レイチェル・ニュース #694
2000年4月27日 企業型国家への道 ピーター・モンターギュ #694 - Steps Toward A Corporate State, April 27, 2000 By Peter Montague http://www.rachel.org/?q=en/node/5069 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2000年5月7日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_694.html ![]() アメリカ連邦政府、州政府及び地方の政府は合計すると、納税者からの税金を毎年数兆ドル以上使っている。これはアメリカの国民総生産(GNP)の約6分の1に相当する。これは莫大な金額である[1] 。 多くの人々は、政府の調達政策が環境や社会の持続性の促進に大きな影響を与えるということについて地域社会の理解が薄れてきていることを心配している。 金を戦略的に使うことにより政府は下記のようなことを実現することが出来る。
しかしながら現在、これらのアメリカの法律のいくつかはスイスに本部を置く世界貿易機関、World Trade Organization (WTO)によって不法であると宣告されている。そして現在、多くの同様な法律が企業の攻撃にさらされている。日本、ヨーロッパそしてアメリカの企業は力を合わせて、アメリカ政府の調達政策により民主的な意志決定がなされることがないよう企図しているということは明かである。 昨年の秋のシアトルでの反WTO抗議運動にもかかわらず、WTOはその基本姿勢を変えようとしていない。それは、選挙で選ばれたわけでもなく、WTOが支配しようとする人々に答えることもなく、閉ざされたドアの向こう側で意志決定を行う企業の顧問弁護士達によって企画され運営されている強力な新しい世界支配のシステムである。そこでの決定事項は拘束力を持ち、通常は企業の顧問弁護士であるWTOの官僚3人からなる裁定委員会に1度だけ上訴出来るのみである。 WTOと”自由貿易”政策の強制は、1930年代後期のドイツにおける国家社会主義下の非人間的な法人型(企業型)国家がそうであったように、民主主義と主権在民に対する直接的な脅威であると結論づける歴史家もいるであろう。 アメリカの企業メディアはWTOの目的は”グローバリゼーション”(この言葉は非常に曖昧で意味不明瞭であるが)であると述べている。企業のメディアは決して明瞭な言葉では言わないが、WTOの(そして一般には”自由貿易”政策の)最も重要な目的は政府の力を弱め、国境を越えた企業の行動に対する影響力を減少させることにある。WTOは、国境を越えた企業が国家や地方政府によって義務づけられる制限に対して異議を申し立て、それらを効果的に無効にすることができるようにする公開の場という形で設立された。言い換えれば、WTOの真の目的は、”グローバリゼーション”というよりはむしろ国家を越えての世界経済に対する企業管理を目論む”地球規模の企業化(global corporatization)”であるということが出来る。 1995年に国際条約として創設され、現在では134カ国のメンバーを有することを誇る(メンバーでない国は国際貿易からのけ者にされる)WTOは、700ページに及ぶ規約(それは結局、世界の市場と貿易を支配する通商規約であり、国家によるだけでなく、WTO自身による強制力も持つ)を作り上げた。これらの規約のひとつに政府調達協定、Government Procurement Agreement (GPA)と呼ばれるものがある[4]。 GPAが基本的に述べるところは、政府は調達品の”性能”についての基準を設けることは出来るが、”製造方法”についての基準を設けることは出来ないということである。従って政府の調達政策においては、調達品が例え児童労働や奴隷労働によって製造されたものであっても差別することは出来ない。同様にGPAのもとでは調達品はリサイクル品であることを要求することも出来ない。 このようにして、GPAは企業に対し彼らの自由を奪う法律を取り除く方法を提供している。欧州共同体(EU)、カナダ及び日本の企業は少なくともこの10年間、多くのアメリカの法律は”企業の自由な通商を不法に妨げている”として不満を訴えていた[5]。何しろアメリカはWTOの中の巨大国(900ポンドのゴリラ)なので、もしアメリカでそのような法律を撤廃させることが出来れば、他の国でも撤廃させることが出来るあろう。ゴリラを怒らせないよう、外国企業はこのような法律を撤廃させる機会をうかがいながら注意深く動いていた。今、GPAは第1ステップとしての機会を準備した。 現下の論争はかつてビルマとして知られたミャンマーと呼ばれる国である。ビルマの軍事独裁政権が政敵を抑圧し、反対者を拷問にかけ殺害し、大衆を奴隷労働に駆り立て(時にはウノカル(Unocal)のようなビルマに多くの投資をしてきたアメリカ企業で働かせ)、普遍的に認められるべき人権を侵害しているということは広く知られていることである[6,7] 。 かつて南アフリカのアパルトヘイト政策をやめさせるためにアメリカの23の州が用いた方法を採用して、多くのアメリカの市が1995〜1996年に条例を発効し、地方政府がビルマでビジネスを行っている企業とビジネスを行うことを禁止した。(他のいくつかの市もナイジェリア、チベット、インドネシア、キューバの独裁者を罰するために同様な条例を持った[8]。) 1996年にマサチューセッツ州は”ビルマ法”を通過させたが、これは世界中の企業の注目を浴びることとなった。(GPAにより州当局は明示的に束縛されたが、市当局は明示的には束縛されなかったので、市の法律はWTOの規制に異議を申し立てることが出来るという理解が広く流布した。例えばメリーランド州がナイジェリア政府及びナイジェリアでビジネスを行う企業との契約を禁じる法案を通そうとした時に、クリントン政権はメリーランド州立法府が「州と地方当局はWTOの規制を逸脱しており、意図に反して争いの原因となり得ることを認める...我々はWTOへの攻撃に身をさらすことはせず、国と協調してやっていくつもりである」と述べるまで、その法案の制定に反対した[9]。) 1998年、日本とヨーロッパ共同体(EC) はそれぞれ、マサチューセッツ州のビルマ法がGPAのXIII.4(b)に反するとしてこれを覆すよう正式にWTOに提訴した。しかしながら、55社のアメリカ企業からなるグループが機先を制して全国海外通商会議を招集し、アメリカ合衆国憲法が行政府に対する外交政策の決定権を留保しているということを論拠に、マサチューセッツ州を州法廷に告訴した。予想通りクリントン/ゴア政権はマサチューセッツ州に反対し企業側を支援した。州裁判所と連邦高等裁判所はマサチューセッツ州を違反と裁定した。 もしこのような裁定が10年前に行われたならば、ネルソン・マンデラ氏は今日に至るまで獄中にあったであろうとマサチューセッツ法の後援者であるバイロン・ラッシングは述べている[10]。近々、連邦最高裁判所が本件について裁定を下すこととなっている。しかしながら欧州共同体と日本は、もし最高裁の裁定が不適当なものであれば、最高裁の裁定を覆すようWTOに提訴すると言明している。 ヨーロッパ、日本及びアメリカの企業の責任者は国民大衆には経済活動に対し道徳的規範を課す権利はないとしている。経済は民主主義の規範の対象ではないということだ。政府調達協定(GPA)は民主主義の痕跡があればそれをうち消すよう働きかけているのだ。 よかったことは、企業による民主主義への攻撃に対し、前例がないほど大衆が参加する機会を得たことである。ほとんど誰もが、納税者は自分たちの金を適切に使用する基本的な権利を有するということを理解した。ささやかな情報に基づき、人々は出来のよい政府調達政策からは良いものが得られるということを理解した。そのような政策により人々は地方や地域の経済を活性化することができる。最後に、WTOの政府調達への攻撃により人々は”自由貿易”とは何かを理解し、WTOがかろうじて残っている主権在民を排除して企業型国家に置き換えようとしていることを理解した。 このように騒々しい企業のキャンペーンにより我々は攻勢に転じ、我々の地域の経済の主体性を主張する機会を得た。 政府調達政策に関する法的、技術的支援が必要ならば Robert Sturmberg, Harrison Institute for Public Law, Georgetown University Law Center, Washington, D.C.; phone 202-662-9600 に連絡して下さい。 またウェブサイト http://www.law.georgetown.edu/clinics/hi/ をご覧下さい。 さらに政府調達政策に関する最善の実践に関する情報については下記に連絡して下さい。 Sustainable America, 42 Broadway, Suite 1740, New York, NY 10004-1617; phone: 212-269-9550; see www.sustainableamerica.org. ピーター・モンターギュ ===== Peter Montague (National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO) ===== [1] Ralph Nader, Eleanor J. Lewis and Eric Weltman, "Shopping for Innovation," AMERICAN PROSPECT No.11 (Fall 1992), pages unknown. Available at www.prospect.org/archives/11/11lewi.html. [2] Only Alabama and Wyoming have no such laws. See:Alaska Stat. 36.30.337 (Michie 1998); Cal. Pub. Cont. Code 12310 (West 1998); Del. Exec. Order 82 (1990); Fla. Stat. Ann. 287.045 (West 1998); Haw. Rev. Stat. 103D-1005 (1997); 415 Ill. Comp. Stat. 20/3 (West 1998); Ind. Code 5-22-15-16 (Michie 1998); Iowa Code Ann. 216B.3 (West 1997); Kan. Stat. Ann. 75-3740b (1997); Ky. Rev. Stat. Ann. 45A.520 (Banks-Baldwin 1998); La. Rev. Stat. Ann. 30:2415 (West 1998); Me. Rev. Stat. Ann. tit. 5, 1812 (West 1997) (recycled materials other than paper); Md. Code Ann., State Fin. & Proc. 14-402 (1998); Minn. Stat. Ann. 16B.121 (West 1998); Miss. Code Ann., 49-31-7 (1998); Mo. Ann. Stat. 34.031 (West 1997) (recycled solid waste materials); Mont. Code Ann. 75-10-806 (1997); Neb. Rev. St. 81-15,159 (Michie 1998); Nev. Rev. Stat. 386.417 (1997); N.H. Rev. Stat. Ann. 21-I:11 (1997); N.M. Stat. Ann. 13-1-135.1 (Michie 1998); N.Y. Pub. Auth. Law 2878- a (McKinney 1998); N.C. Gen. Stat. 130A-309.14 (1997); Ohio Rev. Code. Ann. 125.082 (West 1998); Okla. Stat. Ann. tit. 74, 85.53 (West 1998); Or. Rev. Stat. 279.570 (1997); R.I. Gen. Laws 37-2-76 (1997); S.C. Code Ann. 44-96-140 (1997) (recycled and recyclable materials); S.D. Codified Laws 5-23-41 (Michie 1998); Tex. Health & Safety Code 361.426 (West 1998); Vt. Stat. Ann. tit. 3, App. Ch. 7, Exec. Order 24-86 (recycled materials and nonwasteful packaging); Wash. Rev. Code Ann. 43.19.A.005 (West 1998) W. Va. Code 20-11-7 (1998); Wis. Stat. Ann. 16.72 (1998). [3] See www.consumerscouncil.org/ccc/policy/amic2599.htm. [4] The text of the Agreement on Government Procurement is available at www.wto.org/wto/govt/agreem.htm. [5] The latest (63-page) version of the EU's complaint can be found in PDF format at http://europa.eu.int/comm/trade/pdf/usrbt99.pdf [6] U.S. Department of Labor, Bureau of International Labor Affairs, REPORT ON LABOR PRACTICES IN BURMA (Washington, D.C.: U.S. Department of Labor, September 1998). Available at www.dol.gov/dol/ilab/public/media/reports/ofr/burma/main.htm [7] David E. Sanger, "Unocal Signs Burmese Gas Deal; U.S. May Ban Such Accords," NEW YORK TIMES February 1, 1997, pg. A4. [8] Quoted in Lori Wallach and Michelle Sforza, WHOSE TRADE ORGANIZATION? CORPORATE GLOBALIZATION AND THE EROSION OF DEMOCRACY (Washington, D.C.: Public Citizen,1999), pg. 188. [9] Linda Greenhouse, "Justices Weigh Issue of States' Making Foreign Policy," NEW YORK TIMES March 23, 2000, pg. A20. [10] Carey Goldberg, "Limiting a States's Sphere of Influence," NEW YORK TIMES November 15, 1998, pg. A22. |