レイチェル・ニュース #687
#687 - Dumbing Down the Children - Part 1, February 17, 2000
By Peter Montague
子ども達の知能を低下させる−1
(子ども達の鉛中毒−1)

ピーター・モンターギュ
訳:安間 武(文責:化学物質問題市民研究会)
掲載日:2000年3月9日
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_687.html

 ニューヨーク・タイムズは1999年に次のように報じている。「連邦政府の調査官によれば、ほとんどの州が、メディケード(低所得者用医療制度)の適用を受けている乳幼児は鉛汚染検査を受けなければならないという1989年の法律を無視している。その結果、高レベルの鉛の危険にさらされている数十万の子ども達が検査も、医療も受けられないでいる」[1]。

 同紙は「議会の調査機関である”一般会計局(GAO)”は、鉛汚染の被害は低所得者層の子ども達に集中しているにもかかわらず、メディケードの適用を受けているほとんどの子ども達が、血液中の鉛濃度の検査を受けていないという事実を明らかにした」と報じている。
 メディケードは低所得者用の国の医療保険制度である。今日、アメリカでは低所得者の40%以上は子ども達で占められている[2]。

  アメリカ疾病対策センター(CDC)によれば、今日アメリカでは、100万人近く(983,000人)の5歳未満の子ども達が、低レベル鉛汚染の害を被っていると考えられる[3]。
 低レベル鉛汚染は、学習障害、多動症、運動機能障害、その他発育上の欠陥を引き起こす。実際に、低知能指数、聴覚障害、低身長などは、アメリカ政府が現在、許容値として見なしている、血液 0.1リットル当たり10マイクログラムの鉛含有量よりも遙かに低いレベルで、起きている[4]。

 メディケードへの遵守に関し、GAOのの調査内容を補足、追認するものとして、カリフォルニア州の監査役、カート R. ショバーグの1999年のレポートがある。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、「数千人の鉛に汚染された子ども達は、カリフォルニア州が、子ども達の鉛汚染検査に関する連邦政府の要求に従わなかったために、不必要にその被害を被った」とシュバーグは述べている。

 連邦政府の法律によれば、メディケード(低所得者用医療制度)の適用を受ける子ども達は、生後12ヶ月及び2歳の時に鉛汚染の検査を受けなければならないとしている。GAOのレポートによれば、この法律をどの程度守っているかは州によって著しく異っている。
 ワシントン州では該当する子ども達の1%以下しか検査を受けておらず、ニュージャージー州では40%、最高のアラバマ州でも検査を受けたのは該当する子ども達の半分以下(46%)である。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、多くの州が、連邦政府の法律を守ったかどうかについての記録さえ残していないと報じている。同紙は「アメリカで財政的に最も富んだコネチカット州を含む、多くの州が、鉛汚染に関する検査率や鉛中毒の罹患率についての州全体の記録を持っていないことを認めている」と報じている。

 ここで疑問が生じる。なぜ各州は鉛汚染の問題の大きさや、その問題解決の対策を評価するために必要となる記録を残しておかないのであろうか?

 各州にとってはコストが問題なのではない。鉛汚染検査は比較的安く、10ドル以下であるし、その検査費用は連邦政府のメディケード制度の中から100%支払われる。もし子ども達が鉛に汚染されていることがわかれば、その治療費の100%をメディケードが負担する。(但し、メディーケードは鉛汚染の原因を探すための水質検査や塗料や屋内の粉塵の検査費用は負担しない。)

 要約すると次のようになる。

  • 制定されて11年になる連邦政府の法律によれば、メディケードの適用を受けている2歳までの子ども達は全て鉛汚染の検査を受けることになっている。
  • メディケードが全ての検査費用を負担する。
  • この法律の目的は、鉛汚染の兆候を早期に発見し、子ども達の中枢神経へのダメージを最小限にすることである。
  • 低レベルの鉛汚染であっても、学習の遅れ、聴覚障害、心臓血管疾患、行動異常などの後遺症が残る。
  • しかしながら州政府はこの連邦政府の法律を無視して遵守せず、そのために毎年、数万人のアメリカの子ども達が必要な医療が受けられないないまま放置されている。

 何故だろうか? 何故、州政府は子ども達を守ることを意図した”国民の健康に関する法律”を遵守することを拒否するのだろうか?

 いくつかの理由が仮定として挙げられる。

**ワシントン州の公衆衛生担当部長代理のマクシーン D. ヘイズ博士は州政府の立場から「連邦政府には州政府がすることに、いちいち口出しをする権限などはない。」とニューヨーク・タイムズ紙に述べた。ヘイズ博士は子ども達が鉛に冒されることを無視し、連邦政府の法律をうさんくさい提案であるとして軽視しても、(そのことの道徳的側面はさておき)、それは州政府の権利であると主張しているように見える。

 それでも疑問はまだ残る。何故、州政府はそのようなことを選ぶのだろうか。

 ワシントン州は連邦政府のメディケード・プログラムに参加している。州のメディケード担当部長はニューヨーク・タイムズ紙に「鉛中毒に関して当地では大きな問題はない」という異なった説明をした。しかし、これは推測であり、鉛汚染検査制度の目的は、このような推測を確かな証拠によって確認することにあるはずである。

 胸の痛むことであるが、いままでの検査では、鉛に汚染された子ども達の多くは、1978年以前に建てられた、ほとんど手入れのなされていない家に住んでいる傾向があった。1978年以前に建てられた家の80%は、鉛を含んだ塗料が使用されており、手入れがされない建物では、現在、塗料は細かいチリとなって幼児の手に付き、口に入っている。もちろん、州の担当官が、検査もしないで、自分の州は奇跡的にこの一般的な傾向の例外であると推測することは自由ではあるが。

 疑問は残る。なぜ州の担当官は確かな証拠を集めることではなく、推測することの方を選ぶのか?

**多くの州では、州のメディケードに関する業務を”健康維持協会 Health Maintenance Organizations (HMOs)"に委託しているが、州がHMOsとの契約時に委託する業務の全容をきちんと決めることを怠っているために、鉛検査はしばしば、HMOsの業務範囲からはずれてしまう。

 疑問は残る。米国政府(Uncle Sam)は検査の費用を全部持つと言っているのに、なぜ州政府はHMOsとの契約において鉛検査を含めるよう要求しないのか?

 かいつまんで言えば,ほとんどの州政府は子ども達の鉛汚染が起こり続けることを保証するような政策をとっているように見えるし、連邦政府は州政府のこのような謀反に麻痺しているように見える。

 疑問は残る。何故?

***

 環境中の鉛汚染の原因として、主要なものが2種類あるが、それらは両方とも、人間によって作り出されたものである。

 第1のものは、1976年にアメリカでは禁止となった加鉛ガソリンであり、有毒な細かい粉塵として、約590万トン(130億ポンド)が環境中に残留している[2] 。その粉塵の多くは、現在でも、土壌中及び家屋内のチリとして存在している。さらに加鉛ガソリンは、未だにアメリカ以外の多くの国で使用されているので、大気が汚染され続け、有毒の粉塵が間断なく降り注いでいる[5] 。
 人間の手によらなくても、自然界でもある量の鉛粉塵を作り出しているが、しかし現在、人間は自然が作り出す量の19倍もの鉛粉塵を毎年作り出している。このことは、市場原理に基づく、いかに多くの人間の行為が、とてつもなく大きい、やっかいな問題を生み出しているかを思い起こさせる、驚くべき事実である[5]。

 第2のものは、塗料中の鉛である。柔らかく灰色をした金属である鉛は優れた白色の顔料となり、この鉛白色顔料から作られる塗料は、高品質で耐久性のある保護皮膜となる。しかしながら、鉛塗料もいずれは劣化し、薄片となって剥がれ、細かい有毒の粉塵となる。

  塗料中の鉛の量は、1955年に塗料業界によって自主的に制限されたが、自主的な規制であったので、その効果は上がらなかった。そこで1970年に議会は内装用の鉛塗料を禁止した。しかしながら、鉛塗料は、少なくとも1978年まで、屋内塗装で不法に使用されていたことを示す証拠がある。アメリカでは、1889年から1979年までの間に400万〜500万トン(約100億ポンド)の鉛が塗料用に使用され、その多くは現在も、塗装されたままの状態で、徐々に劣化して有毒の粉塵になっている。推定約4,200万の家族が、その塗料中に平均140ポンド(約64kg)の鉛を含んだ家屋に住んでいる。もしこれらの塗装に覆いをかけなければ、その粉塵にしばしば、触り、口に入れる乳幼児にとって、それは常に危険な存在である[3]。

 塗料中の鉛の危険性についての記述は、96年前にオーストラリアの内科医、ロックハート・ギブソンが医療機関誌のレポートで鉛塗料による子ども達の中毒について述べたのが最初である。ギブソンは、家屋の壁やベランダに塗られた鉛塗料による子ども達への危険性について、明確に述べている[1]。翌年にギブソンは「子ども達の手の届く範囲での鉛塗料の使用は法律で禁じるべきである」と主張した[6]。オーストラリア政府も結局、1922年にはギブソンの勧告を受け入れた。これはアメリカが同様なアクションをとるよりも50年も前のことであった。

 悲惨なことには、鉛は猛毒であり、特に発育途上の子ども達の神経系統が鉛に冒され易い。毎日10マイクログラムの鉛を摂取するだけで、子どもは鉛中毒になる[2]。1マイクログラムは100万分の1グラムであり、28グラムが1オンスである。
 毎日10マイクログラムの鉛の摂取が危険だということに対し、1,000万トンの鉛が20世紀の間に人間の手によって環境中に放出され、土壌及び家屋内の粉塵中に有毒な粉として、とてつもなく大量に存在し、いつでも幼児の脳を冒す原因となり得るということは信じられないことである。

 子ども達の鉛汚染について、アメリカで最初に医学の文献に現れたのは1914年のことである[7]。1917年、ボルチモアのジョン・ホプキンズ大学のある内科医は、もし内科医達が子どもの鉛汚染の事例をもっと熱心に探そうと思えば、多くの事例を見つけるであろうと述べている。

 1923年の小児科医の教科書では、8例の幼児期の鉛汚染について次のように述べている。「どの事例でも、幼児がベッドの柵や家具をかじり、その塗料を飲み込むことが鉛汚染の原因となっている」[7]。1924年のアメリカ医学協会の機関誌の記事の中で、「けいれんや激しい腹痛の症状がでる、軽症の子ども達の鉛汚染の事例がたくさんある」と述べ、その原因は鉛塗料の塗られた窓の桟やポーチの手摺やベビーベッドの柵であると正確に指摘している。1926年、アメリカ小児科機関誌はその記事の中で「鉛汚染は比較的頻繁に子ども達のなかに起きている」と述べている[7]。

 著名な鉛研究者、ジェイン・リンフは、アメリカにおける幼児の鉛汚染に関する初期の歴史について次のように要約している。「1920年代までに、激しい症状の子ども達の鉛中毒が認められ、それはアメリカ中でどこでも見られるようになった」[7] 。1979年にアメリカ疾病対策センター(CDC)はこれに同意して次のように述べた。「塗料による子どもの鉛汚染は、今世紀の早い時期に認められた」[7]。

 しかしながら問題の存在を認めるということと、そのことに対して行動をとるということは、別のことである。

【次週に続く】

ピーター・モンターギュ
===== Peter Montague (National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO) =====

[1] Robert Pear, "States Called Lax on Tests for Lead in Poor Children," NEW YORK TIMES August 22, 1999, pg. A1.

[2] Laura E. Montgomery and others, "The Effects of Poverty, Race, and Family Structure on US Children's Health: Data from the NHIS, 1978 through 1980 and 1989 through 1991," AMERICAN JOURNAL OF PUBLIC HEALTH Vol.86, No. 10 (October 1996), pgs. 1401-1405.

[3] Howard W. Mielke and Patrick L. Reagan, "Soil Is an Important Pathway of Human Lead Exposure," ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES Vol. 106, Supplement 1 (February 1998), pgs. 217-229.

[4] Institute of Medicine (U.S.) and National Institute of Public Health (Mexico), LEAD IN THE AMERICAS (Washington, D.C. and Cuernavaca, Morelos, Mexico: Institute of Medicine and National Institute of Public Health, 1996), pg. 62.

[5] Jerome O. Nriagu and Jozef M. Pacyna, "Quantitative assessment of worldwide contamination of air, water and soils by trace metals," NATURE Vol. 333 (May 12, 1988), pgs. 134-139.

[6] Gerald Markowitz and David Rosner, "'Cater to the Children:' The Role of the Lead Industry in a Public Health Tragedy, 1900-1955," AMERICAN JOURNAL OF PUBLIC HEALTH Vol. 90, No. 1 (January 2000), pgs. 36-46.

[7] Richard Rabin, "Warnings Unheeded: A History of Child Lead Poisoning," AMERICAN JOURNAL OF PUBLIC HEALTH Vol. 79, No. 12 (December 1989), pgs.1668-1674.}}

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