レイチェル・ニュース #681
200年1月6日
テレビは健康の脅威
ピーター・モンターギュ
#681 - TV Viewed as a Public Health Threat, January 6, 2000
By Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/4993

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2000年2月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_681.html



 1999年、アメリカ小児科学会は、脳の発達を妨げる恐れがあるので、2才未満の幼児にはテレビを見せるべきではないと勧告した[1]。
 幼児の知能と情緒の発達は大人とのふれあいによるところが大きいが、幼児はテレビを見ることにより、本来必要とする大人からの積極的な働きかけを受けることが出来なくなる、と小児科学会は述べている。

 特に小児科医は、2才未満の幼児にテレビを見せないよう、両親を説得すべきであると述べている。この年代の幼児向け専用に作られたテレビ番組もあるが、乳幼児期の脳の発達に関する調査によれば、乳幼児には両親やそれに代わる保育者との直接的なふれあいが、健全な知力の発育及び社会との関わりや情緒の面、あるいは物事の認識力の発達のために不可欠であることを示している。従って、乳幼児にテレビ番組を見せることには反対すべきである[1]。

 さらに、小児科医学会は、子ども達がテレビを見るのは”良質の番組”を1日に1〜2時間程度に制限するよう勧めている。(小児科医学会は1984年以来、若者の暴力とテレビに関する危惧について、一連の同様な勧告を出している。)現在、アメリカでは子ども達は1日平均3時間以上テレビを見ていると小児科医学会は述べている[1]。

 いいかええれば、子ども達は起きている時間の約20%をブラウン管に貼り付いて過ごしていることになる。これには映画や音楽のビデオ鑑賞、コンピュータやビデオ・ゲーム、娯楽を目的としたインターネット・サーフィンなどは含まれていない。
 子ども達はこれらのメディアに時間を費やすので、創造的な、活動的な、又は、社会的な営みを行うことが出来なくなっており、典型的なアメリカの子どもは70才までの間には、7〜10年間テレビを見ていることになると小児科医学会は述べている。

 小児科医学会は子ども達がテレビを見ることの弊害を下記のようなリストにまとめて刊行した。

  • 子どもたちは年間14,000回以上、性的な場面に曝されている。もし子ども達が週に21時間テレビを見るとすれば、平均的な子どもは年間1,100時間、テレビのブラウン管に貼り付くことになり、5分に1回、性的な場面に遭遇していることになる。

  • 小児科医学会は、子ども達による暴力にはテレビが相当、影響していると非難している。1,000件以上の科学的研究や調査の結果、メディアの暴力シーンに影響を受けて、一部の青少年の間では攻撃的な振る舞いが増えている。彼らは暴力に対して鈍感となり、”世の中はたちの悪い、恐ろしい所”と思い込むようになる[1]。
     アメリカの平均的な子どもは18才になるまでに、テレビだけで約200,000回の暴力シーンを見ており、ビデオゲームを加えれば、この数はさらに増大するであろうと、小児科医学会は1995年に指摘していた。メディアの暴力シーンだけがアメリカ社会の暴力の原因ではないが、容易に矯正可能な唯一の要因であると述べている{2]。

  • アメリカの子どもは高校卒業までに、約360,000回、テレビコマーシャルを見ていると、1995年にアメリカ小児科医学会は指摘している。”紀元前1750年のハンムラビ法典では親権者の承諾を得ずに子どもに物を売ることは死刑に値する罪であったが、1990年代ではアメリカの子ども相手の商売はビジネスとして当たり前のこととなった”と学会は述べている。
     さらに学会は「子供向けのコマーシャルは本質的に子どもを誤らせるものであり、8才未満の子どもには罪なことである」とし、その理由として、「8才未満の発育途上の子どもにはコマーシャルの意図を理解することには無理があり、事実、コマーシャルで言うことを真実のこととして受け入れてしまう」としている[3]。

  • しかし、国民の健康という観点から、テレビに関して学会が発表している、おそらく最も重要な情報は、テレビを見ると子どもの体重が増えるということである。1999年に学会は「テレビの見過ぎは肥満を助長する」と述べている[1]。このことは2つの理由から重要である。
     第1に、太り過ぎはアメリカの子ども達にとって、重要な問題であり、その事態はだんだん悪くなっているということである[4]。 概ね、アメリカの子ども達の25%は太り過ぎまたは肥満である。
     第2に、太り過ぎの子ども達は、そのまま太り過ぎの大人になるという傾向があるということである。アメリカ医学協会の機関誌はアメリカの成人の太り過ぎは一種の流行病であり、成人の病気や死亡の主要な原因となっていると、1999年に述べている[5]。

 ”太り過ぎ”の定義は何であろうか。太り過ぎかどうか知るためには、正確な身長(インチ)と体重(ポンド)を知る必要がある。(多くの人々は身長は過大に、体重は過小に見積る傾向がある。)さてあなたの体重に0.45を掛けてキログラムに、身長に0.0254を掛けてメートルに変換しよう。次にあなたの身長(メートル)を自乗し、その結果であなたの体重(キログラム)を割ると、その答えがあなたの体重指数 Body Mass Incex (BMI) となる。簡単にいうと BMI=kg/m2 である。

 アメリカ医学協会及び世界保健機関(WHO)によれば、BMIが19〜24.9までは”標準”、BMIが25〜29.9までは”太り過ぎ”、そしてBMIが30以上になると”肥満”と見なされる[6]。

 1991年から1998年に行われた、100,000人以上の人々に対する身長と体重に関する電話による調査により、アメリカの成人の間で肥満(BMIが30以上)が急増していることが分かった。1991年には肥満は国民の12%であったが、1998年には17.9%となっている[5]。

 しかし、これらの数値はこの問題に対して小さ過ぎるように思う。なぜなら、太り気味の人々は自分の体重を過小申告しがちだし、また人は誰でも身長は過大申告しがちだからである。
この調査によれば、1991年から1998年の間に、どの州においても、男女にも、年代にも、人種にも、教育レベルにも、喫煙/非喫煙にも関わりなく、明らかに肥満は増大している。

 人々の身長と体重を実際に測定した別の調査によれば、アメリカ人男性の21%と女性の27%は肥満である。さらに肥満だけでなくBMIが25以上の太り過ぎを加えれば、1998年には63%の男性と55%の女性がこの範疇に含まれることになり、これは過去30年間で25%以上増加したことになる[7]。 また、この調査によれば、アメリカの子ども達の少なくとも25%は太り気味または肥満である[8]。

 BMIの25という値は”太り過ぎ”の定義として、勝手に選定されたわけではない。このBMI値を境に、国民の体重に関連する病気が増加し始めるからである。BMIが25を超えると高血圧、2型糖尿病、膀胱炎及び関節炎が増加する[7]。肥満の人の約80%はこれらの病気の少なくとも1つを、また40%の人は2つ以上の病気を持っている。

 1999年に刊行された調査によれば、アメリカでは1991年に太り過ぎで約280,000人が死亡している。これら280,000人の人々は、太り過ぎでなければ1991年には死ななくてもすんだということができる。太り過ぎは人の寿命を約1年〜3年縮めるという[9]。

 アメリカでの肥満の急増(他の国でも起きていることであるが)についての、現在、受け入れられている医学的な説明は、単純明快である。食物から摂取するカロリーは多過ぎて、仕事や運動で消費するカロリーは少な過ぎるということである[10,11]。

 しかしながら、この手に余る太り過ぎという流行病は、減量とかフィットネスとか、あるいはダイエット等が社会に流行り、いささか私たちを困惑させている。アメリカ女性のほぼ半分と男性の3分の1は、自分たちが体重の減量に努めている、と報告している[10]。

 ヘルスクラブやフィットネスセンターが沢山でき、家庭用健康器具はビジネスブームとさえなっている。ウオーキングやジョギングやローラー・スケートやサイクリングをする人はどの町にもよく見かけられる。低カロリー、低ファットの健康食品がスーパーマーケットやレストランで売り出されている。それでは、なぜ、あらゆる年代、人種、教育レベル、性別、場所を超えて、アメリカ人は自分の体重をコントロールすることができないのであろうか。

 ホルモンが関係するという有力な仮説がある。過去10年の研究により、ある一連のホルモンが食欲および食物により肥満となる体の仕組みをコントロールしていることがつきとめられた[12]。

 そのようなホルモンの一つはレプチンと呼ばれ、最近、適量のレプチン注射により人の体重が減少することがわかった[13]。
 レプチンはメラニン刺激ホルモン(MSH)であり、この実験を行った科学者自身がびっくりするほど急激に、肥満したマウスの体重が減少するということは、興味深いことである[14]。

 野生生物や、実験動物、さらには人間を対象とした最近の研究により、環境に放出されるいくつかの化学物質がホルモンに悪さをすることが分かっている[15]。
 環境中に広くまき散らされている何かが食欲や肥満をコントロールするホルモンに悪さをしていることは想像に難くない。

 もちろん、ホルモンかく乱物質は単独で作用するものではない。ファースト・フードやスナック・フードを食べるよう私たちに絶え間なく働きかける広告が私たちに大きな影響を与えていることは間違いない。座ったままの生活も影響がある。つい最近刊行されたアメリカ医学協会機関誌によれば、子供達が少しテレビを見ないようにするだけで体重も、胴回りのサイズも減少する[16]。

 要するに、太り過ぎは健康に関する社会的な問題で、テレビの見過ぎは、そのことに寄与する重要な、しかし、防ぐことのできる要因だということである。

ピーター・モンターギュ
===== Peter Montague (National Writers Union, UAW Local 1981/AFL-CIO) =====

本文中の参照文献

[1] "Media Education," PEDIATRICS Vol. 104, No. 2(August 1999), pgs. 341-343. Available at www.aap.org/policy/RE9911.html.

[2] "Media Violence," PEDIATRICS Vol. 95, No. 6 (June 1995), pgs. 949-951. Available at www.aap.org/policy/00830.html. And see "Children, Adolescents, and Violence," PEDIATRICS Vol. 96, No. 4(October 1995), pgs. 786-787. Available at www.aap.org/- policy/9538.html. And see, "The National Television Violence Study: Key Findings andR1996), pgs. 54-55.

[3] "Children, Adolescents, and Advertising," PEDIATRICS Vol. 95, No. 2 (February 1995), pgs.295-297. Available at www.aap.org/policy/00656.html.

[4] Richard P. Troiano and others, "Overweight children and adolescents: description, epidemiology, and demographics," PEDIATRICS Vol. 101, No. 3 (March,1998), pgs. 497-504. And: Richard P. Troiano, "Overweight Prevalence and Trends for Children and Adolescents," ARCHIVES OF PEDIATRIC AND ADOLESCENT MEDICINE Vol. 149 (October 1995), pgs. 1085-1091.

[5] Ali H. Mokdad and others, "The Spread of the Obesity Epidemic in the United States, 1991-1998,"JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 282, No. 16 (October 27, 1999), pgs. 1519-1522.

[6] "Are You Obese?" JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 282, No. 16 (October 27, 1999), pg. 1596. Also available at www.ama-assn.org/consumer.htm.

[7] Aviva Must and others, "The Disease Burden Associated With Overweight and Obesity," JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 282, No. 16 (October 27, 1999), pgs. 1523-1529.

[8] James O. Hill and John C. Peters, "Environmental Contributions to the Obesity Epidemic," SCIENCE Vol. 280 (May 29, 1998), pgs. 1371-1374.

[9] David B. Allison and others, "Annual Deaths Attributable to Obesity in the United States," JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION," Vol. 282, No. 16 (October 27, 1999), pgs. 1530-1538.

[10] Phil B. Fontanarosa, "Patients, Physicians, and Weight Control," JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 282, No. 16 (October 27, 1999), pgs. 1581-1582.

[11] Jeffrey P. Koplan and William H. Dietz, "Caloric Imbalance and Public Health Policy," JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 282, No. 16 (October 27, 1999), pgs. 1579-1581.

[12] Jack A. Yanovski and Susan Z. Yanovski, "Recent Advances in Basic Obesity Research," JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 282, No. 16 (October 27, 1999), pgs. 1504-1506.

[13] Steven B. Heymsfield and others, "Recombinant Leptin for Weight Loss in Obese and Lean Adults,"JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 282,No. 16 (October 27, 1999), pgs. 1568-1575.

[14] Joan Stephenson and others, "Knockout Science: Chubby Mice Provide New Insights Into Obesity,"reporting on L. Yaswen and others, "Obesity in the mouse model of pro-opiomelanocortin deficiency responds to peripheral melanocortin," NATURE MEDICINE Vol. 5, No. 9 (September, 1999) pgs. 1066-1067, which was commented upon in G. Barsh, "From Agouti to Pomc--100 years of fat blonde mice," NATURE MEDICINE Vol 5, No. 9 (September, 1999), pgs. 984-985.

[15] For example, see William R. Kelce and others, "Persistent DDT metabolite p,p'-DDE is a potentandrogen receptor antagonist," NATURE Vol. 375 (June 15, 1995), pgs. 581-585, and Frederick S. vom Saal and others, "Prostate enlargement in mice due to fetal exposure to low doses of estradiol and PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES Vol. 94 (March 1997), pgs. 2056-2061, and Jorma Toppari and others, "Male reproductive health and Environmental Xenoestrogens," ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES Vol. 104, Supplement 4 (August 1996), pgs. 741-803.

[16] Thomas N. Robinson, "Reducing Children's Television Viewing to Prevent Obesity; A Randomized Controlled Trial," JOURNAL OF THE AMERICAN MEDICAL ASSOCIATION Vol. 282, No. 6 (October 27, 1999), pgs. 1561-1567.

Descriptor terms:
tv; obesity; overweight; weight; diabetes; osteoarthritis; gall bladder disease;violence; children; hormones; leptin; msh; melanocyte stimulating hormone; high blood pressure;

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