レイチェル・ニュース #695
2000年5月4日
バイオテクの問題−1
ピーター・モンターギュ
#695 - Biotech In Trouble--Part 1, May 04, 2000
By Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/5074

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2000年5月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_695.html



 農業バイオテク産業の状況は見込みがなく、悪くなる一方である。確かにアメリカでは遺伝子操作(genetically engineered (GE))食品がまだ食料品店でたくさん売られているが、それはたぶん、GE食品であることが表示されておらず、消費者は自分たちが買っている物が何なのか知らないからである。

 現在、アメリカの食料品店で売られている全ての食料品の2/3は遺伝子操作(GE)穀物を含んでいるが、そのような表示はされていない[1]。しかしながら、世論調査によれば、アメリカの消費者の圧倒的多くはGE食品の表示を望んでいる。タイム誌の1999年1月の世論調査によれば、回答者の81%が遺伝子操作食品は表示されるべきと考えている[2] 。つい1ヶ月前に行われたスイスの医薬品会社ノバティスによるアメリカの消費者に対する世論調査では、大衆の90%以上が表示を望んでいる[3]。ニューヨーク・タイムズ紙は「昨年末のバイオテク産業による世論調査において、アメリカ国民の93%が遺伝子操作食品の表示を望んでいる」と報じている[4]。GE食品の表示を求める法案が昨年11月に、20人の議員からなるグループによって議会に提出された[5]。

 この5年間、GE食品業界は、GE穀物と非GE穀物を区別することは非現実的であり、GE食品の表示は出来ないと言ってきた。しかし1999年12月にモンサントがビタミンAを強化した新種の菜種(調理用油の原料)を開発したと発表したが[6]、もしその製品に表示がなければ、消費者は店でその製品を見つけ出すことも、従って割り増し価格を払うことも出来ない。しかし、バイオテク企業にとってそれが利益を生むならば、当然表示を行うということは明白である。
 多くの食品会社はどのようにしてGE穀物と非GE穀物を区別するかの答えを見出したようだ。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ケロッグ、クラフト・フーズ、マクドナルド、ネッスルUSA、クエーカー・オーツの各社はアメリカ国内で遺伝子操作食品を販売しているが、海外では販売していない[7]。ガーバーとH.J.ハインツは少し前にベビー・フードに遺伝子組み換え穀物を使用しないことにしたと発表した。

 アメリカ政府としては、従来の穀物とGE穀物は実質的に同等であるので、GE食品の表示は必要ないし、むしろ表示をすれば誤解を生むと頑固に主張していた。例えば、ポテトの細胞に害虫を殺す農薬を入れるという遺伝子操作を行ったモンサントのニュー・リーフ・ポテトは、アメリカ環境保護庁(EPA)に農薬としての登録は必要であるが、実質的には通常のポテトと同等であると、アメリカ政府は主張している( REHW #622を参照のこと)。

 一方、昨年、イギリスとヨーロッパにおける消費者の抗議のうねりは頂点に達し、それはやがて日本とアメリカに広がった。これにより投資家のGE産業への投資熱は著しく冷めた。GE産業に大きな投資をしていたアメリカの主な企業は、今や手を引くことを余儀なくされている。すでにREHW #685で報告したように、モンサント、ノバティス、そしてアストロゼネカの各社は、医薬品と農業生産物を統合した新しいビジネス・モデルである、”生命科学構想”に対し、方向転換をするか、あるいは完全に撤退すると1月初旬に表明した。ニューヨーク・タイムズ紙は1月に、医薬品業界の巨人、アメリカン・ホーム・プロダクツが農業部門を切り離す方策を検討していると報じた。同紙はまた、「投資アナリストはモンサントもいずれ農業部門から完全に撤退するであろうと推測している」と述べた[8]。2月の下旬に、デュポンは採算性を求めて、従来の化学部門のビジネスに回帰すると表明した。ウォール・ストリート・ジャーナルは2月23日に、「デュポンが表明した医薬品部門とバイオテク部門の統合という大きな計画も、その展望が変化してきており、投資家の熱も、GE穀物の議論の前に冷めてきた」と報じている[9] 。

 遺伝子操作食品から方向転換しようとしているのは投資家だけではない。ウォール・ストリート・ジャーナルは4月下旬に「マクドナルドのようなファースト・フード・チェーンは、フレンチ・フライ納入業者に対しモンサントの農薬入りニュー・リーフ・ポテトを使用しないよう密かに通告している」とし、さらに「ポテトの主要な供給者であるアイダホ州ボイシのJ.M.シンプロットの報道担当によれば、口頭ではあるが、全てのファースト・フード・チェーンは非遺伝子組み換えポテトが望ましいと言っている」と報じた[10] 。
 同ジャーナルはまた、プリングルス・ポテトチップスのメーカーであるプロクター&ギャンブルは段階的にモンサントの農薬ポテトの使用をやめていくと報じた。さらにレイズ&ラッフルズのブランド名でポテトチップスを市場に出しているフリト・レイも農家に対しモンサントのGEポテトを栽培しないよう依頼したと報じている。
 バーガー・キングの報道担当はウォール・ストリート・ジャーナルに、同社はすでに従来のポテトのみを使用していると語った。レストラン・チェーンのハーディズの報道担当はウォール・ストリート・ジャーナルに、同社は現在モンサントの農薬ポテトを使用しているが、その使用を中止することにつて検討中であると述べた。
 今年の初めにフリト・レイはトウモロコシ農家に対し、ドリトス、トスティトス及びフリトスには遺伝子組み換えトウモロコシは使用しないと言明した[7] 。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、アメリカの農家は、あまりにも速く遺伝子操作穀物の栽培に切り替えたので、財政的に大きな打撃を被ったと報じた。1996年にはアメリカは300億ドルのトウモロコシと大豆をヨーロッパに輸出した。昨年はこれらの輸出は100億ドルにまで減少した。差し引き200億ドルの損失である。”種”の供給者であるモンサントやデュポンは農家から売り上げ金を得ているので、実際にこの損失を被ったのは農家であり、農業バイオテク企業ではない。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは4月28日に、「アメリカの農家は騒ぎを心配して、1990年代には競ってその作付けの勧めに応じた遺伝子組み換え作物から撤退しようとしている。...政府と業界の調査によれば、農家は遺伝子組み換えのトウモロコシ、大豆及び綿花の作付け面積を昨年よりも数百万エーカー 減らす計画であることが分かった」と報じた[10] 。

 農業バイオテク企業はこの作付け面積が減るであろうという推定に対して異論を唱えた。彼らは「遺伝子組み換え作物はかつてないほどの需要がある」と述べた。 数ヶ月前に、モンサントのCEOであるロバート・シャピロは「 遺伝子組み換えは、農業の長い歴史において、鍬の使用を含むいろいろな技術導入の中で最も成功した技術である」と景気良く述べた[12]。今年になってモンサントの報道担当は「市場は非常に安定していると考えている。後退するような要因はなにもない。問題は我々がどのくらい成長するかということだ」と述べた [11]。しかし、全米トウモロコシ栽培者協会の会長、ゲーリー・ゴールドバーグは最近ニューヨーク・タイムズ紙に「遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの今年の作付けは、去年に比べて約16%減少すると思う」と述べた。彼はまた、農業バイオテク企業は売り上げを維持するために「農業バイオテク企業は農家に対し、隣はGM作物を植えていると思いこませようとしている」と述べた[11] 。

 近いうちに、遺伝子操作(GE) 食品は、大衆にもっと注目されるようになると思われる。先月、アメリカ科学アカデミーは、専門家がGE食品について指摘していることをまとめた報告書を刊行した。その指摘によれば、遺伝子操作技術(GE)は、予期せぬアレルギー物質と毒性を食品中に生成する可能性があり、また、益虫に害毒を与え、除草剤に強い新たな雑草を作りだし、土壌中の有機物に悪影響を与える等の、計り知れない影響を環境に対して与える可能性があるとのことである。同アカデミーはGE食品が人間や環境に有害な影響を与えるという確固たる証拠はないが、現在までの検証方法には非常に欠陥があると指摘した[13]。実際、現在の規制は自主的なものであり、強制力のあるものではないので、政府は今日アメリカの市場で売られている遺伝子操作食品の全貌について十分に把握していない可能性がある。

 同アカデミーは、おおよそ40のGE食品がアメリカの市場で販売が許可されているが、さらに6700の遺伝子組み換え作物の試験栽培が許可されていると指摘している[13,pg.35] 。ニューヨーク・タイムズ紙の5月3日の”超短期間で成長するGEサケ”に関する記事の中で、他にも遺伝子組み換え動物が計画中であるということが述べられている。いろいろな生物の遺伝子を他の生物の遺伝子に組み込むことにより、科学者は成長の早いマスやナマズ、あるいはウィルスに強いカキ、さらにはその糞にリンをほとんど含まないので環境に害を与えない”環境ブタ”を作り出している[14]。ニューヨーク・タイムズ紙はさらに「批評家やクリントン政権の役人ですら、遺伝子操作生物を規制する連邦政府の法律にはいろいろ不備があるので、規制しきれない恐れがあると指摘している。・・・インタビューを受けた連邦政府の取締官たちは、遺伝子操作動物を作り出すことや使用することについて、連邦政府のどの法律が規制するのかを指摘することが出来なかった。

 先週、クリントン/ゴア政権は遺伝子操作食品の規制を強化すると発表したが、GE食品の表示については、圧倒的な世論の要求があるにもかかわらず、新しい規制は表示義務を明確には要求しないと言明した。これにより、クリントン/ゴア政権とバイオテク企業が最も恐れていることは、大衆が情報を持つということであることが明白となった。

 新しい法規制が意味することや、その有効性について皆が理解するまでに数年を必要とするであろう。それまでに数百の遺伝子組み換え作物や動物が、ほとんど規制もなく監視も受けずに、環境中に作り出されるであろう。大衆はGEに関する法律がこれで良いのであろうかと懸念している。

 このような法律に対する懸念に対してバイオテク企業は、大衆はバイオテクの恩恵についてもっと知る権利があるという理由で、数千万ドルを費やして一大キャンペーンを展開し始めた。(詳細は次週で)

ピーター・モンターギュ
===== Peter Montague (National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO) =====

[1] Carey Goldberg, "1,500 March in Boston to Protest Biotech Food," NEW YORK TIMES March 27, 2000, pg. A14.

[2] Marian Burros, "Eating Well; Different Genes, Same Old Label," NEW YORK TIMES September 8, 1999, pg. F5.

[3] Marian Burros, "Eating Well; Chefs Join Effort to Label Engineered Food," NEW YORK TIMES December 9, 1998, pg. F14.

[4] Marian Burros, "U.S. Plans Long-term Studies on Safety of Genetically Altered Foods," NEW YORK TIMES July 14, 1999, pg. A18.

[5] David Barboza, "Biotech Companies Take On Critics of Gene-Altered Food," NEW YORK TIMES November 12, 1999, pg. A1.

[6] Bloomberg News, "New Crop is Said to Aid Nutrition," NEW YORK TIMES December 10, 1999, pg. C20.

[7] "Eating Well; What Labels Don't Tell You (Yet)," NEW YORK TIMES February 9, 2000, pg. F5.

[8] David J. Morrow, "Rise and Fall of 'Life Sciences'; Drugmakers Scramble to Unload Agricultural Units," NEW YORK TIMES January 20, 2000, pg. C1.

[9] Susan Warren, "DuPont Returns to More-Reliable Chemical Business --Plans for Biotech, Drug Divisions Fizzle as Mergers Change Landscape," WALL STREET JOURNAL February 23, 1000, pg. B4.

[10] Scott Kilman, "McDonald's, Other fast-Food Chains Pull Monsanto's Bio-Engineered Potato," WALL STREET JOURNAL April 28, 2000, pg. B4.

[11] David Barboza, "In the Heartland, Genetic Promises," NEW YORK TIME March 17, 2000, pg. C1.

[12] David Barboza, "Monsanto Faces Growing Skepticism On Two Fronts," NEW YORK TIMES August 5, 1999, pg. C1.

[13] National Research Council, GENETICALLY MODIFIED PEST-PROTECTED PLANTS: SCIENCE AND REGULATION (Washington, D.C.: National Academy Press, 2000). ISBN 0309069300. Pre-publication copy available at http://www.nap.edu/html/gmpp/.

[14] Carol Kaesuk Yoon, "Altered Salmon Leading Way to Dinner Plates, But Rules Lag," NEW YORK TIMES May 1, 2000, pg. A1.



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