合、その様な必要はほとんどない。コーは、連邦政府上訴審の例を次のように挙げている。

 「一方、内部告発したこにより不利な人事措置がなされたという状況証拠により、原告がそれを報復であると感じるのはもっともであり、その人事措置に関する説明責任は被告側にある。被告はその人事措置がとられた理由を彼女の業務効率が悪いからとだけ述べるのではなく、その措置は彼女の内部告発がなくてもとられたであろうということを、説得力のある証拠によって明快に証明しなければならない」。

 何か書き物で残しておくことにより、雇い主の差別的な動機についての証拠とすることが出来るし、その説明責任を雇い主側に求めることが出来る。コーはこれらについて32の事例を挙げている(268-270頁)。その幾つかを示すと:
  • 内部告発の前は業務効率に関する評価点は高かったのに、その後では評価点が低くなった
  • 内部告発の直ぐ後で懲戒、配置転換、雇用契約の打ち切りが行われた
  • 内部告発の前と後で、管理者あるいは上司の態度が変わった
  • 以前には従業員に対する苦情はなかった
  • 原告に対する待遇と他の従業員に対する待遇が異なる
  • 雇用契約の打ち切り、または配置転換を行う前に警告を発していない
  • 慣用となっているこを変えようとする
  • 不利益な行為に対する雇い主の説明に矛盾がある


 この証明責任に関する誤解は雇い主側にもよくある。しばしば、雇い主は内部告発者を懲らしめたり黙らせたりするために、一見合理的に見える理由を付けさえすれば、何でも出来ると横柄にも信じている。もし内部告発者が、法律を理解していれば、雇い主のこの態度は、むしろ有利に働く。

 内部告発者は、もし法律を知っていれば雇い主に罪があることを示すことも出来る。例えば、私がEPAの危険廃棄物に関する規制について内部告発して直ぐ後に閑職に配置転換された時に、上司は部屋に私を呼んで、私の配置転換に対する妥当性について説明した。彼が行った説明の内容はEPAの内規に反するものであるということが分かっていたが、私は黙って聞いていた。その会談の後で私は彼の行った説明の内容を丁寧にメモにまとめて彼に送付した。彼はいくつかのマイナーな訂正をして返送してきた。このメモは後に、私の配置転換に対する異議申し立てを認めさせるのに役に立った。アメリカでは7つの州を除く全ての州で、上司との会話を上司に知らせずにテープに録音することが合法である。

 第2の誤解は、内部告発者あるいは内部告発をしようと考えている人々にとって、告発しようとしている行為が実際には違法ではなかった場合、不都合なことになるのではないかという懸念である。なんといても、環境に関する法律は非常に複雑で狡猾に出来ている。多分意識的に。

 例えば従業員が、会社が有毒廃棄物を自治体の廃棄物処分場に不法投棄しているという事実を目撃するかも知れない。彼が会社にそれをやめさせようとしても会社はやめない。EPAの規制に逃げ道があるために、彼の管理者は、その廃棄物は“技術的には”危険廃棄物ではないと請け合う。彼にはそれが事実かどうか分からないが、その行為は危険であると信じている。彼はその投棄について告発したいが、もしその投棄が合法的であった場合、あるいはその投棄は危険ではないと会社が当局を説得した場合、会社側の報復措置に対し法が彼を守ってくれるのかどうか彼には分からない。コーンは、そのような心配は不要だと以下のように述べている(264頁) 。

 「内部告発者を保護するほとんどの法律では、従業員はその告発内容の有効性について証明する義務を負わない。もちろん内部告発する安全や法に関する事柄に関しては、実際に違法が行われた信じる“良心”に基づく必要があるが、この“良心”は適用法規や規制に対し“合理的に認知した違法”に基づくものである。従業員は告発内容の基礎となる正確さや安全性に対する精度を証明する義務は負わない」。

 第3の誤解は、恐らく、映画『SILKWOOD』などにあるように、法的な保護を受けるためには、報復が明白であり厳しい内容のものでなくてはならないと考えることである。実際には法廷で、多くの小さい形のものも以下のように報復行為として認められている(243頁)。

 「原子力及び環境に関する内部告発を保護する法では 、労働省(Department of Labor - DOL)は従業員が報復措置を恐れることがないよう不当労働行為に対する定義に幅広い解釈を与えている。雇い主が従業員に対して行う多くの行為、例えば、従業員の職務をなくしたり、困らせたり、恥をかかせたり、配置転換したり、降格したりするすること;“建設的な解雇”(あるいは労働条件を厳しくして、結果として辞めざるを得ないようにすること);ブラックリストに載せること;懲戒文書を発行すること;望まない職務に就かせること(給料や待遇は変えなくても);勤務評価で否定的なコメントをすること;“業務適正性”検査により心理的に圧力を加えるこ;昇進をさせないこと;従業員が能力を発揮できないような職場に配置転換すること;不利益なことを記したメモを回覧すること;勤務場所を変えたり、駐車をさせなかったり、厚生施設を使わせないこと。これらは全て違法な差別行為である」。そしてその他、多くの多くの雇い主による否定的な行為・・・(241-247)。

しかし、これだけでは決して満足ではない。多くの落とし穴がある。たとえ法廷が証拠の採用に当たって内部告発者に寛大であったとしても、彼らは手続きについて細かいことをいう。正義より正確さの方を重要視する法廷は、アメリカ最高裁判所だけではない。コーは次のように述べている(5頁)。

 「内部告発者を保護する多くの法律の主な弱点は、提訴のための有効期間が短いということである。時効に持ち込む手法は、内部告発の審理における雇い主側の共通した防御の仕方である。有効期間は通常、従業員が報復を認識した時から始まる。雇用の最終日からではない」。

 多くの場合、有効期間はたったの30日である。言い換えれば、 もし内部告発者が雇い主側の不当行為を認識したら、30日以内に書類を添えて当局に提訴しなければならない。ほとんどの場合、不当行為は不条理な非難や職務の変更など姿が見えにくいものなので、内部告発者がそれを不当行為であるとはっきり認識するのに時間がかかる。さらにそれを誰かに相談したり、当局へ提訴するための書類を整えたりするのにはさらに時間がかかる。

 連邦政府職員は多くの法律によって保護されており、最も強力なのは環境と原子力に関する7つの法律である。しかし、不用意な公務員にとっての落とし穴は、アメリカの内部告発者保護法(Whistleblower Protection Act)の名前に惑わされて、救済を求めることにある。私を含めた多くの内部告発者の経験では、この法律と能力主義任用制度保護委員会(Merit System Protection Board)は政府を保護するために存在している。従って、内部告発者は提訴するに当たって適用法規をよく吟味する必要がある。

 内部告発者に対する私の個人的な忠告は、彼らの弁護士がコーンの本をよく読んだかどうか確認することである。




[1] The U.S. Department of Labor maintains a "whistle-blower collection" online at http://www.oalj.dol.gov/libwhist.htm where you can learn about recent whistle-blower cases.

[2] LOS ANGELES TIMES Aug. 25, 2000, pg. unknown. See http://www.mapinc.org/drugnews/v00/n1236/a06.html.

[3] See http://www.hcn.org/servlets/hcn.Article?article_id=578

[4] See http://www.usnews.com/usnews/issue/981102/2wstl.htm

[5] See http://www.hcn.org/servlets/hcn.Article?article_id=578 and see http://www.whistleblowers.org/Browner7-13-00.htm

[6] Stephen M. Kohn, CONCEPTS AND PROCEDURES IN WHISTLEBLOWER LAW (Westport, Conn., Quorum Books, 2001). ISBN 1-56720-354-X.

[7] The National Whistleblower Center web site can be found at http://www.whistleblowers.org/index.html

[8] The Collected Papers of William Sanjour can be found at http://pwp.lincs.net/sanjour.



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