レイチェル・ニュース #711
2000年11月9日
文化創造派の人々
ピーター・モンターギュ
#711 - The Cultural Creatives, November 09, 2000
By Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/5216

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2000年11月10日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_711.html


 アメリカ文化ついて深く洞察し、我々の将来を変えていくためにはどうしたらよいかについて述べた本が、『文化創造派の人々』と題して新しく出版された[1] 。この本は、環境問題や社会的正義のための運動が近年直面している様々な問題を回避しながら新しい方向を模索する上で、とても役に立ち、独創的で新しい展望を与えてくれる。

 『文化創造派の人々』の著者、ポール・レイとシェリー・ルス・アンダーソンは、アメリカ人が大事に持っている価値観を解き明かすために10年以上にわたって調査と研究を重ねてきた。「価値観は、彼らの実際の行動を予測する上で最も役に立つ」と著者らは述べている。
 著者らは、基本的な価値観に基づき、アメリカ人を3つのグループ、現代派、伝統派、そして文化創造派、に分類した。我々は皆、現代派と伝統派については見当がつくが、文化創造派というのは聞いたことがない。文化創造派の人々でさえも、自分たちの仲間が非常に大勢いるということ(レイとアンダーソンによれば5,000万人強)を自覚していない。この大勢の人々の中に、文化を変革する種があり、それは既に動き出している。

現代派

 現代派は今日の文化の主流をなしている。彼らは行政、軍、司法、そしてメディアを支配することにより、我々全てが暮らしていく上での規範を作り上げている。彼らの中には多国籍企業を経営している者もいる。彼らの考え方は、我々の日常生活の至るところ、例えば、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、その他主要新聞、そしてテレビ等、に表れている。現代派は技術産業を信じており、地球の表面をどんどん変えていく。現代派は、自分たち以外の文化や生き方をなんとなく劣ったものとして、切り捨てる傾向がある。「今日の現代派を理解する上で最も簡単な方法は、商業主義と都市産業の世界で暮らすことこそ正しい道であるとして、それらを受け入れている人々を見ることである。彼らは代わりの生き方を探そうとはしない」とレイとアンダーソンは述べている。現代派にとって、経済成長は良いことだというだけではなく、むしろ欠くことの出来ないものである。現代派にとって重要なことは次のようなことである。
  1. 金を儲けること
  2. 人生の目標に向かって成功への階段を登ること
  3. 多くの選択肢を持つこと(消費者として、選挙民として、ビジネス人として)
  4. 最新の動向、スタイル、革新の先端にいること
  5. 国家の経済的、技術的成長を支えること
  6. 先住民、田舎の人、伝統派の人、宗教的神秘主義者、等の価値観や関心を受け入れないこと
 現代派の人々は全アメリカ市民の48%(9,300万人の成人)であり、1995年の1家族当たりの平均年収は42,500ドル(約460万円)であった。

伝統派

 伝統派は全アメリカ市民の24.5%(4,800万人の成人)である。多くの伝統派の人々は裕福な共和党支持者ではなく、政治的には保守的な人々に加えて、ニューディール政策時代の民主党やレーガン政権や昔の労働組合を懐かしむ年輩の人々である。伝統派の人々は次のようなことを信じている。
  1. 家長が家族の生活の中で再び中心となるべきである
  2. フェミニズムは冒涜である
  3. 男性及び女性には、それぞれ昔ながらの役割がある
  4. 家族、教会、地域共同体のよき一員であることが重要である
  5. 昔ながらの生活の仕方を守らなくてはならない
  6. 性について規制することが重要である−ポルノ、10代のセックス、婚外セックス、中絶
  7. 男は兵役の義務を誇りとすべきである
  8. 必要な全ての生き方の道しるべは聖書の中にある
  9. 市民の権利を守ることより、不道徳な行為を制限することの方が大事である
  10. 銃所持の自由は本質的に重要である
  11. 外国人は歓迎されない
 多くの伝統派の人々は、親環境派であり、反大企業派である。彼らは、地域の自然や小さな町での生活等、慣れ親しんできた世界を破棄するものには反対する。伝統派の人々は年輩で、アメリカの他の市民に比べて貧しく、教育をあまり受けていない傾向がある。第2次世界大戦終了時には、伝統派は人口の50%を占めていたが、今日では25%であり、年輩者が死んでも若者が取って代わるということがないので、その数は減少して行く。

文化創造派

 レイとアンダーソンが10年間の研究で見出したことは、現代派と伝統派に加えて、アメリカで5,000万人(全ての成人の26%)が第3の文化を形成しており、これはフランスの人口に匹敵する数で、さらに増え続けているということである。レイとアンダーソンはこれらの人々を“文化創造派”と名付けた。以下に18項目の特徴を示すが、もしそのうち10項目以上があなたに該当すれば、あなたは多分、文化創造派である。

  1. 自然を愛し、その破壊を心から憂えている
  2. 地球全体の問題を強く意識しており、経済成長の制限、等の抑制措置が必要であると考えている
  3. 環境保護と地球温暖化防止のために使われる金ならば、余計に税金を払ったり、多少値段が高くても購入する
  4. 人間関係の輪を広げ、良好な関係を維持することが重要であると考えている
  5. 他人を助けることが重要であると考えている
  6. 理由が妥当であれば率先してことに当たる
  7. 心理的あるいは精神的な修養に深い関心を持っている
  8. 精神や信仰は個人の人生において重要のものと考えているが、政治における宗教の役割については懸念を抱いている
  9. 職業における女性の機会均等をさらに望み、ビジネスや政治の世界における女性の指導者がもっと増えることを望んでいる
  10. 地球上のあらゆる所での女性と子どもに対する暴力と虐待について懸念している
  11. 子どもの教育や幸福、地域共同体の再生、そして生態環境が持続可能な将来を建設することについて、政治家や政府が、もっと強調することを望んでいる
  12. 政治における従来の右翼や左翼にはうんざりで、ひ弱な中道などではない新しい政策を望んでいる
  13. 将来について楽観的な傾向があり、メディアが提供する冷笑的で悲観的な見方を信用していない
  14. 新しくてより良い生き方を創造することに参画したいと考えている
  15. 利益という名前のもとに大企業が行っていること、すなわち貧しい国を搾取し、環境を破壊していることに懸念を持っている
  16. 自分の財産はきちんと管理しており、金を使い過ぎてしまうというような心配はない
  17. 成功したこと、成功する方法、富や贅沢品、等を強調する現代の風潮が好きではない
  18. 外国の風物や人々が好きで、他の生き方を経験したり学びたいと思っている
 文化創造派の人々は特別な統計的手法で定義されるものではない。彼らは、会計事務員かも知れないし、ソーシャル・ワーカー、ウェイトレス、コンピューター・プログラマー、理容師、弁護士、指圧療法士、トラック運転手、写真家、あるいは庭師かも知れない。彼らの大部分は彼らの宗教においても主流派である。彼らは最早、アメリカにおける自由主義者でも保守主義者でもなく、右翼、左翼のレッテルも拒絶する傾向がある。統計的には、彼らの60%は女性であり、大部分の文化創造派の人々は、従来女性が抱えていた問題、すなわち介護や家族の生活、子ども、教育、人間関係、そして責任等についての価値観と信念を持っている傾向がある。
 個人生活において彼らは本物であること、すなわち彼らの行動は、彼らが信じ、言っていることと一貫していること、を求めている。彼らはまた、統合と調和と共同を見出したいと考えている。文化創造派は、疎外され隔絶された世界に住むことを望んでいない。健康に対する考え方は、現代医学は否定しないが、予防的であり、全体論的である。働くことについて言えば、彼らは生計の資を稼ぐということよりも、“満足のいく生業”または天職を持つことを求めている。

 レイとアンダーソンは文化的創造派を生じさせた原動力について次のように要約している。「21世紀には新しい時代がやってくる。その時に解決しなければならない最大の問題は、地球上の生命を保護し維持することであり、精神的にも心理的にも空虚な現代の生活にとって代わる新しい生き方を見つけることである。これらの問題は過去1世紀にわたって、積み重ねられて来たものであるが、西側の世界でのみ、ようやくそれらのことを皆が考えるようになってきた。文化創造派は、これらの問題に対し、新しい文化を創造することで対応しようとしている」。文化創造派は、新しいビジネス、新しい経営管理手法、新しい技術、新しい社会の様式(例えば、洗濯機やカーペットの様な製品を消費者に売るのではなく、貸し出すことによってリサイクルを確実なものにする)、新しい意思決定の手法(例えば、予防原則)などの新しい世界を、メディアには無視されているが、我々の中に築こうとしている。

 5,000万人の文化創造派は、60年代及び70年代の様々な社会運動を通じて、あるいはそれらの運動に影響を受けながら、異なる経路から出現した。レイとアンダーソンは、文化創造派を生み出した20の運動体について、そして、順次その文化創造派が主に反体制的な運動体に対し積極的な弾みをつけたということについて述べている。「ゆっくりと、一つの教訓が一つの運動体から他の運動体へと伝わって行った。文化創造派は、良くないことに対してはやめるよう抗議をし、価値あるものに対してはそれを守るために戦い、支持者達に対しては役に立つことを提供している」とレイとアンダーソンは述べている。

 レイとアンダーソンはこのような変遷が環境運動にも起きているとし、我々もその通りだと思う。「文化創造派は、環境運動が新しい局面を求めて進むよう促している。我々は抗議運動やそれを通じて得られた情報により様々なことを学んできた。我々のある者は現状を越えて、ある種の新しいビジネスや技術、共同事業を展開している」。これらの新機軸に対しては、ナチュラル・ステップ[2]、クリーン・プロダクション[3]、ゼロ廃棄物[4] と言うような名前が付けられている。彼らは、西側世界の産業構造を再構築し始めている。先は長い道のりであるが、とにかく動き出した。

 今後さらに革新を推し進めて行く上での主要な障害の一つは、文化創造派の人々は全て、実際には非常に多くの仲間がいるのに、自分たちは少人数だと思いこんでいるということである。従って「彼らは21世紀のアメリカの生活様式を変革させるだけの力を持っているということを認識していない。劇場の観客のように文化創造派の人々は皆、同じ方向を向いている。同じ本を読み、同じ価値観を持ち、同じような結論に到達する。しかし彼らが互いに共同して歩を進めることは稀である。彼らにはまだ集団としてのアイデンティティである“我々”という認識、あるいは集団としてのイメージがない」とレイとアンダーソンは述べている。

 レイとアンダーソンは、文化創造派は自分自身について知らないために十分な活動が出来ていないと再三再四、強調している。彼らは自分たちの多様な全体像を把握出来ておらず、新しい世界を創造する自分たちの潜在能力を認識することが出来ないでいる。「これら多くの文化創造派の人々は、自分自身を見ることの出来ない文化の一部になっているので、彼らの共通の将来に対し何をすることが出来るのか分かっていない」。我々はお互いにその存在を確認することが出来れば、共通の目標に向かって一緒にやっていくことが出来る。

 これは、中身の濃い、示唆に富んだ本である。もしあなたが我々の将来に何か影響を及ぼしたいと思うなら、是非この本を読むとよい。

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ピーター・モンターギュ
Peter Montague (National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO)
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[1] Paul H. Ray and Sherry Ruth Anderson, THE CULTURAL CREATIVES (New York: Harmony Books, 2000). ISBN 0-609-60467-8. And see http://www.culturalcreatives.org

[2] On The Natural Step, see REHW #667, #668, #670, #676.

[3] On clean production, see REHW #650, #651, #704.

[4] On zero waste, see http://www.grrn.org/zerowaste/resource_zw.html, and Robin Murray, CREATING WEALTH FROM WASTE (London: Demos, Panton House, 1999). ISBN 1-898-30907-8. Email: mail@demos.co.uk. Telephone: 0171-321-2200.



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