レイチェル・ニュース #693
2000年4月20日 がんの主な原因−3 ピーター・モンターギュ #693 - The Major Cause of Cancer--Part 3, April 20, 2000 By Peter Montague http://www.rachel.org/?q=en/node/5063 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2000年4月27日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_693.html ![]() ジョン・ゴフマンは原子力及び物理化学に関する博士号をもつ医師である。彼はカルフォルニア大学バークレー校の分子及び細胞生物学の名誉教授であり、サンフランシスコのカルフォルニア医科大学の教授団のメンバーである。長年のキャリアの中で、彼は2つの異なった分野、すなわち心臓病に関する分野と低レベル被曝による健康への影響に関する分野に従事した。彼は、血管中の脂肪過多の血小板によって生成され、しばしば致命的な心臓発作を引き起こす、アテローム性動脈硬化の原因についての独創的な研究により数々の賞を授与された。1974年、アメリカ心臓病大学は彼をこの4半世紀における心臓病に関する主導的な研究者25人の中の1人として選出した。 1960年代の初頭、アメリカ原子力委員会(AEC)はゴフマンに、AECのリバモア・ナショナル研究所に核による諸々の健康への影響について評価するための生物医学研究部門を設立し拡充するよう要請した。1970年、彼は放射線はかって考えられていたよりも危険なものであるということを確信するようになり、数百の核兵器を爆発させてロッキー山脈の岩盤の下にあるガスを取り出すという計画や、地上で原子爆弾を爆発させて新しい港や運河を作るという計画、すなわちAECのプラウシェアー計画について批判するようになった(REHW #691参照)。彼はまた1000基の商業用原子力発電所を建設するというAECの計画について5年間凍結するよう要求した。1974年までに、彼に対する政府からの資金援助は停止された。それから彼は、放射線の危険についての一連の著作を刊行し始めた[1,2,3,4,5]。
結果として、ゴフマンの著作は長めのものとなった。通常500〜900頁のものとなり、詳細な説明のあるデータ表が付いていた。読者はそこでのトピックスについて詳細な知識を得ることができ、初心者にとっても専門家にとっても満足の行くものであった。私はゴフマンを20世紀における最も偉大な教師の1人であると考えている。彼の業績により放射線の危険性に関する世界の見方は変わった。そして彼の最近の著作により、いずれ長い論戦の後には、医療放射線に関する世界の見方を変革するであろう。その結果、彼の業績により数千万人の命が救われることになるであろう。 最近(1999年)の著作の中で、ゴフマンは医療用放射線がガン及びアテローム性動脈硬化症(冠状動脈心臓病)の主要な原因であるという強固な証拠を示した[5]。医療用放射線として、ゴフマンは、蛍光透視検査とCTスキャンを含むエックス線を主に挙げている。そのメカニズムについて簡潔に記述している。すなわち、放射線は遺伝子の突然変異の原因となり、それがいずれ疾患を発生させる。 ゴフマンの言おうとしていることは何であろうか。医療用放射線だけがガンと冠状動脈心臓病の原因であると言っているのであろうか。そうではない。ガンは喫煙、偏食、遺伝、農薬、ディーゼル排ガス、ダイオキシン、毒性化学物質等によっては生じないと言っているのであろうか。決してそうではない。ガンも心臓病も複数の原因によって生じる。ガン(またはアテローム性動脈硬化血小板)が成長するためには、1つの細胞にいくつかの(恐らく5から10の)遺伝子突然変異がともなう必要がある。これら遺伝子突然変異の中には遺伝的なものもあるが、大部分は遺伝子に損傷を与える環境中の物質に曝されることに起因する。 複数原因説を理解するための方法がある。ゴフマンは次のような仮想の100ケースのガンを例として説明している。
この例ではエックス線は100ケースのガンの内、40 + 25 + 25 = 90 ケースのガンの原因となっている。この例では、もしエックス線がなければ90%のガンは起こらないということになる。 次に偏食について見てみよう。偏食は100ケースの内、40 + 25 + 10 = 75 ケースのガンの原因となっている。もし偏食がなければ75%のガンは起こらないことになる。 この例ではエックス線は90%のガンの原因となることが分かった。”原因となる”とは、もしエックス線がなければガンは生じないであろうという意味である。偏食は75%のガンの原因となっている。これは偏食がなければ75%のガンは生じないであろうということを意味する。 ゴフマンは医療用エックス線に反対しているのではないということを指摘することは重要である。彼はエックス線による不必要な被曝に反対しているのである。彼が長年にわたって示していることであるが、アメリカにおける医療用エックス線の被曝は医療上の情報収集を損なうことなく、少なくとも50%は削減できるとしている。これを示しているのは彼だけではない。新しいエックス線機器と技術を注意深く用いることにより、医療上の利便性を犠牲にすることなく、エックス線による被曝を半分またはそれ以下に削減することができる。このように少なくとも医療用エックス線によって生じるガンの半分は完全に不必要なものである。 我々はどのくらいの数の不必要なガンについて議論しているのであろうか。1993年にゴフマンは女性のガンの50%及び男性のガンの74%はエックス線に起因すると算定している。言い換えれば1993年におけるアメリカのすべてのガンの約60%はエックス線に起因することになる。アメリカでは毎年約500,000の人々がガンで死亡している。もしこれらの死の60%がエックス線に起因し、その半分が不必要なものであるとすれば、アメリカでは毎年、150,000の人々が不必要にガンで死亡していることになる。 ゴフマンは冠状動脈心臓病 Coronary Heart Disease(CHD)がエックス線に起因する割合はガンのそれよりも若干高めであると算定している。1993年、男性のCHDによる死亡者の63%、女性では78%がエックス線が原因である。従ってCHDによる死亡者の約70%はエックス線が原因であるとゴフマンは信じている。1993年のアメリカにおけるCHDによる死者は約460,000人であるから、ゴフマンが正しければ、70%(322,000人)の死亡はエックス線に起因し、その半分の161,000人の死亡は不必要なものであったことになる。従って、もしゴフマンが正しければ毎年アメリカでは150,000 + 161,000 = 311,000人が不必要に死んでいることになる。 ゴフマンの調査研究では、医療用放射線の健康への影響に関するすべてのデータに内在する困難さを避けるために、新規な手法が用いられている。困難さとして次のようなものがある。
ガンによる死亡率はひとつの区域における医者の密度が増えるととともに増加し、ガンによらない死亡率は医者の密度が増えるとともに減少するが、冠状動脈心臓病(CHD)についてはガンと同様のパターンで増加することをゴフマンは示した。このようにCHDが医療用放射線にリンクしているというゴフマンの仮説は従来のデータにはないものであった。彼は数十年にわたりCHDの原因についての研究を行っていたので(彼は心臓病について3冊の本を書いている)、また彼は放射線についての文献もよく読んでいたので、ゴフマンは放射線が冠状動脈中に変異を誘発し、彼が”機能不全クローン”と呼ぶミニ腫瘍を、動脈の内側を覆うスムースな筋肉中に生じさせるという仮説を立てた。 興味深いことには、彼の”医者の密度”手法を用いてゴフマンは1993年のアメリカにおける女性の乳ガンの83%が医療用放射線に起因すると算定した。また全く別の手法を用いてゴフマンは1995年にアメリカの乳ガンの75%は医療用放射線に起因すると算定した。全く異なる手法によって導き出された2つの算定結果は著しく類似したものであった。 医者に対し患者への放射線照射をミニマムにするために特別の配慮をすることを確信させることは容易ではない。熟知は軽蔑を生みだし、多くの医者と歯科医師はエックス線そのものが有害であるかのように扱うようになる。最近私は歯を折った。私の歯医者は第1等級で、健康保険のために書類を作成する必要があった。「エックス線を撮りましょう」と彼は言った。私は「他に方法はないのですか」と訊ねた。彼はうなずいてすぐさま一文を書きなぐった。”私を歯を折ったがエックス線撮影を望まない。”「これにサインして下さい」と彼は言った。「保険会社はこれでも受け入れるよう要求されています」。ひとつの不必要なエックス線照射を避けることができた。 今度、誰かがあなたにエックス線撮影を行おうとしたら、その人を殺す様なことはせず、どのくらいの被曝があるのか知りたいと言いなさい。もしあなたが私と同じ様な経験をしたらエックス線撮影をしようとしたその人は答えを知らないということである。そして彼は「心配は不要です。それは全く安全です」と言うであろう。しかしそうではないのだ。 ピーター・モンターギュ ===== Peter Montague (National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO) ===== [1] John W. Gofman, RADIATION & HUMAN HEALTH (San Francisco: Sierra Club Books, 1981); ISBN 0-87156-275-8. [2] John W. Gofman and Egan O'Connor, X-RAYS -- HEALTH EFFECTS OF COMMON EXAMS (San Francisco: Sierra Club Books, 1985); ISBN 0-87156-838-1. [3] John W. Gofman, RADIATION-INDUCED CANCER FROM LOW-DOSE EXPOSURE: AN INDEPENDENT ANALYSIS (San Francisco: Committee for Nuclear Responsibility, 1990; ISBN 0-932682-89-8. [4] John W. Gofman (edited by Egan O'Connor), PREVENTING BREAST CANCER (San Francisco: Committee for Nuclear Responsibility, second edition, 1996); ISBN 0-932682-96-0. [5] John W. Gofman (edited by Egan O'Connor), RADIATION FROM MEDICAL PROCEDURES IN THE PATHOGENESIS OF CANCER AND ISCHEMIC HEART DISEASE (San Francisco: Committee for Nuclear Responsibility, 1999). ISBN 0-932682-98-7. Available for $27.00 from Committee for Nuclear Responsibility; telephone/fax: (415) 776-8299. E-mail: cnr123@webtv.net. Descriptor terms: radiation; x-rays; cancer; john gofman; heart disease; |