カナダ政府
リスクに関する科学に基づく政策決定における 予防の適用の枠組み 情報源:Government of Canada 2003-07-25 A Framework for the Application of Precaution in Science-based Decision Making about Risk http://www.pco-bcp.gc.ca/docs/information/publications/precaution/Precaution-eng.pdf 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2003年11月23日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/canada/framework_precaution.html 内 容 1.0 はじめに この枠組みは、健康と安全と環境の保護、及び天然資源の保護のためのカナダ連邦の規制措置領域における科学ベースの政策決定に対する予防の適用の指針原則を示すものである。 予防の適用とは何か? ”予防 precaution”、”予防原則 precautionary principle”、あるいは、”予防的取組方法 precautionary approach” の適用では、深刻な又は不可逆的な危害のリスクがある場合、十分な科学的確実性が存在しないことが決定を遅らせる理由に使われてはならないということを認める。 予防の適用は科学ベースのリスク管理において特徴をあらわし、3つの基本的な要件によって特徴付けられる。決定の必要性、深刻な又は不可逆的なリスク、及び、十分な科学的確実性の欠如である。 カナダには規制措置の分野で予防の適用を行ってきた長い歴史がある。これに関する政府の義務は、連邦法の適切な条項、連邦−州の合意による拘束、及びカナダが参加する国際条約によって支配される。 指針と根拠は必要か? もし、予防の適用を必要とする状況、すなわち、深刻な又は不可逆的なリスクについての十分な科学的確実性がない場合、指針と根拠は政策決定の基準として必要な条件である。指針と根拠は科学的不確実性が高い時に特に必要である。 枠組みの目的は何か? 枠組みは、既存のカナダの実施方法を強化し記述することに役に立つ。枠組みの目的は次のようなことである:
それは、 ”政府の統合リスク管理の枠組み(Integrated Risk Management Framework)” 及び ”科学技術勧告の枠組み : 政府の政策決定における科学技術勧告の効果的な使用のための原則と指針 (A Framework for Science and Technology Advice: Principles and Guidelines for the Effective Use of Science and Technology Advice in Government Decision making)” を補完するものである。 2.0 経緯 カナダには科学ベースの規制プログラムで予防の適用を行ってきた長い歴史がある。技術ベース、地球規模ベース、及び知識ベースの経済は、私営及び公営の企業におびただしい変化を及ぼした。個人及びビジネスの活動に内在するリスクはより大きな不確実性の一因となっている。 リスク・ベースの出来事に明確な政策をとろうとすると、これらの変化により、リスクを管理し変化が存在する機会をつかむための、もっと効果的な戦略の必要性が明らかになる。 政府は、常に十分な科学的確実性に基づいて措置をとるということはほとんどできないし、また、ゼロ・リスクを保証することもできない。事実、今まで政府は新たなリスクと潜在的な危機に対し積極的に向き合ってきたし、重大な科学的不確実性が存在する問題にも対応してきた。 しかし、科学的不確実性の下で政策決定を行なわなければならない必要性が、広い領域及び公衆の目に見える範囲で増大してきた。その結果、政策決定への予防の適用ということについての理解が増し、その重要性が高まってきた。 予防の適用は、主に、選択肢の展開と科学ベースのリスク管理の範囲内での決定段階に影響を与えるが、それは明らかに科学的分析と関係している。(それは科学的要因とその結果としてのリスクについての適切な評価なしには適用できない)。 結局、予防の適用は価値と優先度に基づく判定に従うことになるが、それは科学の持つ本質的な動特性のために複雑なものになる。たとえ科学的情報に結論が出なくても、社会はリスクに注意が向けられ措置がとられること、及び生活水準が高まることを期待しているので、政策決定はなされなくてはならない。 カナダの予防の適用は柔軟性があり、特定の状況に対しても対応しやすい。さらに、特定の法律や国際的義務 (例えば漁業問題への対処など )によって求められる成果を実現するために、ルールに基づくアプローチが採用される。 3.0 政策決定における科学と不確実性 科学的プロセスはしばしば不確実性と論争を伴うので、科学的情報に関連するリスクを管理するための政策決定プロセスには健全な判断が求められる。政策決定への予防の適用は、より高度な科学的不確実性と、適切な科学的ベース及び健全で厳格な判断の構成要素となる変動要因に基づいて、従来のリスク管理の範囲内で特に特徴をあらわす。 予防の適用にあたって、次のことに留意する:
リスク管理のための政策決定における従来の状況においては、 ”健全な科学的証拠” とは一般的に、リスクの深刻さを明確に確証する科学的理論又は明確な経験に基づく情報に裏付けられた決定的な、あるいはもっともらしい証拠であると解釈されていた。 予防に関する場合、十分に健全である、又は信頼性がある科学的ベースが何かを決めることが、しばしば、難題であり論争される。深刻なあるいは不可逆的な危害のリスクが存在するという健全で信頼性のあるケースに重点が置かれねばならない。 ”科学的に健全” あるいは信頼性のある科学的ベースとは、それが経験に基づくものか理論に基づくものかを問わず、不確実性を含む理論の有効性を合理的に証拠立てることができ、また、そのようなリスクの潜在性を示す科学情報の主要部であると理解されるべきである。 どのようなフォローアップが適切か? もし、予防の適用において顕著な科学的不確実性が内在するなら、研究調査や科学的監視などのフォローアップが通常、予防の適用における重要な一部となる。ある場合には、国際的条約 (例えば、衛生植物検疫措置の適用に関する協定 (訳注:SPS 協定 Sanitary and Phytosanitary Agreement 1994 日本語訳サイトへのリンク) は予防が適用された場合には科学的監視とフォローアップを要求する。そのような努力があれば、あるリスクに伴う科学的不確実性を減少することに役立ち、どのようなフォローアップが決定されるべきかについて知ることができる。 他の状況では、科学的不確実性は解決するのに長い期間がかかるかもしれないし、又は、実際的な目的としては、十分な程度には決して解決されないかもしれない。 科学的思考と意見の最大限の多様性を確保するために、政策決定のベースは様々な科学的根拠及び多くの分野の専門家たちから引き出されなくてはならない。しかし政策決定者は、学者間により検証された科学とそこから得られる判断の妥当性に、特に重きを置くべきである。さらに、この科学的機能は一定の形式、例えば、広く認められ信頼のある人々を含む独立した諮問機関などによりさらに補完されうる。 誰が信頼性のある科学的ベースを作成するのか? 誰が信頼性のある科学ベースを作成すべきかをきちんと決めようとすると、いくつかの疑問が生じてくる。科学的データと政策決定のベースを提供する責任者として誰が任命されるべきなのか? 政策決定者は、誰が法的責任、又は権限を有するのか (例えば、カナダにおける法的代理人として指定された提案者) 、誰が科学的データを供給するのに最も適切な地位にいるか、そして、誰がタイムリーに信頼性のある情報を提供する能力があるかというような基準を評価しなくてはならない。 潜在的に深刻な危害に対して行動を起こしている団体は一般的に責任ある当事者として認定されるが、これもケースバイケースで決定されることが最良である。政府や産業界の異なるレベル間の協調など革新的な戦略もまた導入されるかもしれない。 科学的知識は進展するので、この責任は政府、産業界、あるいは他の提案者 (例えば、すでに市場に出ている製品の有害性について医療従事者が報告するということ) の間で移動するかもしれない。 政策決定での科学の本質的動特性 科学における不確実性の本質的な動特性は独自な課題を提示する。気候変動がよい例である。人間の活動が大気中の温室効果ガスの量を増やし、これらの増加が地球の気候変動に貢献しているということは国際的な常識である。しかし、これらの増加に対する気候変動の幅、特に気候変動のタイミングと地域的な特性については科学的な不確実性がある。 また、モデリングによる検証によれば予想される気候変動に対処するための経済的コストとともに、これらの影響は十分管理できるとしているが、温室効果ガス削減のための措置に対する経済的コストについてはかなりの程度の不確実性が存在する。 科学的情報にはまだ結論が出ていなくても、生活水準を高め潜在的リスクに目を向けることについての社会の期待に応えるために政策決定がなされなくてはならない。 急速に発展する科学と技術に由来する製品とプロセスの持つ全ての潜在的能力を理解することは、国際的な条約や指針とともにカナダの法と規制を具体化する上で重要である。 その密接なかかわりは、今、まさに見え始めてきたところであり、最終的には決定に影響を与えるであろう。 4.0 科学に基づく政策決定への予防の適用の指針原則 すでに述べたように、リスクを管理するための科学ベースの政策決定への予防の適用は、特定な状況と要素によって促進され、3つの基本的な要件、すなわち、決定の必要性、深刻なあるいは不可逆的な危害のリスク、及び、十分な科学的確実性の欠如、によって特徴付けられる。 この枠組みで概説する指針原則は、現状の実施状況を反映し、全体にわたって適用における一貫性を保つよう意図されており、特定の状況と要素にも対応できる柔軟性をもち、誤用や濫用を抑制するようにできている。 これらの原則は、リスク管理の中で特徴をあらわすプロセス分野に焦点をあてているが、政策決定者に対し彼らの法的規制者と矛盾する方法で行動することを命じるものではない。さらに、この枠組みは予防の適用の新たな法的義務を生み出すことを意味しない。 予防措置のための原則は、一度決定がなされたならその措置は法的に保証されるという特定の特徴を述べているのに対し、適用の一般原則は予防的な政策決定の特徴的な姿を描き出している。 General principles of application outline distinguishing features of precautionary decision making whereas principles for precautionary measures describe specific characteristics that apply once a decision has been taken that measures are warranted. ■適用における5つの原則 Five General Principles of Application 4.1 予防の適用はリスク管理における正当で有効な政策決定アプローチである
Five principles for Precautionary Measures 4.6 予防措置は、科学、技術、及び社会が選ぶ保護レベルの進展・変遷にともない、再検討されなくてはならない
(@) 最小のコストで社会全体の利益を生み出すこと (A) 措置の選択において効率がよいこと
5.0 結論 リスクについての科学ベースの政策決定における予防の適用のための枠組みは、科学が関わる連邦政府の国内政策、法、取り決め、及び、国際的な条約と指針に関して、十分な科学的確実性には欠けるが深刻で不可逆的な危害が予想されるリスクについての政策決定への首尾一貫した結合力のある予防の適用を成し遂げるための指針原則を提示するものである。 各省庁及び各機関の担当者は政策決定に当たってその指針原則を考慮し、関係者と協議の上、それぞれの責任範囲において予防の適用の指針を展開するために協力することが期待される。 最終更新:2003-07-25 |