レイチェル・ニュース #699
2000年6月1日
結社の自由−3
ピーター・ケルマン(注・後記)
#699 -Freedom of Association--Part 3, June 01, 2000
By Peter Kellman
http://www.rachel.org/?q=en/node/5096

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2000年6月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_699.html



 このシリーズでは(ピーター・ケルマンのエッセイを紹介し)、1948年にアメリカもサインした世界人権宣言によって基本的人権の一つとされているにもかかわらず、アメリカでは依然として労働者に与えられていない”結社の自由”について検証している。
 先週(REHW#698)は、1787年の合衆国憲法制定者たちが、新生間もない共和国の資産家階級の力を強化するために、”通商条項”と”契約条項”を憲法に織り込んだということがわかった。今週は、このような憲法が今日、どのように企業の力を強化しているかを検証している。【ピーター・モンターギュ】


憲法修正第1条
 憲法を各州に批准させることを目的として、制定者たちは憲法に反対する多くの不満の声を和らげるために憲法を修正することを支援するという約束をした。1791年に言論と集会の自由を保障した憲法修正第1条が、民主主義に向けての偉大な一歩として採択されたということが布告された。しかしながら労働者たちは今日にいたるまで、その約束が完全に履行されることをずっと待ち望んでいる。

 憲法修正第1条は、出版と言論と集会の自由を保障するものであると一般に考えられている。よく知られているように、出版(現在の報道メディア)の自由は、印刷機を所有している人々にのみ適用された。
 言論と集会の自由について憲法が実際に保証していることは、”議会は、言論、または出版、または人々が平穏に開く集会の自由を制限するような、いかなる法律をも作ってはならない”ということであった。これらについてもう少し明確にしてみよう。
 憲法は”議会はいかなる法律をも作ってはならない”といっている。すなわち、人々が自由に話すことを禁じる”公的な法律(PUBLIC law)”は存在しないということである。しかしながら”私的な取り決め(PRIVATE law)”はどうであろうか? 憲法は、雇用主が労働者の言論と集会の自由を禁じることはできない、とはいっていない。憲法は、議会が何をしてはならないのかを言及しているだけで、資産を持った人々が何をしてはならないのかについては言及していない。もし、我々が言論と集会と結社の自由を望むなら、憲法修正第1条を次のような記述に修正する必要がある。”憲法は人々の信教、出版、言論、集会及び結社の自由を保障する。これらの権利と政府の”公衆の福祉”及び”人権”を促進する責任は、全ての事柄に優先すべきものである。”
 労働者はだまされたが、企業(法人)はどうか? 今日の資産家階級の代理人たちは憲法による保護と支援を得たのではないか?

3.憲法の拡大

 当初、企業(法人)に関する記述は憲法の中にはなかった。どのようにして憲法に織り込まれることになったのであろうか。1816年、アメリカは共和主義体制の政府を持つべきであるといトーマス・ジェファーソンの考えを信奉していた小資産家や熟練工の階級から多数の議員が選出され、ニューハンプシャー州議会で多数派を占めるようになった。また彼らの中から州知事が選出された。
 ジェファソン信奉の共和主義者は、主に小農民からなる社会を思い描いていた。共和主義者にとって重要な考えの一つは、共和主義体制の政府を継続させるためには教育を受けた人間が必要であるということであった。共和主義者は彼らの子どもたちに大学教育を受けさせたいと望んだ。そうすれば共和主義体制の政府を将来に渡って維持できるというものであった。
 しかしながら、当時の大学は主に、エール大学やハーバード大学やダートマス大学のような、植民地時代の名残りとしての私立校であった。これらの学校は階級や宗教のもとに、伝統が引き継がれていた。これらの学校関係者たちは決して共和主義者ではなかった。彼らの元々の目的はイギリス帝国の庇護のもとにキリスト教を広めることであり、子どもたちをエリートとして教育することであった。

 ダートマス大学は、”未開の先住民に偉大なるキリストの教えを広めるために”先住民(インディアン)慈善学校として、1769年にイギリス国王によって認可されたものであった。[1,pg.171]。その後直ぐに、イギリス人が学ぶための学校へと発展し、博識で正統な牧師たちを世に送り出し、多くの教会を設立する源泉となった[1,pg.173] 。この学校はイギリス帝国の植民地政策という機械の一つの歯車であった。

 革命後、ジェファーソン信奉の共和主義者を先頭にして各植民地大学を公立の、あるいは公的に責任を持つ学校にしようという国民運動が起った。ニューハンプシャー州ではこの運動は”学校法人ダートマス大学の憲章を改訂し、大学を拡張し改善する運動”という形をとった。1816年に採択された法律は”広く地域共同体を通じて広まった知識と学問は、自由政府の維持ために欠くことの出来ないものであり、教育の機会拡大と教育の効果はこの目的を実現するために大いに助けとなる”という本文で始まっており、州議会は私立ダートマス大学(College)を公立のダートマス大学(University)に変更するとともに、州内各所にも大学を設置するよう布告を出した。ニューハンプシャー州知事ウィリアム・プラマーは、当初のダートマス大学(College)の設立趣旨は”王権への忠誠と慎ましい節操であり、自由政府の精神と気風とは相容れないものである”と主張して、この変更を推進した。

 ダートマス大学の評議会はこの憲章の変更に反対して州議会を裁判に訴えた。州の最高裁判所は、”これは非常に重要な事柄であり、公共の福祉と幸福に深く関わることなので、広く公共の手に委ねるべきである。特に青年層の教育は最も重要な社会の関心事であり、各州議会が最大の注意を払うに値する”という理由で、州議会には大学の憲章を変更する権限があると主張して、州議会に賛成する判決を下した。
 この判決は連邦最高裁判所に持ち込まれ、州法廷の決定は覆えされた。

 連邦最高裁判所は教育などには興味はなかった。連邦最高裁は資産家階級の最終的な守護者として設立されていた。連邦最高裁は、法人は私的な契約であって、公共の法律ではないと主張した。最高裁は、州は憲章を発行して法人を作り出したが、州は憲章を超えるものではなく、契約の一方の当事者に過ぎないと裁定した[2] 。これが意味するところは、法人は憲法の契約条項により、州の干渉から保護されるということである。
 これによりダートマス大学(University)は、再び私立の大学(College)になった。

 1819年のダートマス裁決により、法人は私的な契約であるということで、憲法の保護を得るという原則が確立した。さらに1886年に連邦最高裁は、サンタクララ南太平洋鉄道に対し、法人は.憲法修正第14条に基づき、人と同等に憲法によって保護されるという判決を下した。これが意味するところは、企業(法人)は憲法によって認知され、企業活動は憲法修正第14条の”平等な保護”を受けることとなった。言い換えれば、1886年当時、まだ生身の人間である女性にも、アメリカ先住民にも、そしてほとんどのアフリカ系アメリカ人にも参政権や平等な保護権が与えられていないのに、企業は憲法上の平等な保護権を獲得したということである。

 もし、労働者階級の人権よりも資産家階級の所有権の促進に重きを置く裁判所の演じた役割について、疑問があるのなら、次の4つのことについて考えてみるとよい。
  1. 憲法修正第14条では”いかなる州も合衆国市民の権利または義務の免除を損なうような法律を作る、あるいは強化することはできず、またいかなる州も正統な手続きなしに、人々から生命、自由または財産を奪うことはできず、また司法管轄区内の人々の法の下における平等な保護権を拒否することはできない”と述べている。
     憲法修正第14条は1868年に解放奴隷の権利を保護するために憲法に加えられたが、最高裁判事ヒューゴー・ブラックはコネティカット州立法議会(1938年)において、”憲法修正第14条が採択されて以来50年間に当州法廷が扱った憲法修正第14条適用訴訟事件のうち、黒人の保護に係わるものは0.5%以下であり、50%以上は憲法修正第14条の恩恵を企業に拡大するよう求めるものであった”と述べている。

  2. ハパーセット下級裁判所(1875年)でオハイオ州の女性が”憲法修正第14条の正統な手続きによる保護条項により、女性の参政権は州議会によって妨げられないということを合衆国憲法は確立した”と主張したが、連邦最高裁はこの主張を退けた。
     女性が憲法の保護下に参政権を得たのは、48年後の1920年に”参政権は性差によって差別されない”ということが憲法修正第19条によって確立されてからであった。

  3. 裁判所は企業の”権利”を拡大する一方、女性への拡大は拒否するともに、1920年までに約300の労働法案をつぶした[3] 。

  4. 1880年から1931年の間に1800件以上のストライキに対して禁止命令が出された。118件の労働争議が1901年から1928年の間に連邦裁判所で審理され、そのうち70件は被告たちに聴聞の通知もなく、従ってその機会も与えられずに、一方的に判決が下された[4]。これらの裁判の全ての被告は労働組合であった。
 最高裁は頭の中に2つの側面を持っているように見える。1つの側面は金持ち階級の”権利”を作りだし、保護し、促進することであり、他の側面は投票の権利や結社の権利といった人権を抑圧することである。

 ダートマス大学事件に話を戻す。契約の論理に従って連邦最高裁は、各州は契約の一方の当事者であるという理由で、州法が有効に存続している限り、契約を修正したり、廃止したり又は変更することができるという判決を下した。そこでダートマス裁判の結審直後に、全ての州は、現在でも有効な”保留条項”と呼ばれる法律を採択した。”保留条項”は州が企業(法人)の憲章を変更、廃止または改訂する権利を保有するというものである[5]。
 ストライキを行った労働者をやめさせたり、他の工場へ配置転換したり、共同体をぶちこわす様な企業の憲章を廃止させるための法律闘争に参加するというのはどうですか?

3人の運動家
 憲法の制定者たちが連邦政府を設立した一つの理由は、憲法で謳っている”我々人民(We the People)”の範疇に入りたいと願っている人々から自分たちを守ることにあった。1830年代までに、奴隷制廃止、労働運動の推進、および女性への平等権の拡大の動きが前面に出てきた。奴隷制は南北戦争の後、1865年に憲法修正第13条の成立によって廃止された。参政権を得るための女性の戦いは1920年の憲法修正第19条によって最高潮に達し、実現した。

 これらの憲法修正及びこれらを実現した人々による世論喚起により、我々の社会に大きな変革が起こった。投票権の登録にあたっての財産の有無、性別及び人種による制限はなくなり、社会は差別をなくし、女性と”財産のある”有色人種は”正統な手続き(due process)”を行うことができるようになった。そして多分最も重要なことは、性と人種の平等を得るためになされた数々の闘争の話が学校の教科書に載り、大学ではこれらの運動について専門に研究し、その目的を推進するための学部が創設されたことであろう。

 しかしながら、労働者たちはまだ憲法に自分たちの要求を実現していない。それは妥協点は富の再分配であり、そのことに資産家階級が最も激しく抵抗するからである。
(次週に続く)



(注)ピーター・ケルマンについて
ピーター・ケルマンは”企業と法律と民主主義のプログラム”(Program on Corporations, Law and Democracy (POCLAD))で活動している。POCLADに関する情報を入手するためには下記にコンタクトして下さい。
e-mail: people@poclad.org
web site: www.poclad.org
phone: (508) 398-1145
mail: P.O. Box 246, So. Yarmouth, MA 02664-0246

[1] Elsie W. Clews, EDUCATIONAL LEGISLATION AND ADMINISTRATION OF THE COLONIAL GOVERNMENTS (N.Y.: MacMillan, 1899).

[2] For more details about the Dartmouth case, send a request to POCLAD for Vol. 2, No. 2 and Vol. 2, No. 3 of their quarterly publication BY WHAT AUTHORITY. E-mail people@poclad.org, or phone (508) 398-1145.

[3] William B. Forbath, LAW AND THE SHAPING OF THE AMERICAN LABOR MOVEMENT (Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 1991), pg. 38.

[4] Leon Fink, IN SEARCH OF THE WORKING CLASS: ESSAYS IN AMERICAN LABOR HISTORY AND POLITICAL CULTURE (Urbana, Ill.: University of Illinois Press, 1994), pg. 251.

[5] All state and federal laws are included, embedded, in all private contracts. Therefore if a state passes a law reserving the right to unilaterally change a contract it can do so. These "reserve clause" rights are considered to be part of every corporate charter created by the state. Therefore when a corporation is chartered, the parties involved agree that the state has the right to change the corporate charter without the consent of the other parties.

Descriptor terms: labor; constitutional law; human rights; freedom of association; constitution; first amendment; fourteenth amendment; nineteenth amendment; dartmough college case; contracts clause; corporations;



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