カナダ政府
リスクに関する科学に基づく政策決定における
予防の適用の枠組み

情報源:Government of Canada 2003-07-25
A Framework for the Application of Precaution in Science-based Decision Making about Risk
http://www.pco-bcp.gc.ca/docs/information/publications/precaution/Precaution-eng.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

掲載日:2003年11月23日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/canada/framework_precaution.html

内 容

1.0はじめに
2.0経緯
3.0政策決定における科学と不確実性
4.0科学に基づく政策決定への予防の適用の指針原則
 適用における5つの原則
 4.1予防の適用はリスク管理における正当で有効な政策決定アプローチである
 4.2決定が社会の選択したリスクからの保護レベルに依存するということは正当である
 4.3健全な科学的情報とその評価が予防の適用のベースとならなくてはならない。その科学的情報のベースとそれを作り出す責任は知識の発展とともに変わっていくかもしれない
 4.4将来の検討のために、決定のベースを再評価でき、透明な決定プロセスを提供できる仕組みがなくてはならない
 4.5高度な透明性、明確な説明責任、及び意味ある公衆参加が適切である
 予防措置における5つの原則
 4.6予防措置は、科学、技術、及び社会が選ぶ保護レベルの進展・変遷にともない、再検討されなくてはならない
 4.7予防措置は対処しようとしているリスクの深刻さと社会が選ぶ保護レベルとの間で釣り合いが取れていなくてはならない
 4.8予防措置は非差別的であり、同等な状況でとられた措置と一貫性がなくてはならない
 4.9予防措置はコスト効果があり、次の目標を持たなくてはならない
(@)最小のコストで社会全体の利益を生み出すこと
(A)措置の選択において効率がよいこと
 4.10上記の特性を合理的に満たす複数の選択肢がある場合には、最も通商障壁とならない措置が適用されなくてはならない
5.0結論


1.0 はじめに


 この枠組みは、健康と安全と環境の保護、及び天然資源の保護のためのカナダ連邦の規制措置領域における科学ベースの政策決定に対する予防の適用の指針原則を示すものである。

予防の適用とは何か?

 ”予防 precaution”、”予防原則 precautionary principle”、あるいは、”予防的取組方法 precautionary approach” の適用では、深刻な又は不可逆的な危害のリスクがある場合、十分な科学的確実性が存在しないことが決定を遅らせる理由に使われてはならないということを認める。

 予防の適用は科学ベースのリスク管理において特徴をあらわし、3つの基本的な要件によって特徴付けられる。決定の必要性、深刻な又は不可逆的なリスク、及び、十分な科学的確実性の欠如である。

 カナダには規制措置の分野で予防の適用を行ってきた長い歴史がある。これに関する政府の義務は、連邦法の適切な条項、連邦−州の合意による拘束、及びカナダが参加する国際条約によって支配される。

指針と根拠は必要か?

 もし、予防の適用を必要とする状況、すなわち、深刻な又は不可逆的なリスクについての十分な科学的確実性がない場合、指針と根拠は政策決定の基準として必要な条件である。指針と根拠は科学的不確実性が高い時に特に必要である。

枠組みの目的は何か?

 枠組みは、既存のカナダの実施方法を強化し記述することに役に立つ。枠組みの目的は次のようなことである:
  • 適切で合理的でコスト効果のある決定を行うための連邦政府の予防の適用における予測性、信頼性、及び一貫性を向上すること
  • 危機や論争を最小限にし機会を利用しながら、健全な連邦政府の政策決定を支援すること
  • 連邦政府の予防的政策決定は厳格で健全で信頼性があるということについて、カナダ及び海外にいる国民や関係者の自信を高めること
  • 国際的標準と予防の適用に積極的に影響をあたえることができるようカナダの能力を高めること
 最終的には、この枠組みは、予防的政策決定がカナダの社会的、環境的及び経済的な価値と優先度を維持しているかどうかを評価するためのレンズとなる。
 それは、 ”政府の統合リスク管理の枠組み(Integrated Risk Management Framework)” 及び ”科学技術勧告の枠組み : 政府の政策決定における科学技術勧告の効果的な使用のための原則と指針 (A Framework for Science and Technology Advice: Principles and Guidelines for the Effective Use of Science and Technology Advice in Government Decision making)” を補完するものである。


2.0 経緯


 カナダには科学ベースの規制プログラムで予防の適用を行ってきた長い歴史がある。技術ベース、地球規模ベース、及び知識ベースの経済は、私営及び公営の企業におびただしい変化を及ぼした。個人及びビジネスの活動に内在するリスクはより大きな不確実性の一因となっている。
 リスク・ベースの出来事に明確な政策をとろうとすると、これらの変化により、リスクを管理し変化が存在する機会をつかむための、もっと効果的な戦略の必要性が明らかになる。

 政府は、常に十分な科学的確実性に基づいて措置をとるということはほとんどできないし、また、ゼロ・リスクを保証することもできない。事実、今まで政府は新たなリスクと潜在的な危機に対し積極的に向き合ってきたし、重大な科学的不確実性が存在する問題にも対応してきた。
 しかし、科学的不確実性の下で政策決定を行なわなければならない必要性が、広い領域及び公衆の目に見える範囲で増大してきた。その結果、政策決定への予防の適用ということについての理解が増し、その重要性が高まってきた。

 予防の適用は、主に、選択肢の展開と科学ベースのリスク管理の範囲内での決定段階に影響を与えるが、それは明らかに科学的分析と関係している。(それは科学的要因とその結果としてのリスクについての適切な評価なしには適用できない)。
 結局、予防の適用は価値と優先度に基づく判定に従うことになるが、それは科学の持つ本質的な動特性のために複雑なものになる。たとえ科学的情報に結論が出なくても、社会はリスクに注意が向けられ措置がとられること、及び生活水準が高まることを期待しているので、政策決定はなされなくてはならない。

 カナダの予防の適用は柔軟性があり、特定の状況に対しても対応しやすい。さらに、特定の法律や国際的義務 (例えば漁業問題への対処など )によって求められる成果を実現するために、ルールに基づくアプローチが採用される。


3.0 政策決定における科学と不確実性


 科学的プロセスはしばしば不確実性と論争を伴うので、科学的情報に関連するリスクを管理するための政策決定プロセスには健全な判断が求められる。政策決定への予防の適用は、より高度な科学的不確実性と、適切な科学的ベース及び健全で厳格な判断の構成要素となる変動要因に基づいて、従来のリスク管理の範囲内で特に特徴をあらわす。
 予防の適用にあたって、次のことに留意する:
  • 十分に健全である、又は信頼性がある科学的ベースとは何か?
  • どのようなフォローアップが適切であるか?
  • 誰が信頼性のある科学的ベースを作成するのか?
  • 政策決定での科学の本質的動特性
十分に健全である、又は信頼性がある科学的ベースとは何か?

 リスク管理のための政策決定における従来の状況においては、 ”健全な科学的証拠” とは一般的に、リスクの深刻さを明確に確証する科学的理論又は明確な経験に基づく情報に裏付けられた決定的な、あるいはもっともらしい証拠であると解釈されていた。

 予防に関する場合、十分に健全である、又は信頼性がある科学的ベースが何かを決めることが、しばしば、難題であり論争される。深刻なあるいは不可逆的な危害のリスクが存在するという健全で信頼性のあるケースに重点が置かれねばならない。
 ”科学的に健全” あるいは信頼性のある科学的ベースとは、それが経験に基づくものか理論に基づくものかを問わず、不確実性を含む理論の有効性を合理的に証拠立てることができ、また、そのようなリスクの潜在性を示す科学情報の主要部であると理解されるべきである。

どのようなフォローアップが適切か?

 もし、予防の適用において顕著な科学的不確実性が内在するなら、研究調査や科学的監視などのフォローアップが通常、予防の適用における重要な一部となる。ある場合には、国際的条約 (例えば、衛生植物検疫措置の適用に関する協定 (訳注:SPS 協定 Sanitary and Phytosanitary Agreement 1994 日本語訳サイトへのリンク) は予防が適用された場合には科学的監視とフォローアップを要求する。そのような努力があれば、あるリスクに伴う科学的不確実性を減少することに役立ち、どのようなフォローアップが決定されるべきかについて知ることができる。
 他の状況では、科学的不確実性は解決するのに長い期間がかかるかもしれないし、又は、実際的な目的としては、十分な程度には決して解決されないかもしれない。

 科学的思考と意見の最大限の多様性を確保するために、政策決定のベースは様々な科学的根拠及び多くの分野の専門家たちから引き出されなくてはならない。しかし政策決定者は、学者間により検証された科学とそこから得られる判断の妥当性に、特に重きを置くべきである。さらに、この科学的機能は一定の形式、例えば、広く認められ信頼のある人々を含む独立した諮問機関などによりさらに補完されうる。

誰が信頼性のある科学的ベースを作成するのか?

 誰が信頼性のある科学ベースを作成すべきかをきちんと決めようとすると、いくつかの疑問が生じてくる。科学的データと政策決定のベースを提供する責任者として誰が任命されるべきなのか? 政策決定者は、誰が法的責任、又は権限を有するのか (例えば、カナダにおける法的代理人として指定された提案者) 、誰が科学的データを供給するのに最も適切な地位にいるか、そして、誰がタイムリーに信頼性のある情報を提供する能力があるかというような基準を評価しなくてはならない。

 潜在的に深刻な危害に対して行動を起こしている団体は一般的に責任ある当事者として認定されるが、これもケースバイケースで決定されることが最良である。政府や産業界の異なるレベル間の協調など革新的な戦略もまた導入されるかもしれない。
 科学的知識は進展するので、この責任は政府、産業界、あるいは他の提案者 (例えば、すでに市場に出ている製品の有害性について医療従事者が報告するということ) の間で移動するかもしれない。

政策決定での科学の本質的動特性

 科学における不確実性の本質的な動特性は独自な課題を提示する。気候変動がよい例である。人間の活動が大気中の温室効果ガスの量を増やし、これらの増加が地球の気候変動に貢献しているということは国際的な常識である。しかし、これらの増加に対する気候変動の幅、特に気候変動のタイミングと地域的な特性については科学的な不確実性がある。
 また、モデリングによる検証によれば予想される気候変動に対処するための経済的コストとともに、これらの影響は十分管理できるとしているが、温室効果ガス削減のための措置に対する経済的コストについてはかなりの程度の不確実性が存在する。

 科学的情報にはまだ結論が出ていなくても、生活水準を高め潜在的リスクに目を向けることについての社会の期待に応えるために政策決定がなされなくてはならない。
 急速に発展する科学と技術に由来する製品とプロセスの持つ全ての潜在的能力を理解することは、国際的な条約や指針とともにカナダの法と規制を具体化する上で重要である。
 その密接なかかわりは、今、まさに見え始めてきたところであり、最終的には決定に影響を与えるであろう。


4.0 科学に基づく政策決定への予防の適用の指針原則


 すでに述べたように、リスクを管理するための科学ベースの政策決定への予防の適用は、特定な状況と要素によって促進され、3つの基本的な要件、すなわち、決定の必要性、深刻なあるいは不可逆的な危害のリスク、及び、十分な科学的確実性の欠如、によって特徴付けられる。

 この枠組みで概説する指針原則は、現状の実施状況を反映し、全体にわたって適用における一貫性を保つよう意図されており、特定の状況と要素にも対応できる柔軟性をもち、誤用や濫用を抑制するようにできている。
 これらの原則は、リスク管理の中で特徴をあらわすプロセス分野に焦点をあてているが、政策決定者に対し彼らの法的規制者と矛盾する方法で行動することを命じるものではない。さらに、この枠組みは予防の適用の新たな法的義務を生み出すことを意味しない。

 予防措置のための原則は、一度決定がなされたならその措置は法的に保証されるという特定の特徴を述べているのに対し、適用の一般原則は予防的な政策決定の特徴的な姿を描き出している。
 General principles of application outline distinguishing features of precautionary decision making whereas principles for precautionary measures describe specific characteristics that apply once a decision has been taken that measures are warranted.

■適用における5つの原則
  Five General Principles of Application

4.1 予防の適用はリスク管理における正当で有効な政策決定アプローチである
  • 予防は主に選択肢の展開と決定段階に影響を与えるが、それは明らかに科学的分析に関係している。 (それは科学的要素とその結果としてのリスクについての適切な評価なしには適用できない)。 最終的にはそれは価値と優先度に基づく判断によって導かれる。

  • 予防を適用する政府の義務は、連邦法の適切な条項、連邦−州の拘束力ある合意、及びカナダが参加する国際条約に支配される。

  • 政府は予防原則/アプローチ(precautionary principle/approach)が国際慣習法における一つの規則であるとはまだ考えていない。
4.2 決定が社会の選択したリスクからの保護レベルに依存するということは正当である
  • 可能な程度に、保護のレベルは、法律など国内の政策文書及び国際的な合意書を通じて事前に確立されるべきである。

  • 保護レベルの決定に当たっては、社会的価値とリスクを受け入れるという公衆の意思が重要であるが、いかなる場合にも健全な科学的証拠は予防的取組方法の適用に欠くことのできない基本的なものである。

  • あるリスクは、今までにない新しく出てきたものであり、科学的知識の発展が社会の許容と社会が選択する保護レベルに影響を与えるかもしれないということを認識すべきである。そのような状況においては、その決定によって影響を受ける多くの人々からの情報を求める公衆参加の仕組みが、リスクへの保護レベルについて事前に理解するのに役に立つ
4.3 健全な科学的情報とその評価が予防の適用のベースとならなくてはならない。その科学的情報のベースとそれを作り出す責任は知識の発展とともに変わっていくかもしれない
  • 健全な科学的情報とその評価が、次のことの基礎となるということは、特に意味があることである。
    (@)行動を起こすか起こさないか(すなわち、予防的措置を実施するかしないか)の決定、
    (A)かつてなされた決定を採用した措置

  • 何が十分に健全でまたは信頼性のある科学的なベースを構成するかの決定に関しては、深刻なまたは不可逆的な危害のリスクが存在するという健全で信頼性のあるケースにおいて強調されるべきである。 ”十分に健全” または信頼性のある科学的ベースとは、経験的であろうと理論的であろうと、その不確実性を含む理論の有効性についての合理的な証拠を確立でき、そのようなリスクの潜在性を示す、科学的情報の主要部のことであると解釈される。

  • リスクに関連する科学的データは、危害の発生の可能性とその危害の程度(起こりうるダメージの程度、残留性、可逆性、遅発的影響、などを含む)を記述する結論に導く、健全で信頼性があり透明で包括的な仕組みを通じて評価されなくてはならない。

  • 入手可能な科学的情報は、高い品質の科学的証拠(量ではない)を確保することに重点をおいて評価されなくてはならない。報告書は、既存の知識の状態の概要を記述し、評価の信頼性に関する特定の見解を用意し、今後の科学的研究又は監視のためにまだ残存している不確実性とその領域を指摘しなくてはならない。

  • 科学者間の検証(peer review)は、政策決定への予防の実際的な適用のための確固としたテストを意味する。科学者間の検証プロセスにより、科学者集団の中で科学的証拠の健全性と本質的な信頼性を評価することができる。

  • 科学的なアドバイスが様々な筋や専門家から引き出されなければならず、また、入手可能な証拠と一貫性がある多様な科学的解釈に反映されなければならない。これは、証拠とその解釈を提供する有効な役目を持つ先住の民や漁業共同体などからの伝統的な知識の貢献を除外するものではない。
     科学的審議委員は、科学者間で検証された科学に重点を置き、判定のベースとなる健全で合理的な証拠を目指さなければならない。

  • 差し迫った危害の可能性がある場合には、リスクと全体への影響に着目して、措置の有効性を評価するために密な監視を行うという理解の下に、最短期間で政策決定を行い予防的措置を実施することが適切かもしれない。

  • 研究や監視を含む追跡行動(フォローアップ)は、科学的不確実性を減らすために重要であり、将来の政策決定の改善を可能にする。

  • 全体として、健全な科学的ベースを提供する責任は、深刻な危害のリスクに関わる行為をしようとする者(すなわち、製品を作る、プロセスを採用する、天然資源を取り出すことに関わる団体)にある。
     しかし、具体的な問題に直面した時には、誰が情報のベースを提供するのが最適かについて評価が行われるべきである。このことは、どの団体が責任又は権限を持っているかに依存し、また、誰がタイムリーにそして信頼性のある情報を提供する能力があるかというような基準によって決めることができる。

  • 健全な科学的ベースを提供する責任は、その時々で決定するのが最良で、また協調的な結果が得られるかもしれない。さらに、適切な科学的ベースとそれを生成する責任を構成するものは、知識が発展し私営及び公営企業の役割が変遷するにつれて変わっていくものであるということを認識すべきである。
4.4 将来の検討のために、決定のベースを再評価でき、透明な決定プロセスを提供できる仕組みがなくてはならない

  • その決定により影響を受けた人々の経験が再評価プロセスに反映されることが望ましい。

  • 影響(利益と不利益)の再評価と諮問の仕組みはどのような場合であっても評価されなくてはならない (すなわち、時には実際的ではない、あるいは生産的でないことがある)。 既存の再評価及び諮問の仕組みの中には (例えば、漁業資源保護など)、 更なる仕組みを設けることは適切ではないものも、あるかもしれない。

  • 再評価は、新たな科学的情報、新たな技術、又は社会のリスクに対する許容の変化の出現が引き金となるかもしれない。決定の効果的な検証には、定期的な見直しと効果測定結果の報告の仕組みをもった進行ベースの決定効果の監視が必要である。

  • 説明責任が理解され、尊重され、意思が伝達されるようにするために、政策決定の階層構造と、そのプロセスへの関与者の義務と責任は、明確にされなくてはならない。

  • 再評価の形態、タイプ、及び頻度と諮問の仕組みは、特定の状況、例えば、資源保護のための進行中の仕組みの中で予防が適用されるかどうか、あるいは、さし差迫った危害の可能性がある状況、に関連するかもしれない。
4.5 高度な透明性、明確な説明責任、及び意味ある公衆参加が適切である

  • ”公衆のリスクへの許容度” 又は ”社会が選ぶ保護のレベル” について理解すると、高度な透明性、明確な説明責任、及び意味ある公衆参加の必要性がより理解できる。

  • 政策決定の根本原理を文書化して透明性を図ることにより、説明責任を強化することができる。

  • 情報の双方向共有と広範な展望を政策決定に含めことは、政策決定プロセスの公開性と透明性の要となり、政府が行う政策決定の信頼性と信用を強化することができる。
     政府の ”コミュニケーション政策” は、よく調整され効果的に管理され、対応力のあるコミュニケーションのための原則を与えるものである。

  • 公衆の参加は、矛盾を解決するあるいは特定の規則により合同問題解決に関与するための基盤となる。それは曖昧さと不確実性を認め、異なる見方を受け入れることを促進する。さらに、それは科学者間の検証に活力を与え、不確実性とリスクに関し公衆から異なる解釈を得る機会を与える。

  • 公衆の参加は、政策決定プロセスとともに、科学的検証と諮問プロセスに織り込まれなくてはならない。同時に、公衆参加の機会は、しばしば、特定の状況と要求される決定の時間的制約に依存するということが認識されなくてはならない。不確実性が顕著な場合には(危害の程度及び/又はそれが起こるかどうかについて、又は、複雑な科学を取り込んだ危害に対処する最も効果的な方法について)、公衆参加は不確実性とリスクに関する解釈を得る機会を供給するものとして必要である。
■予防措置における5つの原則
  Five principles for Precautionary Measures

4.6 予防措置は、科学、技術、及び社会が選ぶ保護レベルの進展・変遷にともない、再検討されなくてはならない

  • 予防措置(Precautionary measures)は一般に暫定的なベースで実施される。すなわち、新たな科学的情報、あるいは社会が選択するリスクに対する保護レベルのような関連する状況に照らして、再検証されなくてはならない。

  • もし、科学的知識の進展に限界があるなら、政策決定者は、科学的不確実性は早急には解決することはできず、ある場合には、その状況に本質的なもの(例えば、変化は天然資源にとって本質的)であると認識しなくてはならい。もし新たな科学知識の進展があれば、それにともなって見直しを行わなければならない。ある場合には、時間的制約をつけることは逆効果となるであろう。

  • 国内のあるいは国際的な義務が、ある予防措置は明らかに暫定的で再評価されるべきものであるとみなすことを要求することがある。それらには現在実施中の監視や報告の仕組みが含まれることもある。

  • 公式的な義務であるかどうかに関わりなく、追跡科学行動(例えば、今後のさらなる研究と監視)が促進されなくてはならない。それにより、不確実性を減らし、科学の進歩にともない政策決定の改善に役立てることができる。
4.7 予防措置は対処しようとしているリスクの深刻さと社会が選ぶ保護レベルとの間で釣り合いが取れていなくてはならない

  • 可能なら、社会のリスクに対する許容レベルと潜在的なリスク低減措置の両方を特定することに対し、暗黙の必要性がある。この情報は、措置が対処しようとしているリスクの深刻性と釣り合いが取れているかどうか、及び、保護レベルは変わっていくということを認識しつつ、その措置が保護レベルを達成するかどうか、を決定するためのベースとならなければならない。

  • 判断は最大限、科学的証拠に基づかなければならないが、政策決定者は、社会的価値やリスクを受け入れる意思、及び経済的及び国際的配慮などの、他の要素もまた考慮しなければならい。これにより、より明快な措置の均衡性の評価が可能になり、最終的には、予防の適用の信頼性を維持することに役立つであろう。

  • 一般的に、措置がリスクの深刻さと均衡していると考えられるかどうかの評価は、特定の状況における潜在的危害の程度と特性に関連しているべきであり、他の状況でとられた措置との比較で行われるべきではない。
4.8 予防措置は非差別的であり、同等な状況でとられた措置と一貫性がなくてはならない

  • リスクに対する適切な保護レベルの決定にあたっては一貫したアプローチが用いられなくてはならない。最終的に保護レベルは、社会的な価値と全体として一貫性があるやり方で、潜在的な(あるいは知覚される)コストと便益を秤にかけて公益に資するべきである。

  • 同様な状況は本質的に異なるものとして扱われるべきではなく、政策決定者は一貫性を保つために同様な状況で用いられたプロセスを用いることを検討すべきである。予防措置の選択が条約や法律で事前に決定されている場合を除き、その選択は柔軟性があり、状況によって決定されるべきものである。

  • 国内における予防の適用は、カナダが参加する国際的な条約によって発生するカナダの義務と一貫性がなくてはならず、また可能なら、その”規制方針”によって確立される要求事項に合致しなくてはならない。
4.9 予防措置はコスト効果があり、次のの目標を持たなくてはならない

 (@) 最小のコストで社会全体の利益を生み出すこと
 (A) 措置の選択において効率がよいこと


  • 予防的政策決定 (行動するか、しないか) の、社会的、経済的、及びその他の関連する要素を含む、実際の及び潜在的な影響が評価されなくてはならない。

  • 政策決定は、可能な限り明確に、速やかに、潜在的コストと便益を特定し、社会が、たとえ不完全でも、健全で合理的な科学的証拠に基づき受け入れる用意のあるリスクは何かを見分けなくてはならない。

  • リスクとリスクのトレードオフ、あるいは、異なるリスクの比較評価が一般的に適切であるが、緊急の措置が必要な状況ではこれは不可能かもしれない。これにより、社会がその決定から最終的な便益を受け、予防の適用が本質的に技術の革新や変化の可能性に対応し、また、そのような変化が伴う全体的な便益にも対応することを確実にすることができる。

  • 予防措置の効率を評価するためには一般的に、どの選択肢が全体的コストを最小にして最も効率的にリスクに対処することができるかを決定するために、様々な政策文書を比較することとなる。このプロセスの結果は、最も少ないコストですむ、または許容レベルまでリスクを削減しつつ、コストを低減できる措置に織り込まれなくてはならない。

  • 科学の進展に従って、政策決定及びその関連措置のコスト効率が、その開始時点、中間時点、そして可能なら長期間にわたって、評価され考慮されることが本質的に適切である。
     ある問題については、例えば、生物多様性に関わる決定のように、最終的な便益は長期間においても把握することができないかもしれない。しかし、コスト効率の考慮を変えてしまうことになるかもしれない新たな科学的データを織り込むことができるように(効果監視結果など)、リスクの削減を図りつつ、そして適切なら便益の最大化を図りつつ (例えば、革新から)、常に、現在発生しているコストを評価し、最小化することを確実にすることが強調されなくてはならない。

  • 政策決定者は、社会が全体として最終的に便益を受けることを確実にすることに役立つ (例えば、集団の一部としての子どもたちの健康が増進することによる便益、あるいは、技術革新や変化から受ける便益) 幅広いコストと便益について検討しなくてはならない。
4.10 上記の特性を合理的に満たす複数の選択肢がある場合には、最も通商障壁とならない措置が適用されなくてはならない

  • 潜在的な危害に対し同等なレベルの対応が可能な異なるタイプの措置があるときには、 ”最も通商障壁が少ない” 措置を選択する努力が払われなければならない。

  • 最小通商障壁の配慮は、国際的および国内の通商に適用されなければならない。このことは他国が予防措置の特性と影響に取り組まなければならない試練と仕組みが存在する場合に、特に関連がある。

5.0 結論


 リスクについての科学ベースの政策決定における予防の適用のための枠組みは、科学が関わる連邦政府の国内政策、法、取り決め、及び、国際的な条約と指針に関して、十分な科学的確実性には欠けるが深刻で不可逆的な危害が予想されるリスクについての政策決定への首尾一貫した結合力のある予防の適用を成し遂げるための指針原則を提示するものである。

 各省庁及び各機関の担当者は政策決定に当たってその指針原則を考慮し、関係者と協議の上、それぞれの責任範囲において予防の適用の指針を展開するために協力することが期待される。

最終更新:2003-07-25



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