レイチェル・ニュース #714
2000年12月21日
地球温暖化について
レイチェル・マッシー
#714 - Global Warming Opportunity, December 21, 2000
By Rachel Massey
http://www.rachel.org/?q=en/node/5241

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
掲載日:2001年1月3日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_714.html


 11月、アメリカ中で大統領選結果の疑義に議論が沸騰している間、世界の170カ国の代表が、我々が直面する最大の環境問題である地球温暖化に取り組むために、オランダのハーグに集まった。
 1997年の京都での国際会議において、各国が主に石炭、石油、ガソリン等の、いわゆる化石燃料の燃焼を抑えることで二酸化炭素等の温室効果ガスの排出を制限し地球温暖化をくい止めるという狙いで、京都議定書が設定されたが、今回のハーグ会議では、その京都議定書の空欄を埋める、すなわち設定事項を決定する予定であった。
 多くの科学者達は、地球温暖化は21世紀最大の環境問題であると考えている。何故なら、地球温暖化は、気象のパターンを変え、マラリアやデング熱のような病気を蔓延させ、干ばつや洪水、暴風雨を引き起こし、給水に変化をもたらす恐れがあるからである。

 ハーグ会議の目標は、1997年に京都で決めた各国の温室効果ガス排出制限に対し、各国がどのようにそれを実現するかを詳細に説明することにあったはずである。それにもかかわらず、ハーグでの2週間の交渉で、何も合意は得られなかった。交渉決裂の主な原因は、アメリカ代表団がアメリカ国内の樹木や作物のような植物による二酸化炭素の吸収分を排出削減に含めるよう主張したことにある[1] 。

 樹木等の植物は大気中の二酸化炭素を吸収し、植物組織内に蓄える。アメリカ代表団はこれを大気中から吸収して固体の炭素として蓄える“炭素吸収(carbon sinks)”機能として引き合いに出した。アメリカ代表団は、アメリカにおけるエネルギー消費の変更を最小に留めることが出来るようにするために、植物の吸収分を勘定にいれることを望んだ。化石燃料からの二酸化炭素排出に関し、アメリカは世界で最大の排出国であり、我々のエネルギー消費は著しく非効率的である。例えば、アメリカにおける1人当たりの二酸化炭素の排出量はドイツに比べて約2倍である[2]。

 アメリカの交渉団は化石燃料使用を規制するとアメリカ経済を危うくすると主張した。しかし、経済的効率を増大させることによりアメリカの二酸化炭素排出を削減することができるということを詳細に示している新しい研究がある。

 化石燃料会社側は、地球温暖化などあり得ず、子どものたわごとであると国民を信じさせるために執拗に画策した。一方、保険業界は、地球温暖化が実際に起きているということを理解している。1990年から1995年の間に起きたハリケーンや大竜巻や洪水による損害は、それらによる1980年代の損害の約15倍にも達しているからである[3, pg. 10]。

 最近いくつかの石油会社が正気に戻った。例えば、ブリティッシュ・ペトロリウム(BP)とシェルは、地球温暖化を否定しようと企む業界団体である“地球気候連合(Global Climate Coalition)から脱退した[4]。

 予防措置に反対する勢力は、地球温暖化には科学的根拠がないとわざと不正確に述べ、温室効果ガスを規制すると経済恐慌が起きると経済的恐怖をあおってきた。しかし、アメリカエネルギー省のもとで、5つのアメリカ国立研究所が実施した最近の研究によれば、事実は全く逆である。“クリーンエネルギーの将来のためのシナリオ(SCENARIOS FOR A CLEAN ENERGY FUTURE - CEF)”と題するこの研究は、建設分野、製造分野、運輸分野、電力分野の4つの各経済分野で、どのようにすればエネルギー消費を削減することができるかを示し、それらは我々の経済に必要な変更を加えるのに役立ちこそすれ、経済を損なうものではないと結論付けている[5]。

 CEF研究は4つの各分野において、エネルギーを効果的に使用することに関し、我々の動機や能力を制限する“市場における障害(market barriers)”について検証している。
 例えば、家庭用器具類を含む建設分野において:
  • 電気料金請求書には使用料の明細が一切書かれていない。冷蔵庫でいくらかかり、テレビでいくらかかったのか知ることが出来ない。著者達はこれを食品雑貨店の支払い口で客が、支払額の合計金額だけが示され、買い物した個々の食料品の値段が示されていないレシートを受け取るようようなものだとしている[5, pg. 2.13]。

  • 省エネルギー機器に取り替えても、個々の家庭でのエネルギー節約は微々たるものかも知れない。例えばテレビの待機消費電力を7ワットから1ワット以下にしても、テレビ1台あたりの年間削減費は約5ドル(約550円)位であろう。従って多くの人々は省エネ型のテレビを見つけるための努力を余りしない。しかし国中のテレビの待機消費電力が1ワット以下になれば、「年間の全節約費用は数億ドル(数百億円)に達するであろう」[5, pg. 4.4]。

  • その他の市場における障害として“分散された動機付け”と呼ばれるものがある。これは機器を購入する人が必ずしも機器の運転費用を支払う人ではないということである。例えば、大家は熱効率の良くないボイラーを買うかも知れないが、その結果、高い燃料費を払うのは店子である[5, pg. 4.5]。
 政府の重要な機能の一つは市場における障害を取り除くことである。例えば、アメリカ環境保護局(EPA)とアメリカエネルギー省(DOE)は合同で、機器のエネルギー効率をラベルに表示するというエネルギー・スター計画(Energy Star program)を実施している。このシステムのおかげで消費者は一目で省エネ冷蔵庫やボイラーが1年間にどれだけの燃料費を節約できるか知ることが出来る。そして政府は、例えば湯沸かし器の様な機器に熱効率基準を設けることによって 、“分散された動機付け”問題への対策とすることができる[5, pg. 4.7]。CEF研究によれば、このような方法で効率を高める機会が他にも数多くある。

 運輸分野では、政府は代替燃料への投資を促進する;空港上空を飛行機が旋回する回数を減少するよう改善する;“ペイ・アット・ポンプ(pay-at-the-pump)”自動車保険制度を作り、自動車所有者が運転の回数を減らすことにより保険料を節約出来るようにする[5, pg. 1.10]。

 ある経済専門家達は次のように述べた。「エネルギーと金の両方を節約出来るなどということは作り話であり、もしそれが本当なら人々はとっくにそれをやっている。それは歩道に落ちている20ドル紙幣は自分の物だと主張するようものだ。もしそれが本当に歩道に落ちていれば、誰かがとっくに拾っている」。
 しかし、ある評論家は次のように指摘した。「適切な比喩は、20ドル紙幣が歩道に落ちているのではなく、20ドル分の1セント銅貨(ペニー)が 砂に隠されている、とすべきなのである。誰もわずかばかりの銅貨のために砂を篩(ふるい)に掛けたりはしたがらない。しかし、もし金属検知器があれば、人々は喜んで砂のなかから銅貨を集めるであろう。“金属検知器”こそエネルギー市場で人々がエネルギーと金の両方を節約できるように改革することを象徴するものなのである」[6]。

 CEF研究では経済改革の3つの柱を考えている。
  1. エネルギー消費を削減する技術を確立するために政府の研究開発費を増やす。
  2. 効率的なエネルギーの使用にとって障害となることを改善するための政府のプロジェクトを実施する。これはエネルギー・スター計画のように消費者がよりコスト効果のある家庭用機器を選択出来るようにするものである。
  3. 人々に省エネの動機付けをするために二酸化炭素排出税を設ける。著者達はそれを政府が毎年オークションで売りに出す排出権のような形の税として提案している。
 これらの施策をいろいろ組み合わせることによって、著者達は将来のエネルギーの使用に関し、3つの可能なシナリオを描いている。通常のビジネス・ベースのシナリオ、穏健なシナリオ、そして先進的なシナリオである。
 通常のビジネス・ベースのシナリオでは現在のエネルギー政策をほとんど変更せずに継続し、技術革新もゆっくりしペースで進む。穏健なシナリオではいくつかの改革が行われ、先進的なシナリオでは国を挙げての危機感の認識により、徹底した改革が実施される[5, pg. 3.3]。

 2020年までに穏健なシナリオでは、通常のビジネス・ベースのシナリオに比べて排出は9〜10%低く、国のエネルギー費は14%低くなる。先進的なシナリオでは同じく通常のビジネス・ベースのシナリオに比べて排出は23〜32%低く、国のエネルギー費は18〜22%低くなる。言い換えればエネルギー・スター計画のような計画管理費や研究開発費のコスト増大を勘案しても、国としては全体のコストを削減することが出来るということである。

 CEF研究で計算された効果はエネルギーコストの節約に関するものだけである。エネルギーの適正な使用によるもっと多くの他の効果、例えば清浄な大気による健康の増進、外国の石油に頼らないこと等、は含んでいない[5, pg. ES8]。

 著者達は、彼らが述べた効果のある部分は、詳細にモデル化しなかった他の経済分野で間接的な損失を生じるかもしれないということを、注意深く述べている。間接的な損失は直接的な効果に匹敵するかも知れず、その場合には、利益は出ない[5, pgs. 1.40-1.41]。

 一方、“持続可能なエネルギー方針国際プロジェクト(International Project for Sustainable Energy Paths - IPSEP)”によるCEFシナリオについての最近の分析によれば、広範な経済パターンを考慮に入れると、潜在的な効果は実質的にはもっと大きくはなっても、小さくはならないと結論付けている[6]。

 CEFシナリオは、アメリカが2008年から2010年の間に、1980年レベルの排出量を7%削減するという京都議定書の目標に合致するよう意図されて作られたものではない。しかし、それらのシナリオは、我々が京都議定書の目標に向かって取るべき行動を一日延ばしにし、金を無駄にしているということを明らかにしてくれた。

 無駄な金を節約する一つの方法は化石燃料業界への支援を断ち切ることである。“地球の友(Friends of the Earth - FoE)の報告によれば、納税者は現在、毎年数十億ドル(約数千億円)も、この環境汚染産業に対し不必要に支援している[7]。これらの金は納税者に返すか、クリーン・エネルギー・プロジェクトに振り向けるか、石炭産業を離職した人々の職業訓練の費用に使われるべきである[8]。

 アメリカ交渉団が排出削減のアクションを遅らせようとしている時、彼らはアメリカ経済全体を守ろうとはしてはおらず、最も汚い産業の小さなグループを保護しようとしているに過ぎない。ジョージ・ブッシュやディック・チェニーの石油業界への強力な人的つながりを考えると、5月または6月に予定されている次回の会議において、アメリカはさらに妨害者の役割を果たすことになるであろう。

 我々は、我国の代表団が、他の経済分の金で石油・石炭会社を保護することだけを考え、地球のことについてはなにも言及しないということを放っておくわけにはいかない。

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レイチェル・マッシー
Environmental Research Foundation (ERF) のコンサルタント
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[1] Andrew C. Revkin, "Treaty Talks Fail to Find Consensus in Global Warming," NEW YORK TIMES November 26, 2000, pg. A1. Also see UNITEDSTATES SUBMISSION ON LAND-USE, LAND-USE CHANGE, AND FORESTRY , August 1, 2000, available at http://www.state.gov/www/global/global_issues/climate/000801_unfccc1_subm.pdf

[2] Gregg Marland and others, "Global, Regional and National Carbon Dioxide Emissions," and "Ranking of the World's Countries by 1997 Carbon Dioxide Per Capita Emission Rates," provided through Carbon Dioxide Information Analysis Center, "Trends: A Compendium of Data on Global Change." Available at http://cdiac.esd.ornl.gov/trends/emis/top97.cap and http://cdiac.esd.ornl.gov/trends/emis/tre_usa.htm

[3] Ross Gelbspan, THE HEAT IS ON: THE HIGH STAKES BATTLE OVER EARTH'S THREATENED CLIMATE (Reading, Mass.: Addison-Wesley, 1997). ISBN 0-201-13295-8.

[4] Associated Press, "DaimlerChrysler Corp. Quits Global Climate Coalition," January 7, 2000, available at http://www.enn.com/enn-subsciber-news-archive/2000/01/01072000/-daimler_8854.asp

[5] Interlaboratory Working Group, SCENARIOS FOR A CLEAN ENERGY FUTURE (Oak Ridge, Tenn.: Oak Ridge National Laboratory and Berkeley, Calif.: Lawrence Berkeley National Laboratory, ORNL/-CON-476 and LBNL-44029, November 2000) Available at http://www.ornl.gov/ORNL/Energy_Eff/CEF.htm

[6] Florentin Krause, SOLVING THE KYOTO QUANDARY: FLEXIBILITY WITH NO REGRETS (El Cerrito, Calif.:International Project for Sustainable Energy Paths, November 2000). Available at http://www.ipsep.org Click on "Latest Report."

[7] Friends of the Earth and others, PAYING FOR POLLUTION (Washington, D.C.: Friends of the Earth, 2000). ISBN 0-913-890-82-0. Available at http://www.foe.org/eco/payingforpollution

[8] See Ross Gelbspan, "Opportunity in the Climate Crisis," BOSTON GLOBE November 19, 2000, pg. C8.

Thanks to Barbara Haya of the Energy and Resources Group, University of California at Berkeley, for help developing several ideas presented in this issue.

 カルフォルニ大学バークレー校エネルギー資源グループのバーバラ・ハヤさんには、この号でいくつかのアイデアをまとめるにあたって、協力していただいたことを感謝します。



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